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【CEDEC2007】「残業ゼロがゲームをおもしろくする」ジェイソン・デラ・ロッカ講演

CEDECの2日目、IGDA事務局長のジェイソン・デラ・ロッカが「ゲーム産業の未来を作る人材チャレンジ」と題して講演を行い、ゲーム会社の雇用形態に関する北米の最新事情を紹介しつつ、開発者の「生活の質」を高めることが、業界の未来を決めると述べた。

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CEDECの2日目、IGDA事務局長のジェイソン・デラ・ロッカが「ゲーム産業の未来を作る人材チャレンジ」と題して講演を行い、ゲーム会社の雇用形態に関する北米の最新事情を紹介しつつ、開発者の「生活の質」を高めることが、業界の未来を決めると述べた。

IGDA事務局長 ジェイソン・デラ・ロッカ


ジェイソン氏は事務局長として、IGDAの運営で中心的な役割を果たすだけでなく、ニュース番組への取材対応や、GDCをはじめ世界中のカンファレンスで講演活動を行うなど、スポークスマンの役割も精力的にこなしている。Matrox GraphicsやQuazal、Silicon Graphicsでの実務経験もあり、ゲーム開発の特殊事情についても肌身で知っている人物だ。

まずジェイソン氏は話の枕として、ゲーム産業がコンソールを中核としながらも、その周囲に携帯ゲーム・オンラインのカジュアルゲーム・インディーズゲーム・シリアスゲーム・広告ゲーム・MMORPG・MODなどのさまざまなジャンルがあり、広く市場を見渡すことが重要だと述べた。これらはまだ市場が小さいため、コンソールの主流ゲームに目を囚われがちだが、それだけでは視野狭窄に陥ってしまうというわけだ。

コンソールを中核としたエコシステムの現状


続いてゲームジャンルの分析も行い、縦軸をシミュレーション性と抽象性、横軸をストーリー性とルール性で区切ったマトリックスを用いて、主要ゲームがどこに相当するかについて示した。囲碁やチェスは抽象性&ルール性のエリアに該当し、「グランツーリスモ」はシミュレーション性&ルール性に該当する。一方で日本のゲームの多くはストーリー性を重視した物が多く、北米においてもシミュレーション性&ストーリー性がトレンドになっていると述べた。こうしたゲーム開発がコスト増大を招くことは言うまでもない。

ゲームジャンルのマトリックス


また縦軸をコスト、横軸を時間として、新製品の受容グラフを作成すると、いわゆるS字曲線が描かれる。最初は少数のオタクが購入するが、次第に一般層に浸透していき、ある時点で受容が頭打ちになるという展開だ。最初はたくさんいた市場のプレイヤーも、次第に淘汰されていき、最後は資金力や技術力の勝負となる。ところが、この時点で新しい商品カーブが出現すると、既存市場の勝利者は新興市場の規模が小さいことや、自分たちの顧客を大切にするあまり、新しい市場に迅速に移行できなくなる。その結果、気がついたときには多くの顧客を逃してしまう、いわゆる「イノベーションのジレンマ」に囚われる。これを解決するにもバランス感覚や、幅広い視野が重要になる。

S字カーブとイノベーションのジレンマ


実際に過去20年間でゲーム開発のコストは激増している。20年前は数人で開発でき、開発期間が3〜6ヶ月、予算も20万ドル程度だったのが、今では75名から220名のスタッフで、18〜36ヶ月かかり、総予算が2000万ドルにも上る例も見られる。中でも大きいのが人件費で、今ではゲーム産業はアニメ産業などと同じく、人海戦術でモノを作る、典型的な労働集約型産業になりつつある。

プロジェクトの前後に余剰人員が発生する


ただし、ゲーム開発における人材リソースはプロジェクトの進捗状況によって異なる。企画やプリプロダクションの時点では数名で良く、開発が終盤に近づくにつれて大量の人材が必要になり、最終段階では再び人材が少なくてすむ。そのためプロジェクトの前後で余剰人員が大量に発生する。これを解決するため、多くの企業では複数の開発ラインを前後にずらして走らせる例が一般的だ。そのためには人材の管理と教育、そして雇用の問題が最重要で、これを避けては優れたゲームは生み出せない、というわけだ。

若手に支えられている欧米のゲーム業界


もっともジェイソン氏は、北米においてもゲーム業界の労働環境は決して恵まれてはいない現状を報告した。プロジェクトのピーク時には机の下で寝たり、マウスを握ったまま椅子の上で寝たり、時には廊下でゾンビのように寝てしまうことも珍しくないという。このあたりは日本の開発現場と大差がないだろう。

一般的な欧米のゲーム開発シーン


実際にIGDAが数年前に欧米の開発者を対象に行ったアンケート調査でも、ゲーム業界以外への転職を考えていると答えた割合は、5年以内で34%、10年以内では51%に上るという結果がでた。またゲーム産業の人口動態調査では、勤務年数の平均が5.5年であることもわかった。これは新卒でゲーム業界に入ってきた若者が、1〜2本のプロジェクトに参加した結果、「燃え尽き症候群」に陥ってゲーム開発を止めてしまうことを意味する。そのため欧米ではスキルやノウハウが業界内に蓄積されないという問題を抱えている。

残念ながら日本では、ゲーム開発者の「生活の質」についての正確な調査はないが、実態は大同小異だろう。ファミコン時代のベテラン開発者が大作ゲームの開発に疲れてしまい、DSやモバイル開発に「逃走」する一方で、経験の浅い若手がPS3やXbox360に大量に動員され、右往左往しながら納期にあわせて徹夜を繰り返すというのは、どこの会社でも良く聞く話である。その結果、ベテランと若手を結ぶ中堅の比率が低くなりがちで、技術の継承がなされない。これが隠れた問題となりつつあるように思える。

ここでジェイソン氏は「摩擦コスト」という概念を用いて、社員の入れ替わりに基づくデメリットについて言及した。これは一人のスタッフを失った時に、新しいスタッフを雇う際に発生する総コストのことで、面接や宣伝などのリクルート活動、新人の教育コスト、ベテランの退職に伴う開発力の低下など、直接・間接を問わず様々な費用が発生する。仮にスタッフ一人の入れ替えに5万ドルのコストが発生し(これはかなり控えめに見積もった額だそうだ)、平均離職率が10%だとすると、全世界で9000人の開発者を抱えるEAのような大企業では、年間に4500万ドル、約50億円以上の摩擦コストが発生することになる。こうしたロスを減らすには、「生活の質」=クオリティ・オブ・ライフの充実が最重要だとした。

「生活の質」重視で大きく業績を伸ばした企業として、英リレントレス・ソフトウェアの事例も紹介された。同社は2名のゲーム開発者によって起業された新興ソフトハウスで、ご多分に漏れず「燃え尽き症候群」による摩擦コストに悩まされてきた。そこで仕事とプライベートのバランスをとることを企業哲学として、「残業しない・予算超過しない・締め切りに遅れない」ことをモットーに切り替えたところ、開発力が急上昇。PS2でSCEEから発売されたクイズゲーム『BUZZ!』が全欧で大ヒットを記録した後、任天堂から『マリオストライカーズ チャージド』(Wii)の開発受注に成功するまでに至った。

リレントレス・スタジオの成功例


ちなみに同社では「?各自の机でインターネットに触らせない。そのかわりにオフィスの中央に共同で使えるインターネット専用PCを設置する」「?アジャイルゲーム開発を推進し、未知の問題点の洗い出しを最初に行うことで、スケジュール後半の方が仕事が楽なようにする」という2つの原則を設定している。当初は批判も強かったが、義務化とすることで企業文化を革新。これが現在の成功に繋がったという。

また「ルール・オブ・プレイ」などの著書で有名なエリック・ジマーマン氏の事例も紹介された。ジマーマン氏はテレビゲームの研究者であると共に、カジュアルゲームを中心に開発するゲームラボ社の経営者という側面も併せ持っている。同社のモットーも開発者の生活の質を高めることにあり、「人生を楽しめば良いゲームができる」とされた。開発者がオタクになりすぎると、新しいアイディアが入ってこないというわけだ。

その後ジェイソン氏は、通信手段の発達で世界がフラット化していく途上にあり、中央集権的で強固な組織から、分散的でフレキシブルな組織にトレンドが移りつつあると指摘。欧米のゲーム産業もこの過程にあるとして、「スパイロ・ザ・ドラゴン」シリーズやPSP版「Daxter」などで知られる、ゲームデザイナーのマイケル・ジョン氏がGDCで講演した、近い将来におけるゲームスタジオのあり方について説明した。

このモデルはゲームスタジオに15人から30人の中核となるスタッフが存在し、ゲームのコアとなる部分を開発。グラフィックなどの大量に人員が必要な部分は、外部のフリーランス開発者と契約したり、外注企業への委託で対応するというものだ。これによって中核のノウハウは社内に蓄積しつつ、固定費も削減できるとしている。いわゆるハリウッドの映画制作モデルをゲーム業界に当てはめたもので、国内のアニメスタジオなどでも、よく見られる形式だ。

ただし、このモデルを成功させるには、スタジオの中心にカリスマ的なゲームクリエイターが存在することと、その評価システム、および開発者全員のクレジット(記名)がクリアになることが必須だとも補足された。誰しもが一生、末端のゲーム開発者では終わりたくないからだ。また集団作業で行われることの多いゲーム開発では、しばしばヒットの恩恵を誰に与えるかも問題となる。映画産業では、これらが解決しているからこそ、このモデルが上手くいっているというわけだ。

フレキシブルなスタジオ経営による固定費削減モデル


ちなみに世界で最も有名なゲームクリエイター、宮本茂氏を生みだした任天堂は、もはや日本においても珍しい年功序列・終身雇用を原則としており、このモデルとは正反対の社風をとっている。一方、今日では多くのゲームメーカーで評価主義の導入や、契約社員・派遣社員による開発が増えており、図らずもこれと似たスタイルになりつつあるが、確実に売り上げが見込める続編・大作に開発者の希望が集中するなど、弊害が見られるのも事実だろう。

また任天堂の開発力の源泉として、社員流出が少なく、ノウハウが社内に蓄積されやすい点があるかもしれない。とはいえ前提条件が違いすぎて、他社がこれを真似ることは不可能だ。全世界を見渡しても、最適な回答は存在しない。状況に応じて常に変化できる意識や姿勢こそが重要なのかもしれない。

ジェイソン氏の主張も、安易な映画産業への追随にあるのではなく、あくまで「ゲーム開発者の『生活の質』の向上が重要」というもので、実際のやり方には様々な方法があると指摘。冒頭の議論に戻って、こうした問題を解決するには様々な矛盾やあつれきがつきものだが、何事もバランス感覚が重要だとした。国内においてもドライな労働契約が一般的な欧米とは異なる、日本型の雇用スタイルが求められていると言えそうだ。
《小野憲史》
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