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【インタビュー】『ウィッチャー3』を日本に届けた男が語る“ローカライズ理念”とは…スタンスは「全て自分の目で見る」

『The Witcher 3』を日本向けにローカライズし、見事「世界同時発売」を成し遂げたスパイク・チュンソフトのローカライズディレクター本間覚氏にインタビューを実施。ゲーム翻訳に対する熱意を語っていただきました。

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「The Game Awards 2015」でのゲーム・オブ・ザ・イヤー(GOTY)受賞を始めとして、数多の賞に輝いたCD PROJEKT RED開発のオープンワールドアクションRPG『The Witcher 3: Wild Hunt(ウィッチャー3 ワイルドハント)』。その高評価と人気ぶりは海外のみならず、日本のゲーマーたちにも浸透し、ロングヒットを続けています。

Game*Spark/インサイドは、そんな意義ある作品を日本向けにローカライズし、見事「世界同時発売」を成し遂げたスパイク・チュンソフトのローカライズディレクター本間覚氏にインタビューを実施。日本版『ウィッチャー3 ワイルドハント』開発のためのポーランドへの旅、「日本語化Modder」という異例の過去、そして「ゲームローカライズ」への想いまで、今、あらためて語ってもらいました。



――まず最初に自己紹介をお願いします。「ゲームローカライズ」に携わった経緯や、初めて手掛けたタイトルをお聞かせください。

本間覚氏(以下本間): スパイク・チュンソフト 海外事業グループローカライズプロデューサーの本間覚です。海外PCゲームの日本語化Mod制作を個人としてやったのが「初めてのゲームローカライズ」です。大学生時代の話ですが、やってることは今とあまり変わらないかもしれません(笑)。仕事としてはPSPの『ミッドナイト クラブ:L.A. リミックス』が初です。RPGで言えば『セイクリッド 2』が初めてで、このタイトルでは、現スクウェア・エニックスでローカライズプロデューサーを担当されている赤石沢賢氏と共に日本語ローカライズを手がけました。

――『ウィッチャー3 ワイルドハント』は2013年夏頃に発表されていましたが、ローカライズはいつ頃からスタートしましたか?

本間: 2014年1月ごろですね。吹き替え音声は、主に2014年の初夏から秋頃に収録しました。手を付けたのは基本的には「会話」から。特に単体で完結する小規模クエストから始めていました。

――ポーランドにはどれくらい滞在しましたか?CD PROJEKT RED本社での作業工数についてもお聞かせください。

本間: 日本とポーランドを2往復してきたのですが、ポーランドにいた期間は合計で4ヶ月弱くらいです。CDPRローカライズチームとは非常に細かいところまで協力できました。普段だとメールかボイスチャットでしかできないやりとりをその場でできるというのは、非常にありがたかったです。


ワルシャワ市内に拠点を構えるCD PROJEKT RED。

――むしろポーランドで作業するからこそ大変だったことや、トラブルはありましたか?例えばカルチャーギャップとか。

本間: とにかく、冬場は超寒かったですね(笑)。開発が佳境を迎えると、テスト用PCが増えて電気消費量が大変なことになり、自分がいた期間だけでも3回くらい停電したこともあります。停電中に作業ができなくなったら、CD PROJEKT REDのスタッフはみんなトランプで遊んだりして時間を潰していましたね(笑)。


本間氏がポーランドで味わったという郷土料理。餃子の形をしたものは「ピエロギ」。
ファストフードの「ケバブキング」もおすすめなのだとか。

――ローカライズ作業の中で特に印象に残っている「キツかったこと」はありますか?

本間: やはり「規制」への対応ですかね。リークなどを鑑みた上で、CERO提出用ムービーもセンシティブに扱っていました。特に「性的な表現」が大変でしたが、3Dモデル担当やカットシーンチームと連携して、カメラワークなどを工夫していました。開発中に、ワールド内にどんどん娼婦が追加され、確認するのも大変でした。日本での作業だとメールなどで問い合わせる必要があるので、そういった手間がかからないのは大きかったです。

本間: そういえば、規制については「ブラジャー」の話をしておきます。国内版『ウィッチャー3 ワイルドハント』のキャラモデルの服の下は裸でなく、包帯のような下着が貼り付けてあるんですが、そこにも試行錯誤があったんです。CDPR側には“ニップレス”や“下着テクスチャーの貼り付け”、“隠すべき部位に光を当てる”といった提案をしました。「日本のアニメでは光で照らしてエッチなシーンを回避するんだ」なんて資料を作って解説したりして(笑)。納得がいかなかった方もいらっしゃるかもしれませんが、たとえば3Dモデルのブラジャーを着せるとなると、バグでブラジャーのモデルが表示されなくなるといったリスクもありましたから、弊社とCDPRの両方で同意して行った規制という点では、出来ることの限界だったという次第です。

――やはり、CDPRと密着した作業ができるのはとても大きかったということですね。「世界同時発売」の達成には感慨深いものがありましたか。

本間: そうですね。CDPRさんは誠意を持って動いてくれますし、各国の翻訳チームと平等に対応してもらえるというのも、自分にとっては革新的でした。


本間: 「世界同時発売」については、手前味噌で恐縮ですが、自分にとっても相当な功績でした。ただし、今後の作品で『ウィッチャー3 ワイルドハント』のローカライズと同じことができるか、と言われると、できると断言するのは難しいかもしれません。こちらが全力で取り組むのに変わりはありませんが、どうしても、開発会社のローカライズに対する考え方が根本的に違えばそれまで、という部分があります。

――『ウィッチャー3 ワイルドハント』や『Dragon Age: Origins』『Dragon Age II』以外では『テラリア』、最近では『クリプト・オブ・ネクロダンサー』のローカライズも手がけていましたが、本間さんご自身の趣味として、最近はどんなゲームを遊ばれてますか。

本間:最近はいろんなプロジェクトがありすぎて時間があまりなく、単純にやりたいゲームを遊ぶより、今なら『ディヴィニティ:オリジナル・シン エンハンスド・エディション(Divinity: Original Sin Enhanced Edition)』のようにローカライズ中の作品をやってしまいます。元々自分で楽しいと思って「日本語化Mod」を作ってきたので、休みの日も単純に「ゲームを遊ぶ」というよりはテキストを確認しながら遊んじゃいますね。ローカライズは趣味のひとつでもありましたから。


本間氏が現在ローカライズ中の『ディヴィニティ:オリジナル・シン エンハンスド・エディション』。

――もはや「ゲームで遊ぶのが楽しい」だけではなく「日本語化する」のが楽しい、とも言えるのですね。

本間: そうですね。『ウィッチャー3 ワイルドハント』も、もし国内でどこも翻訳しないのであれば「絶対に自分が日本語化Modを作ってやる!」くらいの気持ちがありました。ちなみに『ディヴィニティ:オリジナル・シン エンハンスド・エディション』も、可能な限り自分でプレイを重ね、「本」や「手紙」といったアイテムを網羅してローカライズのクオリティアップを図っています。これは日本語化Mod制作者の頃から同じです(笑)。

――本間さんにとっての「ゲームローカライズ」の“こだわり”や、貫き通していきたいスタンスについて教えてください。

本間: 翻訳するコンテンツを「すべて自分の目で見る」ことにはこだわっています。大ボリュームRPGのローカライズに初めて携わったのは『Dragon Age: Origins』でしたが、そのときは初めてということもあり、メインクエストのみ自分で翻訳を確認し、ほかは別のスタッフたちに任せるという手法をとっていました。ただ、やはりそれでは自分として100%満足のいくローカライズが達成できないため、『Dragon Age II』の頃からは、どれだけボリュームがあっても、全てのテキストや音声を自分で確認し、修正を入れていく、自分個人がすべてのローカライズに対して責任を持つという意志を貫いています。ボリュームが大きいRPGだと毎回死にそうになりますが、社内の新たなスタッフにも「可能な限り自分でやっていく」というスタンスを伝えていて、これからもみんなで良いクオリティーのローカライズを世の中に向けて届けたいと思っています。

――本間さんはなぜ「ゲームローカライズ」に携わろうと考えたのでしょうか。


本間: 自分がこの業界に入った頃は、海外のトリプルA作品ですら日本であまり発売されていなかったんですよね。スパイクは当時から洋ゲーを国内向けに発売してましたし、ゲーム業界の外から見てもそのようなアクションは必要だと感じてました。今となっては「良い洋ゲーが日本で発売される」というのも当たり前になりつつありますよね。当時は状況も違ったので、そういうところに貢献したいと思っていました。もちろん「洋ゲーが好きだ」という気持ちも大きな理由です。

――最後に、これからも「洋ゲー」のローカライズに期待する日本のゲーマーに向けて、メッセージをお願いします。

本間: 『ウィッチャー3 ワイルドハント』ではCDPRさんの力を借り、PS4/PS Vita版『クリプト・オブ・ネクロダンサー』ではユーザーフィードバックも参考にしながらローカライズを進めることができました。PCや家庭用機といったプラットフォームの垣根を超え、共に日本語で、より多くの人とゲームを手掛ける環境作りに貢献したいと思っています。

――本日はありがとうございました。



記事提供元: Game*Spark
《Game*Spark》
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