人生にゲームをプラスするメディア

カプコン川田Pと松江氏が明かす『バイオハザード アンブレラコア』のしくじり―反省から学ぶゲーム開発

8月11日にカプコンとヒューマンアカデミーは、『バイオハザード アンブレラコア』のプロデューサーである川田将央氏とゲームデザインを務めた松江一樹氏による学生向けのトークイベントを開催しました。

ゲームビジネス 開発
カプコン川田Pと松江氏が明かす『バイオハザード アンブレラコア』のしくじり―反省から学ぶゲーム開発
  • カプコン川田Pと松江氏が明かす『バイオハザード アンブレラコア』のしくじり―反省から学ぶゲーム開発
  • カプコン川田Pと松江氏が明かす『バイオハザード アンブレラコア』のしくじり―反省から学ぶゲーム開発
  • カプコン川田Pと松江氏が明かす『バイオハザード アンブレラコア』のしくじり―反省から学ぶゲーム開発
  • カプコン川田Pと松江氏が明かす『バイオハザード アンブレラコア』のしくじり―反省から学ぶゲーム開発
  • カプコン川田Pと松江氏が明かす『バイオハザード アンブレラコア』のしくじり―反省から学ぶゲーム開発
  • カプコン川田Pと松江氏が明かす『バイオハザード アンブレラコア』のしくじり―反省から学ぶゲーム開発
  • カプコン川田Pと松江氏が明かす『バイオハザード アンブレラコア』のしくじり―反省から学ぶゲーム開発
  • カプコン川田Pと松江氏が明かす『バイオハザード アンブレラコア』のしくじり―反省から学ぶゲーム開発

8月11日にカプコンとヒューマンアカデミーは、『バイオハザード アンブレラコア』のプロデューサーである川田将央氏とゲームデザインを務めた松江一樹氏による学生向けのトークイベントを開催しました。

今回のトークイベントでは、『バイオハザード アンブレラコア』の39点という低いメタスコアや、開発者とユーザーのすれ違いを招いてしまった要因を振り返り、反省を未来のゲーム作りにどのように活かしていくかが語られました。

■『アンブレラコア』は生魚未経験者に食べさせたシメサバ?



『バイオハザード アンブレラコア』は、2016年6月23日に発売された3対3の対戦型シューターで、『バイオハザード』シリーズの世界観を活かした狭いフィールドによる短時間に凝縮されたバトルが特徴。カバーをはじめとしたさまざまなアクション要素によって格闘ゲームのような駆け引きが楽しめるようになっています。

川田氏によると、『バイオハザード』で何か小規模で新しいことができないかと考えていた際に、『コール オブ デューティ―』などの大規模な作品だけでなく、多様なシューター作品が出るようになってきた市場の流れの中で、カプコンの持ち味を活かした小粒だけどエッジの効いたシューターが作れるのではないかと考えたことが、『アンブレラコア』の始まりだったと語っています。


しかし、いざ発売してみると海外メディアやユーザーからの評価は芳しくなく、PS4版のメタスコアでは100点満点中39点を記録してしまいました。この結果について松江氏は、ユーザーが求めるもの、『バイオハザード』から想像するものとは異なるものを作ってしまったことが原因ではないか?との推察を述べました。比喩として、自分たちが好きだけど匂いのきついシメサバを、「においがするもの」だと理解してもらわずに、シメサバどころか生魚すら食べたことのない人に提供して、「これは腐っている!」という感想を受けるのと同じだった、としています。

さて、ここからは開発背景が語られた講演内容をレポートしていきます。

■小規模タイトルとしてのゲームデザイン



ゲーム作りにおいて必要なことは「コンセプトをしっかり立てる」「ターゲットをしっかり規定する」「販売プランをしっかり組み立てる」であると松江氏。今作は、小規模タイトルとしてがっつり遊べる対戦型シューターを低価格で提供する、大規模ゲームへのアンチテーゼかつニッチな市場へのアピール、バイオハザードの新たなチャレンジとして新規ユーザーを引き付けるユニークポイントを持たせる、ということが前提であったとのこと。


小規模タイトルとして進めるにあたり、短期間でゲームが完成するように工程の見直しが行われました。作業の効率化のために、人の動きをそのままトレースできるモーションキャプチャーを積極的に導入、キャラクターの動作を1つ1つプログラムする手間を省き、フォトスキャンは実際の人物やプロップをそのままモデルやテクスチャとして取り込めるので、高いクオリティを維持しつつ、グラフィックをゼロから作り起こす手間が短縮されました。また、初期に使うべき技術を選定しておき、かけるコストの効率化も行いました。

とはいえ、これらコンセプトや行程を作ることは重要ですが、「自分たちが何をしたいのか」がモノ作りの基本なのだと川田氏と松江氏は強調しています。

■高い完成度のプロトタイプができた



企画開始時、ほぼゲームデザイナーだけの少人数チームがプロトタイプの制作に取り掛かりました。汎用性の高いUnityエンジンを用いたこともあり3カ月という短期間で完成、3対3の対戦や邪魔をするゾンビなど独自のアプローチを盛り込んだこのプロトタイプは、社内テストも順調にクリアしていきました。上司の評価も上々だったのだそうです。そして、このプロトタイプを叩き台にゲームの本開発がスタートしたといいます。

■ここで最初のつまずきが発生



まず、最初のつまずきは、欲を出して別の方向での模索をしてしまったことだと川田氏は説明します。3カ月で高い完成度のプロトタイプを作れたという自負が、もっと面白くできるのでは?と思わせてしまったのです。結果的にあまり面白くはならなかったために元に戻してしまうことになるのですが、予定されていた開発期限は変わりません。気持ちが先走って新しいことをやろうとし過ぎたために試行錯誤に費やした分、工程ロスが発生し、短期間で完成させる小規模タイトルであるはずなのに予定が大きく崩れてしまうことになりました。

次のつまずきは、他社製のゲームエンジンであるUnityを使用していたために発生してしまいます。当時は、カプコンの自社製ゲームエンジン「REエンジン」が開発段階であったため、スムーズにプロトタイプが作れたUnityで開発を行うことになりました。しかし、他社製エンジンであるがために起こる、技術のすり合わせによる時間のロスや様々なトラブルも相まって、作品のクオリティアップのためではない、完成させるための期間の延長を余儀なくされます。ただ、苦労の甲斐もあって、Unityの公式イベント「Unite 2016 Tokyo」で『アンブレラコア』を見たUnityユーザーからは、「Unityでここまでできるのか」といった称賛の声をもらえたのだそうです。

■開発者とユーザーのボタンの掛け違い



開発の遅れに伴い、エンドユーザーにゲーム内容を正しく理解してもらうための対策を十分に立てることができませんでした。まっさらな新規タイトルではなく、『バイオハザード』とミックスさせることでシューター市場を盛り上げたいと考えていた川田氏ですが、「バイオハザードなのになぜシューターなのか?」という意見が多く寄せられることになってしまいました。開発者の想いとユーザーがブランドに望む像にボタンの掛け違いが起きてしまったのです。


さらに川田氏いわく、『アンブレラコア』はもともとバイオハザードシリーズのスピンオフ作品として企画されたものなのだとか。純粋なサバイバルホラーを目指す『バイオハザード7』に対し、シューティング要素をさらに特化させた『アンブレラコア』という立ち位置でした。実際、『アンブレラコア』の時系列は『バイオハザード6』と『バイオハザード7』の間に設定されており、登場組織などは本シリーズとの繋がりを匂わせています。しかし、様々な事情により『バイオハザード7』の発表は延期され、『アンブレラコア』のみが先行して単体で発表されることとなりました。

昨年9月に行われた「SCEJA Press Conference 2015」で大々的に発表された『アンブレラコア』ですが、その際のユーザーの声は散々なものに。開発者側が想定していたのは、コンパクトで一風変わったシューターを『バイオハザード』の世界観で遊んでもらうというものでしたが、ナンバリングの新作を想像していたであろうユーザーの期待とは異なる物であり、反応は厳しく、一部には『バイオハザード』の名前を使っただけの作品といった声までありました。

■バイオファンに理解してもらうために


「東京ゲームショウ2015」に『アンブレラコア』を出展することになった際、開発チームはあるアプローチをとりました。体験者に理解を深めてもらうために、松江氏を含む開発スタッフと操作を熟知したコンパニオンたちが可能な限り付き添ってゲーム内容をレクチャーするというものです。1日に体験して貰える人数は激減しますが、丁寧な説明が幸いして、参加したユーザーからは好評でした。ブースの狭い空間では仲間意識も強くなり、素晴らしいプレイ体験ができていたと松江氏は語ります。手ごたえを感じた開発チームは「遊んでもらう、触れてもらう」ことが重要だと考え、体験会の開催を続けていきます。


ところが、体験会では好感触があったにも関わらず、『アンブレラコア』がいよいよ発売を迎えると、ユーザーの反応は発売前とは真逆のネガティブなもので溢れていました。中には、生魚を食べたことがないのにシメサバを食べさせられたかのような、厳しい意見もあったと松江氏。シメサバがどんなにDHAやEPAが豊富で脳にいいと言われても、腐っていると思われたら誰も食べないというもの。開発チームはこうした反響に大きく肩を落とすことになりました。

そこで体験会の規模、体験して貰う人数が小さすぎたと考えた開発チームは、PS4で期間限定の体験版を展開することになります。このアプローチによって多くのユーザーに実際にプレイしてもらい、販売の勢いを倍近くに伸ばすことができました。


ゲームを理解して貰うにも、クオリティアップの為にも、βテストをやっていればまた違っていたかもしれないと語った松江氏。やりたくてもさまざまな要因で実施できなかったことを悔やんでいました。また、大型タイトルと発売日が重なり、『アンブレラコア』の発売日が未発表の時点で一回、発売間近にも一回の延期を行いましたが、相手も延期になり、逃げても逃げても追ってくるという状況が発生。また、発売当初はマッチングに問題が発生してしまったためにプレイヤーが離れてしまうというトラブルも起きました。
6月23日のリリースから8月11日までに5回のアップデートを行い、ゲームバランスを含む多くの問題の対策を素早く行ってきた開発チームですが、時すでに遅く、マイナスを挽回することはできなかったとしています。

■『アンブレラコア』の反省と未来のゲーム作り



『アンブレラコア』の反省点として川田氏の口から語られたのは、「小規模で価格が安いからという開発側のロジックは通用しない」ということ。3990円ですら高いという声も少なくなかったのだとか。さらに、実績の積み上げが重要なシュータージャンルで、目新しいものを小粒で、という考え自体が甘かったのだとしています。SNSによる口コミの影響力が非常に強い現状で、『アンブレラコア』はそこに食い込むこともできませんでした。

「面白いゲームを作る」「面白いゲームであることを伝える」「面白いゲームであることを伝える手法を確立する」ことは、当たり前のようで非常に難しいといいます。それら反省を踏まえ、川田氏と松江氏は改めて、「コンセプトをしっかり立てる」「ターゲットをしっかり規定する」「販売プランをしっかり組み立てる」ことの必要性を説明し、イベントは幕を閉じました。


トーク終了後には、Q&Aセッションや学生1人1人が両名とじっくり話ができる時間が設けられました。

■『アンブレラコア』はアップデートやDLCで今後も盛り上げていく


イベント終了後に、川田氏と松江氏から『バイオハザード アンブレラコア』のプレイヤーと、これからプレイしようと思っているユーザーへのメッセージをいただきました。

川田:同じ失敗をしないための反省として、みなさんはこんな失敗をしちゃダメだよ、という意味も込めて共有させていただきました。『アンブレラコア』を遊んで頂いている方には、新しいコンテンツも入った無料アップデートパック(8月19日に配信済)も準備しているので、遊びやすく、面白みを増した『アンブレラコア』で一段と盛り上がってもらいたいと思います。また、こういうのを遊んで頂きたいなという新しいDLCを出していきたいと思います。

松江: アップデートはできるものから、可能な限り早く対応してきましたし、今さらかもしれませんが、REネット(『バイオハザード』シリーズの無料サービスサイト)に開発者への質問掲示板を設けてご意見をうかがったり、初心者や中級者の方が始め易く、また上達のお手伝いにもなるようなゲームについての濃い説明も行っています。『アンブレラコア』を購入してくださったユーザーさんにはまだまだ楽しんでもらいたいと思っていますし、興味を持った方もREネットをご覧いただいてどんなゲームなのか?理解を深めていただければ嬉しいです。

「ここでしか聞けないリアルなことが聞けたので、勉強になった」「反省点という視点での講義は初めて。面白く聞くことができた」「コンセプトやターゲットの明確化が重要な事はもちろん、マーケティングの大切さも知ることができた」など、受講生からの好評を持って講演は幕を閉じました。


(C)2016 Human Academy Co., Ltd. All Rights Reserved.
(C) CAPCOM CO., LTD. ALL RIGHTS RESERVED.
《Sato Daisuke》
【注目の記事】[PR]

編集部おすすめの記事

特集

ゲームビジネス アクセスランキング

  1. 今年の特別前売券特典、オーロラチケットで「デオキシス」をゲット!

    今年の特別前売券特典、オーロラチケットで「デオキシス」をゲット!

  2. ポケモンはここで作られる!ゲームフリーク訪問記(前編)

    ポケモンはここで作られる!ゲームフリーク訪問記(前編)

  3. 言論の自由はどこまで言論の自由を許すか?・・・平林久和「ゲームの未来を語る」第21回

    言論の自由はどこまで言論の自由を許すか?・・・平林久和「ゲームの未来を語る」第21回

  4. 【CEDEC2012】みんな大好き「プリキュアダンス」の変遷 ― その技術に迫る

  5. アバターの口の動きがより滑らかに!音声認識リップシンク「CRI LipSync」が「Animaze」に標準搭載

  6. 令和に新作ファミコンカセットを自作!その知られざるテクニック&80年代カルチャーを「桃井はるこ」「なぞなぞ鈴木」らが語る【インタビュー】

  7. 【レポート】VRロボゲー『アーガイルシフト』のロマンと没入感が凄い!男の子の夢、これで叶います

アクセスランキングをもっと見る