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インターネットから自由が消える……法学者 白田秀彰氏インタビュー

ブロードバンド推進協議会のシンポジウム「仮想世界の法と経済」が7月21日に迫っています。今回、「オンラインにおける秩序の生成と法の継受」を講演する、法政大学の白田秀彰氏(法学博士)にお話しを聞きました。

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ブロードバンド推進協議会のシンポジウム「仮想世界の法と経済」が7月21日に迫っています。今回、「オンラインにおける秩序の生成と法の継受」を講演する、法政大学の白田秀彰氏(法学博士)にお話しを聞きました。

『インターネットの法と慣習』(ソフトバンク新書)を著した白田氏は、オンラインゲームやインターネット上のコミュニティで、自由なインターネットの中で住人たるユーザー同士がこれまで培ってきた「ローカルルール」を守るためには、ネットユーザー自身が声をあげることが重要だと語ります。

■オンラインでの秩序は「ローカルな合意」が前提に

Q: まず、今回の講演、「オンラインにおける秩序の生成と法の継受」がテーマとのことですが、どういったことをお話しになるんでしょうか。

白田氏: その前に、まず、法について。法というのは最終的には暴力に行き着くんです。要するに、「従わなきゃ殺すぞ」っていう脅しが背景にある。ただ、暴力がむき出しで作用すると、我々の幸福や安全にとって危険になるので、それを制御するのが法なんですね。ということは、法が法として機能するには、参加者全員に対して脅しが利かなきゃいけない。ところが、オンラインですべての人に対して強制力を利かせられる人っていないでしょう。「言うこと聞かないとお前をこの空間から排除するぞ」って言っても、翌日には捨てアドレスで入って来れる。すると強制力を背景にした厳密な意味での法というのはない。

では厳密な強制力がなければ法が全くないのかというと、国際法のような当事者の相互関係において生じてくるような合意というのも、法として機能し得る。

まとめると、強制力を背景にした厳密な法は存在していないが、当事者の間での合意によって生成するような種類の法はあり得る。これがオンラインにおける法の現状の大雑把な概略です。ですから、この先の話はすべて、ローカルな合意が存在するのかどうかという話になってしまうので、一般的な話はできないんですよ。

Q: なるほど。

白田氏: 法というのは、文化や産業形態、歴史といったものに影響されて違った形態を取るんです。それぞれの国の下部構造(インフラストラクチャー)に応じて法が変わってくるというのは事実としてある。

で、インターネット初期、パソコン通信、2ちゃんねる、オンラインゲームっていう状況は、敢えていうと仮想OSに似ていると思います。現実世界というOSが走っていて、そのOS上でたとえば日本社会、アメリカ社会っていうアプリケーションが走っていると考えてください。ところがその中に、仮想マシンを作り出すアプリケーションがインストールされている。そこでは現実世界というOSとは違った種類のOSが走り得ますよね、仮想マシンなんですから。そうすると仮想マシンの上では全く違った秩序というのが形成されてくる。たとえば2ちゃんねるの秩序というのは我々の世界の秩序と相当違っているわけです。

そういった基盤となる秩序の上に別の秩序がアドオンされている状況は歴史的にもあって、例えばローマ帝国が衰退していく中で、ある領域がローマ帝国の支配下にありながら、実質的に独自の王国として機能しているような状況がありました。

ところが、インターネット初期、パソコン通信、2ちゃんねる、オンラインゲームのように、ユーザーが、現実世界の秩序と“同時に”、まったく別の秩序にも参加可能であるということはこれまで全くなかった。それによってどういった秩序形成がなされるかということに関して非常に興味をもっていて調査研究したいと思っているところなんですが。事例がとれなくて……

Q: オンラインゲームでは、ゲーム内アイテム(武器や防具など)やゲーム内通貨など、プレイヤーにとってゲーム内で「支払う価値がある」と思われているものが、対価をともなって取引されています。この点が、従来のオンラインコミュニティとちょっと違うように感じられるのですが、秩序や法の視点から見たとき、こうした要素は何らかの違いをもたらすのでしょうか?

白田氏: オンラインゲームという仮想世界内で価値を持つものが、現実世界において価値を持つものと交換可能性が出てくることによって、価値に関しての秩序が接続されて、現実世界の法が仮想世界での取引を無視し得ない状態が発生した……といえばいいのかな。2つの違った世界での価値が接続することによって、現実世界の法がこれまである程度無視してても大丈夫だった状況が、無視できない状況へと転化したんですね。それまで仮想世界での秩序に関して、現実世界はあまり関与してこなかったけれど、もう無視してくれなくなる……ということでしょうね。

ただ、日本の政策担当者は、こういった世界に関する秩序についてほとんど知識を持たないので、このまま放って置くと、オンライン世界からみて好ましくないような法が設定されていく可能性が高いでしょう。オンライン世界の価値であるとか秩序を守りたいという人は今、声を上げないと、今後やりにくいことになっていくんじゃないでしょうか。


《伊藤雅俊》
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