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【特集】ゲームを彩る民族音楽の魅力……『クロノ・クロス』『オーディンスフィア』のサウンドの原点を探る

ファイナルファンタジーなどのゲーム音楽には、不思議な音色を奏でる民族音楽が欠かせません。その代表である「ケルト音楽」と、レコーディングに参加した演奏家を紹介します。

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筆者自前のホイッスル。リコーダーと同じ感覚で吹ける
  • 筆者自前のホイッスル。リコーダーと同じ感覚で吹ける
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ゲームが「ピコピコ」と揶揄されたのも今は昔。高音質音源すら当たり前になった現在では、最早一ジャンルとしての「ゲーム音楽」の枠を脱出し、オーケストラ、EDM、ロック、テクノポップなどありとあらゆるジャンルの音楽を取り込んでいます。そんな中でも、日本では民族楽器が「ゲーム音楽で初めて認識した音」である方が多い様子。エキゾチックでよく目立つその音は、作中の印象的な場面でも用いられ、明快なファンタジーからいかにも怪しい空気までマルチに活躍しています。

そこで本企画では、ゲーム音楽を支えてきた民族楽器の魅力を様々な角度から伝えていこうと思います。国内では演奏者がとても少ないので、もし興味を持っていただければならば、是非民族音楽のCDを購入して演奏家の皆様に活力を送っていただければ幸いです。

今のトレンドはケルティック!



民族音楽は数あれど、今の日本で「民族っぽい音」といえば、多くの人が似たようなイメージを持っているでしょう。軽快に跳ねるリズムだとか、変わった笛の音色だとか、キャッチーで特徴のあるあの感じですね。

そのベースとなっているのが「ケルティック」もしくは「ケルト音楽」と呼ばれるもの。その起源はローマ帝国以前にヨーロッパ全域に広がっていたケルト民族です。私たち日本人と似たような万物に精霊が宿るという世界観を持ち、呪術的信仰を社会の中心に据えていました。彼らは帝国の征服によって散り散りとなり、民族としての独立国を持つこともなく長らく歴史の表舞台に出ることはありませんでした。

しかし、強者側がケルト文化を飲み込むに当たって、逆にケルト文化は大衆に浸透していきます。それは、キリスト教的「異端」のイメージとして、ケルト文化が利用されたからなのです。ドルイド、魔女、妖精など、スペインやブリテン諸島北部など地方に細々と残っていたケルト伝承を、キリスト教の分かりやすい敵に作り替えました。皮肉なことに、恐ろしい「悪魔」としてケルトの伝承はヨーロッパに認知されたのです。

長らく不遇の歴史を辿りながらも、民族のルーツである神話や妖精譚を音楽に込めて、大切に文化は受け継がれてきました。やがてキリスト教の権力が弱まってくると、幻想的な妖精譚は創作の世界で復活することになります。その時に、ケルト音楽は妖精が奏でていそうな曲という結びつきが生まれ、ファンタジーにはケルト音楽が付きものとなったのです。

日本のゲーム音楽でいち早く「ケルト」の文字が登場したのは、『ファイナルファンタジー IV』のアレンジアルバム「Celtic Moon」でしょうか。現地アイルランドで録音されたこの作品は、発表当時は民族音楽の認知度が低く反応が今ひとつだったようです。それでも、この頃から植松氏は作曲にケルティックの影響を受けていたとのこと。古楽を基調とした『ファイナルファンタジー IX』では「永遠の豊穣」に合わせてフライヤ達ネズミ族がアイリッシュダンスを披露します。


同じくスクウェア作品で民族楽器を印象的に使った作曲家として、忘れてはならないのが光田康典氏。『クロノ・クロス』では全編に渡って民族調のサウンドが散りばめられ、中でもオープニングタイトル「時の傷痕」に衝撃を受けた人は多いはずです。


「時の傷痕」で主旋律を奏でるのは、ティンホイッスルとフィドルというケルティックでよく用いられる楽器です。

筆者自前のホイッスル。リコーダーと同じ感覚で吹ける

ティンホイッスルはブリキの管に穴を開けただけの簡素な楽器。価格も2,000円ほどでお手頃です。しかしその音色は鋭く響き、映画「タイタニック」の主題歌「My Heart Will Go On」で印象的なフレーズを奏でています。この映画のヒットはケルティックの知名度を大きく上げたと言われていますね。『クロノ・クロス』で使用した縁もあり、光田氏自身のレーベルから国内初のティンホイッスル教本を販売したこともありました。映像は教本著者のhatao氏による演奏です。


一方のフィドルですが、実はヴァイオリンと同じ楽器で、奏法の違いで呼び分けられます。クラシックの弾き方とは違い、馬のいななきのような豪快な弾き方は聴く人の気持ちを盛り上げてくれます。

1990年代はエンヤを筆頭に音楽業界でもケルティックに注目が集まった時期でした。一般に認知された民族音楽はその後勢いを加速していきます。

「リール」と「ジグ」:アイリッシュダンス基本のリズム



一口にケルティックと言ってもその幅は広く、例えるなら「アジア系音楽」のようにひとくくりにした言い方です。ブリテン諸島、北欧からスペイン、フランスまで多様な種類があります。現在日本で認知される「ケルティック」とは主にアイルランド発祥の「アイリッシュ」を指しています。エンヤ、ケルティックウーマン(『FOREVER BLUE 海の呼び声』にも採用)などのアーティスト、前述の「タイタニック」、そしてダンスカンパニー「リバーダンス」といったアイリッシュが組み込まれた音楽が次々に日本で注目を浴び、ケルティック=アイリッシュのイメージが定着しました。

アイリッシュの基本はダンス。腕を使わない足さばきのみの動きが特徴で、これはケルト文化を一切禁止されたアイルランドで、監視の目をかいくぐるために編み出した踊りです。『FF14』ではステップダンスのエモートに採用され、習得時には同様のエピソードが盛り込まれていますね。


アイリッシュダンスで最も有名なのが4拍子の「リール」と6/8拍子の「ジグ」。特にジグは飛び跳ねるような軽快さでキャッチーさもあり、聴いていて楽しくなる曲調です。先ほどの『FF IX』「永遠の豊穣」はもちろん『FF XI』「セルビナ」、『ポケモン不思議のダンジョン』メインテーマでも使われていました。こちらの映像は「リバーダンス」が初めて登場したときの演目。途中変拍子も入りますが、後半に組み込まれたリールとジグのリズムが分かると思います。


現地のパブなどで行われるセッションでは、この二つを組み合わせたメドレーを1セットとして演奏します。ステップを覚えれば誰でもダンスに参加することができ、店内が一体となって大盛り上がりする場面はアイリッシュが最も輝く瞬間です。また、アイルランドの記念日である3月17日のセントパトリックデーでは、アイリッシュの音楽が世界中の街角で鳴り響きます。残念ながら本年度に予定されていたイベントの多くがキャンセルとなりましたが、毎年日本各地でパレードが開催されているので、ぜひ足を運んでみてはいかがでしょうか。

知っておきたい演奏家達


ゲームに取り入れられることにより、ファンタジーの音楽として確固たる地位を確立した民族音楽。収録音源を使う余裕が生まれた2000年代になると、民族楽器は作品世界の雰囲気を作る上で欠かせないものになっていきます。ここでは実際にゲームのレコーディングに参加したミュージシャンを紹介します。

■Shanachie/CELTSITTOLKEプロジェクト
『オーディンスフィア』『オーディンスフィア レイヴスラシル』『ドラゴンズクラウン プロ』



幻想的なアニメーションが印象的なヴァニラウェアの名作『オーディンスフィア』。この作品の主題歌を担当したのが、関西を拠点に活動するShanachie(シャナヒー)です。北欧の物語を題材にした、優しく柔らかいアンサンブルが特徴。ファンタジーの雰囲気を美しく表現しています。オリジナル版のボーカルを務めた河原のりこ氏はその後脱退、『レイヴスラシル』ではゲストボーカルにほりおみわ氏を迎え、ゲーム内で計4バージョンを聞くことができます。


続く『ドラゴンズクラウン プロ』では新録音に当たり、Shanachieを含む関西のケルト音楽をサポートしているスタジオBeatshopが協力。こちらの主催するコンピレーションCDプロジェクト「CELTSITTOLKE」の演奏家が参加しました。



■ロバの音楽座/カテリーナ古楽合奏団
『ファイナルファンタジー クリスタルクロニクル』



リマスターは残念ながら発売延期となってしまいましたが、全編古楽器で収録され、ぬくもりのあるアンサンブルは今でも忘れられない人は多いと思います。主題歌「カゼノネ」はシングルチャートでも上位に昇りました。こちらのサウンドトラックに参加したのが楽団「ロバハウス」です。

こちらの楽団は中世欧州の古楽器を専門としており、カテリーナ古楽合奏団名義ではルネサンス(『アサシン クリード II』の時代)以前に基づいた楽曲を、ロバの音楽座名義では創作楽器も含めた楽曲を演奏しています。「ロバ座」は子ども向けの全国公演を行っており、もしかしたらご覧になった方もいらっしゃるかも?


公式ページに楽器紹介もあるので、他では見られない珍しい楽器の音を聞くこともできます。

■U-zhaan
『ライトニングリターンズ ファイナルファンタジーXIII』



デッド・デューンの地下遺跡と、ユスナーンの一部で流れているBGM。印象的なのがなんと形容していいか分からない奇っ怪なパーカッションです。ミックスの冒頭2曲、一回聴いただけでは打楽器かどうかも不明な変な音が入っています。これはインドの「タブラ」という太鼓。怪しさ満点のこの楽器ですが、奏者として今注目されているのがU-zhaan氏です。レキシなどメジャーシーンの作品に参加することが増え、見かけたことがあるかもしれません。


この映像ではアボリジニの伝統楽器ディジュリドゥ奏者のGOMA氏とセッションしています。



いかがだったでしょうか。現在の民族音楽の人気にゲーム音楽が寄与したという意見も見られます。ゲーム内で生演奏が潤沢に使えるようになった今後は、より参加する演奏家も増えていくでしょう。ゲームを遊んでいて気になる音色があったら、サウンドトラックのクレジットをぜひ確かめてくださいね。
《Skollfang》
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