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『ウマ娘』音楽ライターが“エアシャカールの育成シナリオ”を推すワケー2PacにJay-Z、ヒップホップのオマージュに満ちた成長譚

「"オレはここだ"って走りされたら……見るしかないじゃん――」……ロジカル&エキセントリックウマ娘・エアシャカールの育成シナリオには2Pac、Jay-Zなどヒップホップカルチャーへのオマージュが詰め込まれていました。

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  • Brandon Williams / Getty Images Entertainment
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スマホ/PC向け育成シミュレーション『ウマ娘 プリティーダービー』にて、新たな育成ウマ娘として「★3 [unsigned]エアシャカール」が7月11日(月)に登場。イナリワン・スイープトウショウに続いての初実装ウマ娘として多くのファンが歓喜に沸きました。

そのキャラクターデザインは、襟足を長く伸ばしつつ、左頭頂部からギザギザに入った剃りこみが特徴的な髪型。左眉の付近には2個のピアスがされ、細い眉毛にギザギザとした歯。鋲尽きの革ジャン風の鋲尽きの革ジャンなど、とてもパンキッシュでアウトローな印象です。ちなみに私服は、勝負服とはまったく雰囲気の異なるサイバー感溢れるテイストなのが話題を集めました。

そんな荒々しい見た目のせいか、周囲の生徒たちから遠ざけられがちな彼女。しかし、その性格は荒々しさとは非常に対照的な“データ至上主義者”であり、ロジックによる絶対的な勝利を追い求めています。劇中の言葉で形容するならば「痛ましいほど真っすぐ」なのです。

ちなみにモデルとなった競走馬・エアシャカールは、皐月賞と菊花賞を制覇した実力馬。日本ダービーをハナ差7cmで敗れてしまい、今もなお「三冠にもっとも近づいた二冠馬」と語り継がれています。この「7cm」は、ゲームローンチ時から実装されている同ウマ娘のSSRサポートカードが「7センチの先へ」という名称であるように、作中では大きなキーワードとなっています。それは育成シナリオでも同様です。

育成シナリオを語る上で欠かせないのが、エアシャカールがOSからアプリまで自作(…!?)したというPC「Parcae」。彼女にとって“信頼のおける相棒”と言ったところでしょうか。

その「Parcae」を活用し、常にありとあらゆるデータを頭に叩きこんでいるエアシャカールは、本来生徒よりもレースに詳しいはずのトレーナー達からも敬遠される存在となってしまいます。育成シナリオ序盤では、主人公の前のトレーナーと上手く信頼関係を築けずに別れてしまう場面も。

実際に史実のエアシャカールは、機嫌が悪いと平気で騎手を振り落とすほど大変な気性難として知られており、稀代の名ジョッキー・武豊騎手ですらその性格に困っていたというエピソードがあります。

PC上に謎の数字がずっと表示され続けるなど不気味な描写も

そんななか「Parcae」が、「日本ダービーで7cm差で負け、三冠を逃す」という予測を立てることから物語が動き出します。そう、エアシャカールの育成シナリオは、彼女が信頼する計算からはじき出された「宿命」「運命」を乗り越えていくストーリーなのです。このストーリーラインも、メタフィクション要素が盛り盛りで非常に面白いのですが、本稿では彼女の趣味……そして名前に着目して筆を滑らせていきます。

まずは初めて『ウマ娘』でエアシャカールがフィーチャーされたとタイミングを振り返ってみましょう。それは2022年3月29日から4月11日まで開催されたストーリーイベント「今宵、リーニュ・ドロワットで」です。

こちらで明かされたエアシャカールの意外な一面が“音楽好き”であること。「!monad」名義でDTMによる音楽制作をし、ひっそりネット上へリリースした曲が一部で熱狂的なファンを生んでいるという描写がされました。実は彼女の名前の「シャカール」は、90年代USヒップホップを代表するMCであり、ギャングスタ・ラップのレジェンドとして未だに根強い人気を誇る「2Pac(トゥーパック)」の本名が由来なのです。

育成シナリオでは音楽フェスへ足を運ぶ姿も。好んで聴く音楽はヒップホップに限らない

さて、次に注目してほしいのが彼女が愛用している「Parcae」に貼られた多数のステッカー。クラブDJなども使用するノートPCにステッカーをベタベタに貼るものですが……、特に気になるのが左上に貼られたひと際ドデカいステッカーです。「All On Me」という文字に瞳のグラフィックが施されています。

こちらは2Pacの名曲「All Eyes On Me」のオマージュであることは間違いないでしょう。なお、2Pacの名曲群は、育成シナリオ中に大きな意味を持ってたびたび登場しています。

特に顕著に引用されているのが、育成シナリオ上で発生する個別イベントのタイトルです。「Changes」「Can't C Me」「Ambitionz」などヒットナンバーの名前をド直球に、彼女の心情にマッチするように用いられているのです。ではそれら原曲には、どのようなバックグラウンドがあるのかを簡単に説明していきましょう。

Changes」はアフリカン・アメリカンの差別や貧困など変わらない悲惨な現状について2Pacの嘆きがこめられており、「Can't C Me」ではヒップホップシーンの顔役となった自分をスキルフルなラップで誇示しています。

なお「Ambitionz」は先述の「All Eyez On Me」が収録された名アルバムの1曲目「Ambitionz Az A Ridah」に引っかけていますが、同曲は2Pacが性的暴行で有罪判決を受け、9ヶ月ほど刑務所にいたところから保釈され、すぐにスタジオに直行して最初にレコーディングした曲として知られています。

これらオマージュが育成シナリオのどういった場面で起用されているのかは、ネタバレとなってしまうため割愛しますが……、ウマ娘・エアシャカール本人の意識や命運がグっと変わっていく重要な局面で楽曲タイトルが引用されており、さまざまな壁にぶち当たりつつも、最後は夢に向かって走り出す彼女の姿にピッタリとハマっていると言えるでしょう。

他にも「Noizy Dayz」というイベントが発生するのですが、こちらは「Better Dayz」と絡めているように読み解けますし、極めつけはエアシャカールが年上世代であるテイエムオペラオー&メイショウドトウと相対する時です。彼女らにアドマイヤベガとナリタトップロードと加えた4名は、1996年生まれで1999年に4歳(現3歳)を迎えた……いわゆる“99年世代”と呼ばれています。

先述の通り、史実のエアシャカールは同世代と戦うなかでは二冠馬という(悔しくも)華々しい戦績を収めましたが、それ以降は99年世代の牙城を崩すことができませんでした。それに沿ったイベントとして『ウマ娘』内では特殊デバフスキル「99 Problems」が登場します。

「99 Problems」といえば、00年代を代表するラッパー・JAY-Zの「99 Problems」という名曲があります。これもまた、ヒップホップのヒットナンバーと日本の競走馬世代を上手く引っかけているのです。

――2PacJay-Z。世代は異なるものの、ヒップホップヘッズならば「おっ!」となるような組み合わせです。

そして、2Pacには友人であり後にライバルとなるThe Notorious B.I.Gという、同じく時代を代表するスーパースターがいました。2PacとThe Notorious B.I.Gは共にニューヨークに生まれの1歳違い(2Pacの方が年上)。2Pacは西海岸から、The Notorious B.I.Gは東海岸から名をあげ、ギャングスタラップの2大巨頭として90年代USヒップホップに君臨していました。

それから、2PacとThe Notorious B.I.Gは専門メディアの煽りや周囲の熱狂に押されるままに仲違いし、ビーフとディスを繰り返すように。やがてファンやギャングを含めた「東西抗争」へと発展し、最終的にそれぞれ銃殺されてしまうのは有名な話です。

対して、90年代初頭のニューヨーク・ブルックリンでキャリアをスタートさせたJay-Z。デビューアルバムではThe Notorious B.I.Gとともにコラボ曲「Brooklyn's Finest」をリリースし、後年も何度となくThe Notorious B.I.Gからのインスピレーションを語ってきました。ギャングスタラップのムーブメントが悲劇的な終わりを迎えるなか、Jay-Zはふたり亡きあとのヒップホップシーンを作り上げようと、00年代以降の時代をリードしていくことになります。「Jay-Zは00年代以降から現在までに至るUSヒップホップを牽引してきた」という意見に異論を投げる人はほとんどいないでしょう。

話を戻しますが、『ウマ娘』のエアシャカールは、育成シナリオの中盤以降で何度か99年世代とぶつかることになります。そのなかで彼女は少しずつ自信を失ってしまいますが、さまざまなキャラクターとの出会いがあり対話があり、ぶつかったり励まされたりと、いろんな経験を経て観客からこんな言葉を投げかけられるのです。

「"オレはここだ"って走りされたら……見るしかないじゃん――」

アルバム『All Eyez On Me』というタイトルの意味について、2Pacはこう語っています。

「All Eyez On Me(全ての視線が俺に)」というタイトルをつけたのは、まさに自分の状態を表しているからだ。警察やFBIも俺を常に監視している。俺に嘘の罪を被せようとしている女性たちも俺を見ている。逆に俺のことが好きな女性たちも俺のことを見ている。俺のことを羨ましがっているやつも、仲間も、世の中が俺の次の動きを気にしているんだ。だから「All Eyez On Me」なんだ。

この精神は、99年世代という華々しい相手と競うことになっても“オレはここだ”と示し続けるエアシャカールにも受け継がれています。強引で、ワガママで、かつ文句のつけようのない「絶対的な勝利」を体現する彼女に、大勢の観客が魅了され、まなざしを向ける……まさに彼女流の「All Eyez On Me」を表現していくのです。

思えば、非常に派手なデザインである勝負服に普段着。それらは「自分はココにいる、そしてスゴイのだ」という自己主張の強さ・激しさの表れとも言えるのかもしれません。そのように他者との違いをアピールすることも、ヒップホップ・カルチャーにおけるマナーのひとつとして挙げられます。

実はこれまでも、大元である日本競馬史はさることながら、多種多様なカルチャーのオマージュに差し込んできた『ウマ娘』の育成シナリオ。テイエムオペラオーのストーリーでは、オペラに関する知識が大胆に詰め込まれていたことが話題を呼びましたが、今回のエアシャカールに関してもリスペクトの詰まった内容に仕上がっているのです。

《草野虹@RUGs》
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