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国産インディーゲームがクラウドファンディングを利用してローカライズ!『九十九神』開発者&ローカライズ会社インタビュー

昨今のゲーマーなら海外のインディーゲームの盛り上がりを知らない人はいないだろう。今年のGDCで『Journey』が数々のアワードを獲得したのは記憶に新しい。今や海外のゲームにおいてインディーは既にメインストリームだと言ってよい。

ゲームビジネス その他
『九十九神』ジャケットイメージ
  • 『九十九神』ジャケットイメージ
  • 敵の正体を見破るという個性的な和風RPGだ
  • インタビュー後に外で撮影させていただきました
  • 『九十九神』がデビュー作にあたる同人サークルのTORaIKI
  • ノベルゲームのエンジンとして有名な吉里吉里2で制作されている
  • 攻撃をした時に見える文字から推測して敵の正体を見破るというシステムはボードゲーム由来だった
  • 友さんが手がける付喪神のデザインも本作の見どころ
  • 内乱が多かった室町時代が舞台の本作。碁盤の目のようなマップでゲームが進行する
昨今のゲーマーなら海外のインディーゲームの盛り上がりを知らない人はいないだろう。今年のGDCで『Journey』が数々のアワードを獲得したのは記憶に新しい。今や海外のゲームにおいてインディーは既にメインストリームだと言ってよい。

だが日本では、「インディーゲーム」が盛り上がっているのかというと、なんとも応えにくい状況が続いている。今年の3月には国内インディー開発者のためのイベント「BitSummit」が京都で行われたが、国内のインディーゲームについての情報はまだまだ少ないのである。

そんな折、3月に日本のインディーゲームである『九十九神』が、クラウドファンディングサービスのindiegogoを利用してローカライズ費用の調達に成功したことが報じられた。「日本のインディーゲーム」が「クラウドファンディング」で資金調達を成功させたというニュースは、時節柄、キャッチャーに響いただろうが、ゲームの詳細やローカライズのために、なぜクラウドファンディングを利用したかなどは十分に伝えられていなかったように思える。

今回、『九十九神』のデベロッパーであるTORaIKIの星野友さんとローカライズを手がけるFruitbat Factoryの石井義文さんをお招きして、『九十九神』の制作やローカライズについて話をうかがった。ゲームデザインから世界観まで1人で行なう制作過程、クラウドファンディングを利用した体験談など、まだまだ知られていない日本のインディーゲームシーンに焦点を合わせたインタビューをお届けしたい。

■コンシューマ開発とアマチュア翻訳というお二人の経歴

―――今日はわざわざお集まりいただきありがとうございます。せっかくお二人に同席していただいたので、『九十九神』と共にFruitbat Factoryのお話もうかがいたいと思います。そもそもなんで会社の名前が「Fruitbat」なんでしょうか? フルーツ食べるコウモリのことですよね?

石井:私がメンバーになる以前に、オズハンとヤッケが社名の検討をしたそうです。その時に、ヤッケが「That’s such a fruitbat idea.(すごく下らない考えだね。)」と言って、オズハンがfruitbatという単語を気に入ってしまったから...と、オズハンから聞きました。

―――それでは、まず簡単にお二人のご経歴など教えて下さい。

友:私はコンシューマゲームのソフトウェア開発に5年ほどデザイナーとして関わっておりました。同人ゲームの制作は、ゲーム開発会社に入る前からツールなどを触り進めていました。

―――友さんはユーザーインターフェース(UI)のデザイナーさんなんですよね?『九十九神』もUI周りは非常に洗練されているように思えます。

友:そうですね。メインで任されていたのはUIですが、小規模なチームでしたので、いろいろな仕事をしていました。例えば、演出用の3Dデータを作ったり、実機で動かすために必要なExcelデータを作ったりなどです。

―――なるほど。ではFruitbat Factoryの石井さんのご経歴もうかがいたいと思います

石井:お恥ずかしい話ですが、私はゲーム業界のことは詳しくないんです。なので、あくまでも「ゲームを翻訳する」ことが好きで、Fruitbat Factoryに入りました。それ以前からもアマチュアとしてゲームの翻訳活動はしていました。現在は翻訳以外の仕事が本業ですが、将来的には翻訳一本で生計を立てられれば良いなと思っています。

―――翻訳活動自体はどういったきっかけで始められたんですかね?

石井:もともと英語が好きだったので、ちょっとした好奇心と自分の力を試してみたいという気持ちから始めました。

―――日本語がネイティブの場合は、一般的に英語から日本語の翻訳の方がやりやすいですよね。しかしながら、日本語から英語の翻訳をやりたいと思ったのはなぜでしょうか?海外生活の経験があるのですか?それとも日本の情報を海外の人に教えたいという気持ちがあったのですか?

石井:海外での生活の経験はないです。ただ、日本のことを海外の人に伝えたいという気持ちはありました。そしてゲームを翻訳することが、自分ができる伝え方だと思いました。

―――なるほど。その気持ちはわかります。私も研究で学術書の翻訳をやっていますが、日本のゲーム好きな海外フォーラムをのぞいたり、投稿したりするのは楽しいですよね。またニッチなゲームの情報は言語の壁を超えて伝わることが少ないので、ボランティアとして海外交流を行なっている方の功績は大きいですよね。お金にならないかたちで物事が進んでいますんでね

■ ゲームデザインから逆算した世界観の設定、『九十九神』の制作秘話

―――では本題に入りましょう。まず『九十九神』とTORaIKIの活動についてうかがいたいと思います。同人サークルとしてのTORaIKIさんは活動を始めて大体何年くらい経ちましたか?

友: 2011年にウェブサイトを開設しましたので、2年ほど経過しました。『九十九神』の制作自体はその1年くらい前から行っていましたが、体験版を出せそうになったので、この時期に開設することにしました。そして、2012年の7月に『九十九神』の完成版をDLsite.comでリリース、さらに8月のコミックマーケット82でディスク版をリリースしました。

―――なるほど。夏コミの前にダウンロード販売を始めたのですね。それは同人サークルさんの中では珍しいですよね。コミックマーケットで公開する前にダウンロード販売を始めるのは

友:そうですね。パッケージを販売する前にダウンロードサイトで販売したほうが、発注数の目安になるという話があったので、先にダウンロード販売を試してみました。

―――実際のところ、夏コミで発表する前にダウンロードはされましたか?

友:はい。ありました。

―――そうですか、それは興味深いですね。多くの同人サークルさんの話だと、現状ダウンロード販売はあまり効果が無いと聞いているので。

友:おそらくシューティングやノベルゲームはダウンロードサイトではあまり人気がないからだと思います。例えばDLsite.comではRPGの人気が高く、とくに成人向け売り場では数年ほど前からRPGタイトルのブームだと言われています。そういった背景もあって、DLsiteならRPGは売れるだろうという予想がありました。

―――なるほど。では基本的にはサークルとしての作品は、『九十九神』が第一作というわけですね。2013年の夏コミでパッケージ版をリリースして、現在、ちょうど1年くらい経ったというわけですね。サークル活動自体は、友さん以外に関わっている方はいますか?

友:サークルメンバーというわけではないのですが、シナリオライティングをお願いさせていただいている方が一人います。コアメンバーは2人ですね。私がゲームデザイン、グラフィックス、スクリプトで、もう1人がシナリオを書くような感じです。ただシナリオの原案は私が作っていて、『九十九神』ではプロットレベルまで詳細に書いて、それを元に実際のテキストを作ってもらっています。

―――『九十九神』はノベルゲームのエンジンである吉里吉里2を使用していますよね。ゲーム開発を始める前から吉里吉里などを使っていたんですか?

友:そうですね、学生の頃から吉里吉里を使用しています。現在はスマートフォン向け開発もできる別のツールへの切り替えも検討していますね。

―――では『九十九神』の話を少しうかがいたいです。私はまだクリアはしていないですが、体験版の部分を全部プレイした後、パッケージ版を買って途中まで進めました。私から簡単にゲームを説明すると、基本的にはRPGなんですが、戦闘システムがすごく変わっていますよね。物の正体を当てるという。このアイデア自体はどこから出てきたのでしょうか?

友:実はボードゲームで『バルバロッサ』というゲームにハマったのがきっかけです。ドイツゲーム大賞を受賞したゲームで、『カタンの開拓者たち』を作ったクラウス・トイバーの作品です。粘土細工を作って、それが何かを当てるというゲームなんですが、それをデジタル化したらどうなるのかなって考えていたところから始まりました。

―――なるほど、きっかけはボードゲームだったんですね。確かにボードゲームのデザインは個性的なものが多くて面白いですよね。ビデオゲームのデザインのアイデアにもなるものも多いですし。結構、ボードゲームとかで遊ぶのですか?

友:いや、最近はそれほどでもありません。その当時はハマっていたのですが……

―――これは完全に余談ですけど、先日『ふしぎの城のヘレン』というRPGツクールのゲームについて座談会を行ったのですが、あのゲームもボードゲーム的な発想が斬新で面白かったです。やっぱりゲームデザインにはボードゲームのアイデアはすごく役に立つんじゃないかなと再認識しました。当然のことですけどね。そういうゲームデザインのコアの部分はボードゲームから着想を得ているとして、中世の日本を舞台にした世界観などはどこから来ているのですか?

友:まずは「正体を見破る」というシステムがどういうシチュエーションだったらわかりやすいかを考えました。そして、物だったら分かりやすいのではないかと思い、「物の正体を当てる」というシチュエーションが出てくる世界観って何だろうと考えたところ、「付喪神」だったら説明できるのではないかと。

―――それは非常にロジカルな発想ですね。普通はそこでRPGだったらモンスターなどのありがちな発想になるじゃないですか。「ケルベロス」を当てるとか、「ドラゴン」を当てるとか。でも、モンスターの正体を当てるのは何だか難しそうですからね

友:そうですね。

―――つまり、まずゲームデザインがあって、ゲームデザインから逆算するかたちで世界観が出来た感じですね。和風な世界観や、いわゆる「付喪神」とか「妖怪」を登場させたのも、ゲームデザインが先行していたわけですね

友:そうですね。納得させる理由として、和風モノにしたのです。もちろん、もともと和風モノが好きだったというのもありますが。あと和風モノだから興味あるみたいな人もいるんじゃないかと思って、世界観を設定しました。

―――個人的にはちょっと嬉しいんですよ。私も和風RPGはもっとあってもいいと思っていたので。少ないじゃないですか、まだまだ

友:和風モノは売れないっていうイメージがあるんですよね。

―――そういうイメージありますよね。とはいえ、国内のゲーム産業で、本気で和風もののRPG作っている人はほとんどいないんじゃないですかね。戦国時代の武将ばっかりネタになっている感じはしますが。日本の歴史だと、平安朝とか鎌倉時代とか面白い時代はたくさんあるのにもったいないと感じています。『九十九神』の舞台は平安時代くらいのイメージですか?

友:いえ、『九十九神』は室町時代なんですよ。といっても脚色した室町時代になりますが、中世の日本が舞台です。

―――なぜ、日本の中世を選んだのですか?

友: 付喪神の絵巻物を調べていたところ、それらが描かれた時期の直前の、室町時代の戦争に行き当たりまして。当時兵士不足により民衆を足軽としてお金で雇っていたのですが、深刻な食糧事情もあり、兵士たちは倫理観に欠けた略奪行為をしていたと言われているんですね。そこでその彼らを付喪神として見立て、物語を組み立てていったら面白くなるのではないかと思い、この世界観を選ぶことにしました。

―――私も個人的には「歴史好き」と呼ばれるほどではないですが、妖怪とかのネタは大好きでして京極夏彦なども好んで読んでいましたから、そのお話は非常に興味深いですね。そういうかたちで『九十九神』のゲームデザインが先にできて、そこから世界観が作られたというのは面白い。ゲーム自体は、2011年に体験版リリースされ、翌年8月に公開されたので制作期間としては2年くらいですか?

友:はい。2年くらいですね。

―――結構なボリュームありますよね

■ 超グローバルなローカライズ企業、Fruitbat Factory

―――では、ここから少し Fruitbat Factoryの話をうかがおうと思います。Fruitbat Factoryは日本のインディーゲームを英語にローカライズしているそうですが、石井さんは、ローカライズには『九十九神』以前から関わってきたのですよね

石井:そうですね。私の他に2人のコアメンバーがいます。フィンランドのヤッケ・エロネンとトルコのオズハン・シェンと私を含めてコアメンバーは3人です。他にもウェブサイトやプログラムを作ってくれる人がいて、彼らも外国人で、日本人は私だけです。

―――3人のコアメンバーが知り合ったきっかけは?

石井:そもそも、FBFを立ち上げる以前から、3人ともあるローカライズのアマチュアグループで活動していました。実際にアマチュアの翻訳では、プロジェクトが途中で立ち消えることも多いのですが、私たちのグループは、時間はかなりかかりましたが、無事にプロジェクトを完了させることができました。そして、その間にグループメンバーとしてだけでなく、友人としても仲良くなりました。

―――グローバルなメンバーなので、もちろん基本的なコミュニケーションはオンラインで行なうのだと思うのですが、直接会ったことは?

石井:無いですね。

―――まだ一回も!? すごいですね。トルコに行ってみて欲しいですね。トルコのシェンさんと、フィンランドのヤッケさんは、面識は無いようですか?

石井:二人ともないですね。

―――そこからどうやって会社の形態にすることになったのですか?

石井:その話自体は、私は関わっていないんです。2人が話を進めて、構想が出来上がった時点で翻訳者として入ってくれないかと誘われました。その2人はアマチュアでの活動以外に、外部からゲーム翻訳の仕事を委託されていました。それがきっかけとなって、自分たちもゲーム翻訳でビジネスをしようと決心したようです。

―――ローカライズを行うタイトルはどうやって決めたのですか?

石井:日本独特の絵、いわゆる萌え絵を使っていて、且つノベルゲームではない作品を探しています。

―――本格的に日本のゲームをローカライズして、海外で販売すると決まったのはいつですか?

石井:会社ができたのは2012年の2月頃でしたね。会社自体はトルコのシェンの兄弟が経営する会社の子会社になっています。

―――トルコにあるのですか?複雑ですねグローバルすぎて(笑)。まだフィンランドは北欧なのでPCゲームが盛んなんだろうって思うのですが、ビデオゲームでトルコっていう話はほとんど聞かないですね。トルコのゲーム産業はどうなっているのですか?

石井:うーん、さっぱりわからないです(笑)。でもオズハンに訊けば、喜んで話してくれると思います。

―――そういったグローバルな組織で『九十九神』をローカライズしようと提案したのは誰ですか?

石井:それはオズハン・シェンですね。このゲームが良いんじゃないかと。

―――シェンさんはそういった情報をどこで掴んでいるんですか(笑)?

石井:シェンが一番、ゲームの知識があります。以前、ゲーム会社で働いていたり、ゲームショップを経営していたりした経験があるので。そういう経歴から、世界中のゲームをチェックしているみたいで、『九十九神』は日本のDLsite.comで見つけたのだと思います。リリースされた直後の7月か8月頃に。

―――おそろしいですね(笑)

友:えっDLsite.comで知ったのですか?

石井:ええ、たしかDLsite.comのリンクをシェンが貼ってきたのです。ちょっと記憶があやふやですが。たぶんランキングをチェックしてたのだと思います。

友:なるほど、確かに1週間くらいの間、トップを取っていたことはありました。

―――それが、まさか海外の人にフックアップされるとは思いませんよね(笑)。確かに各国のダウンロード販売をチェックしているのであれば、日本が入ってないのはおかしいわけですが。日本のダウンロード販売までチェックしている外国人がいるなんて考えたことなかったですね。それでシェンさんから九十九神のことを聞いたといわけですね

石井:そうですね。

■当初は懐疑的だった『九十九神』のローカライズ

―――では『九十九神』をローカライズしていくことが決定して、「これだったら行ける!」という何かポイントがあったのですか?

石井:実はですね、最初は……ローカライズする気はなかったのです。

友:そうでしたよね(笑)。 お互いにローカライズに関しては否定的でした。

―――えっそうなんですか!?やはりテキストの量がかなり多いからでしょうか?

石井:8月中旬頃、とりあえず友さんのほうに「素晴らしいゲームですね!」とメールを送りました。「ローカライズのほうは難しいかもしれないですが、次のゲーム期待していますね!」と、ある意味、営業メールを送ったわけです(笑)。

―――なるほど、その段階ではまだローカライズが決定していたわけではなかったのですね。それが現状、クラウドファンディングを利用するくらいの大きなプロジェクトになっていった理由はなんでしょうか?

石井:私がメールを送った後、友さんから返信がありました。

友:あの時はたしか「お話ありがとうございます。確かに翻訳は難しいと思います。ただ、試しに英訳したサンプルなどは作ることは可能ですが、どうされますか?」みたいな返信をしました。

―――それで友さん側は、英訳のサンプルをご自身で作ったのですか?

友:そうです。バトルのところだけですが、漢字とひらながで正体を当てるバトル部分をアルファベット入力に変えました。敵の情報が文字で出てくるゲームシステムなので、ひらがなで表示される敵の名前をアルファベットの2文字分にして、漢字で表示される敵の属性を英単語に置き換えました。そして、これでとりあえずゲームとして成り立つのか、見てくださいと。

―――それはサンプルテキストだけでなく、プレイアブルなものを作ったわけですか?

友:プレイアブルなものです。

―――本当ですか(笑)!それは積極的ですね。最初から英語版を作ってみたい気持ちが強かったのですか?

友:そうですね、興味はありました。ただバトルシステム以外にも、シナリオも長いので、難しいだろうなとは思っていました。ただ変わったシステムだったので、これを海外の人が遊んだらどういう反応を示すのかには興味がありました。ですのでとりあえずサンプルを作って考えてもらい、ローカライズするコストに見合わないということであれば、止めていただいて、面白そうということであれば、すすめていただければと思ったわけです。

―――ではサンプルを受け取った側の石井さんはプレイしてみて「これは面白い!」となったわけですか?

石井:その点は私の意見というより、外国人の2人の意見を重視しました。2人はとても気に入りまして、「これはいけるんじゃないか」と言っていました。

―――今井:つまり、バトルの部分を英語に差し替えても面白いものができるんじゃないかと。既に英語版が動画などで公開されていますよね(デモ版もあり)。オリジナル版は、文字が敵の名前の一部分で、属性や性質といった関連する言葉が漢字で表現されるのですよね

友:そうです。名前がひらがなで、属性が漢字一文字です。例えば敵が「わらじ」だったら、「わ」「ら」「じ」がひらがなで一文字ずつでてきて、属性の「走」とか「足」が漢字で表示されます。

―――それが英語に置き換わると……

友:「sandal」なので、名前を「sa」、「nd」、「al」の二文字に分けて表示して、属性は「running」などの英単語で表示されるわけです。

―――デザイン的な問題として、言葉が属性を示すのか、名前を示すのか混乱することはないですか?

友:それは文字の大きさで区別しています。

石井:キャピタライズしているか、してないかで分けています。要するにアルファベットの大文字と小文字で区別することにしました。

友:属性のほうが小文字で、名前のほうが大文字ということになりました。

―――なるほど!それが日本語の漢字とひらがなにあたるわけですね。それで海外の方の二人の意見を聞いて、「これでいけるんじゃないか!」となって、石井さんもプロジェクトに参加することになったわけですね。

石井:そうです。そのメール後にオリジナルの日本語の製品版をいただいて、全部プレイしたうえで判断して決まりました。

―――テキストの量がこれだけあってもいけるということですね。内容的にもクオリティ的にも

友:私はまだ結構否定的でしたよ(笑)。

石井:そうでした(笑)。

友:バトルシステムがOKだったとしても、それ以外のテキストの量が多いですし、あと和風な世界観が海外で受け入れられるかわからないですし。受け入れられてもニッチなので、費用対効果が低くてリスクが大きいかなと。

―――なるほど。ビジネス的には懐疑的だったわけですね

石井:しかしながら、テキストの分量の面では心配はしていませんでした。アマチュア時代の経験で、大体これくらいのテキストの量だったら、これくらいの労力がかかるという勘はありますので。基本的にテキストの部分は全部、私が担当していますので。

友:ローカライズの作業はダブルチェックなんですよね?石井さんが日本語から英語に翻訳してから、英語のネイティブの方がチェックしてより品質を高くするという。

石井:そうですね。なのでクオリティ面では自信があります。

―――そうすると、実際に翻訳作業にとりかかったのがいつぐらいですか?

石井:9月の後半だったと思います。前作の焼肉万歳さんの『とつげき!人間戦車』の英語版のリリースしたすぐ後でした。

■予定外の抱き枕のグッズまで!盛り上がったクラウドファンディング

―――では最初のプロジェクトが終わって、次のプロジェクトを走らせるということですね。では『九十九神』のローカライズの作業を実際に進めていくなかで、どうしてクラウドファンディングを使うことになったんですか?

石井:最初から利用する気はありませんでした。翻訳が半分くらい終わったあたりで、おそらく委託をしているプロモーション会社の方の意見でクラウドファンディングを利用したらどうかという話がでてきたのです。

―――インディーゲームのプロモーションの委託会社があるのですか!?

石井:そうです。販売促進のために、プレスリリースの送付やPVの作成などを委託しています。



―――インディーゲームにもプロモーション会社があるのですね。日本ではちょっと信じられないことです。日本の場合はプレスリリースを送ったところで扱ってくれるメディアもそこまでないですし。そういうところからクラウドファンディングを利用したらという話が来たということは、どちらかと言えばローカライズの費用をまかなうよりもプロモーションの意味合いが強かったんですか?

石井:クラウドファンディングを利用する理由はいろいろありますが、私たちの場合は、プロモーション目的と、実験的に使用してみたいという気持ちも大きかったです。

―――海外では、既におおよそクラウドファンディングは資金調達という意味合いよりもプロモーションの効果としての意味合いが強いと指摘されてはいますね。しかしながら、 クラウドファンディングを利用するにしても海外は本当に多くのサービスがありますよね。その中でもindiegogoを選んだ理由が気になります

石井:これは友さんにお話しましたが、もちろんクラウドファンディングの代名詞になっているKickstarterを最初は利用したかったんです。しかしKickstarterはアメリカとイギリスの企業しか利用できないと分かり、諦めざるをえませんでした。

―――なるほど。ではindiegogoはどこの企業でも使えるのですね

石井:はい。日本からでも利用できると思います。

友:ただ英語でプロジェクトの詳細を書く必要があると思います。

石井:あとKickstarterとは少し異なり、indiegogoの面白い独自の仕組みもあります。普通、クラウドファンディングは目標金額まで出資者が集まらなかった場合、オール・オア・ナッシングでお流れになりますよね。

―――そうですね。ただ最近はストレッチゴール(追加目標)を付けて、何が目標金額か分からなくなっているものも多いですが(笑)。indiegogoのシステムはちょっと違うのですか?

石井:仮に目標金額に届かなくても、資金は得られるという仕組みがあります。ただクラウドファンディングのサービス側に支払う手数料の額が高くなってしまいます。目標に届かなかった場合は、獲得資金の9%を手数料としてindiegogo側に支払わなければいけません。目標金額に達成した場合は4%です。

―――例えば、目標金額の80%しか集まらなかった場合は、その分の資金調達はできるけど、indiegogo側に払う手数料が4%から9%になるというわけですね。Kickstarterと比べると?

石井:Kickstarterは5%ですね。

―――私も国内のクラウドファンディングサービスをいろいろと調べていますが、目標金額の結構な割合がプラットフォーム側や出資者への報酬で無くなってしまうと聞きますね。実際にindiegogoを利用した側としてはどうでしょうか。満足行くようなサービスでしたか?

石井:そうですね。感想としては正直、使って良かったなと思いました。予想以上に資金は集まるものなんだなと思いました。キャンペーンは30日間だったのですが、残り日数がまだ結構ある段階で、目標金額の3000ドルに到達してしまいました。

友:たしか終了の8日前くらいに目標達成しましたよね。そして、ストレッチゴールに到達するのが最後の30日だったと思います。

石井:そうですね。最終的に追加目標の7500ドルを超えた7556ドルの資金が集まりました。追加目標の到達で『九十九神』のスピンオフ作品のローカライズも決定しました。

友:最終日の終了1時間前くらいの時点で、追加目標までまだ1500ドルから2000ドルくらい足りませんでした。そうしたら、プロジェクトのサイトで「ノベルゲーも付かないかな」という出資者のコメントが結構書き込まれていたんです。その後途中で高額の出資が現れて、「おおっ、金額あがったよ!」と非常に盛り上がりました。

石井:そうですね。高額投資のラッシュが最終日にありました。

―――なるほど。それはストレッチゴール狙いだったわけですか。

友:1時間くらい前は「これは無理だろう」と思っていました。しかし結局、7500ドルの追加目標に合わせた7556ドル集まりました。 到達すると、投資した方全員に追加目標の特典が付けられるので、皆さんとても喜んでいらっしゃったと思います。

―――追加目標達成で外伝のノベルゲームの『常夜の檻』のローカライズも決定したわけですね。やはり海外のクラウドファンディングでは、お金払ってくれる支援者の方はプロモーションに貢献してくれているわけですね。

石井:そうですね。予想以上に資金が集まりましたし、プロモーション効果もあるなあと。

―――逆にクラウドファンディングのデメリットや使いづらかった点などはありますか?

石井:やはりキャンペーンの内容を決めるのに時間がかかる。目標金額とともにリワードを設定するのに時間がかかりました。今回はグッズが多かったので、その制作の手間もあります。

―――そもそも資金調達のキャンペーンが始まる段階で目標金額や出資者への報酬などをどうやって決定したのですか?

石井:やはり慎重に決めました。現実に到達できそうな額を考えた結果が3000ドルです。他のプロジェクトの目標金額などを参考にして、1ヶ月近くミィーティングを行いました。去年の12月頃にクラウドファンディングを利用するアイデアが出てきまして、2月にプロジェクトのサイトを作り、2月中旬あたりにキャンペーンスタートしたわけです。始めてだったので念入りに企画を練りました。キャンペーン中はローカライズ作業と並行して作業したので非常に忙しかったです。

友:indiegogoのいろんなプロジェクトページを確認しましたけど、『九十九神』のサイトは本当によく出来ているなと思いました。プロジェクトによってはテキストしかないサイトもありますが、『九十九神』の方はグッズのイメージ画像なども数多く掲載されていたので。

―――目標金額が決まったら、それぞれの出資額に対する報酬を決定する必要がありますよね。そのリワードに関しては、どうやって決定したのですか?

石井:まず、こちら側からこういうグッズが作りたいのですが、どうですかという相談をして……

友:グッズの相談ありましたっけ?(笑) 最終的にゲームに追加要素を入れることは相談いただいたと思いますが、どんなグッズを作るかに関しては、お話をいただかなかったような……グッズに関しては、私はindiegogoのプロジェクトのサイトがオープンしてから知ったような気がします。オープンしてから「抱き枕作ることになってる!?」と驚いたような(笑)。

―――そこ一番気になっているところです(笑)。抱き枕をリワードとして作るのは誰がいつ決めたのですか?

友:私はサイトがオープンしてから知りました。「えっ、作るんだ」と(笑)。高解像度のデータが無いけど、どうしようって。

石井:それでお願いしたんでした……。

友:よっぽど作りたかったんだなと思います(笑)。

―――えーとリワードは一番安い5ドルでスペシャルサンクスへのクレジットで、15ドルでダウンロード版ですよね。それ以降はいろんなグッズが追加要素で……抱き枕はいくら出資すると貰えるんですか?

石井:ええと……

―――そもそも抱き枕って英語でなんて言うんですか?

石井:ええと、ボディピロー(笑)。

―――すごい響きですね(笑)

石井:抱きまくらは399ドルですね。

―――結構な額ですね。出資者の最高額は?

石井:999ドルですね。「あなた独自の九十九神」を作ってもらえるというものです。

―――なるほど。そのへんの企画は3人でご相談されたんですか?

石井:そうですね。プロモーションを委託している方とも相談しました。

―――抱き枕は誰が言い出したんですか(笑)?

石井:あれは確かオズハン・シェンだったような気がします。

―――抱き枕は海外の人たちは文化として知っているのですかね(笑)。

石井:オタクな人は知っています……。

―――個人的に『九十九神』の抱き枕送られてきて喜んでいる外国人の写真をアップしてほしいですね(笑)。

■ TORaIKIとFruitbat Factouryの今後について

―――キャンペーン期間中は忙しかったと思いますが、終わってから見るとプロモーション的な理由で始めたわりに予想以上に資金が集まったということですね。集まった資金はローカライズ以外にも使えるのですか?

石井:そうですね。ローカライズ作業自体はほとんど終わっていましたので。indiegogoで得た合計金額から手数料やグッズの制作費などを引いた金額の3割はデベロッパーのTORaIKIさんにお渡しします。残りはFruitbat Factoryの運営に役立てようと思っています。

―――では今回は予想以上に資金が集まってキャンペーン自体は成功ですが、Fruitbat Factoryは『九十九神』のローカライズの後の活動の予定はどうですか?

石井:ローカライズを予定している作品はありますが、まだ何かはお教えできません。今のところはローカライズする作品の数には困っていません。

―――海外に通用する日本のゲームはたくさんありますからね。基本的には一本ずつローカライズを行なっていくのですか?

石井:そうですね。人手が少ないので同時に複数のプロジェクトを走らせるのは無理があります。

―――英語版の『九十九神』のリリースの時期はいつですか?

石井:先日、発表したのですが、5月31日です。

―――気になる点は、ダウンロード販売の窓口どう考えているかについてです。言ってしまえば、PCゲームの場合は、現在はほとんどSteamで取り扱ってもらえるかどうかがかなり大きいですよね?

石井:もちろん、可能ならSteamで売りたいと考えています。

―――今はSteam Greenlightにも登録していますよね?とはいえ、そもそも登録しているゲームが半端ないので、Greenlightはかなり狭き門だと言われています。Steam以外だとどこで販売を考えていますか?

石井:以前にリリースした『War of the Human Tanks』の場合だと、委託先からバンドル販売も行われました。Indie RoyaleのMighty Bundleに参加しました。とにかく数を売るという方針でやってきて、よい結果を生んでいます。なので今後も利用しようかと思っています。

―――ではバンドルで売っていくというのも1つのやり方ですね。では、バンドル以外でマーケットとしてのウィンドウはありますか?

石井:DesuraやGamersGateなどですね。

―――なるほど、ではもう一度友さんにTORaIKIの今後について聞かせてもらいたいと思います。『九十九神』のリリースしたのが去年の夏ですね。そして5月に英語版がリリースされるということで、それがきっかけで国内での話題や売上につながった感触はありますか?

友:indiegogoでファンディングに成功したことは、日本のメディアでも取り上げていただきました。それでサイトのアクセス数は増えたのですが、販売につながったかというとそうではないですね。今のところダウンロード販売が増えたという感触はないです。TwitterでRTされたり、話題にしてくださったりしました。

―――そうですね、あくまでも日本の同人ゲームがクラウドファンディングで資金調達に成功したというストーリーになっているわけで、ゲームをプレイする人はそこまでいないかもしれません。

―――では、海外に日本のインディーゲームが進出することのメリットやデメリットはどうお考えですか?

友:例えば、Steamのコメントを拝見すると、日本のゲームをもっと販売してほしいという意見は多くあります。なので需要があるという手応えは感じています。面白かったのは、日本語勉強用にこのゲームをやりたいというコメントもいくつかあり、やはり日本のことに注目している方も多いです。

―――なるほど。日本のことに興味持っている方には、『九十九神』のような和風で個性が強いゲームが海外でデビューするというだけでも、相当嬉しいことだと思います。また海外での反応が掴めたというのは、直接の売上につながるものとは別の形もありましたか?

友:そうですね。純粋に興味深い体験をさせていただいたと感じています。

―――今後、同人ゲームで海外展開を考えている方にアドバイスなどあれば教えてください

友:ゲーム業界全体としても海外のユーザーを取り込まないと厳しいと言われていますし、グローバルに販売できるプラットフォームも充実してきていますので、海外展開にポジティブに取り組んでいくのも良い選択ではないかと考えています。

―――ただ基本的な販売や配信のプラットフォームはできていますが、人的なコミュニティやノウハウが国内ではまだまだ蓄積していないように思われます。国内にもPlayismみたいなダウンロード販売サイトがようやく登場したところで。Fruitbat Factoryも国内のインディーゲームを海外に発信する立場として活躍することお祈りしています。日本のデベロッパーとの窓口は、基本的には石井さんが担うのですか?

石井:そうですね。基本的に私がデベロッパー様にコンタクトして、リアクションいただけた方とプロジェクトを進めていきます。

―――今井:日本の同人ゲームの開発者の方は海外展開に対してどう考えているようですか?

石井:正直、賛否両論ですね。それほど多くの方とコンタクトを取ってはいませんが、否定的な人のご意見としては海外展開することが必ずしも良いこととは限らないのではというものがありました。

―――まだまだ事例が少ない以上そうでしょうね。そういった場合、Fruitbat Factoryからどういったメリットを提示できるのでしょうか?

石井:今のところ、あまり強く海外展開を押すことしていません。なるべくデベロッパー様の意見を尊重するかたちで進めています。ただ単純に海外に進出することに興味がある方も多く、利益とは別に面白そうだからやってみたいという方もいます。

―――そういうチャレンジ精神がある方がふえて、成功する事例が増えてくると、積極的にやりたい方も増えてくると思います。本日は長い間、ありがとうございました!
《今井晋》
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