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【CEDEC2007】オンラインゲームの仮想世界はどこからきて、どこに向かうのか?

スプリューム 代表取締役・梶塚千春氏による講義は、ネット上に作られた仮想世界の歴史と現状、さらに同社が現在サービス準備を行なっている仮想世界『スプリューム』の概要を解説するものでした。

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【CEDEC2007】オンラインゲームの仮想世界はどこからきて、どこに向かうのか?
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スプリューム 代表取締役・梶塚千春氏による講義は、ネット上に作られた仮想世界の歴史と現状、さらに同社が現在サービス準備を行なっている仮想世界『スプリューム』の概要を解説するものでした。

『スプリューム』とは、ユーザーがアバターを操作して、ネット上に作られた仮想世界を探索できるサービス。簡単に説明すると『セカンドライフ』のようなものです。ただし、『セカンドライフ』と違うのはオープンエンドであるというところです。一般的なWebサーバーを使用するため、比較的誰でも簡単に参加しやすく、誰でも仮想空間を作れるという利点があります。



■仮想世界の誕生と現状

フォーラムが始まって梶塚氏がまず解説を始めたのは、仮想世界の現状についてです。最近この話題になると必らずと言っていいほど議論となるのは『セカンドライフ』でしょう。これは日本にやってきて始めて話題となったサービスだけど、アメリカには他にも多くの仮想世界サービスがあります。梶塚氏はこの現状について、「不自然なことに、日本では『セカンドライフ』ばかりが話題となっている。これはおそらく、実際のお金をやり取りできるリアルマネートレードが注目を浴びたからだろう」と見解を述べました。

「仮想世界=セカンドライフ」と言われる現在の状況を踏まえた上で梶塚氏は、ネット上の仮想世界は、アバターとなって生活をおくるサービスのほかにも、さまざまな形の仮想世界があると説明を続けました。氏がここで挙げたのは5つ。ウェブページとオンラインゲーム、バーチャルリアリティー、テレプレゼンス(ビデオ会議)、コンピューターグラフィックです。「広い意味ではこれらすべてがネット仮想世界である」と述べました。


梶塚氏が定義する仮想世界のひとつ、「CG」についての説明です。実際にはない架空の絵を表現する手段であるCGは、仮想世界の先駆けとも言えます。梶塚氏は過去に、東洋現像所(現IMAGICA)の関連企業である東洋リンクスに勤めており、コンピューターグラフィックの制作を行なっていた経歴があります。その当時は現在のようにCG技術が発達していなかったため、方眼紙に描いた下書きを元にして、テキストエディターを使ってCGを作成していた時代。技法は現在主流となっているポリゴンモデルではなく、簡単な球や円錐を組み合わせて絵を作る、プリミティブモデルによるものでした。また、ソフトウェアも現在のようにGUIの概念がないため、CGはレンダリングが終了するまで結果がわかりません。「何日も徹夜作業が続く、とても過酷な時代でした」と、当時のCGプロダクションの仕事内容を紹介していました。

続いて、もうひとつの仮想世界「ゲーム」について。元はテーブルトークゲームとして親しまれてきた遊びが、コンピューターに移行して誕生したのがコンピューターゲームの始まりです。当初はUNIX上で動くテキストベースのゲームでした。英文で行動を入力すると、それに対してシナリオが変化してゆくRPGのようなものでした。その後、この分野は急速に発展を遂げ、それまではテキストで情景を表現していたゲームが、すべての空間をCGで表現できるゲームが生まれました。


■3DCGとゲームの融合

梶塚氏は1995年に「3DO」というハードウェアでゲームを開発しました。3DOとは、エレクトロニック・アーツのスタッフが中心となって開発し、松下電器が発売したゲーム機器です。ハードウェアの特徴は、優れた3Dの描画機能。これ以前もスーパーファミコンが疑似3Dを表現できていましたが、3DOはさらに三次元的な処理が行なえるハードとして業界の注目を浴びていました。

現在のゲームでは当たり前のように3DCGが使われていますが、当時3DOのゲームを開発していたころはゲーム業界に3DCGを扱える人材がほとんどいなかったそうです。そのため、3DCGを専門に制作していた梶塚氏に声がかかり、ゲームの制作に参加することになりました。

続いて、梶塚氏が制作を担当したゲームのひとつ、『電脳漂流』が紹介されました。これはゲーム内に10個の仮想世界があり、プレイヤーはそのなかをフライトシミュレーションのように飛び回り、さまざまな情報を閲覧するというものです。当時はコンセプトの珍しさから評判になり、1万本弱の売り上げを記録したそうです。

そしてもうひとつ紹介されたのは、プレイステーション用ゲーム『GERMS』です。3年の歳月をかけてたった3人で制作したインディーズのようなゲームで、売り上げ本数は4000本程度。このゲームは5km四方の広大な仮想空間が用意されており、プレイヤーはこのなかを自由に行動できるものです。実はこの当時のアイデアを元に、ネットワークに対応させたらどうなるか? という発想で開発を進めたのが、現在の『スプリューム』の姿だそうです。


■インターネット上のバーチャルリアル

インターネットが普及し始めてすぐの80年代後半、HTMLに変わって仮想世界を記述する言語を策定しようという動きがありました。そこで誕生したのが、VRML(バーチャルリアリティーモデリングランゲージ)です。VRMLにはセンサーを設置することができ、ユーザーがある領域に来るとアニメーションなどを起動させられるという、インタラクティブ性を持った言語です。その後にソニーとシリコングラフィックスによって推進されたVRML97は、当時のインターネット環境ではデータが重すぎて普及しませんでした。しかし、現在は高速回線が敷設されているため問題はクリアーになり、この技術は『セカンドライフ』に応用されています。

このような時代を経て、『スプリューム』の開発は2000年に始まりました。「接続できる仮想世界」という意味を込めて、初めは『Connectablle Reality』という名前でスタートしたそうです。開発を続けた『スプリューム』は2003年にほぼ完成したそうです。その後は、2006年にクローズドαテストを行ない、2007年3月にオープンβテストを開始することになりました。

ここで梶塚氏は『スプリューム』のふたつの特徴についての説明を始めました。まずひとつ目は、冒頭でも紹介した「オープンエンド」であること。『スプリューム』のデータはWebサーバーから配信されることを意識して作ってあるため、言語はVRMLを採用しています。この言語を使用する利点として、制作環境を挙げました。VRMLは主要な3DCGツールから簡単に出力できるデータフォーマットのため、さまざまな開発環境での制作を可能としているそうです。このことについて梶塚氏は、「誰もが比較的簡単に作れるということは、『スプリューム』の世界は自己増殖的に広まる可能性を持っている」と説明しました。

もうひとつの特徴は「空間リンク」です。『スプリューム』の世界はWebページのハイパーリンクと同じように、それぞれの空間のなかにリンク先のデータが埋め込まれています。この方式を取るメリットは、複数のサーバーをまたいだ巨大な空間を作成しても、アドレスを管理する必要がないところ。作られた空間内にリンク先のアドレスが正しく挿入されていれば、閲覧者はそれだけでリンク先にジャンプ可能です。しかし、反対にデメリットもあります。それは、誰も全体像を把握できないところ。『セカンドライフ』は閉鎖された空間に作られた仮想世界なので、常に全体を把握できています。しかし、『スプリューム』のような空間リンクだとそれは難しく、ほぼ不可能とのことです。


■仮想世界の問題点

いままでネット上に仮想世界を構築しようとすると、いくつかの問題点が発生していました。それは、データが重くなってしまうのと、制作に関するハードルの高さです。この問題点について梶塚氏は、少しでも多くのユーザーに体験してもらえるようにハードルを下げる試みをしているそうです。
これまで『スプリューム』の世界を体験するには専用ソフトが必要だったが、これはプラグイン化させて一般的なブラウザーから楽しめるようにできることを解説しました。そして、もうひとつの制作に関する問題点は、空間構築のオーサリングツールのようなものを用意する考えがあることを発表。このツールに関して梶塚氏は、「複雑なものを作れる総合的なツールよりも、目的を明確化させたツールのほうがよさそうだと思っている」と考えを述べました。

講義の最後は、実際に会場からネットに接続し、仮想世界『スプリューム』の仕組みについての説明です。『スプリューム』が『セカンドライフ』と根本的に異なる点は、通常のWebサーバーにアクセスしている点。仮想世界のデータは一般的なWebサーバーに格納されているため、スプリュームのサーバーにログインするまではごく普通のWebサイトを訪れているのと同じです。では、スプリュームサーバーにログインするとなにが行なわれるのでしょうか?

スプリュームサーバーでは、それぞれのユーザーがアクセスしている空間のURLと、その空間内の座標を管理しています。そのため、それらの情報をすべてまとめ、同じ空間内にいるユーザーに送り返すと、同じ空間内にいる人間同士がお互いを確認できるようになります。当然、各ユーザーが入力した文字情報も伝達できるため、複数人によるチャットが成立するわけです。

スプリュームサーバーが行なうもうひとつの仕事として、アバターの管理が紹介されました。オープンエンドをキーワードとして挙げた『スプリューム』ですが、ユーザーの分身となるアバターはスプリュームサーバーが管理しているため、ユーザーが自由に作成することはできません。現在は子供のようなタイプとリアルな頭身のタイプなど、用意された数種類のなかから選択して使うことになっています。キャラクターをオープンエンドにしていない理由は、著作権の問題とデータ量の統一化のためだそうです。現在のキャラクターは原始的なモデルで作成されており、約400ポリゴンで構成されています。しかし、αテストのころと現在は普及しているグラフィックボードの状況が変わってきているので、今後はキャラクターのスキンモデルも選べるようにしたい考えを述べました。



■『スプリューム』の今後

現在は本格的にサービスを開始している状態ではないので、実際に使っている人は2万人くらいだそうです。もっともユーザーが多くアクセスする時間帯は深夜の24時がピーク。続いて主婦層も多いため、15時前後も多いと公表しました。
このように、現在はまだあまり広まっていない『スプリューム』だけど、ユーザーのなかにはユニークな世界を制作する人が出てきているそうです。なかではMMOのように複数のユーザーで遊ぶ仮想世界も誕生しています。ひとつの例として、ユーザーが作成した「性格判断テスト」を行なう空間が紹介されました。これは、空間内に置かれたYes/Noクイズをしながら空間を進んでゆくものです。多人数でチャットをしながらテストを行なってゆき、最終的には結果が書いてある場所にたどり着くというものです。最後に梶塚氏は、「いまはまだ原始的な遊びですが、これからも新しい遊びが生まれそうです」と講義を締めくくりました。
《佐藤隆博》
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