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『Detroit: Become Human』のデヴィッド・ケイジ氏へ単独インタビュー「クリエイティビティはアルゴリズムをいかにして発見するかという問題」【TGS2019】

大反響となった『Detroit: Become Human』のPC版が発表されました。東京ゲームショウ2019にはQuantic Dreamのデヴィッド・ケイジ氏が参加され、単独インタビューに応じて頂きました。

ソニー PS4
『Detroit: Become Human』のデヴィッド・ケイジ氏へ単独インタビュー「クリエイティビティはアルゴリズムをいかにして発見するかという問題」【TGS2019】
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PS4版『Detroit: Become Human』(以下、『Detroit』)の大ヒットを受けてPC版の制作が発表されました。東京ゲームショウ2019には、Quantic Dreamのデヴィッド・ケイジ氏が参加!編集部では直接、単独インタビューの機会を頂きました。

デヴィッド・ケイジ氏はQuantic Dreamの代表者にして、『Detroit』の脚本・ディレクターも担当しています。『HEAVY RAIN 心の軋むとき』など、濃密なアドベンチャーを創出し、大きな注目を集めるクリエイターでもあります。インタビューは30分程度と、短い時間ではありましたが、制作の経緯やAIに対する考えなどを伺うことができました。



Quantic Dreamのデヴィッド・ケイジ氏

──『Detroit』のPC版が発売されることになりましたが、その経緯を教えてください。

ケイジ氏PS4を所持しておらず『Detroit』を遊べない方が大勢いらっしゃることを認識しましたので、PC版を開発して幅広いユーザーにプレイして頂きたいとまず考えました。SIEと様々に相談させて頂きましたが、PC版を発売するに当ってはしっかりしたものをリリースしたいと考えていましたので、高品質なものを目標にして開発しました。

──PC版への移植には技術的課題があったかと思いますが、特に気にかけられた部分はどこでしょうか?

ケイジ氏技術的な面で言えばPS4版からアーキテクチャを最適化させることが特に大変でした。PC版をPS4版と同等以上のものにする為、ゲームエンジンを書き換えるところから取り掛かったのです。キーボードとマウスによるインターフェースへの調整は苦労しましたね。


──「ゲームの移植」にどうしても心配してしまうプレイヤーも多いですが、ゲームエンジンから刷新するというお話は多くの方が喜ばれると思います。既にPS4版でも大きな反響があった『Detroit』ですが、ご自身の中でAIなどのテーマに対する考え方になんらかの変化はありましたか?

ケイジ氏特定のプレイヤーや、特定の地域に受け入れられるといったことは意識せずにゲームを制作しています。基本的には、私自身が好きになったことや情熱を感じたことをゲームにしています。その結果として、制作したゲームをプレイヤーの皆様が好きになって頂けたら良いですね。

ただ、日本の皆様から頂いた高い評価は私たちにとっても想定以上のものでした。とても情熱的な意見を頂いています。なぜ日本からの評価が高いのかと考えてみると、ロボットなどの多様な文化が根付き、特に人型ロボットについては歴史が長く、そこでマッチしたのだろうと思います。


──ゲームに限らず、AIやアンドロイドの実際の専門家と会われる機会も増えたのではないかと思います。どのようなお話をされるのでしょうか?

ケイジ氏私自身がまず深く研究を重ねました。元々SFを作ろうと考えていた訳ではなく、あくまでもこれから先20年ほどの未来、現実に有り得そうだという予測可能な範囲の世界を作ろうとしたのです。

その上で、実際の専門家のフィールドで受けた影響のうち、AIに関しては2点ありました。ひとつは「パレ・ド・トーキョー(※1)」での展示です。そこにはアンドロイドが展示されていましたが、遠くから眺めると全く人間との見分けが付きませんでした。

ふたつめは、パリに存在するAIラボを訪問した時のことです。作曲の研究でディープラーニングを活用し、多くのジャズ・ピアニストの演奏データを取り込み、結果としてAIにセッションを行わせるというものでした。

実際の人間がジャズ・セッションしている途中から、AIによる演奏が混ざるとのことだったのですが、私が聴く限りではその演奏の境目が全く分からず、非常に素晴らしい演奏だと感じました。

特にAIによるジャズ・セッションは感情豊かな表現が成されており、私にとっては強烈な印象として残りました。「AIはクリエイティブになれるのではないか?クリエイティビティはエミュレート可能なのかもしれない」と考え、『Detroit』を制作する上でのきっかけとなったのです。

(※1)現代美術を中心に扱う有名な美術館。1937年のパリ万国博覧会からその歴史が始まり、現在では年間20万人以上の来館者数を誇る。


──私は学生の頃にジャズ・ドラムをやっていましたが、仲間とクリエイティビティを合わせて演奏できるようになるまでには長い時間がかかりました。AIがそうしたことを可能にするというのは驚きで、演奏を聴いてみたいですね。

ケイジ氏普通、人間であればそうした演奏ができるようになるまでには長い時間がかかります。人に教え、教えた人ができるようになるのもまた多くの時間が必要です。その点、AIは学習さえさせてしまえば一瞬でそれを可能とし、他のAIを用意しても学習そのもののコピーで済んでしまうのです。

──「学習」という点で言えば、今のお話はアンドロイドが絵を描き始める作中の場面に繋がりました。

ケイジ氏まさにその通りです。直接的な繋がりで言えば、マーカスがピアノ演奏をする場面ではありますが、絵を描く部分についても同様です。はじめに絵を描いた場面では、目の前にある絵のコピーを行うだけでした。「クリエイティブとは解釈することだ」という言葉を受けて、彼は抽象的かつ表現力豊かな絵を描けるようになります。

多くの人は「AIではクリエイティブになれない」と考えることと思いますが、その点はアルゴリズムをいかにして発見するかという問題だと私は捉えています。


──今後、実際に作中のようなAI・アンドロイドと人間が社会に存在する場合、本当に共存していけるでしょうか?

ケイジ氏可能性として「有り得る」方が強いと思います。どれだけ先のことかはわかりませんが、むしろ避けられないことでさえあるのではないでしょうか。Boston Dynamics社によるロボット研究の実績、実際の人間のような表情を見せる技術、自然言語処理による対話型のAIが形になってきたことなど、その種は既に育ってきていると考えるからです。

Googleでは人の声の再現が行われたり、メールの解析により文意の解釈まで可能となっているようですから、案外近い未来のことかもしれませんね。

今から20年前のことを考えてみると、携帯電話も、インターネットも不十分でした。私が生きているこの時間の中だけを考えても全く予測が付きません。翻ってみて、やはり共存は「有り得る」と私は考えます。

──もし次回作の構想があればお伺いしたいのですが。

ケイジ氏すみません、それはまだ言えません!(笑)

──分かりました、楽しみにしております!本日はありがとうございました。


終始一貫して真剣に答えてくれるケイジ氏からは、常に追求しようとする精神に溢れている……という印象を受けました。美術館での体験や研究者との交流を重ね続けることなどが、作品の哲学として滲み出てくるのかもしれません。

PC版『Detroit: Become Human』の発売日は、近日発表される予定です。
《Trasque》
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