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デジタルゲーム学会が「13年ぶりの新作ファミコンゲーム」を研究

日本デジタルゲーム学会は6月1日、東京大学本郷キャンパスで定例研究会を開催しました。今回の研究テーマは任天堂ファミリーコンピュータ用ソフト『Mr.SPLASH!』です。この『Mr.SPLASH!』は、ゲーム作りをテーマとしたテレビ番組『TVゲームジェネレーション〜8bitの魂〜』の企画で作られ、ファミリーコンピュータ用ソフトとしては13年ぶりの新作として話題になっています。

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企画書のラフや、完成した企画書も公開されました。パッケージもしっかり作られました。懐かしい印象です
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日本デジタルゲーム学会は6月1日、東京大学本郷キャンパスで定例研究会を開催しました。今回の研究テーマは任天堂ファミリーコンピュータ用ソフト『Mr.SPLASH!』です。この『Mr.SPLASH!』は、ゲーム作りをテーマとしたテレビ番組『TVゲームジェネレーション〜8bitの魂〜』の企画で作られ、ファミリーコンピュータ用ソフトとしては13年ぶりの新作として話題になっています。




研究会の講師はモバイル&ゲームスタジオ代表取締役の遠藤雅伸氏。ほかに番組プロデューサーの小林三旅氏、ディレクターの犬飼博士氏のほか、『Mr.SPLASH!』の開発グループ『プロジェクトF』が登壇し、ゲーム性とは何か、をテーマにパネルディスカッション形式で講演が行われました。



『Mr.SPLASH!』は二人のプレイヤーが対戦するゲームです。舞台は陸地に囲まれた池。プレイヤーは自分の陣地にある岩を持ち上げ、空中を移動して岩を水面に落とします。すると、もともと水面に浮いていた玉がはじかれて飛びます。次々に岩を落とし、玉を自分のゴールエリアに誘導すればポイントとなります。制限時間内に相手よりもポイントが多ければ勝ちです。シンプルなルールですが、Bボタンでダッシュしたり、相手の体を押して妨害したりと奥深いテクニックが使えます。21世紀生まれのアイデアですが、ファミコン独特のグラフィックとサウンドのおかげで80年代の雰囲気を醸し出していました。



『Mr.SPLASH!』のアイデアはディレクターの犬飼氏がひらめきました。「風呂でお湯をバシャバシャやってストレス解消したら、その水面の動きで思いつきました」そのアイデアを企画書にするところからテレビ番組はスタートします。完成した企画書を携え、ゲームクリエイターの先輩にアドバイスをもらおう、と尋ねた相手が遠藤雅伸氏でした。遠藤氏は、いまどき制約の多い8ビットゲーム機用のソフトを作るという話に驚きつつも、仕様書を熟読してアドバイスしました。それは「プレイヤーが自分の動きに納得できなくてはいけない」、「トレードオフ(リスクとリターン)のバランスに注意すること」、「ストーリーを考えるのは後からでいい。まずは面白さを追求すること」などでした。

サウンド担当の中村隆之氏は、「ファミコンらしい音だとほめてもらいましたが、3音しか出せないという制約だと誰がやってもこういう音になるんです」と笑いながらも、「ゲーム性に関わる音の役割は昔も今も変わらない」と語りました。「昔はモノラル音声で音色も限られていた。今はステレオやサラウンドが使えてサンプリングでどんな音も出せる。でも、ゲーム性に必要な音作りの方法論は変わらなかった。(昔の音を作るに当たって)技術の違いを克服する方が苦労しました」と振り返りました。

グラフィック担当の岩松晶子氏は、「昔は方眼紙に色鉛筆で絵を書いたそうですが、今はグラフィックソフトを使って簡単に作れます。開発環境がとても進化しているのでやりやすかった」と語りました。デザインについては、「胴体のない顔だけのキャラクターなので、表情のバリエーションに力を入れました」と説明しました。

プログラミング担当の平井照人氏は、限られたメモリ容量にやりたいことを詰め込む手法に苦心したといいます。「今のゲームソフトはメディアの容量が大きいから気にしないけれど、ファミコンの場合はいかにコンパクトにうまくまとめるか、という技量が求められます」とファミコンソフト開発の特徴を語りました。また「東京の小林さんや犬飼さんと岐阜在住の僕が、インターネットを使ってお互いに遊び、その画面を見ながら改良を重ねた。アイデアを取り入れるたびにどんどん良くなっていった」と、インターネットの有効活用について語りました。

もともと、プロジェクトFが8ビットのファミコンでゲームを作ろうとしたきっかけは、美麗なグラフィックやゴージャスな音で演出できる最近のゲーム機よりも、最低限の演出要素しか使えないファミコンでゲームを作り、ゲーム作りの基本を理解し、面白さの原点を見つけ出す、というコンセプトだったそうです。プロジェクトFはゲーム作りを進めるうちに、水に流れを与えると戦略性が変わる、ダッシュを使うことにより戦い方が変わる。スピードで有利になる代わりに押し合いには弱くなるように調整するなど、ゲーム性の核心に近づいていきました。そして、画面の水面をリアルに感じてもらうために箱を水色とし、イラストに水面の躍動感を与え、カートリッジも水色にするなど、ゲームのパッケージも水を意識するデザインを徹底しました。プレイヤーにゲームを理解してもらい、楽しく遊んでもらう工夫です。ゲームの演出範囲はとても広いことに気づきます。

80年代のファミコンゲームを意識した『Mr.SPLASH!』ですが、実は80年代とは決定的に違うところがあります。それはこのゲームが1Pvs2P対戦専用で1Pモードがないことです。今ではネットワーク対戦が普及しているため、対戦専用のゲームもあります。しかし、80年代当時は1Pプレイがメインで、対戦機能はおまけという認識でした。その意味もふくめて『Mr.SPLASH!』は80年代の顔を持った2007年の新作ソフトだといえます。

犬飼氏は「AIを開発する時間がなかった、という物理的な理由と、ゲームは人間同士の対戦が面白い、という僕の考え方。この二つの理由で、あえて1Pモードはつけませんでした」と説明しました。「むしろ、対戦専用というゲームは親に安心して薦められるゲームかもしれない。友達がいないと遊べないから引きこもりにならない(笑)。それに、ひとりで一晩中遊べません。友達か自分か、どちらかが眠くなったらゲームは終わりです」という冗談を交えながら、「僕はゲームはスポーツだと思っていて、人間同士で戦うから勝っても負けても面白いと思う。対戦することで友情を深めたりできる。それがゲームの良さなんです」と、Eスポーツプロデューサーならではの意見を加えました。

このほか、遠藤氏はアクションゲームの面白さについて「男性は優劣をつけたがるためアクションゲームになじみ、女性は協調しようとするため育成ゲームになじみやすい」という話や「ファミコン当時のテレビではテレビの表現力のせいで使いづらい色があった」など、自身の体験に基づいた、ゲームやゲーム市場の興味深いエピソードを披露しました。

プロデューサー小林三旅氏は、現在非売品となっている『Mr.SPLASH!』について、まだファミコンが現役で遊ばれている東南アジアでの販売や、カートリッジではなくダウンロード販売で遊べるようにするなどの構想も語られました。そのときはこのゲームならではのAIを入れて1Pモードを作るかもしれないそうです。

2007年の新作ファミコンソフト『Mr.SPLASH!』は、まだまだ進化しそうです。
《杉山淳一》
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