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ゲーム開発の民主化と全人類プログラマー化計画!? Unityとenchant.jsが直接対面した黒川塾リポート

サイバーエージェント・ベースキャンプにて、黒川文雄氏が主催する「黒川塾(九)」が5月20日に行われました。今回のテーマは「Unityによるゲームの民主化は共産化か…?!」です。

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サイバーエージェント・ベースキャンプにて、黒川文雄氏が主催する「黒川塾(九)」が5月20日に行われました。今回のテーマは「Unityによるゲームの民主化は共産化か…?!」。少々、煽情的なお題ではありますが、今年の1月11日に行われた「黒川塾(伍)」の続編にあたる内容です。

ゲストは全部で3人。「黒川塾(伍)」でも登壇したユニティ・テクノロジーズ・ジャパン日本担当ディレクターの大前広樹氏とイレギュラーズアンドパートナーズ代表取締役の山本一郎氏に加え、株式会社ユビキタスエンターテインメント代表取締役社長兼CEOの清水亮氏が新たに登壇しました。

怒涛の勢いで成長する統合型のゲーム開発環境であるUnityを擁する大前氏、他方で入門者が簡単にゲームを制作できるHTML5+JavaScriptベースのフレームワークであるenchant.jsを擁する清水氏が対面、さらには辛口コメントの山本一郎氏が参加することにより、会場では白熱した議論と大脱線が巻き起こりました。とはいえ、単なる業界裏話に終始することなく、ゲーム開発の道具であるUnityとプログラミング学習支援ツールであるenchant.jsの特徴が対照的に示された有意義なイベントでした。

イベントは黒川氏の司会により、まずは簡単な自己紹介から始まりました。辛口ブロガーとして有名な山本一郎氏は、開幕早々、爆弾発言で会場をわかせました。その一方で、「黒川塾(伍)」で話しそびれたUnityとゲーム開発の将来について真面目な議論を行いたいとのこと。

ユビキタスエンターテインメントの清水亮氏はenchant.jsを擁するとともに、現在、手書きに特化したタブレットenchantMOONを開発することでも注目されています。情報処理推進機構により天才プログラマー/スーパークリエータとして認定されている清水氏は常に先進的なテクノロジーに触れてきた経歴があり、Unityも2008年の時点で使ってみた経験があるといいます。

他方、大前広樹氏は2009年にUnityに触れ、フロム・ソフトウェアを退職後、独立。現在ではUnityの普及における日本の顔になっています。SCEとの戦略的提携を行い、さらに任天堂とのライセンス契約を結んだデベロッパーに対して無償提供するなど、Unityの「ゲーム開発の民主化」の勢いはまだまだ留まるところを知りません。そこでまずUnityのこれまでの軌跡と現状について大前氏からのプレゼンテーションが行われました。
急成長するUnityの現状

現在、Unityを利用している開発者数は180万人以上、アクティブなユーザーは40万人ほど存在します。それらのUnity製のゲームをブラウザで楽しむためのWebプレイヤーは、毎月600万インストールされているそうです。実際に筆者もインディーゲームのアルファ版などをUnityで楽しむ機会は増えており、開発者だけではなく、プレイヤーにも認知されつつあります。

Unityはマルチプラットフォームに対応している開発環境であるため、デベロッパーは特定のプラットフォームに縛られることなくゲームを開発することが可能です。大前氏はカプコンの『ゴーストトリック』などを例にあげながら、リリースするプラットフォームを増やすことがヒットにつながることを指摘、マルチプラットフォームの重要性を主張しました。

さらにiOSやAndroidだけではなく、PlayStationやWiiといったハイエンドなプラットフォームにも展開することが可能であり、SCEや任天堂はインディーデベロッパーの呼び水としてもUnityを採用しています。今年のGDCを振り返っても分かるとおり、現在のゲーム産業においてインディーゲームはクリエイティビティにおいてもビジネスにおいても重要なファクターを担っており、Unityはそれらを加速させていると言えるでしょう。

GDCで大前氏は任天堂ブースでWiiUのゲーム開発の説明をしていたそうですが、そこでは多くのインディーデベロッパーが興味を持ってくれたそうです。現在の北米の開発者は子ども時代に任天堂のハードで育っており、彼らは任天堂のハードでゲームをリリースすることに憧れに似た気持ちを持っているようです。

■プラットフォームとソフトウェア開発のあり方

こうしたインディーゲームの流れをUnityが後押しする一方で、黒川氏は大規模なプラットフォームにおいてヒットが生まれる可能性について質問しました。大前氏によると、これまでのコンシューマーゲームの大ヒット作品のような社会現象は起こりにくいが、インディーゲームのムーブメントは確実に発生していると主張しています。2000年代後半にもXbox LIVEインディーズにおいて『スーパーミートボーイ』や『リンボ』といった人気作は登場していましたが、これからは特定のプラットフォームに縛られずインディーゲームのムーブメントが発生すると大前氏は指摘しています。

そして、単なるゲーム開発の敷居の低下だけではなく、開発者が複数のプラットフォームを自由に選択できる環境も「ゲーム開発の民主化」と呼ぶことができると、大前氏はまとめています。それに対して山本氏はプラットフォームとアプリケーションの力関係が変わったことは同意しつつも、ビジネスとしては決済やユーザーの集客など、依然としてプラットフォームの持つ力の大きさを主張しました。さらにUnityにより個人のクリエイティビティは発揮されやすいが、プロジェクトを円滑に進めるためのディレクションなどのスキルはなかなか養われないことも指摘しました。

一方、清水氏は最初期に日本でUnityに触れた経験について語りました。当時はまだPCプラットフォームをはじめ、WiiとWebブラウザといったプラットフォームにしかUnityは対応していなかったそうで、清水氏はブラウザでFPSのようなゲームを作ろうかと思い、Unityを使ってみました。当時の清水氏はゲーム作りをゲームのように楽しむようなチュートリアルには感銘を受けた一方、3Dを前提にゲームを作らなければいけないという点には不満を感じたそうです。

また現在のUnityがプラットフォームに縛られない点は優れていると清水氏は認めています。しかしながら、クリエイターにとしては特定のプラットフォームに縛られたり、技術的制約があったりした方が、モチベーションが湧き上がるのではないかと清水氏は主張しました。実際に日本のゲーム開発者たちは、ファミコンの時代からそういった技術的な制限の中で創造力を発揮してきたため、Unityを使用した結果、みんな似たようなゲームになる可能性があるとも指摘しました。

それに対して大前氏は、Unityをあえて変則的な方法で利用して、技術力を発揮するユーザーも存在し、Unityを使いながらもより根底にあるOpenGLを直接操作することも可能だと反論。さらにプログラマーとしては自身も昔は清水氏のような考えを持っていたが、ゲーム開発に関しては思想を変えたと大前氏は述べました。というのも、ゲーム開発はデータドリブンであるべきで、創造力が発揮される部分はプログラマーではなくクリエイターが直接操作できる必要があると考えているからです。

また山本氏はUnityの利便性を認めつつも、大規模のプロジェクトでは全体を仕切ることの重要さを強調。現場で働いているスタッフの会話などが円滑に行かなければ、プロジェクトは炎上するため、ゲーム開発におけるコミュニケーションの重要性はUnityなどのゲームエンジンでは補えないと主張しました。

■開発環境が統一されることによる不安材料

次にUnityのビジネスモデルに話が移りました。先日、iOSとAndroidを含むモバイル機能が個人開発者に無償化したように、Unityは次々とソフトウェアを無償化しています。この流れに対向するため、これまで高額なライセンス料が必要であったエピック・ゲームズのUnreal Engineなども初期費用が無料になっています。このようなゲームエンジンをめぐる戦いにおいて、今後、Unityはどのように対向するのか、清水氏は大前氏に問いかけました。

大前氏によるとUnityの強みは安価であることだけではありません。ゲーム開発が民主化されることで、開発スキルの平準化が発生し、Unityを使用できる豊富な人材、アセットストアで流通する素材、共有されるノウハウなどが何よりもの強みになると、大前氏は応えています。

しかしながら、清水氏はそれを「民主化」とは考えていないと反論しています。というのは、Unityはオープンソースのプロジェクトではなく、プロプライエタリであるため、もしも他の会社によってUnityが買収されたならば、自由に使用できなくなる可能性があるからです。一方で清水氏が開発しているenchantMOONをオープンソースのプロジェクトにした理由として、もしも清水氏自身が会社から追い出されたとしても、自由に使用できるための「保険」であると主張しています。

さらに開発者コミュニティやアセットストアといったUnityの強みを理解しながらも、利潤のみを追求した会社によって「民主化」が阻害される可能性を清水氏は示唆しました。実際にオラクルに買収されたMySQLといったソフトウェアは、GPLなどのオープンソース・ライセンスのおかげでその後の普及と発展が可能であったと清水氏は述べています。それに対して、Unityはプロプライエタリなソフトウェアであるため、現在のような自由な開発環境が今後も継続できるかどうか不安であると述べています。

それに対して大前氏は、Unityが買収される可能性については今のところほとんどありえないと反論。ユニティ・テクノロジーズ本社の経営自体も安定しているため、今のところはソフトウェア自体が売れなくても会社の存続は可能であると述べています。創業当時の貧乏エピソードを語りつつ、Unityはアメリカ西海岸の華々しいベンチャー企業ではなく、地に足の着いた会社であることを説明しました。

また山本氏は一つのゲームエンジンに縛られることの危険性を指摘しました。過去にUnreal Engineがゲーム開発において普及したときと同様、Unityでないとゲーム開発ができないような人材が育つと、その後にテクノロジーが進展したときに対応できなくなる事態が発生すると述べています。

そのような事態を回避するため、大前氏は開発者として常に全体のプロジェクトの20%程度は、新しい技術を取り入れる先行投資をするべきであると主張します。Unityが突然、使用できなくなるという可能性はありませんが、10年後のゲーム開発はまったく未知のものであるため、常に新しいことに挑戦する重要性を指摘しました。その他にも技術発展とオープンソースの関係など、白熱した議論が繰り広げられました。

■enchant.jsが目指す全人類プログラマー化計画

議論が白熱するとともに大脱線したところで、話題は移りました。清水氏が現在、開発してenchant.jsの紹介として、「プログラムとは何か?」という哲学的なテーマのプレゼンテーションが行われました。会場にはプログラマーの方も何人かいましたが、「誰もこれから説明するプログラムとは何かについては知らない」と清水氏は挑戦的な発言で口火を切ります。

清水氏によると「program」とは、もともとギリシア語の「公文書」という言葉に由来します。つまり、現在我々が「プログラム」と呼んでいるコンピュータプログラム以前に、プラグラムは存在していたというわけです。それらのプログラムは、「特権階級が民衆を支配するための道具であった!」という大胆な主張を、清水氏は某マンガ風に会場に突きつけました。

会場は爆笑の嵐ではありましたが、清水氏の考えはあながち冗談ではありません。というのも、そういったプログラムによる支配体制を打破するために、清水氏が開発しているのがenchant.jsであるからです。つまり、enchant.jsはゲームを簡単に制作できるツールでありますが、目的は誰もがプログラミングを習得できるようにすることにあるのです。なぜゲーム開発ツールであるかというと、プログラミングを教えるときに一番効果的な対象がゲームであると、清水氏が考えているからです。

このプログラミングをゲーミフィケーションによって学習するという発想は、Unityに影響だと清水氏は振り返っています。大前氏もそれに同意して、enchant.jsのチュートリアルが非常にうまく出来ていると述べています。そして、Unityと異なり、enchant.jsがゲーム開発環境を目指すものではなく、プログラミングを普及させることにあると大前氏は理解しています。

あくまでもゲームを制作するためのツールであるUnityに対して、清水氏の目的は全人類をプログラマーにするという壮大なものです。というのも、現在のテクノロジーの発展は急速であり、プログラミングができない人々は時代に取り残される危険性があると清水氏は感じているからです。そしてenchant.jsはゲーム開発ツールとして、Unityと比較されることも多いそうですが、それは誤解であり、あくまでもプログラミング学習のためのものであると、清水氏は強調しました。

■ゲーム開発の将来

最後に話題は「黒川塾(伍)」と同じくゲーム開発の将来について移りました。まず、山本氏はこれまでのゲーム開発において、日本人が技術的に制約の多い中で創造力を発揮してきたことに触れました。そして、そのような職人的技術がUnityなどの開発環境においても発揮されるのかと大前氏に問いかけました。

それに対して、大前氏はインディーゲームのような小規模な開発において、Unityなどの開発環境は力を発揮すると応えています。そのため、プログラマーにUnityを触らせるよりも、アーティストにUnityを触らせた方が、面白いものが生まれる可能性が大きいと考えているそうです。さらに先日のニコニコ超会議を振り返りながら、今の10代の若者たちがニコニコ生放送を通して『Minecraft』や『Ib』、『青鬼』といったインディーゲームに触れていることを指摘しました。

イベントの最後には、リアルタイムで作成されたUnityのゲームのデモプレイが行われました。3人チームで作られたピンボールのようなゲームは、Unityの2Dゲームのアセットを利用したものであり、未完成ながらもなかなか面白そうな内容でした。さらに質疑応答では、マルチコア技術を搭載したスーパーコンピュータから他のゲームエンジンの話題までマニアックな議論が繰り広げられました。

議論の脱線は多かったですが、Unityとenchant.jsの方向性の違いがはっきりと示された貴重な機会となりました。中でも「プログラムとは人を洗脳するための道具であり、僕は今まさに一番大きなものをプログラミングしています。それは人類の未来なのです」と壮大な野望を語る清水氏の人間的な魅力が最も印象的でした。
《今井晋》
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