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【レポート】虚淵玄×水島精二×會川昇による超人鼎談…虚淵玄にとって正義とは?

虚淵玄×水島精二×會川昇「コンクリート・レボルティオ~超人幻想~」超人鼎談 ■ ほかでは出来ない脚本を書ける喜び ■ “ベトナム戦争”を題材とした第20話 ■ 超人を描くということ、多様性が重要

その他 アニメ
 
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現実の日本とは異なる歴史を歩んだ「もうひとつの日本」を舞台に、多彩な“超人”たちによる饗宴を描く『コンクリート・レボルティオ~超人幻想~』。第2期『コンクリート・レボルティオ~超人幻想~THE LAST SONG』では、豪華ゲストライターの参加が大きな話題を集めている。虚淵玄、辻真先、中島かずきと、いずれも“超人級”の作家達だ。
アニメ!アニメ!では、『コンレボ』制作陣と、ゲストライター陣との連続インタビューを企画。第3弾となる今回は5月22日放送の第20話「終わりなき戦い」の脚本を担当した虚淵玄と、水島精二監督、原作・脚本を手がける會川昇による鼎談を届ける。
アニメ・特撮を問わず、ひねりの効いた切り口で「ヒーロー」や「正義」を描いてきた虚淵だが、今回はどのようなヒーロー像を提示するのか? 『コンレボ』で描かれる正義をどう捉えているのか? 話を訊いた。
[聞き手:数土直志 取材・構成:沖本茂義]

『コンクリート・レボルティオ~超人幻想~ THE LAST SONG』
http://concreterevolutio.com/
TOKYO MX毎週日曜23:00より/サンテレビ毎週日曜25:00より/KBS京都毎週日曜23:00より
BS11毎週火曜24:30より

■ ほかでは出来ない脚本を書ける喜び

――まずは、虚淵さんが本作に参加されたきっかけからお聞きかせください。

虚淵玄氏(以下、虚淵)
『楽園追放 -Expelled from Paradise-』でご一緒したときに、水島監督から声をかけてもらったんですよね。

水島精二監督(以下、水島) 
ええ。「いま會川氏とこういう企画を進めてるんだけど、もしよかったら一本書かない?」と軽い感じで(笑)。で、よくよく話をしていると、虚淵さんは會川さんと接点があったみたいで。

虚淵
そうなんです。別件でお会いする機会があったのですが、會川さんと互いに盛り上がって、「この勢いで何かやりたいですね」と話していて。それで「『コンレボ』やっちゃいましょうか!」と、そんなノリでした(笑)。

――虚淵さんは、今回の企画を聞いたときの印象はいかがでしたか?

虚淵
最初、水島監督から「ヒーローもので『ウォッチメン』みたいな感じ」と聞いて「どういうことだ!?」って首をかしげたんですよ。

水島
あはは(笑)。

虚淵 
実際に放送を観てみると、「これはとんでもないシリーズがはじまったな」と驚愕しました。脚本の工夫の凝らし方も魅力なんですが、なによりも視聴者への理解力に対する信頼が凄いなと。「ここはご理解いただいているという前提で話を進めます」というスタンスですよね。書くほうとしてもけっこうハードルが高いなと思いつつも、「ほかではできない仕事をできる!」とワクワクしました。


――今回、虚淵さんは一本だけの参加となりましたが、同じゲストライターの辻真先先生のように「もっと書いてほしかった」というのもあったのでしょうか?

水島
虚淵さんの参加が本決まりとなったのは、かなり終盤だったんです。もし調整がついていれば複数書いてもらうことはありえましたね。もともと會川氏と「なるべくゲストライターに書いてもらいたい」と話していたので。

會川昇氏(以下、會川)
今のアニメはどれもそうですが、ゲストライターの方に自由に書いてもらえる回はシリーズの中でごくわずかしかない。「1話と最終話以外は別のライターさんが書いても大丈夫」という体制にできたら理想ですが、現実的には難しいわけです。昔のように最終回で新しい敵がいきなり出てきても許される時代ではないので(笑)。
『コンレボ』の第2期は、シリーズ構成として1話完結を基本としているんです。それには「ゲストライターの方に自由に書いてもらいたい」という意図がありました。


■ “ベトナム戦争”を題材とした第20話

――今回の第20話「終わりなき戦い」は、ほかのゲストライターの方と比べて、本筋や設定にものすごく寄せている感じがしました。

虚淵
それは後発だったからでしょうね。細かい設定や終盤の物語展開などほぼ固まっていたので、「物語も後半なので、この伏線拾っときますね」ということも出来たし、キャラクターのセリフも、後の展開を踏まえたものに出来ました。それと、會川さんのノベライズ(『超人幻想 神化三六年』)のネタを拾ってみたりもですね。

會川
虚淵さんはお若いので、気を遣ってくれたんだと思います(笑)。

虚淵 
いや、それはもう、「あるものは使いますよ」と(笑)。

――第20話は「ベトナム戦争」を彷彿とさせるエピソードですが、それを題材としたのは何故でしょう?

虚淵
會川さん、水島監督といろいろと案を出し合って決めていきました。ほかに最終候補として「ブルース・リー」と「パンダ」もあったんですけど。

會川
年表的に「昭和48、49、50年ぐらいしか舞台にできない」という前提があったんです。そのなかで虚淵さんの良さが活きそうなネタにしようと。僕自身は何を扱ってもらっても構わなくて、べつにブルース・リーでもパンダブームの話もよかったんです。
「ベトナム戦争」については、年表的にベトナム戦争終結のタイミングでちょうど良かったんですが、思想的な問題も絡んでくるし、現代においても多様な考え方があるので「けっこう大変だよ」という話もしました。ただ「帰還兵」の話はもともとやりたかったアイデアだったし、米軍基地が置かれた府中や調布は、僕や水島監督が子どもの頃に馴染み深い地域だったこともあって。

水島
僕は、府中の高校に通っていたんですけど、横田のほうにもよく遊びに行っていたんです。実際に基地に入ったことはないんですが、「フェンスの向こう側のアメリカ」というのはかなりのカルチャーショックでしたね。

會川
20話は、画的な見どころはどうですか?

水島
脚本では、真正面から取り込むとテレビシリーズ的に厳しい描写がたくさんあるし、素直に映像化してしまうとスタッフにも負担がかかる。そこを上手く逃げるための工夫が必要だなと。そこで、絵コンテを担当してくれた大久保朋くんに「邦画」というアドバイスをしたんです。邦画というのは、限られた予算のなかで工夫を凝らしますよね。「カメラはあんまり動かせないけど、そのぶん印象的な画を撮ろう」「全部の段取りを追わずに決定的な画でつないでいこう」など、そういった部分を見習おうと。結果的に、『コンレボ』ではあんまり見ないような印象的なフィルムに仕上がっていると思います。


■ 虚淵玄にとって“正義”とは?

――『コンレボ』のテーマのひとつとして「正義とは何か?」があると思います。そんななか、主人公・爾朗は理想を追い求め過ぎて、少し歪んでいるようにも感じる時もあります。虚淵さんは爾朗の正義についていかがですか?

虚淵
たしかに純粋ではありますよね。その純粋過ぎる正しさと、現実との折り合いをどう付けるのかで苦悩しているわけですが……ただ、「正義」とは原則で語るべきものではないと思います。理想と現実とのすり合わせのなかで、その人なりの正義が浮かび上がってくる。そういったイメージです。
すり合わせを間違えた人というのは、はたから見れば歪んでいて「悪」に向かって突っ走っているようにしか見えない……今回の第20話もそういう話ですよね。まぁほかでもそんな話ばっかり書いている気がしますけど(笑)。

會川
これまでの虚淵さんの作品を見ると、爾朗のように葛藤する時期を越えて、“向こう側”に行ってしまった人が主人公として多い気がします。

虚淵
たしかに。折り合いを付け切れなくなってしまったキャラクターは多いですね。

會川
では、今回、爾朗のようにいまだ葛藤しているキャラクターを描くというのは、居心地が悪かったのでは?

虚淵
いや、いつものように“向こう側”に行ってしまった人もゲストキャラとして出しているので。その彼に対する“映し鏡”として、エクスキューズを突きつけるポジションとして爾朗を描きました。なのでそんなに苦労はなかったですね。


――「昭和」をテーマとした作品ということで、虚淵さんにとっての「昭和」をお聞きしたいなと。

虚淵 
僕は昭和47年生まれなんです。『コンレボ』では終盤で描かれる時代ですね。なので懐かしさや情景もあります。ただ、今にして思えば危うい時代だったなと思います。

――危ういというのは?

虚淵
まさに爾朗が抱える危うさと同質なものといいますか……。まだグローバリズムが浸透しておらず、島国ゆえの純朴さで成り立っていた気がするんです。そういう危なかっしさと懐かしさがごちゃまぜになった時代ですかね。
『コンレボ』で描かれる風景は、実生活の名残りとしてありました。その頃流行った家電の型落ちディスカウントが家にあったり。子どものころ『ミクロマン』のオモチャで遊んでいた記憶があります。それぐらいの地続き感はありますね。

――虚淵さんにとっての“超人”は世代的に何でしたか?

虚淵
うーん、強いていうなら『ドラえもん』かなぁ。当時は特撮ヒーローの空白期だったんです。家にテレビがなかった影響もありますけど、ヒーローごっこをして遊んだ記憶はほとんどないですね。幼少期のヒーロー体験はほとんどなくて、小学校に上がってからようやく『ウルトラマン80』や『宇宙刑事ギャバン』が放送されたぐらいで。

水島
そんな年代なんだ。

會川
虚淵さんが幼少期を過ごされた、昭和50年から53年というのは、いろんなブームが巻き起こった時代なんです。『スター・ウォーズ』に由来する「SFブーム」、『宇宙戦艦ヤマト』の劇場版ヒットによるアニメブーム、それから「ウルトラマンブーム」もあって。なかでも子ども文化の「リバイバルブーム」が大きかったわけです。昭和46年にも同じくリバイバルブームはあって、つまり虚淵さんの世代は、僕たちが体験したリバイバルの次のリバイバルを体験しているということなんですよね。

虚淵
だから、頭のなかカオスでしたね。物心つくまで『スター・ウォーズ』と『宇宙からのメッセージ』がごっちゃになっていたぐらいで(笑)。



■ 超人を描くということ、多様性が重要

――以前の対談企画で、『コンレボ』をつくったきっかけに「何故あの時代はあんなにもたくさんの超人がいたのか?」という疑問が最初にあったと伺いました。その答えをお聞きしたいのですが……。

水島 
ふふふ(笑)。

會川
現実世界において「何であんなに超人が沢山いたのだろう?」ということに説明を付けるのは不可能なんです。そこをあえて「当時は好景気で小銭を持った人たちがテレビを買いやすかった」「それまでの巨大ヒーローに対して、等身大ヒーローはコストをかけずに制作できたから」と説明してしまうと……。

水島
夢がない!(笑)。

會川
他にもいろんな理由が考えられるし、分かりやすく「子どもをだしに金を稼ぎやすかった」と説明することも出来なくはないですが、べつにそれをこの作品で言いたかったわけではありません。むしろ、超人がたくさんいたことに意味があったのであれば、それをフィクションとしてメタ的に描きたかった。実際、『コンレボ』の世界においてなんでこんなに超人がたくさんいたのかは、ちゃんと説明しています。

水島
そうですね、結末もそこに行き着くようになっているし、僕たちが『コンレボ』をつくった意義もちゃんと提示できていると思います。

――たしかに昭和にはたくさんの超人が生み出されましたが、ここ最近も超人をテーマとした作品がかなり多いです。そんななか、超人をどのように描くのが正しいんでしょうか?

虚淵
「正しい」という考え方でやってはマズイ気がしますけどね。

水島
超人に対する捉え方も見せ方もさまざまで、「ひとつの正しいものを提示する」というのは良くない気がしていて。自分たちの素直な気持ちに帰結したり、僕たちなりの主張を多少作品にのせることはありますけど、やっぱり“多様性”という言葉に行き着いてしまう。
つくり手としては、「確固たる主張を受け取ってほしい」というよりも、物事を考えるひとつのきっかけとなってほしいし、作品で描かれたものを自分なりに紐解いてもらいたい。そういった意識で作品をつくっています。


――あらためて今回の第20話の見どころをお願いします。

水島 
僕は『楽園追放』で虚淵くんとご一緒したし、これまでの彼の作品を観てきたわけですが、それを踏まえても今回の脚本は、『コンレボ』の世界観に上手くハマりつつ、虚淵さんらしいに仕上がっているなと。脚本を受け取った我々も、その魅力をしっかりとフィルムに落とし込むべく制作しています。見ごたえのある一本のとなっていると思うので、ご期待ください。

會川
僕たちは爾朗というキャラクターを、主人公としてテーマを背負わしつつも、「彼が直接手を下してしまっていいんだろうか?」と躊躇してしまい“仲裁者”にし過ぎているきらいがあって。それが煮え切らなさにつながっている。そこへくると虚淵さんは、爾朗をゲストキャラの“映し鏡”として割りきっている。なので20話の爾朗は、ノビノビと主人公然としています。ヒーローらしい爾朗に注目してもらえたらなと。

――最後に、今回参加した感想を虚淵さん、お願いします。

虚淵 
ほかでは類を見ない企画といいますか、チャレンジングかつ志がある作品に参加できたのはとても光栄です。それにこのメンツに加われたというのは純粋に嬉しいです。本当に「後にも先にもこんなアニメはないんじゃね?」と思いますから。

水島 
後にはあってほしいなぁ(笑)。

――本日はどうもありがとうございました!  

虚淵玄×水島精二×會川昇「コンクリート・レボルティオ」超人鼎談 “虚淵玄にとって正義とは?”

《沖本茂義》
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