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『MGS2』発売から20年…「デジタルで何を伝えるのか」を問う作品を振り返る

21世紀初頭のデジタル社会の始まりと「何を後世に伝えるのか?」を問う『METAL GEAR SOLID 2: SONS OF LIBERT』(メタルギアソリッド2 サンズ・オブ・リバティ)の発売20周年を記念し改めて本作を振り返ります。

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『MGS2』発売から20年…「デジタルで何を伝えるのか」を問う作品を振り返る【年末年始企画】
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前作より洗練された『MGS2』のゲームシステム

『MGS2』では、グラフィックや操作系、そして敵AIの行動が大きく刷新されたことで後のシリーズへと受け継がれる新たなシステムの基礎が築かれました。

グラフィックも高精細な表現が可能とになったことで結果的にフォトリアル寄りな雰囲気に近づいています。嵐などの表現は、『ドキュメントオブ MGS2』の解説によると、PS2のGPUであるグラフィックシンセサイザーのフィルレート性能を生かして、半透明エフェクトを多用しているとのことです(また『MGSV:GZ』のデジャヴミッションで語られたポリゴン数を参考にするなら、初代『MGS』のスネークは690ポリゴン、『MGS2』では3800ポリゴンとなり約5.5倍高精細になっている)。

ゲームシステムとしても通常の動きと攻撃(三段攻撃や首絞め)に加え、箱への乗り上げや手すりへのエルード(ぶら下がり)が追加。特に主観視点では、前作で出来なかった主観攻撃(射撃/打撃)だけでなく雨粒によって視界がぼやけるなど、その環境の影響を感じられるエフェクトも用意されています。操作系に関してはアナログステックによる歩きや、ボタン感圧による構えの解除などが導入されているものの基本的に前作と同じなため大きく変化したわけではありません。

特に大きく変化したのが敵兵関連でした。プレイヤーが敵の視界外から近づき銃を構えればホールドアップを仕掛けられ、敵の正面に回り込み顔や股間に照準を向ければドッグタグやアイテムも奪取できます(気絶/睡眠させれば身体を揺さぶって奪うこともできる)。他にも、新たに加わった麻酔銃によって殺傷/非殺傷の選択が行いやすくなりゲームプレイの幅も広がりました。

『MGS2』はFPSではないのだが、一部武器でアイアンサイトをいち早く導入したタイトルだった
敵兵の突入シーンはリアリティがあり、隠れ方が甘いと発見されてしまうこともあった
主観視点を使った演出では、後半の狙撃シーンでエマが支柱裏手に回った時にジョニーとの会話を指向性マイクで拾えるところにも現れている

また、アラート時における敵兵の行動もリアリティある形で強化されました。発見されれば応戦から応援を呼ぶという手順を行う以外にも、近くの味方や地形を利用して狭い地形でも戦います。アラートも前作が通常⇔回避⇔危険の3段階でしたが、『MGS2』では一段階増え通常⇔警戒⇔回避⇔危険の4段階へと変わっています(アラート時に駆け寄ってくる敵兵も盾持ちがいるなど簡単に撃退できないようになっている)。

加えて、オブジェクトに関しても窓ガラスや酒瓶、果物、照明、敵兵の持つ無線機に攻撃を加えると破壊でき、それぞれに応じた破壊エフェクト/オブジェクトが描写される徹底ぶりです。

こうして『MGS2』において強化された要素を見ていると前作比で強くリアリティを感じるのは、高精細かつフォトリアルの雰囲気を持つグラフィックだけでなく、敵兵の細かな反応(発砲音、くしゃみ、足音、雑誌、物音、破壊音など)や、細かなオブジェクトに対するインタラクションなどが結果的に当時として新鮮な未体験の面白さを提供したことに成功したからだと思えます。

プレイヤーを最後まで揺さぶり続けるミステリアスな『MGS2』のストーリー

『MGS2』は、スネークを操作するタンカー編と、新主人公である雷電を操作するプラント編の2編で構成されています。タンカー編は、極秘裏に開発された新型メタルギア移送の情報を手に入れたオタコンとスネークが、ハドソン川を下るタンカーへ潜入する模様を描きます。プラント編は、先のタンカー事故よって建設された海上除染施設ビッグ・シェルが、テロ組織「サンズ・オブ・リバティ」によって占拠されるというもの。テロリストの目的を阻止するため、FOXHOUNDの新人隊員である雷電が潜入するというものです。

タンカー編は完全な序章でプラント編からが本編です。洋上施設ビッグ・シェルへ海中から潜入した雷電は、デッドセルのヴァンプとフォーチュンの存在を確認し、イロコィ・プリスキン中尉ことスネークと爆弾処理のプロであるピーター・スティルマンと協力して解体します。ビッグ・シェル各部へ設置された爆弾を冷却スプレーをもって冷凍解体しますが、その過程で雷電はファットマンと戦いを繰り広げます。

前作『MGS』との奇妙なデジャヴを感じ始めるのはこれ以降。FOX DIEのように死ぬエイムズや、ニンジャとオセロットの存在、リキッドのMi-24と似たシチュエーションとなるAV-8BハリアーIIとの戦い、高圧電流床の電源パネルをリモコンミサイルで破壊するなどなど……。シリーズ作がある程度進むとファンサービス的に盛り込まれる過去作要素を僅か2作目で導入すると共に、敵対する愛国者側の「S3(Selection for Societal Sanity、社会の思想的健全化のための淘汰)計画」の一つとしてネガティブな意味合いを持たせることは現在でも多く見ない表現です。

大統領との対面で“愛国者達”の目的が既に示唆されている
ファットマンはプラント編で最初に戦うボスなため、ソリダスの最終的な目的「歴史に記録されたい」と似た目標を持っていることに気付きにくい
ある意味スティルマンとファットマン、雷電とソリダスは似たもの同士

MGS2は、「登場人物が一度は嘘をつく」という方針をもとに、プレイキャラ雷電を含めて様々な形で物語の趨勢を見守るプレイヤーに対して揺さぶりをかけてきます(段々とプレイヤー=雷電ではなくなる)。

特にキャラクターの人間関係に注目してみると、スティルマンとファットマン、オタコンとエマ、雷電とソリダスのように疑似親子や義理の兄妹、義の親子など血の繋がった血縁に関する描写がほぼありません(プラント編の主人公雷電と恋人ローズによる赤ちゃんの示唆、オルガの子供ぐらい)。意思の伝達に関する後悔や対決が、『MGS2』の「伝える」というテーマに絡んでいることを見逃してはなりません。

また擬似的な物事への言及も多く、VR訓練や“愛国者達”が仕掛けた今回の演習、フォーチュンのこれまでの幸運、人間かと思っていたらAIだった大佐など徹底しています。しかしながら、雷電とローズの恋愛が“愛国者達”の指示によって作られた擬似的な関係から本物へと変わるように、現実と虚構(フィクション)の境目はぼやけていて、いつの間にか本物へと辿り着けることを暗に示しているようです。

プラント編のスネークは物語の核(因縁)から外れているためか、プレイヤーと雷電に語りかける姿がある意味でシリーズ中最も生き生きとしている

ビッグ・シェルが崩壊し物語が佳境に入ると、AI大佐を制御するG.Wが崩壊した影響も含め、アーセナルギアの内部の異質さや、スネークやAI大佐を筆頭としたメタ的な表現が強くなっています。この瞬間から現実とフィクション(ゲーム)のラインがぼやけ、本作のテーマに関するセリフがダイレクトに伝わるようになるのは他に無い表現です。

崩壊したAI大佐のギャグ中心のセリフは、この後の最終決戦前の無線と温度差が激しい
徐々に現実がゲームへ侵食し始める
量産型メタルギアRAY戦後にオセロットがリキッドに乗っ取られてしまった瞬間。思えば後のシリーズは『MGS2』で描かれた現象を如何に補足するかが問われていたようにも思える

『MGS2』を大きく象徴し今でも引用されるのは、量産型メタルギアRAY戦後にオセロットによって暴走させられたアーセナルギアがニューヨークへ上陸した後のソリダスと雷電、そしてAI大佐の会話と無線でしょう。AI大佐が雷電に語りかける内容は、今日の人間社会に対しても身に覚えのあるような虚を突かれるような指摘が多くあることから、音楽も合わせて独特の薄気味悪さは20年後の現代でも消えていません。

しかしながら、AI大佐が語る内容については、あくまで2001年前後のインターネット/デジタルコンテンツが劣化しない、消えないという価値観に基づいて語られていることを考慮しなくてはなりません。今日では、インターネットにおいても情報やコンテンツをアーカイブしておかなければ情報の保存と伝達が失われてしまう可能性が高いのです。例えばジオシティーズやFlash Playerなどを筆頭としたインターネット黎明期を支えた多くのホームページや技術が消え、継承されなかった情報も数多く存在します(当時としてもインターネットの情報だけでなく、デジタル情報が記録されたCDなども劣化によって読み取れなくなる日が来ると言われていたものの現実感が無いタイミングだった)。

他にも、2001年は個人ホームページやブログが流行る前後であり、SNSは無いにしても大小インターネット掲示板などによる不特定多数との交流が現実となっていた時代でもありました(iモードなど携帯端末によるインターネット接続も普及しつつあった)。そもそも『MGS2』は開発に関しても社内サーバー上でBBSが展開され開発資料も共有されていることからも、AI大佐の言説は当時のタイミングで十分に通用する内容であり、数年後、数十年後を見通した指摘ではないのです。どちらかと言えば、AI大佐の言動が20年以上経った2022年の現代でも通じる普遍的な指摘であることを念頭に入れておく必要があるでしょう。

『MGS2』はジョージ・ワシントン橋から始まり、アーセナルギアのG.Wを経てフェデラル・ホールのジョージ・ワシントン像まで行き着く
本当の敵は別の所にあるのに、今とその後を生きるためにソリダスと対決しなくてはならない歯がゆさがある

また、ソリダス戦後のスネークと雷電の会話は本作を象徴するシーンの1つです。雷電が付けられていたドッグタグを投げ捨てるシーンは、名残惜しいですが雷電がゲームとプレイヤーから解放されたことを示したとも解釈できます。

ローズと再会し雷電が自分の意見を持つ瞬間を含め、テーマ曲である「Can't Say Goodbye To Yesterday」へと繋がる一連のシーンと映像は、最後のスネークのメッセージを含めて2022年に見ても劣ることの無い素晴らしい出来映えです。

「何を次の世代に伝えるのか?」を問う『MGS2』

『MGS2』は日本国内で80万本、全世界で700万本も出荷するほどの人気タイトルとなりましたが、複雑なストーリーや全てが解決する心地の良い終わり方をしない作品であったことから(真の黒幕である“愛国者達”関係は『MGS2』だけだとすっきりしない)、ゲームシステムの深掘りが評価されるも終盤の長い無線会話/カットシーンなどが残念な点として挙げられることが多いタイトルでした。筆者自身も『MGS2』に関してはわからないこと、一人で解決できないことだらけで、『MGS2』の続編にあたる『MGS4』がリリースされるまで長年悶々としていたのも事実です。

実写を混ぜて説明する示す手法は前作でも使われてが、『MGS2』ではとても多く現実とフィクションが繋がっているように思える演出としても用いられている。現実とフィクション、自分は何者か、自分の存在はどこにあるのかという「新世紀エヴァンゲリオン劇場版 Air/まごころを、君に」と似たテーマを扱ったことからもリリース後は一部で「エヴァっぽい」と言われていたこともあった

また、ニューヨークをモチーフ(舞台)とした『グランド・セフト・オートIII』と『マックスペイン』、そして『MGS2』の3作が2001年という時代に誕生したことを含めて、ゲーム史において転換点を示したタイトルが多く存在した瞬間でもありました。

『MGS2』はよく知られている通り米同時多発テロの影響によって事件を想起させる事柄が修正/削除されています(セリフなどに関しても同様の措置が取られた)。特に有名なのが終盤のアーセナルギアが暴走しベラザノ橋を通過した後、ニューヨークへ上陸し様々な建築物を破壊する流れとなっていましたが、演出がカットされ暗転するのみになったとのことです(ニューヨークを破壊した全体図は『ドキュメントオブMGS2』で見られる)。一方で映像作品「MGS2バンドデシネ」においても同じく描かれないものの、雷電が上陸の衝撃によって投げ出されて気絶暗転するという自然な表現となっています。

『ドキュメント・オブ・MGS2』では本編でカットされてしまったアーセナルギアが突入したマンハッタンの全景を見ることができた

米同時多発テロの影響は勿論本作だけでなく『エースコンバット04』や『GTA3』など、ニューヨークや飛行機、建物の崩壊など事件を想起させる事柄に対してことごとく修正を迫られるほどゲーム業界にも多大な余波がありました。


『MGS2』は、PS3/Xbox 360/PS Vita向けに移植された『METAL GEAR SOLID HD EDITION』に収録され、さらにXbox 360版は上位互換に対応しているため比較的プレイしやすい環境にありました。しかしながら、2021年11月に権利関係で一時販売停止してしまい、『MGS2』を2022年1月現在プレイするにはハードルが微妙に上がってしまっています。一方で2015年に野島一人氏によって書かれたノベライズ版「メタルギア ソリッド サブスタンスII マンハッタン」なら差異はあれど物語を掴めるので、ゲームをプレイできなければこちらを読むのもいいかもしれません。

何を後世に伝えるのか?」という『MGS2』が打ち出したテーマと問いかけは、発売から20周年を経過した今でこそ様々な思いで取り組むべき題材として活きてきます。何を伝えるのかは、ゲーム内でも語られている通り自分が信じるものや文化など千差万別です。この機会に遊び直すだけでなく、何らかの形で当時の思い出や感想を振り返り、後世に向けて語ってみてもいいかもしれません。

「未来を創ることと 過去を語り伝えることは同じなんだ」
今回の記事執筆にあたり、当時の雑誌や過去作の攻略本、『MGS2』メイキング本などを参考にしました

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《G.Suzuki》
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