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【インタビュー】「シドニアの騎士」から「亜人」、さらにその未来…ポリゴン・ピクチュアズ塩田周三社長に聞く

2016年1月17日(日) 12時00分
塩田周三氏
塩田周三氏

2015年11月27日に劇場第1部『亜人 -衝動-』が公開された。桜井画門の人気コミックを原作に劇場アニメ3部作、そしてテレビシリーズを並行して展開する大型企画である。
本作は2Dテーストも盛り込み、CGの技術を駆使したデジタルアニメーションの映像でも大きな注目を集める。そのアニメーション制作を担当したのは、製作委員会にも参加するポリゴン・ピクチュアズである。
ポリゴン・ピクチュアズは、『スター・ウォーズ:クローン・ウォーズ』『トロン:ライジング』『超ロボット生命体 トランスフォーマー プライム』など海外向けのCGアニメーション制作で世界的な人気を獲得した。それが2014年の『シドニアの騎士』をスタートに、日本での製作に本格参入した。
なぜいま日本市場なのか、日本から世界はどう目指すのか、デジタルアニメーションの可能性は、そして映像配信はアニメビジネスを変えるのか、代表取締役の塩田周三氏にお話を伺った。
[取材・構成:数土直志]

「亜人」公式サイト http://www.ajin.net/
ポリゴン・ピクチュアズ http://www.ppi.co.jp/

■ 『シドニアの騎士』『亜人』を日本で製作したわけは?

――現在は劇場とテレビシリーズの『亜人』がまさに進行中ですが、ポリゴン・ピクチュアズの国内アニメは『シドニアの騎士』から本格参入しています。国内アニメのビジネスが続く中での驚きは、ポリゴン・ピクチュアズがなぜ日本の市場に参入したかです。既に海外で名前が知られていますし、競争が激しい日本市場は苦労も多いと思います。いま進出する理由は何ですか。

塩田周三(以下、塩田)
美しい戦略があったわけでなく、偶然としか言いようがありません。2011年に守屋(秀樹)がビジネスデベロップメント担当の取締役として入社したのですが、それまで日本市場が分かる人間が社内にあまりいなかったのです。その頃僕らは『トロン:ライジング(Tron: Uprising)』ですごく苦労してトゥーンシェード(*)を開発し、いい表現になったところでした。ここまでトゥーンシェードができるならアニメもできるんじゃないかと考えられていたところです。
ポリゴン・ピクチュアズは1983年に設立から受注仕事を一切しない時代が長くありました。一方で大規模なプロダクションをつくりあげたことから、制作ラインを埋めるための受注仕事もしなければいけなくなり、方向転換をしたのが2000年です。
ただ受注仕事は、どうしてもクライアント主導になります。これはある意味で危険です。そこで自身のライツ開拓をしようと何回か試み2005年頃に海外との共同開発を探りましたが、製作に至りませんでした。少し体力ができて、もう一回仕切り直そうとしたときに、ちょうど守屋が入ってきたのです。
*トゥーンシェード:3DCGで描いたアニメーションを手描きアニメーシ風に見せる技術。

――受注だけだと危険というのは、競争が増している、あるいは相手のニーズとのギャップが生じるといったことでしょうか?

塩田
エンタテインメントは水ものなので、何が重視されるかが都度変わるのです。例えばポリゴン・ピクチュアズが大きく成長した時は、世界ではボーイズアクション(*)の全盛期。各社がボーイズアクションに命運を懸け、予算をつぎ込もうとしていた時期でした。コメディーが全盛期だった後に、ボーイズアクションの時代だったのですが、それが過ぎるとまたコメディーです。これは僕らがいいCGの番組を作ろうが関係ない。そのぐらいコロッと変わるので、やっぱりこれは危険だよねと。
「日本でわれわれがIP(知的財産)の一部を持つこともあり得るんじゃないの」と守屋と話していた時に、『シドニアの騎士』の許諾をいただきました。これは奇跡的で幸せなことだったのです。
というのも、その時期にルーカスフィルムがディズニーの傘下に入り、『トランスフォーマー』を作っていたハズブロはスタジオの方針見直しで、番組を作るよりは番組供給だけに特化するといった方向転換がありました。
同時にアメリカでテレビは「ながら見」のコンテンツだとして、楽しめるストーリー、コメディーに戻っているわけです。そういう世界ではCGは要りません。
*ボーイズアクション:少年向けのアクション番組の総称

――2Dテーストが好まれる感じでしょうか?

塩田
CGの表現よりはもう少しビビットなものです。僕らはアメリカで「ハイエンドのテレビアニメシリーズだったらポリゴン・ピクチュアズ」という立ち位置を築いたんです。けれどもハイエンドなテレビアニメシリーズが突然なくなってしまいました。
そこで必然的に日本にフォーカスすることになった訳です。『シドニアの騎士』はちょうど決まっていましたが、そこに戦略的な裏付けがあったのではありません。

■ 海外とのコミュニケーションは、人と会って話すことから

――正直に言うと『シドニアの騎士』は、製作発表当初、採算をどうとるのか不思議に思いました。2000年代後半から日本ではエッジの効いたストーリーと映像で押していくアニメーションはビジネスとして弱くなっていると思っていたんです。そのなかで『シドニアの騎士』はかなり予算がかかっているように見えました。けれども、そこでNetflixが配信し、マスマーケットに近いターゲットを見据えることで、リクープ(*)が見える企画になりました。
*リクープ 製作投資の初期費用を回収すること

塩田
『シドニアの騎士』が立ち上がったときに、僕らも製作出資をすると決めました。日本の製作委員会は出資をすると同時にライツの一部を取得して、そこでビジネスをする発想です。どうやってリクープするかと考えたときに、僕らが一番強みのある北米のライツを考えました。
僕らはアメリカのマーケットを知っているし、コネクションもある。まず自分たちで動けるところから動いてみよう、誰もやっていないことをやってみよう、と。
日本のコンテンツをやるにしても、「CGが生きる」、「自分たちが面白いと思うものを」とピックアップした結果が『シドニアの騎士』でした。
例えてみれば『バトルスター・ギャラクティカ』の日本版だと考えました。このストーリーだったら海外のマスマーケットにアピールできるという思いがあったんです
とはいえ、マスにアプローチをするにしても、北米でテレビチャンネル放送されないのは分かっていたし、ビデオ(Blu-ray、DVD)が凋落しているのも分かっています。では、どうしたらといったときに、NetflixやAmazon、Huluと言った配信ビジネスがあったわけです。まずそこをターゲットにマーケティングしようと、手当り次第に電話して、知り合いの知り合いをたどって、Netflixに辿りつきました。Netflixさんとはすごく話が合いました。

――最初から配信を念頭に置いていたわけではないのですか?

塩田
そういうわけではないですね。正直そんなに選択肢がない中で、ちょうどストリーミング(配信)の波が来ていた。Netflix側も恐らくその時点でアジアに対する展開が視野にあり、キーコンテンツにアニメを視野に入れていたと思います。そこに、たまたま僕らがいた。『スター・ウォーズ:クローン・ウォーズ』や『トロン』でポリゴン・ピクチュアズの存在が知られていたというアドバンテージもありました。

――日本ではアニメが深夜アニメとキッズアニメで分けられて、『シドニアの騎士』や『亜人』も普通の人から見ると深夜アニメという枠に入るかもしれないです。でも実際はもっと一般性がある作品で第三の道を進んでいる気もします。

塩田
それはありますね。僕らが作るからには世界に流通できるものをと思っています。日本のアニメの予算からいうと僕らはかなり予算をもらっているわけですが、リクープするには日本の市場だけではどうしても成り立たない。他の収入を見つける必要がある以上、海外で流通することは視野に入れないといけない。

――Netflixが話題にはなっていますが、その中で日本の企業としては真っ先にNetflixと組みました。よかった点や、感じることはありますか。

塩田
Netflixさんは日本に来たばかりだから、彼らがどう日本でプレゼンスを作っていくかは時間がたたないと分からないと思います。けれども、僕らからすれば、大成功で感謝しかない。
アニメを作るうえで純度を保つことに対して迎合してこなかったから、僕らは何とか生き残れたと思うんです。それはどういう人たちと付き合うか、どういう企業と組むか、どういう作品を作るか、といったことだと思っています。それはこれまで一緒に仕事をしていたハズブロもそうですし、ディズニーもそうです。彼らも僕らのことが好きだし。
Netflixも今は定期的に会食をし、今後の話をします。彼らは日本にとってプラスになることを目指していると思うので、やっぱりすごく相性が合うんですよ。

――日本のアニメや映画を作り海外を目指す方は、海外のビジネスパーソンと密にコミュニケーションを取りたいと思いつつなかなか取れない状況がずっと続いています。塩田さんはどこが彼らと波長が合うんですか。なぜこんなに多く海外のビジネスマンとパートナーシップを組めるのか、すごく不思議に思っているんです。

塩田
すごく自然体です。普通に気が合って、飯を食いにいこうかという流れの中ですね。社内で「塩田は仕事をしない」と言われているんですけれども。(笑)
何かをやっているとしたら、夜に誰かと会って話す。外国へ出張に行ってもブレックファースト、ランチ、ディナーで人と会って話している。それだけなんですよ。
その対話の中で、業界がどうあるべきか、日本のアニメのよさは何か、業界で何が難しいか、僕はそれを語ることができる。やっぱり日本は海外から憧れられるところがあります。先人の方々がいろんなものを積み上げてきているから、心底興味を持ってもらえるし、コンテンツの宝庫だと思われている。けれども、日本へのアクセスが難しい状況があるなかで、僕はちょうどその中間にいることもあって普通の会話ができているということです。

■ 未来はポジティブ、日本のアニメ界の自己改革が起きるかが鍵

――大きな質問になるんですけれども、アニメーションはいま大変革期といわれることがあります。テレビ誕生、OVAの登場に続く3番目の波じゃないかと。アニメーションビジネスの現場に立っているなかで、実際に変わっていると思いますか。

塩田
日本のアニメーションビジネスは、ここ2年間ですごく変わっている気はします。ビジネス自体が変わっているかはともかく、変わろうという兆しは強く感じます。
そもそも僕らのようなデジタルアニメーションが受け入れられたのがまさに2年ぐらいです。『シドニアの騎士』が出てきて、『蒼き鋼のアルペジオ -アルス・ノヴァ-』があり、『楽園追放』『STAND BY ME ドラえもん』、いま『亜人』です。デジタルアニメーションが表現手法としてリスペクトを得るようになった流れです。
そして、ブルーレイ、DVD頼りだったビジネスのなかでNetflixという黒船が来て、必ずしも大きくない会社と組んで一緒に配信をする。こうした動きもちょっと前までは信じられない出来事じゃないですか。
ストリーミングが大きなレベニューストリーム(収入源)になり始めているのはもう実証されています。今後はそれが続くのか、これによって海外の展開はどうなるのか。変わろうとしているとすごく感じますけどね。

――クールジャパンのようなことが10年以上前に言われていて、でもいまひとつ花開かないところがあります。状況が変わることによって日本と海外はこれまでより近くになっていますか。

塩田
近くなり得ると思います。日本のアニメはリスペクトされていますよ。だから、それを出していきましょうという話がずっとあったわけです。けれども、問題は正規で流通する場所が今までなかったことです。日本の表現は大幅に編集しない限りテレビチャンネルにのせられませんでしたから。作ったはいいけれどもどこにどうやって流通するのかの「解」が示されなかったわけです。
僕が可能性があると思うのは、ネット配信が出てくることによって、どこで流通するのかという「解」は少なくとも見つかったことにあります。ユーザーが自ら選んで見に来て、しかもユーザーの年齢や背景を把握できる仕組みが出来上がりました。日本で配信しても、最初から多言語化対応さえしていれば届きます。みんながきちんと会費を払ってくれる可能性があるわけですよ。

――そうすると、未来にはポジティブな感じですね。

塩田
ただ、ポジティブな未来に対して、一方で日本のアニメ界の自己改革が起きるかどうかはやはり大きいと思っています。ポテンシャルが上がることに対して行動がついてくるかは大きなハードルになると思います。

――そうしたなかで海外とのビジネスを頑張ってきた、今は日本のアニメも作り始めた。次にポリゴン・ピクチュアズはどこに行くんですか。

塩田
戦略はその時々で変わります。新しい発見の中で軌道修正をするんです。日本でアニメーションをやっていて思うのは、日本は表現については本当に自由だと。これは日本ならではの土壌でなかなか他国には追い付けません。
長らく僕らは日本のピクサーになるんだと言ってきましたが、そのマーケットに入るのはやはり大変な状況があります。

――製作予算もかなり違います。

塩田
そうですね。だったら、僕らなりのピクサーたちに対する勝ち方は日本的な攻め方が現実的なんじゃないかと思っています。きちんとユニバーサルに分かり、大人も楽しめる日本的な表現を世界に対して出していく。そのマーケットは、日本の企業以外はほとんどプレーしていないので、これを市場として形成していく。それは各国のいわゆるおたく層からまず始まるのかもしれませんが、そこから少しずつ拡大していく。
次の一手としてはやっぱり日本のアニメの枠を超えなければいけない。すごく日本的だけれども、アニメという枠組みを超えたものを作っていかなければと思っています。日本のアニメ表現とCGならではの表現を大胆にミックスして新しい表現、内容を作っていきたいですね。そうすれば日本のアニメの既存のルールを超えることができるんじゃないかという気がしています。

――本日はありがとうございました。

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(原題:「シドニアの騎士」から「亜人」、さらにその未来 ポリゴン・ピクチュアズ塩田周三社長に聞く)
(Article written by アニメ!アニメ!ビズ/www.animeanime.biz)

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