ゲームが面白くなるための条件の一つに、「ゲームバランスが優れていること」というのが挙げられます。しかし、昨今のゲームは複雑性が増しているためバランス調整が難しく、開発コストが膨らんだり、バランスが取れずゲーム寿命が短くなってしまったりする事例が後を絶ちません。
そういった問題に、人口知能を使って解決を目指す取り組みが進められています。筆者は「CEDEC2017」にて、「遺伝的アルゴリズムによる人工知能を用いたゲームバランス調整」という講義に参加してきたので、その内容をお伝えします。
登壇者はスクウェア・エニックス、テクノロジー推進部に所属する眞鍋和子氏。眞鍋氏は情報工学専攻(修士)卒業後、コンシューマ系ゲームやゲームツール開発を行い、現在は人口知能を使ってQAやゲームバランス調整を行う研究をしています。
眞鍋氏はまず、ゲーム開発における課題として、「短期的にアップデートを繰り返すため、QAのコストが増加している」ことを指摘。昨今のゲームはサービス開始時に予定していた全ての要素が実装されておらず、アップデートによってコンテンツを追加していくことが一般的です。しかし、追加コンテンツが想定以上のスピードでユーザーに遊び尽くされてしまうとゲームは「コンテンツ不足」に陥り、面白さが損なわれます。それを防ぐため多くのQAが行われるわけですが、この流れがコストの増大に繋がっているとしています。
眞鍋氏はこの問題を、プレイヤーAIを使って解決する研究をしています。プレイヤーAIとは文字通り、プレイヤーの代わりにゲームを攻略するAIのこと。プレイヤーAIを使ってのゲーム開発は最近増えてきており、『City Conquest』『FINAL FANTASY Record Keeper』『ベヨネッタ2』といったタイトルの開発にも、プレイヤーAIが用いられていることが紹介されました。
ここからは眞鍋氏が実際に、スマートフォンアプリ『グリムノーツ』にてどのようにプレイヤーAIを導入したか、その研究事例が紹介されていきます。『グリムノーツ』には様々なキャラクターや武器の種類、強化要素が登場しており、さらに毎月のアップデートで新しいものがどんどん追加されるため、バランスブレイカーが存在するか調べきれないという問題を抱えていました。
そこで眞鍋氏は、「与えられた要素の中から、指定されたバトルに対し、最適な組み合わせを探す」ことをプレイヤーAIのゴールに設定。「ダメージ計算式は、実ゲームと同じものを使用する」「距離や移動など、いくつかの要素は省略する」といった前提条件の元でプレイヤーAIを構築し、実際のゲームでは数分かかるバトルを約1秒でシミュレーションできるような環境を整えました。
このプレイヤーAIは遺伝子のように、良かった要素を次世代(次回以降のプレイ)へと引き継ぐ、遺伝的アルゴリズムを持っています。こうすることで、「AIの思考を可視化し、成長過程の観察が可能」「幅広い強さを持った、プレイヤーAIの生成が可能」という2つのメリットがあると説明しています。
このような条件下でシミュレーションを繰り返したところ、最初は敵に敗北していたプレイヤーAIが、負けるたびに改善を重ね、徐々に短い時間で戦闘に勝利していく様子が、シミュレーション結果のグラフから読み取れるようになりました。また、バトル結果は徐々に良くなっていくのですが、時折プレイヤーAIが突然変異のように成長して、結果を大幅に改善する場面があったことも紹介されています。
勝率の高いプレイヤーAIが使用するキャラクターや装備アイテムの組み合わせをチェックすると、それらがゲーム内で強力で、価値の高いものであることがわかります。こういったもののコストを、AIが用いなかったものと比較することで、バランス調整の一助になるのではないかという提案でした。
また、今回のプレイヤーAIは「任意でのキャラクターの切り替えは行わない」という設定をされていたのですが、効率化を図るために一部のキャラクターをわざと敗北させ、攻撃力の高い後続のキャラクターを出撃させるなど、独自の成長を見せたことも紹介されています。
最後に眞鍋氏は、これらのシミュレーションは一部の情報を省略した上での結果であり、実際のゲームプレイでもそうなるか、判断しにくいことを課題としています。その対策として、これから新規でゲームを開発するのであれば、実際のゲームを使って早回しでの検証ができるよう、描画などを切り離して作ることを提案していました。
そして、今後も得られたデータを引き続き研究したいとして、発表を結びました。
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