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【RETRO51】理不尽トラップの裏に描かれるアダルトな世界観『ミシシッピー殺人事件』

SUDA51とレトロゲームを探訪する連載企画「RETRO51」。今回は再びグラスホッパー・マニファクチュアのオフィスに舞台を移して、須田氏が厳選したファミコンタイトルを遊び、語ってもらいました。

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SUDA51とレトロゲームを探訪する連載企画「RETRO51」。今回は再びグラスホッパー・マニファクチュアのオフィスに舞台を移して、須田氏が厳選したファミコンタイトルを遊び、語ってもらいました。

2回に分けてお届けする今回の企画ですが、1回目のタイトルは1986年にジャレコから発売された『ミシシッピー殺人事件』。ミシシッピー川を下る蒸気船「デルタ・プリンセス号」で起こった殺人事件を解決するおなじみのミステリー系アドベンチャーゲームです。原作はアクティビジョンが開発。洋ゲーテイストがふんだんに散りばめられていますが、それ以上に記憶に残っているのは理不尽なトラップの数々。落とし穴や急に飛んでくるナイフなどトラウマとなるシーンが多く、当時はクソゲー扱いされることも多かったようです。

須田氏にはまず事前知識なしのぶっつけ本番プレイを行ってもらいました。理不尽なトラップと使い勝手の悪いUIに悪戦苦闘しながらSUDA51がその先に見たものは何か。後半はその魅力や不満点について語ってもらいました。

即死トラップと使い勝手の悪いUI

――『ミシシッピー殺人事件』は1986年にジャレコから発売されました。オリジナルはアクティビジョンがコモドール64とApple II向けに開発したものです。

須田: ということは初期洋ゲーですね。主人公はシャーロック・ホームズとワトソンという設定なんですか?

――助手役はワトソンですが、主人公の名前はチャールズ卿ですね。基本的にはホームズとワトソンと同様の設定だと思います。アクティビジョン版ではワトソンはリージスという名前のようです。とりあえず自由にプレイしながらお話をうかがいたいと思います。

須田: それではスタート。あれ2号室がないのか。うわぁ……。



――いきなり落とし穴ですね(笑)。完全にあの部屋は罠です。しかもファミコン版はセーブできないようです。

須田: あっと言う間ですね……。部屋の番号は飛び飛びですね。裏側に2号室があるのかな。なるほど、こっちに偶数の船室がある。何号室いけばいいんですか?

――まずは殺人現場を探すことからですね。

須田: あ、なんかいた。女性のデイジーですね。

――このBGMも『デイジー・ベル』という曲ですね。アメリカ人にとっては馴染み深い曲で、世界で初めてコンピュータが歌った曲としても有名です。

須田: なるほど。あたりをちょっと調べてみましょう。あれ、文句言われて調べられないな(笑)。では次の部屋。おっと殺人現場見つけました。

――一昨日くらいから『LAノワール』をプレイしているですが、やることは似ていますね。

須田: そうですね。死体のところにいって取り調べをする。おっ、次はヘレンが来た。メモという機能がありますね。あとは付いてきてもらう。3人パーティーになりましたね。キャラが増えたようでなんか嬉しいですね。

――ちなみにメモは1人につき3つまでしか取れないようです。無計画にメモを取るとクリアできない仕様です。

須田: 次はカーターですね。彼は判事のようです。文字が読みにくくて、この文章を読むのは本当に苦痛ですね。

――漢字もないので、日本語として読みにくいですね。

須田: あれ、カーターはまだ被害者がいることを知らないのか。つまり、こいつを連れて3人パーティーになって被害者の部屋に行けばいいのかな。えーと、殺人現場はどこだっけ?

――覚えてないです(笑)。手書きのメモ必須ですね。容疑者たちも一回しか話してくれないようで、聞き流したらおしまいのようです。

須田: なるほどね。それは厳しいですね(笑)。ちょっと疲れました。

――せっかくなので適当に歩いて死にフラグを踏みましょう。この蒸気船の機関室のBGMはいいですね。

須田: いいですね。ちょっとしたテクノっぽい

――あっ、さっそく来ました!ナイフが!マジでこれは酷い(笑)。

須田: いきなり来ましたね(笑)。

――完全に即死(笑)。これいったい誰が殺しにかかっているんだ。

須田: 1号室と14号室には落とし穴がありますね。

――やはり事前情報なしでプレイするのは本当に無理がありますね……。



操作系の未定義時代のアドベンチャー

やはりぶっつけ本番でプレイするのは無謀のようでした。非道なトラップを避け、情報を集めることでなんとかクリアは可能のようですが、今回は時間の都合上からギブアップ。それでも初期のアドベンチャーゲームらしい雰囲気は味わえました。ここからはゲームプレイを振り返って須田氏に語ってもらいました。

――本作は86年発売ですが、須田さんはリアルタイムでプレイしたことはありましたか?

須田: 触ったことあるんですが、すぐに放り投げてしまいましたね。

――私もそうです(笑)。ナイフのシーンは鮮烈に覚えています。当時、クリアした人いたんでしょうかね。

須田: そういう意味では本当敷居の高いゲームでしたが、舞台設定にしてもキャラクターにしてもアセットはすごく面白いですね。ただ遊びやすいゲームに落としこむという部分で、初期の洋ゲーらしい難点が目立ちました。当時はまだアタリショックの余波があり、任天堂が北米にファミコンを普及させていた時代です。つまり、ビデオゲームの文法が定着する以前のゲームなのだと思います。

――アタリショックは82年から83年に起こったと言われます。北米ではその後、家庭用ゲーム機よりもコモドール64などのホビーパソコンが普及したそうです。そのため、アドベンチャーゲームといったジャンルも当時は多かったのでしょう。

須田: なるほど。ホビーパソコンの文化が根付いていたのですね。逆にコントローラーの使い方がはっきりしていない。

――かなり戸惑いました。

須田: コントローラーの操作系はやはりスーパーマリオなどのヒットによって型が出来上がったのだと思います。『ミシシッピー殺人事件』はアドベンチャー本来の面白さはあるんですが、やはり操作系が未だ定義されていない。普通の操作系だと「しらべる」のボタンを押したら、すぐに「あるく」に戻るじゃないですか。でも『ミシシッピー殺人事件』だと、もう一回「あるく」というコマンドを入れる必要があるんですよ。このワンクッション入っているのが、斬新というかめんどうくさい(笑)。



――アドベンチャーゲームに起源のある『ドラゴンクエスト』でも一作目は「かいだん」、「とびら」というコマンドがありました。もともと堀井雄二さんはアドベンチャーゲームが好きだったので、そういったコマンドが残っているのだと思います。

須田: そもそもはキーボードで打ち込んでいましたからね。

――ところがコマンドベースのUIはファミコンにはあまり合わないんですよね。コマンドを省略して、移動した後にAボタン押せば「しらべる」ということにしてしまえば済むわけですから。

須田: そうですね。そういったコマンドをショートカットするところに、ファミコンのゲームの洗練されたデザインがあります。初期のゲームは簡素化した言語をプログラムのように打ち込んでいました。家庭用ゲーム機になると、それらのコマンドが画面上にスーパーインポーズされるようになります。「しらべる」、「いどう」といった選択肢を矢印で選ぶといったように。その後は「コマンドなんかいらないんじゃないか」とどんどん省略していきました。それらの機能を各ボタンにアサインする形に進化していった感じですね。PCのゲームが移植されるうちにどんどん省略化されて、ショートカット化のようにボタンを扱うようになった。それが家庭用ゲーム機の操作系の進化だったように思えます。

――その点『ミシシッピ殺人事件』はまだまだ過渡期のように感じますね。

一貫した大人な世界観

須田: しかしながら、この頃の洋ゲーのドット絵は特徴的で美しいです。

――日本人のドット絵と違ってソリッドな感じがしますよね。部屋の構図や机の描き方に遠近法を使っているのも面白い。

須田: あと画面がシネスコサイズになっています。上が画像で下がテキストという構成で非常に映画的だなと感じました。なので、これを映像素材として新しいものを作ると面白いんじゃないかと思います。さらに驚いた点は、テキストがしっかりとミステリー風になっています。そして圧倒的に大人のゲームなんですね。娯楽というより嗜好品というか。

――キャラクターも未亡人とか慈善家とか子供にはわからない設定が多いですね。ミシシッピ川の蒸気船というアメリカらしい舞台設定も、日本人にはちょっと馴染みがない。

須田: トム・ソーヤーくらいのイメージしかないですよね。しかしキャラクターもかなりしっかり描かれています。

――設定上はデイジーとテイラーは売春婦らしいですね。

須田: えーそうなんですか!なるほど、やっぱり南部の蒸気船とかに乗っていたんですね。そう思うと怖い世界ですね。

――設定は非常に面白いですね。スワンピーというか南部らしい蒸し暑い雰囲気が出ているように思えます。

須田: そうそう。今だと3Dでムワッとした船室を舞台にできますよね。クローズドサークルもので乗客が次々に死んでいくコンパクトで良いゲームになります。そう考えると良いゲームに思えてきました(笑)。アドベンチャーゲームの素晴らしさというのを感じます。

――その点、洋ゲーは昔から描こうとしているものは変わっていないですね。

須田: 世界観はブレていないです。ただ表現が追いつかなかった。

――比べて日本のゲーム産業はゲームという形式から物語や世界観を洗練させていったように感じます。

須田: そこは入り口が違うんですよ。日本は早い段階でゲームという定義が確立されました。一方、定義からはみ出るものはクソゲーとして扱われます。現在では洋ゲーが圧倒的な表現力を持って大きな存在となりましたが、昔は洋ゲーがクソゲーの代名詞扱いされていました。でも根っこの部分は昔も今も変わらずエンターテイメントとしての嗜好品を描いてきたのだと思います。『ミシシッピ殺人事件』も映画であってもおかしくない題材ですよね。



それからこれは私見ですが、「ビデオゲーム」と呼ばれるものと「テレビゲーム」と呼ばれるものはやはり違うのではないかと思います。テレビゲームはテレビの延長としてテレビの中で表現されているものの幅で表現が規定されています。テレビの中でやっちゃいけないことはテレビゲームでもやっちゃいけない。他方、ビデオゲームは映像全般なのでその中でやれることを追求する。その辺が規制にもゲームの定義にも表れているのではないかと思うのです。

今回『ミシシッピ殺人事件』をプレイしてビデオゲームの中にもいろいろな表現の幅があったのだと改めて感じました。こういった作品が再評価されると、今の洋ゲーにもつながっていくので面白いと思います。

――設定やグラフィックスは魅力的ですからね。3Dでリメイクしたり、ストーリーを変えたりすると面白いゲームができそうです。

すべてがアドベンチャー化する現代のゲーム

――今回はアドベンチャーゲームを取り上げましたが、昔からプレイされていましたか?

須田: 『ポートピア連続殺人事件』や『オホーツクに消ゆ』といった定番のものやPCエンジンの『スナッチャー』『定吉七番』などをプレイしていました。スクウェアの『水晶の龍』も好きでした。決定版は探偵 神宮寺三郎シリーズですね。大好きでした。当時は『ミシシッピ殺人事件』のように動く形式のアドベンチャーは少なく、ほとんどが一枚絵を使ったコマンド形式でした。そういった形式によってアドベンチャーゲームが確立したのだと思いますが、当時は一番注目していたジャンルでした。

――ストーリーが魅力的だったのですか?

須田: そうですね。やはりストーリーや世界の中に没入して、当時者となって自分で答えを探していくということに惹かれます。その点では現在は、どんなゲームもストーリーが重視されます。ある意味、すべてがアドベンチャー化している。『Skyrim』も『GTA』もアドベンチャー化しているし、FPSなんかもストーリーが求められます。グラスホッパーでもストーリーには力を入れています。ただ新作の『LET IT DIE』は時代と逆行して物語的な要素を極力排除しています。

――(笑)。

須田: ただ徹底的に物語をコアに据えたのもやりたい。最近はアクションゲーム的なものが多かったのですが、もっとストーリーが強いものも作っていきたい。今日『ミシシッピ殺人事件』をプレイしてわかったのは、この時代から洋ゲーは映画の世界を遊ぶ事を目指していたということです。現在は単なる映画の模倣ではなく、ビデオゲームがエンターテイメント全体を引っ張っていく時代です。なので、これからは物語や世界観によって人の人生に影響を与えるようなビデオゲームを作らなきゃいけないのです。

記事提供元: Game*Spark
《今井晋》
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