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【インタビュー】 『アルキメDS』西健一&橋本長官(最終回) 小規模・低予算でも立派なゲームは作れる!

好評連載中の『アルキメDS』のインタビュー。開発に携わった、Route24の西健一氏と猿楽庁の橋本長官に開発の経緯からゲーム業界の展望までお話を聞いてきました。最終回の今回は、少人数でのゲーム作りについてや、今後ゲーム業界で求められることについて、素晴らしい言葉を頂いてきました。それではどうぞ。

任天堂 DS
好評連載中の『アルキメDS』のインタビュー。開発に携わった、Route24の西健一氏と猿楽庁の橋本長官に開発の経緯からゲーム業界の展望までお話を聞いてきました。最終回の今回は、少人数でのゲーム作りについてや、今後ゲーム業界で求められることについて、素晴らしい言葉を頂いてきました。それではどうぞ。



<-GAMEBOX->―――開発は5人だったということですが、その点で苦しかった点や、難しかった部分というのはありましたか?

西健一:それは全くないですね。仕事だと「こうしなきゃいけない」「ああしなきゃいけない」ということが当然多いんです。徹夜するにしても、学芸会とか学園祭の前日に徹夜して仕込んでるのとかって別に楽しいじゃないですか。本来ものっていうのは、あの雰囲気で作っていくべきだと思っていて、でも色んな人が係わってくると「ああじゃない」「こうじゃない」ってのが当然始まるし、予算的にこうだとか、基本的にこれは必要なんだとかが増えてくる。でも今回は僕が思いついたものを、面白いと思って手伝ってくれる人が集まってやってる上に、出来上ったものについて何処かの意向を伺わなければいけないようなタイムラグが全くなくて、その場で皆で遊びながら作って、良い所、悪い所を見つけながら凄い勢いで作ってましたから、苦しいところは無かったですね、何も。
―――逆に良かったというのは?
西健一: 僕は今月(6月)で40歳なんですけど、40年生きてきて、仕事の現場の作っていくというところでは多分一番ポテンシャルが高かったと思うし、一番気持ちよかったですね。皆が集まる時間を作るのが大変だったくらいで、そのくらい、ものを作ることに関しては全くもめることがなかったですね。長官はわりと職業柄、開発が終わったものとか、終わりかけのものをチューニングしたり手を入れていったりすることが多いから、今回くらい一番頭からど真ん中にずっといることがないから、かなり楽しそうに、生き生きやってましたね。おっさん、まだまだ若いじゃんって、フレッシュ感ありましたもんね(笑)。
―――やはり5人で作るとか、このくらい小さい規模で1つのゲームが作れてしまったというのは他のデベロッパーにも勇気を与えるものになると思います
西健一: コツは何かネタがあるんだったら作ってしまえということですかね。「こうしたらいい」「ああしたらいい」ってどんどん肉付けされていって、本当に商品として5000〜6000円でしっかり売ろうとするなら、それなりのボリュームや仕掛けが必要だと思うんですが、DSって唯一、鋭い切り口と勢いだけで作る事も許されるハードだと思うんです。例えばPS2の開発キットは一台数百万の世界です。もちろんWiiやゲームキューブもそういう世界なんだけど、でもDSの開発機材は、ここの机にポンと置く弁当箱1個みたいなもので、パソコンにUSBで繋ぐだけで成立するもんなんです。当然その機材は任天堂さんとライセンス契約結んでるところにしか貸与されないから勝手に手に入れることはできないんだけど、どこかのデベロッパーに企画を持ち込んで、貸して放っといてくれたら勝手に作るからって言えば出来るような世界で。数百万は当然しないし、百万もしない。友達5人くらいで、少しずつお金を出せば何とかなる世界なんです。だから作る側の視点としてもDSはほんとに素晴らしいですよね。この入り易さはほんとに素晴らしいものだと思います。だからもっと実験色豊かなものがいっぱい出てきてもいいと思うんです。絵がゴージャス、音がゴージャス、ボリューム満点です!みたいなのばっかりじゃなくて、どんどん来たらいいんじゃないですかね。
橋本長官: あとは、要は受け身な人、受け身なプレイヤーに対してゲームを作ろうとすると、興味を惹く為にすごいパワーが必要になってくるんだけど、そこを突き放して全部プレイヤーに委ねるっていうポリシーにしてるから、速く作れるというところもあると思うんだよね。これが『アルキメDS』プレイ時間40時間、愛と感動の・・・とか言いだすと、ものすごい労力と時間が必要なんだけど、それが無いのなら本当にもう思い立ったらやっちゃった方がいいと思う。
―――そういう意味ではWiiのバーチャルコンソールみたいなので、ちょっとしたゲームを・・・ってのもありますか?
西健一: めちゃめちゃありますね。本当を言うとこの『アルキメDS』もダウンロードとかにしたいんですよ。何でかっていうと、もうダウンロードで流通させる仕組みって揃ってるからです。僕はこう見えてもかなりエコロジストで、物流させるってのは違うと思ってて、ゲーム1本作ると、製造ラインでプレスするエネルギーも時間もコストもかかれば、プレスしたものを何所かに納品するためにトラックが必要で、運んだものを更に小売店へ、と考えると物すごいエネルギーが必要なわけです。僕自身車に乗るし、ナビも使うけど、無駄に使わなくていい部分は使わなくていいと思うんです。要はもうデジタルデータとしてそこに入ってれば、同じ遊びで等価じゃないですか。だからデジタルなもので配信できるものはどんどん配信するべきだと思いますね。そういう観点から、物じゃなくなってるものには興味あります。ただ、物を作ってる側から言うと何か形に残らない仕事ってのは寂しいんです。作った形跡が何も積み上がっていかないし、何も残らないから、そこの寂しさってのは作り手にはあると思いますね。
―――ユーザーにとっても寂しさってのはあるんですよね
西健一: でしょ、何か、ね。全く同じなのがiTunesの音楽ダウンロードで、あれは凄く便利なんだけど、やっぱりCDとしてあるってのとはわけが違うんですよね。だからあれかな、よくアイドル好きの男の子とかが写真集を買うと、保存用と見る用とか何冊か買うじゃないですか? あれみたいにゲームも本当に保存したいようなものはパッケージで買って、ちょっと様子見みたいなゲームはダウンロードでやるっていう風になるんじゃないですかね?
―――なるほど。他にゲーム業界でこれから求められるんじゃないかってのは何かありますか?
橋本長官: これはある意味当然なんだけど、良質なものを作っていかなあかん、ってのはあると思うよ。今このままいったらえらいことになる感じはしていて、これは言っていいのか分からんけど、DSとかでもう、遊んでみたら面白くなかったとかっていうレベル以下のやつ。発売されたことさえ知らんかったみたいなものが今、めちゃ沢山出てる。それって、ここからユーザーが離れていく可能性がとっても高い。もうアタリショックみたいなことに段々なってきてるので、ちゃんと作りましょうということをね。ツールでも大作ゲームでも、ちゃんと作りましょうと。遊んだ人が覚えていてくれるようなものを作りましょう、という風に皆でやっていかないと、やばいことになるってのは危惧しているというか、気になっているところです。
―――西さんはどうですか?
西健一: 僕は宮本さんとか、『ドラゴンクエスト』も大好きだから堀井さんとか、『FF』も大好きだから坂口さんとか、『パックマン』の岩谷さん、任天堂の岩田さんといった人たちに完全に育てられたんだと思うんですよ。もう本当にゲームやってたから。で、そういった人たちに影響されてゲーム業界に入ってきた僕らみたいな人間は、ちゃんと自分のエッセンスを築いて、それを次の世代に繋げていかないといけないと思うんです。凄い人たちのゲームに感化されて入ってきた奴らが次に繋げて行かないと、楽しそうな世界だなってだけで入って食い荒らしてるだけになっちゃうじゃないですか。僕も食い荒らしてるようにしか見えないかもしれないですけど、何とかそこを健全に伝えていく使命を年を取ってくると感じ始めていて、他の人じゃやらないこととか、自分にしかできないことは何なのかってのをすごく感じられるようになったし、偉大な人たちに与えられたものを自分はこう消化した、というのを後輩に伝えていくことをしないといけないと思ってます。あんなに面白かったゲームが色褪せていくのは寂しいじゃないですか。もちろんテレビで遊べるものが登場してきたっていう僕らが味わったインパクトは、今の子供は他にも刺激があり過ぎるから、なかなか感じられないんだと思いますけど、ゲームは人の心に残る面白い衝撃を与えられるポテンシャルを持ってるメディアだから、ずっとそれがありますように、その為に次世代に伝えていかなければっていうのはすごく思いますね。
―――それでは一番最後に、『アルキメDS』を楽しみにしているユーザーさん達に一言お願いします
橋本長官: 『アルキメDS』を買ってきて、DSに挿して、4人と通信で繋がって、初めて「親」をやって、初めて「お題」を出した時、みなさんきっと「?」になるんじゃないかと思います。「どういうこと?」「どうすればいいの?」になるかもしれません。それは初めての経験だから仕方ないんです。例えば本を買ってきた時は、読み始めで「?」にはならないですよね? 頭から読んでいけばいいんですから。シナリオのしっかりしたゲームをプレイする時も、余程のことがなければ「?」にはならないはずです。でも、例えば、プレイしたことのないカードゲームを買ってきた時、最初は「?」になりますよね? でも、シンプルなルールだとしたらアッという間に理解して、すぐに楽しさが発見できて、ついつい遊び込んじゃうと思うんです。これと同じようなことだと思います。最初っから「親」をやってその楽しさや深さが分かるのは、お笑い芸人さん達くらいです。でも、とてもシンプルなものですから、2、3回プレイしたら、もうすっかり遊び込める道具になっていると思いますよ。そうなったらもうノンストップで3時間くらい遊べますね。トランプなんかも面白いルールの遊びに出会ったら、時間の許す限り遊んでしまうことがあるように、『アルキメDS』ってそういう形で浸透していくソフトだと思うんです。ま、それでも、「?」が取れない人は、マニュアルの裏一面に書かれた呪文のようなものの中から何かひとつ選んで、みんなに「お題」として出してみてください。きっと要領が分かってもらえると思います。それでも「?」が残って、しかも「つまらない」と思ってしまうようなら、もしかすると「アナタ」は…。
西健一: つまらないのは、アナタがつまらないからデス。なので、面白い人は買って遊んでくださいね!
―――長い時間どうもありがとうございました!

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