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【レポート】コンサート「GSJ 16th concert」はなるけみちこ&FFVII特集!ゲームの感動が熱い演奏で蘇る

4月9日、東京都豊島区の東京芸術劇場 コンサートホールにて、「Game Symphony Japan」の16th concertが開催されました。

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4月9日、東京都豊島区の東京芸術劇場 コンサートホールにて、「Game Symphony Japan」の16th concertが開催されました。

「Game Symphony Japan」(略称:GSJ)とは、株式会社アイムビレッジが主催するゲーム音楽コンサートです。「従来のゲーム音楽コンサートとは一線を画し、ゲームの作品性・芸術性・物語にフォーカスし、音楽を通じてゲーム文化およびゲーム音楽の文化的価値向上を目指す」というコンセプトで活動を行っています。




今回の公演では、『ワイルドアームズ』シリーズなどの音楽を手掛けた作曲家でGSJ音楽顧問のなるけみちこ氏と、『ファイナルファンタジー』シリーズなどの音楽を手掛けた作曲家でGSJ特別音楽顧問の植松伸夫氏が登壇。また、『グランディア』や『逆転裁判』シリーズなどの音楽を手掛けた作曲家でGSJ音楽顧問の岩垂徳行氏も登場し、木槌を使ったパフォーマンスで演奏を盛り上げました。


今回の演奏曲は、なるけ氏が携わったタイトルから30周年の『夢幻戦士ヴァリス』、25周年の『天使の詩』、20周年の『ワイルドアームズ』が、そして植松氏が作曲した『ファイナルファンタジーVII』(以下『FFVII』)が披露されました。特に『FFVII』に関しては、作中の楽曲群をオープニングからエンディングまでの物語に沿って構成したプログラムとなります。作品の世界観や物語を大切にした構成と演奏で、ゲームへの深い愛情にあふれた非常に熱量の高いステージが繰り広げられました。

本稿では、このコンサートの模様を詳しくお届けいたします。

■出演者
植松伸夫(GSJ特別音楽顧問)、なるけみちこ(GSJ音楽顧問)、岩垂徳行(GSJ音楽顧問)、
ジェーニャ(GSJ公式MC)、志村健一(指揮・プロデュース)、
東京室内管弦楽団(管弦楽)、東京混声合唱団(合唱)、
マイネマイヌク(バンド)、待山一生(ドラム)

■プログラム
第1部 『なるけさんがかかわったタイトルの偶然にもアニバーサリーシリーズ』

『夢幻戦士ヴァリス』(1986年 日本テレネット)より
THE FANTASM SOLDIER VALIS
(作曲:小川史生 編曲:なるけみちこ)

『天使の詩』(1991年 日本テレネット)より
RIOT LOGO~OPENING、MARRIGE FIELD、VILLEGE OF CELTS、STAFF ROLL
(作曲:なるけみちこ/小川史生 編曲:岩垂徳行)

『ワイルドアームズ』(1996年 ソニー・インタラクティブエンタテイメント)より
灰燼に帰す、アースガルズはがんばったもんね、Lullaby、
旅立ちの朝、姫巫女の想い、荒野の果てへ~新たなる旅路へ
(作曲:なるけみちこ 編曲:木村裕)
※“ワイルドアームズ”は株式会社ソニー・インタラクティブエンタテインメントの登録商標です。

第2部 『ファイナルファンタジーVII』(1997年 スクウェア・エニックス)
(作曲・編曲監修:植松伸夫)
Act1 (編曲:竹岡智行)
オープニング~爆破ミッション、魔晄炉、教会に咲く花、急げ!、闘う者達、
ファンファーレ、神羅カンパニー、血の跡、更に闘う者達、
クレイジーモーターサイクル、F.F.VIIメインテーマ

Act2 (編曲:鹿野草平)
ゴールドソーサー、花火に消された言葉、エアリスのテーマ、
星降る峡谷、悪夢の始まり、J-E-N-O-V-A

Act3 (編曲:木村裕)
星に選ばれし者、神の誕生、片翼の天使、
星の危機、スタッフロール、プレリュード

アンコール
『MOTHER2 ギーグの逆襲』より SMILES and TEARS
(作曲:鈴木慶一・田中宏和 歌詞:糸井重里 編曲:辻田絢菜)

『ファイナルファンタジーVII』より ルーファウス歓迎式典

◆30年前を振り返る、プレトーク



(左から)ジェーニャ氏、岩垂徳行氏、なるけみちこ氏、植松伸夫氏、志村健一氏

開演前には、GSJプロデューサー・指揮者の志村健一氏と、植松氏、なるけ氏、岩垂氏、今回からGSJ公式MCに就任した声優のジェーニャ氏が登場。“プレトーク”と題して、皆さんによるトークが行われました。

まず志村氏が、「今回はなるけ先生の作品で“○周年”という節目のものが集まりましたので、なるけ先生の作品集をやりたいな、ということで企画させていただきました」と今回のコンサートのコンセプトを紹介します。続いてなるけ氏は、「私がすべて作曲したのではなく、一部の楽曲は私の元上司の小川史生さん(『夢幻戦士ヴァリス』など、多数のゲーム音楽を作曲。故人)という方が作られたもので、今日は小川さんの楽曲も演奏します。皆さんが作品を覚えてくれていて、本当にうれしいです。ありがとうございます」と感謝の言葉を伝えます。また、なるけ氏は「あの頃は、会社の地下室と夜の居酒屋を行き来するような感じの生活でしたね(笑)」と、笑いながら昔を振り返りました。

次に志村氏はなるけ氏の話に乗って、「『ヴァリス』が30周年ですけど、皆さんは30年前は何をされていたんでしょう?」と尋ねます。植松氏が「30年前…? あ、結婚した年だ!」と明かしたとたん、「おめでとうございます!」と大きな拍手が贈られます。「今思い出しましたよ(笑)。あとは、スクウェアに入って、『FF』の1作目を作りはじめた頃かな」と振り返っていました。

岩垂氏は、「僕はバンドをやっていましたね。キーボードを弾いていました。居酒屋とかホストクラブとか、ちょっと怪しい場所で演奏してましたね」とのこと。なるけ氏から「岩垂さんは、日本テレネットの外注さんだったんですよね」と聞かれると、「そうですね、小川さんに頼まれてアレンジをやったりしていました。ちょっと繋がりがあったんですよ」と昔を懐かしみます。

また、ジェーニャ氏は、「私はソ連で幼稚園生活を送っていましたね。そのころにファミコンを手に入れて、『ボンバーマン』からゲーム生活がはじまって。今でもゲームをいっぱいやってます。先生方のゲームもやっていますよ、『グラブル』(『グランブルーファンタジー』。植松氏がサウンドディレクターを担当)とか」と、ゲーム好きな一面を見せました。植松氏が「おお、ありがとうございます」と答えた後、すかさず志村氏が「『グラブル』やってる方?」と観客に問いかけ、手が挙がると、植松氏が「おお、グラブってますね!」と一言。会場に笑いが起こりました。

「そういえば、今年は『ワイルドアームズ』20周年ですよね」と志村氏。それに対し、なるけ氏は「そうなんですよね。新作作ります!……と、言いたい気持ちでいっぱいです」と、新作への意欲を見せました。志村氏から「『ワイルドアームズ』の新作をやってみたいなと思う方はいらっしゃいますか?」と観客に問いかけると、「うおーーーー!!!」という叫びにも似た声援と大拍手が観客から巻き起こりました。

◆なるけみちこ氏と小川史生氏の楽曲を披露!



開演時間を迎え、演奏が始まります。まずは『夢幻戦士ヴァリス』のオープニングテーマ「THE FANTASM SOLDIER VALIS」。重厚な鐘が打ち鳴らされたのち、金管をメインにアップテンポで勇壮な旋律が響きわたります。最後まで駆け抜けるように疾走感あふれる旋律が堪能できました。

続いて披露されたのは『天使の詩』メドレーです。まずは「RIOT LOGO~OPENING」が、鉄琴とストリングスをメインにやさしい響きが奏でられたのち、曲が盛り上がり、重厚なコーラスと金管で荘厳かつ美しい旋律が響きます。続く「MARRIGE FIELD」では、ストリングスと木管の裏にシャンシャンというリズミカルな鈴が入り、爽やかな風が吹くような雰囲気の演奏でした。ゆったりやさしい木管の音色が印象的な「VILLEGE OF CELTS」に続いて、プログラム未記載の楽曲「HALLSTATT」ではストリングスと木管に加え、コーラスが高らかに歌いあげます。そして最後の「STAFF ROLL」では、やさしく包み込まれるような美しさの女性コーラスが本当に絶品でした。続いて壮麗なオーケストラと男性のコーラス、そして鐘が加わって、壮大な旋律が会場に響きわたります。静かに演奏が締めくくられると、観客からは大きな拍手が贈られました。

演奏後はなるけ氏が登壇し、「『天使の詩』は、コーラスが素晴らしくてうるっときちゃいました。今日は絶対に、小川さんも上のほうで聴いてくれていると思います。本当にやさしいメロディで、心に残りますね」としみじみ語られていました。

続いて、次の『ワイルドアームズ』の演奏では、なるけ氏と岩垂氏が演奏に参加することが紹介されます。通称「なるけ島」と呼ばれるエリアが作られ、なるけ氏はそこでスプリングドラムやサンダーシートという、ちょっと変わった楽器も含めたパーカッション類を演奏するとのこと。また、岩垂氏は、志村氏の自宅の蔵から見つかったという明治時代の木槌を叩きつけることで、塔が崩壊する際の音を担当するそうです。志村氏からは「今日は岩垂先生に一発、塔を壊していただきます!」と紹介されました。


通称「なるけ島」

そして始まる、『ワイルドアームズ』のエンディングメドレー。最初の「灰燼に帰す」では、なるけ氏がサンダーシートと呼ばれる金属板の楽器を打ち鳴らし、雷が鳴り響く様子を表現します。続いてコーラスが入って荘厳な雰囲気に。曲調が変わり、鐘とコーラスと金管によって重厚でまがまがしい雰囲気に会場が包まれていきます。さらに、パイプオルガンで奏でられる「ビーーッ」という甲高い音で、「対消滅バリア」というビームの音が表現されていました。


演奏が最高潮を迎えた時、岩垂氏が木槌を板に強く叩きつけ、塔が崩壊する様子を音で表現します。コーラスが響いたのち、演奏されるのは「アースガルズはがんばったもんね」。アコースティックギターをメインに奏でられるあたたかくも切ない音色が、砂の海で眠るアースガルズに語りかけるヒロイン・セシリアの想いを表現しているかのようなやさしさにあふれていました。続いて『alone the world ワイルドアームズ・ヴォーカルコレクション』の収録曲、「Lullaby」がコーラス隊によって日本語で歌われます。その歌声には、壮大さと、眠るアースガルズをやさしく包み込む子守唄のようなあたたかさがありました。


続いて、「アーデルハイド城」のアレンジ曲である「旅立ちの朝」が、木管をメインにした爽やかな音色で響きます。演奏が盛り上がり、「姫巫女の想い」が重厚なオーケストラで奏でられた後、演奏がいったんおちつき、ラストは「荒野の果てへ~新たなる旅路へ」。アコースティックギターとフルートをメインに静かで爽やかな前奏が響いた後、演奏が盛り上がってゆき、『ワイルドアームズ』の顔とも言える名曲「荒野の果てへ」の美しい旋律がオーケストラで荘麗に奏でられます。静かに演奏が締めくくられると、少々の余韻の後、大きな拍手に包まれる場内。なるけ氏は深々と一礼し、胸に手を当てて満面の笑顔を見せます。岩垂氏も木槌を高く掲げて、拍手に応えていました。



◆「片翼の天使」の作曲秘話


ここで、次に演奏される『FFVII』の作曲者・植松氏が登壇してのトークコーナーです。まずは志村氏が、「GSJでは1st Concertから『FFVII』を取りあげて、過去5回ほど演奏させていただきました。『FF』は海外でも大人気で、先生は最近、海外を飛び回ってらっしゃいますよね」と話を振ります。植松氏は「そうですね。最近はブラジル行って、メキシコ行って、カンサスにプラハ、ベルリンに行って和歌山行って……ここ1か月くらい、家に帰ってないですね」と、エネルギッシュな活動ぶりを明かしました。

次に志村氏は、「国内外に先生の音楽のファンがいっぱいいらっしゃるのは僕も知ってるんですけど、ファンの皆さんの熱い声って、行く国々によって違いますか?」と尋ねます。植松氏は「ええ、やっぱり違いますよ。基本的にPS以降の『FFVII』、『VIII』、『IX』あたりの人気はどの国に行っても人気があるんですけど、意外とドイツで『VI』がすごく人気があったりしますね。あとは、『FFI』『II』『III』の曲をやっても、少しご年配の方になりますけど、おおー!って言ってくれる方が多いですよ。でもやっぱり『FFVII』、『VIII』、『IX』だと思いますね。どこに行っても通用します、あれは(笑)」と語りました。

続いて、志村氏が「先日、某テレビ局の某ランキングで「片翼の天使」が1位になっていましたよね」と話すと、植松氏は「片翼の天使」の作曲秘話を語りはじめます。

「あちこちで話してるからご存知の方もいらっしゃると思いますけど、普通、曲ってイントロがあって、AメロやBメロがあって…って、そういう作りじゃないですか、基本的に。でも「片翼の天使」はそうではない、実験的な作り方だったんですよ。朝会社に来たらPCの前に座って、とにかく思いついたフレーズを打ち込んでいくんです。2小節から4小節くらいの短いフレーズなんですけどね。で、それを2~3週間くらい続けると、けっこうな小節数がたまるんですよ。そろそろ1曲できそうかな?と思って、そこから順列組み合わせで、“この後にこのフレーズが来たら面白いかな”っていうふうに、実験的に作った音楽なんですよ。でも、出来た時は実はスクウェアの中ではすごく評判が悪かったんですよ。「ワケがわからない!」と(笑)。「作りなおしたほうがいいんじゃない?」とか言われたんですけど、僕は、ゲーム音楽にもこういう実験的なものがあってもいいんじゃないかなと思ってゴリ押ししたんですよ。よかった~、ゴリ押しして(笑)。今はみんな好きだ好きだって言ってくれるので、よかったです」と、植松氏は笑顔で語りました。

◆『FFVII』Act1 ミッドガルでの物語が音楽で紡がれる


ここからは『FFVII』の演奏が始まります。まず照明が落とされ会場が薄暗くなった後、「ブォーーーーン……」というストリングスによる重低音が奏でられ、ゲーム冒頭の宇宙のムービーの音が再現されていました。続いて、「オープニング~爆破ミッション」が、オーケストラで雄大に響きわたります。ティンパニや金管楽器の力強い演奏が迫力満点で、観客はぐいぐいと『FFVII』の世界に引き込まれていきます。

続く「魔晄炉」は、コーラスが入っており、原曲よりも神秘的な雰囲気。演奏が進むと、突然サイレンの甲高い音がホール中に鳴り響きます!このサイレンの音は、パーカッション奏者の方が、手回し式のサイレンを使って鳴らしていました。続いて再度「爆破ミッション」の演奏に突入。この演出は、『FFVII』の最初のボス、ガードスコーピオンとのバトルシーンを表しているわけですね。「爆破ミッション」の最後には、シンバルやティンパニをはじめとした全ての楽器が、ホールが壊れるんじゃないかと錯覚させられるほどの大音響を鳴り響かせて、魔晄炉の爆発シーンを表現していました。


次は「教会に咲く花」が、木管楽器と鉄琴、そして教会で使われる楽器のトーンチャイム(ハンドベル)で、やわらかく、穏やかに奏でられます。一転して不穏な旋律が入ってきたのち、緊張感たっぷりに奏でられる「急げ!」。カッコッ、カッコッ、と入るパーカッションの音が、ゲームのイメージそのままの再現度でした。続いては通常バトル曲「闘う者達」が、金管楽器をメインに勇壮に奏でられます。そして勝利のファンファーレが高らかに鳴り響きます! この一連の流れでは、スラムの教会でのクラウドとエアリスの出会いから、タークスの襲撃によって教会を上に逃げる…というゲームの流れが演奏で再現されていました。

続いての「神羅カンパニー」では、オーケストラに加えて、原曲同様にコーラスが入り、重厚な雰囲気が再現されていました。コントラバスの重低音をメインに奏でられる不穏な雰囲気と恐怖感たっぷり「血の跡」からの、ボス戦曲「更に闘う者達」。この曲ではオーケストラに加えて、マイネマイヌクのメンバーによるバンドサウンドも入りました。とてもノリノリかつ楽しそうにギターやベースを演奏していたのが印象的です。続く「クレイジーモーターサイクル」では、オーケストラにのせてシロフォンとマリンバ(どちらもコンサート用の木琴の一種)がアップテンポで奏でられ、原曲の疾走感が表現されていました。

Act1のラストを飾ったのは「F.F.VIIメインテーマ」です。クラウドの不安定な心理を表現するかのように起伏が大きく、また様々な表情と展開を持つ楽曲ですが、雄大かつ繊細なオーケストラの響きで、見事に奏でられます。静かに演奏が締めくくられると、会場からは大きな拍手が贈られました。

◆ゲームの世界観や物語を大切にしているGSJ




休憩時間が明けた後には、植松氏・なるけ氏・岩垂氏が登壇してのトークコーナーが設けられました。植松氏が「さっきのなるけさん、かっこよかった~! パーカッションを演奏する姿、いいですね」となるけ氏を称えると、「ありがとうございます。あとで何かおごらせていただきますね(笑)」となるけ氏は茶目っ気たっぷりに答えていました。また、植松氏は「岩垂さん、おいしすぎるわ~!」と岩垂氏に話を振ると、木槌を持って登場した岩垂氏は笑顔で木槌を掲げていました。

続いて、志村氏は「GSJは、ゲームの世界観や物語を大事にした構成や演奏をしています。物語に沿って音楽を演奏して、みなさんの中で場面を脳内再生していただけると、二次的に感動していただけるのでは…というのが私たちの狙いなんです」とGSJのコンセプトを語ります。



志村氏は植松氏に対して「先生は色々なコンサートにご出演されていますけど、こういった演出はいかがですか?」と尋ねると、植松氏は「原曲のおいしいところを活かしてアレンジしてくださっていますよね。原曲をそんなに壊してないじゃないですか。だから観客の皆さんも、すごく場面場面を思い出しやすいと思いますね。あと、アレンジされた方のゲーム愛をすごく感じますね」と、GSJの演奏を評価します。

それを受けて志村氏は、「GSJでは、必ずゲームをプレイしてクリアした人でないと編曲を発注しないという仕組みになっているんです。編曲者は、必ずゲームをやらなければ仕事が受けられない、という形です(笑)」と、こだわりを語りました。植松氏は「それは嬉しいですね」と語り、なるけ氏も「嬉しいですね。本当にこだわりが感じられて」とうなずきます。

さらに、志村氏は「『ワイルドアームズ』は、GSJとしても『FFVII』のようにオープニングからエンディングまで演奏してみたいなと考えているんですが、聴いてみたいという方はいらっしゃいますか?」と観客に問いかけると、大拍手が巻き起こりました! 「そういうご声援を多くいただければ、可能性も高くなるかもしれません! あとは、単に売れてるゲームだけ演奏するのではなく、作曲家さんにフォーカスして、作曲家さんのいろんな作品をじっくり味わってみたいんですよね。ただ音楽を演奏するだけじゃなくて、作曲家さんと一緒にいろんなことを共有しながら作品を味わっていきたい、というのが私たちの想いなんです」と志村氏は熱く語りました。

◆『FFVII』Act2 作中一番の衝撃シーンは、白マテリアの落下音まで再現



続いて、『FFVII』のAct2が始まります。まず披露された「ゴールドソーサー」の演奏ではパイプオルガンが使用されており、原曲よりもさらに豪華で、きらびやかなアレンジになっていました。また、途中でプログラムには書かれていない「初舞台」(デートイベントの演劇中に流れる楽曲)のメロディが少しだけ挟み込まれていたのも、『FFVII』をプレイしたファンとしては思わずニヤリとさせられる、心憎い演出です。続いては、デートイベントでの観覧車の中で流れる楽曲「花火に消された言葉」です。はかなく響く鉄琴の音色と、ストリングスと木管楽器が重なって奏でられる旋律は、胸がきゅっと締めつけられるかのようなせつなさにあふれていました。

次の「エアリスのテーマ」は、重厚かつ神秘的なコーラスから始まります。しばらくコーラスが続いた後、「ヒュウウウウ……」という、上から何かが落ちてくるかのような音と、甲高い叫び。そして鈍く重い、何かが切り裂かれるかのような金属音。「ドッドッ、ドッドッ……」と、ティンパニで表現される心臓の音。ピアノで「エアリスのテーマ」のイントロがゆっくり奏で始められると同時に、「かつん……かつん……」という白マテリアが跳ね落ちてゆく音が鉄琴で奏でられます。続いて、フルオーケストラとコーラスで壮大かつ物悲しく演奏される「エアリスのテーマ」。『FFVII』の物語の中で最も衝撃的なシーンである、忘らるる都・水の祭壇での一連の流れが、音楽だけで完全に再現されていました。

続いては、コスモキャニオンの楽曲「星降る峡谷」です。金管とドラム、パーカッションで奏でられるリズムが非常に心地よく、野性味と躍動感にあふれる演奏が繰り広げられます。さらに男声コーラスも加わって、演奏をより勇ましく彩っていました。

次の「悪夢の始まり」では、原曲のイメージに近い、アコースティックギターによる演奏が披露されます。神羅屋敷の地下で眠っていたヴィンセントの哀愁が感じられるような、物悲しく切ない演奏でした。続いての「J-E-N-O-V-A」は、イントロからパイプオルガンが入って凄まじいほどの重厚感! 原曲のイメージそのままに、より強い疾走感が感じられる、駆け抜けていくような演奏が堪能できました。

◆『FFVII』Act3 ラストバトルからエンディングを演奏



続いてのAct3では、『FFVII』のラストバトルからエンディングまでがノンストップで演奏されました。まず初めに披露されたのは「星に選ばれし者」。この楽曲では、鐘が重々しく響き渡り、さらにコーラスとパイプオルガンも入って、『FFVII』最大の敵役であるセフィロスの圧倒的な存在感が表現されていました。また、ウインドマシーン(※布が巻かれた円形のドラムをぐるぐると回し、その摩擦音で風の音を表現する楽器)で吹きすさぶ風の音が表現されていました。これは、戦闘前の、ホーリーの前にセフィロスが立ちはだかるシーンを表しているわけですね。

続いては「神の誕生」。リズミカルなパーカッションと、鳴り響く金管楽器が非常に重厚感があり、格好良い演奏でした。後半に入ってくるコーラスがさらに緊張感を盛り上げていきます。間髪を入れずに始まるのは『FFVII』屈指の人気曲「片翼の天使」。荘厳なオーケストラとコーラスで見事に演奏されていました。

「片翼の天使」の演奏後には、ウインドマシーンと、うねるように響く木管楽器で、ライフストリームに流されてゆくクラウドが表現されます。続いて照明が落とされ、暗くなる場内。「星に選ばれし者」のイントロ部分の鍾が重々しく響き渡りながら、クラウドの究極リミット技「超究武神覇斬」をイメージした金属音が、サンダーシートやシンバルなどを使って無数に鳴り響きます。最後はコーラスで、セフィロスがライフストリームに還る音を表現。クラウドとセフィロスの一騎打ちのシーンが、演奏だけで再現されたのです。

エンディングムービー曲「星の危機」では、作中のムービーで描かれるシーン展開が、演奏で再現されていました。特に、解き放たれたホーリーとメテオが衝突するシーンの演奏では、オーケストラ、コーラス、パイプオルガンなどの全ての楽器の総力を結集した大音量で響き渡り、すさまじい迫力です! ラストのライフストリームが集結していき青白い光を放つシーンは、チェレスタ(鍵盤を押すと内蔵のバチが金属板を叩く…という仕組みの、オルガンの形に似た楽器)をメインに、鉄琴とコーラスも加わって、非常に神秘的かつ、穏やかに奏でられていました。

間髪を入れずに続くのは「スタッフロール」。最初は金管楽器をメインに勇壮に奏でられた後、少し曲調が落ち着き、やさしい木管楽器のメロディへ。飛空艇ハイウィンドのメロディが爽やかに奏でられた後は、おなじみの「ファイナルファンタジー」の美しいメロディが奏でられます。ラストはコーラスも加わって盛り上がり、演奏はフィナーレを迎えます。

……と思いきや、ここで終わらないのがGSJ。続けてティンパニで演奏されたのは、500年後のムービーシーンで流れる「星降る峡谷」のイントロのリズム。鳥のさえずりと、『FFVII』のタイトルロゴがドーンと出る音が演奏で再現されました。さらに続くのは「プレリュード」。繊細なハープと壮麗なコーラスをメインに、ゆったり柔らかく、そして美しく奏でられました。ハープの最後の1音が静かに消えゆき、演奏が締めくくられると、観客からは万雷の拍手が贈られます。


演奏後には、岩垂氏、なるけ氏、そして植松氏が登壇。コンサートの感想をひとりずつ語られました。

岩垂氏「とても素晴らしいコンサートでしたね。リハーサルからずっと聴いていましたけど、とにかく本番が一番よかったです。皆さんの気持ちもオーケストラに伝わって、素晴らしい演奏になったんじゃないかと思います」

なるけ氏「ものすごいボリュームのあったコンサートでしたね。オーケストラや合唱のみなさん、そして来てくださったみなさんと一緒に作ったコンサートだったと思います」

植松氏「『FFVII』は20年も前に作った作品なので、今聴くと拙い部分もありますが、改めて聴いていると、“意外と冒険してるなぁ、挑戦してるなぁ” という箇所もいくつかありました。最近、ちょっとチャレンジを忘れているかもしれませんね。これからも精進します!」

ここでアンコールとして、ジェーニャ氏の歌で『MOTHER2 ギーグの逆襲』のエンディングテーマ「SMILES and TEARS」が披露されました。ハスキーかつ情感にあふれた、伸びやかなジェーニャ氏の歌声が会場に響き渡り、観客を魅了しました。

鳴りやまぬ拍手に応えて、アンコール曲として披露されたのはGSJではおなじみのナンバー「ルーファウス歓迎式典」です。勇ましい行進曲が元気いっぱいに演奏され、観客からは手拍子も入ります。途中からはコーラスで「ルーファウス神羅!ルーファウス神羅!我らが神羅カンパニー、新しい社長ー!」というゲーム中の歌詞をもきっちりと再現。最後はアップテンポになって、爽快感あふれる締めくくり! 大歓声の中、公演は幕を閉じたのでした。

◆◆◆ ◆◆◆ ◆◆◆

今回のGSJでは、なるけみちこ氏が携わったタイトルと、植松氏の『FFVII』の音楽が演奏されましたが、どちらも作品の世界観や物語を大切にした編曲と構成、そして演奏で、ゲーム中のシーンが鮮明に頭に思い描かれるようでした。ゲームへの愛が感じられるこだわり抜いた演奏で表現されたゲーム作品の魅力を、作曲家の方々と共に会場のみんなで味わう。これこそが、GSJの大きな醍醐味であり魅力だと思います。

筆者の私は何度もGSJに足を運ばせていただいていますが、作品の物語に沿った構成や、ゲーム中の効果音も編曲に組み込んで忠実にオーケストラで再現するというGSJのこだわりは、“音だけでゲームの物語を再現する”という気迫がひしひしと感じられ、終演後には改めてゲームをクリアしたかのような満足感が得られるのが本当に素晴らしいなと、行くたびに実感します。

『ワイルドアームズ』は、今回はエンディングに焦点を当てた演奏でしたが、ぜひいつかGSJの演奏する交響組曲『ワイルドアームズ』も聴いてみたいなと、いちファンとして期待しております!

【GSJコンサート情報】
GSJの次回公演は、7月17日(日)に「Game Symphony Japan 17th Concert SEGA Special 2016」と題したセガ作品オンリーのコンサートが開催されます(公式サイトはこちら)。昨年10月に開催され大好評を博した、セガ特集の第2弾となります。ご興味をお持ちの方は、ぜひ足を運んでみてください!





photograph by Yutaka Nakamura
《hide/永芳英敬》
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