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【OGC2012】データ駆動型ゲームデザインと『ドラゴンアーク』の挑戦

KPI(KPI Key Performance Indicator=重要業績評価指標)と呼ばれる指標データを参照しながら、日々「カイゼン」を繰り返し、収益を最大化させていく――。ここがコンソールゲームとソーシャルゲームの大きな違いです。

ゲームビジネス 開発
グリー・メディア事業本部エグゼクティブディレクター、土田俊郎氏
  • グリー・メディア事業本部エグゼクティブディレクター、土田俊郎氏
  • ソーシャルゲームがクリアした二大阻害要因
  • ゲーム開発にもPDCAサイクルを応用できる
  • 企画の三大モデルで売上を向上させる
  • 事業モデルと企画モデルを融合させる
  • バイラル効果すら可視化できる
  • アクションとSLGの融合が基本
  • 意味深なキャッチからはじまる世界
KPI(KPI Key Performance Indicator=重要業績評価指標)と呼ばれる指標データを参照しながら、日々「カイゼン」を繰り返し、収益を最大化させていく――。ここがコンソールゲームとソーシャルゲームの大きな違いです。

こうしたデータ駆動型ゲームデザインの実践とは、どのようなものでしょうか。OGC(オープン・ゲーム・コンテンツ)2012でグリーの土田俊郎氏は「ソーシャルゲームは、 コンソールゲームを目指すのか? ~ドラゴンアークの開発、運営から~」と題した講演を行い、この一端を披露しました。

グリー・メディア事業本部エグゼクティブディレクター、土田俊郎氏


■コンシューマのベテランが飛び込んだソーシャルの世界とは?
「グリーの土田氏」というよりも、古参ゲーマーには『アークザラッド』『フロントミッション』シリーズの土田氏と言った方が、通りが良いかもしれません。長くコンソールゲーム開発を続けてきた土田氏ですが、昨年3月にグリーに入社し、ソーシャルゲーム開発に飛び込みました。そこで驚いたのは、徹底した「データありきのゲーム開発」だったと言います。

「コンソールゲームでは発売前にプロモーションで人気を高め、発売後約1ヶ月で売り切るといったスタイルが主流です。そのためゲームのログを見て客観的に、ロジカルにゲームを進化させることができませんでした。また『ゲームを遊ぶ時間がない』『ゲームを購入するお金がない』といった、お客様の不満を無意識のうちに切り捨てていました」(土田氏)。その結果、知らないうちに進行していた市場の先鋭化。裏を返すと、これがクリアできたからこそ、ソーシャルゲームは爆発的にヒットしたのだと分析します。

土田氏はグリーでは「一個人のセンスよりも数千万人のデータ」が重要視されること。そして「データを元に『PDCA』サイクルを回転させていくモノづくり」が徹底されていると語りました。PDCAサイクルとは「計画(plan)、実行(do)、評価(check)、改善(act)」のプロセスを順に実施していきながら、生産性を高めていくマネジメントサイクルの一つで、製造業などでしばしば用いられています。これをゲーム開発に応用していくことが重要だと言うわけです。

ソーシャルゲームがクリアした二大阻害要因ゲーム開発にもPDCAサイクルを応用できる企画の三大モデルで売上を向上させる


ここで指標となるデータが冒頭のKPIです。ソーシャルゲームではゲーム内容がシンプルで、サーバ=クライアント型のデータ構造を持つため、数千万人のユーザー履歴がすべてログで参照できます。そこで「どのKPIを改善するための企画なのか」を最初に考え、「その企画で何パーセント変化するか」仮説を立て、「リリース後、何パーセント変化したのか」を検証し、「自分の企画精度を絶えず修正する」ことが重要だと指摘します。逆にそれができるのがソーシャルゲームの強みになっています。

また土田氏は、企画の三大モデルとして「集客」「活性化」「収益化」をあげました。集客は新規ユーザーを集める手段で、プロモーションやブランド構築、製品ラインアップの充実など。活性化は継続率を高めて新規顧客に繋げていくための施策で、ポイントサービスやクーポン、タイムセールなど。そして収益化は課金ユーザーやARPUの増加で、アイテムの陳列方法やタイムセール、独自生産ラインなどです。

このようにソーシャルゲームでは開発と運営の両輪でゲームデザインが考慮されていることが分かります。また流通・小売業など、ゲーム業界外のビジネス分野との相似形も見て取れるでしょう(余談ですが「お店屋さんごっこ」などの題材は、まさにソーシャル向けだと言えます。工場の生産管理=農場経営と見なすこともできるでしょう)。

事業モデルと企画モデルを融合させるバイラル効果すら可視化できる


その上で指摘されたのが、ソーシャルゲームの事業モデルと企画モデルの関連性を明確にして、可視化することの重要性でした。会員数と流入率、ゲーム登録者数とログイン率、ログインユーアート課金率、課金ユーザーとARPU、これらがすべて売上につながる重要な要素です。これらをKPIでにらみつつ、「収益」「活性化」「収益化」のサイクルで最大化していくというわけです。

このように、ソーシャルゲームではビジネスモデルとゲームデザインが他のジャンルと比べて、より密接に結びついています。ちなみにゲームセンターの「3分100円」を意識したゲームデザインや、コンシューマゲームの「やり込み要素」のように、両者の重要性は他でも多く語られます。にもかかわらずソーシャルゲームが突出して感じられるのは、それだけ科学的な解析がしやすいジャンルだと言うことなのでしょう。

■ハードの発展でコンシューマ化するソーシャルゲームの未来
もっとも土田氏は、今後はスマートフォンの性能向上に伴い、ソーシャルゲームでもコンソールゲームのような手触り感や、愛着が持てるようなゲーム作りは避けられないと語ります(少なくともサウンド要素は必須となるでしょう)。つまりコンソールゲームのような大作化や、シリーズ化が進むというわけです。

しかし、それに伴って開発期間の長期化や軌道修正の難しさといった、今日のコンソールゲームと同じリスク要因が増加することも考えられます。それを避けるためにも土田氏は「早く出す」ことの重要性を説きました。ゲームの深さは開発だけではなく、ユーザーと共に創り上げていくことで、ユーザーニーズの乖離は避けられるという考えです。

そのためにも人気ゲームモデルの解析や定義を通したフレームワーク化と、効率の良い短期間開発スキーム構築が求められるとしました。特に開発メンバーには専門職に特化しすぎない、部署横断的な統合型スキルが求められると言います。

アクションとSLGの融合が基本意味深なキャッチからはじまる世界


では、これまで述べてきたような事柄は『ドラゴンアーク』でどのように生かされているのでしょうか? 土田氏は同作が「オンラインゲームのフレームワークを生かしたソーシャルゲーム」だと説明します。

『ドラゴンアーク』の基本となるゲームメカニクスは、「最大4人同時プレイによるアクションゲーム(ダンジョン探索)」と「キャッスル内政シミュレーション」の繰り返しにあります。アクション部分は同期プレイで、シミュレーション部分は非同期プレイ。また課金アイテムは「時間短縮の手段」として位置づけられています。これらはすべて、状況によって遊び方や遊ぶモードをプレイヤーが選択できることにつながります。ユーザーの生活に合わせて遊べるゲームデザインが行われたというわけです。

またロゴに加えてキャッチフレーズも凝ったものになっています。「ーーこれは、龍魔統べる”王”と、その同志達の”一大叙事詩”である。」このような思わせぶりなキャッチフレーズから始まるソーシャルゲームということで、世界観の広がりや、どっぷりとつかれるゲームをめざしたといいます。その一方で「ソーシャルゲームならではの手軽さ」とは相反する部分があり、ユーザーを選んでしまっている部分もあるとのこと。今後はより参加ハードルの低いコミュニティ作りのための施策が課題だと述べられました。

ハードの向上に伴いソーシャルゲームも大作化していくユーザーニーズの乖離回避のため早期リリリースが重要


このように短時間ではありましたが、グリーのゲームデザイン哲学が垣間見える濃い内容のセッションとなりました。今後ソーシャルゲームが大作化して、コンソールゲームと融合していくとすれば、データ駆動型ゲームデザインは回り回ってコンソールゲーム開発にも影響を与えることが避けられないーー。そのような未来像も感じさせられます。ゲーム機がオンライン対応になっている今、環境は整いつつあると言えるでしょう。

一方でこうしたデータ駆動型ゲームデザインを課金モデルとつなげるノウハウは、モバイル・ソーシャルゲーム市場の拡大と伴って、日本が海外よりも先行している数少ない分野だと感じられます。しかし、統計学や経営学と結びつきやすい分野だけに、産学連携を生かした体系化や理論化が、英語圏で急速に進むことが予想されます。アドバンテージがあるうちに、こうした基礎固め、土台固めもあわせて期待したい――。そんな風に思いを広げさせられるセッションでした。
《小野憲史》
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