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【特集】「屍者の帝国」からスタート、山本幸治チーフプロデユーサーが語る「Project Itoh」

夭折のSF作家・伊藤計劃。その作品が相次いでアニメ化された。プロジェクトのチーフプロデユーサーを務めるツインエンジン代表取締役の山本幸治氏に、伊藤計劃の魅力と映像化について伺った。

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夭折のSF作家・伊藤計劃。2009年にわずか34歳で世を去った伊藤が世に残した長編小説は『虐殺器官』『ハーモニー』の2本のみである。これに伊藤が遺した序文を盟友でやはり作家の円城塔が書き継いだ『屍者の帝国』も含めても3本に過ぎない。
しかし、没後も多くの人が作品に魅せられ、その評価は高まる一方だ。その伊藤の作品に惹きつけられたひとりが、プロデユーサーの山本幸治氏である。フジテレビのアニメ企画「ノイタミナ」で長らくプロデューサーを務めた山本氏は「ノイタミナ」の映画プロジェクトとして伊藤の3作品の同時アニメ映画化を進めた。
10月2日にはその第1弾となる『屍者の帝国』がいよいよ公開され、さらに11月13日に『ハーモニー』、その後『虐殺器官』へと続く。かつてない長編アニメ3作同時企画となる 。
プロジェクトのチーフプロデユーサーを務めるツインエンジン代表取締役の山本幸治氏に、伊藤計劃の魅力、多くの困難を乗り越えたその映像化についてお話を伺った。
[取材・構成=数土直志]

「Project Itoh」 http://project-itoh.com/

■ ノイタミナの挑戦、「Project Itoh」への挑戦、

アニメ!アニメ!(以下、AA)
山本さんはノイタミナのプロデューサーを長く務められました。そのなかでフジテレビが新しいアニメに挑戦することを掲げたノイタミナが一つの成功パターンを作りましたが、新たな挑戦として打ち出したのが劇場映画です。なぜ、次の目標が劇場映画だったのでしょうか?

山本幸治氏(以下、山本)
ノイタミナがまず30分枠で始まり、1時間枠になり、さらに発展するために何をやるべきかといった時に、劇場をやるべきというのは僕自身がチームに言ってきました。そこで「ノイタミナムービー」をやると戦略を打ち立てました。
でも、今はやはり挑戦が多いなと思う毎日ですね。テレビのほうがいろいろとやれることが多いですね。外からですとテレビは制約が多いと思われるんですが、実際はプロデューサーの決意次第ですから。それとノイタミナは長くやっており、お客さんは取りあえず作品を観てくれるというメリットがあります。

AA
ブランドとして「ノイタミナ」がインプットされていますからね。

山本
そうですね。取りあえずチェックはしておくか、という枠になることができているかと。映画はゼロからやるのが大変だなと改めて思っています。

AA
ノイタミナムービーは第1弾が『PYCHO-PASS サイコパス』としています。一方で、それ以前にノイタミナから映画になった最初の『東のエデン』、その後の『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』の成功が影響していませんか。

山本
そうですね。ただ、その頃はフジテレビの中でアニメ映画をやっていくという方針がなかなか出なかったんですよ。Project Itohを始めたときも、映画企画する部署ではありませんから、本来は許されてはいなかったんです。ただ、僕の提案を当時の上司が応援してくれて成立しました。
『東のエデン』のときはいろいろと波紋はありました。そのあとに『あの花』のようなテレビ総集編の映画、『PYCHO-PASSサイコパス』は完全オリジナルでしたが、テレビシリーズからと、ふたつが連続してうまくいったので、今はアニメ開発部もできて、映画をやっていく流れが強まっています。逆にフジテレビの方針が「アニメ映画をやっていくぞ」になっているので、僕が自分の会社で企画をやっていける背景にもなっています。

AA
映画企画を進めるうえで、驚かされたのは「伊藤計劃」の名前が出てきたことです。もちろんSFファンは大絶賛している作品ですが、正直一般的にはそこまで知られていたわけでないと思うんです。ノイタミナが映画に進むとき、その中のオリジナル企画がなぜ伊藤計劃だったのですか。

山本
逆に言えば、何かの小説大賞を受賞、ベストセラーが遂に映画化といったセオリーは実写邦画にはありますが、アニメの場合はあまり関係ないですよね。認知度で勝負という意識はあまりないですね。

AA
例えば人気のあるマンガ原作、あるいはライトノベル原作という企画も成り立ったはずです。リスクはそのほうが小さいかもしれません。それは考えられなかったのですか?

山本
今はノイタミナでもあるのですけれども、ライトノベル原作のアニメ化をずっとやってこなかったのは企画の差別化を常に意識してきたからです。僕は半歩先を行きたいと思っていました。フジテレビが主体でやるものが他の作品企画と一緒になったら意味がないですよね。ノイタミナが存在する意味がなくなりますし、社内に対しても業界に対しても求心力を持てなくなります。
ノイタミナには、これまでのアニメとは別の意義を探す旅がありました。そこはノイタミナの足かせでもあるのですが、その発想はずっとありました。伊藤計劃の持つポジションが、これと一致したことが理由かもしれません。



■ 3作品同時企画・制作の驚きとその理由

AA
SF小説は読まれるほうなのですか。伊藤計劃を超えても、ハードSFという選択がすごいなと思っています。そこは実は未開拓の原作の宝庫だと思えます。そのなかで「Project Itoh」が出てきた気がしました。

山本
むしろあまり読んでいません。ただSFはSFの論客が納得するような新しさを求める流れがあって、とても奥行のあるジャンルだと思っています。たぶんアニメ業界のプロデューサーは知っている人はよく知っていて、僕なんかより詳しい人はたくさん居ます。
カジュアルな本読みとして、僕が伊藤計劃に出会った最初は『ハーモニー』だったんです。SFを読むつもりで手に取ったわけではなくジャケ買いしました。その時はもう亡くなられているという情報は知っていました。

AA
プロデューサーから見た伊藤計劃の作品の魅力はどこにあります? 

山本
魅力を知ったのは、たぶん僕が最初に『ハーモニー』に引き込まれたことが大きいかもしれません。『ハーモニー』のよさは、キャラの負っている背景となる同調圧力、これに強い反発をして人を巻き込んで死のうとまでするキャラクターと優し過ぎる社会です。その強い構造ですね。テーマは深淵だけれども、手前にある同調圧力はすごくピンと来る話です。優し過ぎる社会、同時に時代がだんだん相互監視社会になってく、SFの先見性がとてもバランスよく入っています。
企画者の目線、監督の目線で企画の構成がバランスよく入っています。そこが作品の魅力です。映像化するのにやりやすいところですね。
もちろん映像をどうするか、SF世界の表現が難しかったり、作画要求度が高かったり、アニメとしての難しさはあるんだけれども、企画としては迷いませんでした。『虐殺器官』『ハーモニー』はとても物語の型とテーマとキャラの話が見えていたので、映画化としてはシンプルな物語が作れると確信はありました。逆に『屍者の帝国』は、2作品に比べ筋が込み入っているので、これを映画として本当にうまくできるかと映像化は迷いました。

AA
ビジネス的なことも伺わせてください。やはり今回の驚きは3作同時映画化です。プロジェクトとしても面白いし、アイキャッチにもなります。それは分かるのですが、通常だったら1年で1本といったかたちを考えると思います。今回の発想はどこから出てきたのですか。

山本
もともと3部作ではありませんし、1本目をやってすごく興業成績がよかったとして、そこから2本目をやろうとしても結局ゼロからの勝負になると思うんです。ですから最初から一本やって、様子を見てみようという発想はなかったんです。
企画として『ハーモニー』は、僕個人としては内心はやるつもりが最初からありました。一方で『ハーモニー』を見て引き込まれた人が『虐殺器官』を見ないというのは、たぶんないなと思っていました。同時に『虐殺器官』を読んで面白いと思った人は、絶対に『ハーモニー』も見ると思うんです。
どちらかで様子見をするような危険性があるのなら、そもそも手は出さないというのが正解だと思うんです。やるのなら両方をやって企画を大きくしたほうがインパクトも話題性も取れると思いました。


『屍者の帝国』 (C)Project Itoh & Toh EnJoe / THE EMPIRE OF CORPSES.

■ 苦戦した『屍者の帝国』のスタート、結果は予想を超えた傑作に

AA
先ほど『屍者の帝国』 の映像化は迷われたと話されました。逆に言えば迷われたポイントと、では最終的になぜ映像化を決断したのか教えていただけますか。

山本
『屍者の帝国』は、企画者の目線でいうと、筋とその設定の接合、キャラクターのドラマと社会世界のドラマの接合を見たときに映画の2時間、テレビシリーズでも難しいと思いました。
映像的というほど僕は映像を語れないけれども、ただ僕が映像化するときに拠り所しなければいけないと思っているところに合わない。最初は自分がこの企画を映像化することは絶対にないとさえ思ったんです。ただプロジェクトとして意義はすごくありました。伊藤計劃の遺稿を友人の円城塔さんが書き継いだもの。収益だけを追求するのはむしろ危ういとは思っていますから。そこで原作を変えるということを前提で映像化に踏み切りました。

AA
かなり大胆に変わってる部分もあります。

山本
そうですね。円城さんからは、好きに変えてくださいというオーダーだったんです。だったら伊藤計劃の残した仕事を探り直す覚悟があればできるし、それをやる覚悟がある監督であれば出来る。僕は確信がなかったけれども牧原亮太郎監督は「やれる」と言ったので、信じました。
牧原さんはすごく積み上げる監督なので、やれないことをやれるというタイプじゃないのも分かっていました。牧原さんが「やれる」と言っているのに僕が心配してもしょうがない。それぐらい本当に『屍者の帝国』は迷いましたね。でも、映像は非常に素晴らしいものになりました。そこは僕の計算を大きく超えています。やはり計算だけで、決めるべきじゃないなと思っています。


『屍者の帝国』 (C)Project Itoh & Toh EnJoe / THE EMPIRE OF CORPSES.
AA
『屍者の帝国』はロードムービーになっており、映画の定石でもあります。

山本
そうですね。牧原さんは絵描き出身である一方で、すごくシナリオを勉強しているんです。映画の鉄則をはめているんです。原作は3幕ものなのですけれども3幕に割るのでなくロードムービーにしようというのはプランニングの時点からありました。でもシナリオで描いていると、これがきちんとつながるのか、全然分からなかったんです。シナリオで40稿とかまで行ったんです。もう駄目じゃないかぐらいに思いました。
小さい矛盾というよりは、どうやると国や場面が変わった時の唐突感がないかとずっと研究していました。ワトソンが何をしたいかが分からないという話から、フライデーとの関係を新たに共同研究者として、ワトソンが研究者としての意思を継ぐとしました。これは円城さんと伊藤さんの関係と同じだよねと必然性を高めていきました。

AA
今回『屍者の帝国』と『ハーモニー』では山本さんが脚本でクレジットされています。これはここまで共同にやったということも含めてですか。

山本
そうですね。『ハーモニー』では僕が手を挙げたというよりは、僕がやることになったというだけなんです。『屍者の帝国』も何せ40稿に行っていますので途中で僕が引き取った時間帯があったということです。

AA
『屍者の帝国』が最初に公開されるということで、まず『屍者の帝国』が熱くなると思います。まずこの一作目の見どころはどこですか。

山本
本当にどこもレベルが高いです。特に見てほしいのは、美術。すごいです。相当レベルが高い。それと音楽。池さんが自分史上で一番いいと言ったぐらいです。WIT STUDIOの作画力もやっぱりすごくいい。作画にしろ、シナリオにしろ、積み上げ型の作り方をしているので全体的なレベルの高さもアピールしたいですね。

AA
どうもありがとうございました。   

「Project Itoh」 http://project-itoh.com/

『屍者の帝国』からスタート 山本幸治チーフプロデユーサーが「Project Itoh」のプロジェクトを語る

《animeanime》
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