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「ゲーム業界のエコシステムを変える」初のゲームも披露された和田洋一氏率いるシンラ・テクノロジーの開発者会議

ゲームビジネス 開発

会場の様子
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  • 会場の様子 ゲームの試遊もできた
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  • 『スペース・スウィーパー』
シンラ・テクノロジー・インクは12月4日、第2回クラウドゲーム開発者会議をスクウェア・エニックス、セミナールームで開催しました。

会場では元コミュニティーエンジン代表で書籍「オンラインゲームを支える技術」の著者としても知られる中嶋謙互氏が新作ゲーム『スペース・スウィーパー』のデモ版を発表。あわせて技術講演「クラウド専用ゲームの設計と実装」を行いました。現場ではゲーム会社のエンジニアやミドルウェアメーカーのエヴァンジェリストなどが多数出席し、関心の高さを感じさせました。

『スペース・スウィーパー』はトップビュースタイルの2Dオンライン・シューティングゲームで、プレイヤーは左スティックで移動、右スティックで攻撃します。攻撃はレーザービームや爆弾などが選べ、ブロックで陣地を築いて防御したり、さまざまなアイテムを使用したり、画面の拡大・縮小もできます。攻撃や防御を通してワールドをセル(=自機サイズと同じ正方形のブロック)単位で変化させられる点が最大の特徴で、ワールドサイズは2048セル四方と広大なもの。プレイヤー同士が互いにインタラクションしながら、一つのワールドをエディットしていく、創発的な遊び方も想定されているようです。

■6台のノートPCをネットワークでつなげてデモを披露

講演はプレジデントの和田洋一氏による、クラウドゲームとシンラ・テクノロジーの整理からスタートしました。いわゆるクラウドゲームとは、サーバ上で実行されたゲームの画面が1フレームずつインターネットを経由して、ユーザーのPCにストリーミングで配信されるサービスを指します。すでに商用サービスも開始されていますが、和田氏はこれを「流通形態がクラウドになっただけにすぎない」と指摘。シンラではスーパーコンピュータにように、サーバ上でプログラムを分散処理させることで、処理性能を飛躍的に増大できると説明します。

PCオンラインゲームに向くアーキテクチャである点も重要なポイントです。現在のPCオンラインゲームでは、ユーザーのPC上で演算と描画処理が行われ、その結果がサーバ側に転送されるとともに、定期的にPC間の同期処理が行われます(そのため通信環境や内部処理によっては、キャラクターが画面上でワープするように見える、などの現象が起きます)。これがクラウドゲームでは演算と描画処理がサーバ内で完結し、結果を画像データとして配信するため、同期処理が簡略化できます。特にシンラでは後述するSDKの配布などで、インディゲーム開発者でも手軽にオンラインゲームが開発できる環境が用意されるのです。

デモ版では6台のノートPCが設置され、2台がサーバ(データベースサーバ&ゲーム+描画用サーバ)側、4台がビューワー(=ゲームPC)側となり、それぞれギガビット・イーサネットで接続されていました。ビューワー側では「シンラなし(=ローカルでゲームを実行し、結果をサーバに転送する、通常のオンラインゲームと同じ方式)」「30fps」「60fps」「30fps+10msec(30fpsで動作するが、ビューワー側で10msecの遅延が設定されている)」で運用され、プレイ感覚の違いが試せるようになっていました。ただし、ざっと触った程度では、ほとんど違いが感じられませんでした。

前述のようにシンラでは非常に高速なネットワーク環境下で同一のプログラムを分散処理させる、スパコンと同じ設計思想を有しています。しかし実際のスパコンでは計算対象(気体、化学、重力など)によってハードウェア構成が変化するように、シンラでもゲーム内容に応じて構成が変わります。中嶋氏も「シンラ専用のゲームとはどんなものか、実際に開発して検証する必要がある。このリスクを取って進めているところが、このプロジェクトのいいところ」だと語りました。『スペース・スウィーパー』もその一つで、得られた知見はコミュニティ内で積極的に共有していきたいといいます。

これに対して和田氏も「シンラ・テクノロジーはコミュニティと共に成長していくプラットフォーム」と語り、できるだけオープンな姿勢でビジネスを育てていくことを繰り返していました。

■ゲームプログラムとレンダリング用プログラムを併用

実際のオンラインゲーム開発では、まず3つのパターンに切り分けて議論したいとされました。1つはサーバ上で実行されるゲームプロセスとビューワーが1対1で接続される、スタンドアロンゲームと同じスタイル。2つ目は分割レンダリングされた画面が各ビューワーに配信される「1:nモデル」(『マリオカート』などと同じ、画面分割対戦ゲームで、各画面が個々のビューワーに相当)。3つ目はサーバ内の複数ゲームプロセスに対して、複数のビューワーが接続される「n:nモデル」です。このうち「1:nモデル」ではネットワーク向けのコードを書かずに(アーキテクチャ的に当然ですが)オンラインゲームを開発できます。「n;nモデル」でもコードをかなり減らすことが可能で、『スペース・スウィーパー』もこの方式をとっています。

ストリーミング負荷についての説明もありました。画面解像度は1280×720ピクセルで、送信側は一貫して100kb/secを保持できました。60fps版ではカメラを引いた時に4.3MB/sec、接近させた時に3.7MB/sec、タイトル画面で2.7MB/secとなり、30fpsでは送受信ともにこの半分。これから差分圧縮などを行うことで、数分の一に抑えられるとのことです。もっとも、これでも相当な通信量となり、シンラ・システムのランニングコストに直撃します。しかし和田氏は今後のネットワーク環境の改善見通しなども含めて、すでにビジネスとして実現できる目処は立っていると補足しました。

またデモの技術的特徴として、ゲームプログラムとレンダリング用プログラムの併用があげられました。通常のゲームではコントローラーの入力処理と内部演算、そして映像のレンダリングと出力までが、同じプログラムで行われます。これを本デモではレンダリング専用のプログラムが走っており、一部の処理を肩代わりしています。つまり「分散処理」させているわけです(本デモでは同じPC内で行われましたが、シンラではスパコンと同じようにハードウェアをまたいでの分散処理が想定されています)。これによりサーバ上のCPUとGPUをより効率的に使用することが可能になるといいます。

このほかバックエンド側の設計についても解説されました。デモではデータベース(保存)用サーバとリアルタイム(同期)用サーバが各々でスケールできる設計になっており、現状のままでも1~200人程度の同時接続が可能になっています。同期処理はPC内のgame.exe同士をサーバ経由で情報伝達するやり方で行っており、同期頻度の調整や圧縮処理などで3~4Mbps程度で実現。敵の移動(50%)と地形の変化(40%)が、そのほとんどを占めています。同じPCで実行しているのに、game.exe間で直接通信をしていないのは、「同時接続数の多さとバグのおいやすさのため」(中嶋氏)です。

ワールド情報の同期についても説明されました。前述のとおり本作の特徴は、プレイヤーの操作によってワールドをセル単位で変化させられること。オンラインゲームなので、あるプレイヤーの操作によって変化したセルの情報は、遅滞なく他のプレイヤーとインタラクションできなければなりません。一方でワールド自体も自律的に変化(敵の攻撃など含む)していきます。そのため本作では全体フィールドを16セル四方のまとまり(チャンク)として管理し、プレイヤーの操作によるセルの変更については、リアルタイムに1セルずつ。ワールド上の自動的な変化についてはチャンク単位で同期を行い、1フレームあたり2チャンクまで送信しているとのこと。もっとも、これらの仕様はシンラの技術的制約とは関係なく、本作独自のものだと補足しました。

■SDKの配布でインディゲーム開発もフォロー

最後に中嶋氏は「Shinra Community SDK」のビジョンを紹介しました。これはゲームをシンラ上で簡単にテストしたり、パブリッシュしたりできるようにするもので、実行ファイルと共にZIPファイルで圧縮し、サーバ上にアップロードするだけで、自動的に配信できるようにするものです。開発環境に制約はなく、多くのゲームクリエイターが手軽に使えることが目的とされています。中嶋氏は「シンラ・システムの特性を活かしながらも、あらかじめ設定された標準的な設定をそのまま使い、短時間でユーザーテストを始めたい、開発スピード重視のゲーム向け」と説明し、インディゲーム向けの施策であることを匂わせました。技術サポートは日本とモントリオールのチームが分担し、日本側サポートには中嶋氏も含まれるとのことです。

質疑応答では興味深い議論が飛び出しました。いわく「ゲームプログラムが配信可能なら、ツールやミドルウェアもシンラ上でサービスが可能では」というものです。これに対して和田氏は「シンラ・テクノロジーのミッションにはゲーム業界のエコシステムを変えていくことも含まれている。自分たちも非常に興味を持っているが、まずはゲーム配信からスタートしたい」との回答にとどめました。クラウドゲームの強みの一つに海賊版対策があります。仮にゲームの開発から配信まで一気通貫で、シンラ・システム上で完結できるとしたら、新興国地域にツール類を提供したいベンダーにとっても福音でしょう。たしかにエコシステムを変えることができるかもしれません。

また中嶋氏も「シンラ・システムではコントローラーの操作情報やクラッシュデータなどもサーバ上で保存できる。デバッグやユーザーテスト向けの施策も段階的に充実させていきたい」と語りました。

シンラ・システムでは前述した3つの配信形態のうち、「1:1モデル」→「1:nモデル」→「n:nモデル」の順番に開発を進めていき、2015年の第二四半期でn:nモデルの実機開発とテストを始めたいとしています。また、これまでは東京でのみ開発者会議を行っていたが、来年からは北米を中心に海外でも広く開発者会議を実施していくとのこと。AAAゲームだけでなく、インディゲームにも広く門戸が開かれることになるシンラ・テクノロジーの取り組みに、注目していきたいところです。
《小野憲史》

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