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【レポート】舞台「東京喰種」 はエピソードを凝縮、濃密さを強調した作品に

高浩美の アニメ×ステージ&ミュージカル談義 ■ 強力なキャスト、スタッフで発表から大きな話題、チケット即日完売

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連載第129回
高浩美の アニメ×ステージ&ミュージカル談義
[取材・構成: 高浩美]

■ 強力なキャスト、スタッフで発表から大きな話題、チケット即日完売

累計発行部数1300万部突破の人気マンガ『東京喰種トーキョーグール』。石田スイのデビュー作、現代の東京を舞台に人の姿をしているが人肉を喰らって生きる”喰種(グール)”の物語である。14年7月にTVアニメ化され、2015年1月から3月は第2期として『東京喰種トー キョーグール√A』が放送された。

主人公の金木研は読書好きな平凡な大学生。小説をきっかけに好意を寄せていた少女・利世に話しかけられ、デートすることになったが、彼女は喰種だった。彼女に襲われ瀕死の重傷を負うが、その直後、利世は落下した鉄骨の下敷きになり、2人とも病院に搬送された。金木研は一命を取り留めたものの、嘉納という医師に彼女の臓器を移植される。手術後、今まで食べてきた食物が食べられなくなってしまう。そればかりか、人を見ると食欲をそそられるようになってしまう。半喰種になってしまった金木研。ここから人間として喰種としての苦悩が始まる……。
この作品は様々な問題を投げかけている。半喰種になったとたんに拠り所となる”世界”がなくなってしまうのだ。

金木研を演じるのはミュージカル『テニスの王子様』の2ndシーズンで越前リョーマ役で注目された小越勇輝が、この難役に挑む。霧島董香には田畑亜弥、子役時代から『レ・ミザラブル』ではリトルコゼット、『アニー』ではアニー役と主にミュージカルで活躍している。ミュージカル『薄桜鬼』の風間千景を演じた鈴木勝吾は西尾錦役を、宮崎秋人は永近英良役を演じる。
それ以外のキャストも実力派、先に公開されたキャラクタービジュアルはそのレベルの高さで話題になった。

演出は茅野イサム、舞台『パッチギ!』、劇団EXILE華組×風組『ろくでなしBLUES』『AKB49~恋愛禁止条例~』などストレートプレイからミュージカルまで幅広く手掛けている。また脚本はアニメに引き続き御笠ノ忠次が手掛ける。音楽は坂部 剛、『烈車戦隊トッキュージャー』のオープニングテーマ等の特撮やアニメ、ゲームの音楽等も手掛けている。話題作の舞台化、強力な布陣でチケットは即日完売、ファンの期待の高さが窺える。
そんな訳で京都公演千秋楽には映画館にて東京公演の千秋楽が鑑賞出来る、とのこと。チケットが買えなかったファンはここで観ることが可能である。

■ 人間としての理性と喰種としての”本能”の狭間で揺れる金木、小越が振り切った演技で熱演

グレーを基調にした舞台セット。物語のダークな世界を醸し出す。プロローグは主人公・金木研の幼い頃のシーン。両親を早くに亡くし、孤独で1人ぽっちだったことを印象的に観客に提示。しかし読書で、己の世界・居場所を作っていた。大学に入るが、同級生には幼なじみの永近栄良がいた。明るい性格の栄良金木にとってはありがたい存在だ。
よく行く喫茶店・あんていくには、コーヒーを飲みながら本を読んでいる女性が頻繁に訪れていた。名前は利世、彼女が気になる金木、ある日、声をかけられ、外で会うことになった。ところが、利世は喰種だった。彼女に襲われたが、その瞬間、鉄骨が落下し利世は絶命、救急車で搬送された2人、金木は利世の臓器を移植され、一命を取り留める。

普通の、ちょっと奥手で引っ込み思案な金木が利世の臓器を移植されたことで半喰種化する。苦悩と戸惑い、恐怖、その変化を大きな振り幅で小越が熱演。
プロジェクションマッピングを多用し、様々なことを映像に語らせる。単なる背景だけでなく、喰種の特徴的なシーン、補食や赫子の場面は衝撃的ではあるが、時にはそこにいるキャラクター達の深層をもあぶり出して見せる。

喰種は人を喰うことでしか命を繋げない。そんな喰種を駆逐しようとする集団。”人を喰う=悪”という単純明快な図式、喰種は見た目は人間だが、最大の天敵である。人間中心の社会にあって喰種は異端であり、忌み嫌われる存在、敵意をむき出しにして執拗に追う亜門鋼太朗たち。彼らの正義は喰種を撲滅すること、彼らにとっては絶対的命題だ。
物語を彩るキャラクター、蓮示やウタ、なにやら訳ありな様子、薫香は複雑な感情をにじませ、時には金木に対して”爆発”、根底の切ない感情を舞台経験豊富な田畑が好演。

ファンタジーでありながらも登場人物たちが持つ負の感情は誰しもが持っているもの。「自分たちは喰種なのだ」という事実は彼らを苦しめる。金木は半喰種になり、人間の世界にも喰種の世界にも居場所がないと叫ぶ。
しかし、あんていくのマスター・芳村が「(君は)喰種の世界にも人間の世界にも居場所がある」と諭す。捉え方によってポシティヴにもなる。その言葉に金木は救われる。そして金木は”成長”するのである。

重い、深いテーマ性を持った作品、エピソードはほとんどはしょられていない。長い物語なので、ほんの”さわり”の部分を舞台化しているが、その分、濃密な表現をしている。
人間としての理性と喰種としての”本能”の狭間で揺れる金木、その時には彼の身体の一部と化した利世が現れて「食べれば楽になる」等とそそのかす。もちろん、コミックにはこのような表現は出てこない。ここは極めて演劇的だ。そこに映像をかけ合わせたりする。アナログな手法とハイテクな手法の融合である。こういった表現は技術の進歩で可能になった点だろう。

また、登場するキャラクターの感情や存在感も、原作よりはっきりと提示。ライブ、生身の人間がキャラクターを体現しているからこそ、の凝縮された見せ方をしている。
ドラマ性をはっきりと出し、『東京喰種』の世界がライブで目の前で展開、出来る限りの方法で観客に提示する。舞台表現としては極めて意欲的だ。

ラストはあんていくでコーヒーを入れる金木と芳村、穏やかなシーンだが、その後の物語を原作で把握していれば、それはいっときの静けさにしか過ぎないのは先刻承知だ。
しかし、一瞬でも安らぎを得る金木。そんなささやかな”平和”は愛おしい。設定自体はあり得ないが、その根底に流れるものは普遍的だ。

なお、ゲネプロ前に囲みがあった。登壇したのは小越勇輝(金木研役)、田畑亜弥(霧嶋董香役)、鈴木勝吾(西尾錦役)、宮崎秋人(永近英良役)、浜田由梨(神代利世役)、村田充(ウタ役)、君沢ユウキ(亜門鋼太朗役)。キャストが登場したとたんに記者席から歓声が上がった。

見所に関して小越勇輝は「金木君の、普段の大学生の姿と、喰種になってしまったあとの悲劇をお届けできたらと思っています」と語った。
田畑亜弥は「大変人気な作品なのではじめはプレッシャーがありましたが、私たちが汗や涙やよだれや血、いろいろなものを流しながら(笑)発するエネルギーや匂い、息遣いを体感していただき、共有できるのは舞台ならでは」と言えば、鈴木勝吾は「この稽古が始まるときに、演出の茅野(イサム)さんから『2.5次元の作品はたくさんあるが、2.5次元関係なく、生身の人間がやる『東京喰種トーキョーグール』を届けたい』という思いをキャスト全員で受け取りました」と演出家の意図を話してくれた。

宮崎秋人は「永近英良として金木研の居場所になれればと思います。この作品では、それ1本に絞りたいと思います」と語った。出番は少なめだったが、”明るいヒデ”を演じていたのが印象的であった。
浜田由梨は「稽古中に『色気の“い”の字もない』と言われてしまったのですが(笑)、利世はそこがすごく重要なポイントだと思うので、利世らしく、自由に強く、色気を出していきたい」と抱負を口にしていたが、とりわけ、死んだ後に金木にまとわりついている様はなかなか怪しい色香であった。

ビジュアルで圧倒している村田充は「話題作かつ人気作、人気キャラクターということで、プレッシャーしかありません」様々な舞台で七変化をする君沢ユウキは「喰種にとって脅威になるのが亜門や真戸さんです。喰種は喰種で切なさやドラマがあるし、人間だって喰われてしまえば困る。喰種と人間、両者の切ないドラマがぶつかり合う作品だと思います」
また、君沢は「せっかくですからどっぷりつかって観ていただけるように、ぜひお客様も精神統一していらしてください」と笑わせた。浜田は「『身近に喰種がいたらどうなるんだろう』と想像して観ていただけたら」とコメント。鈴木は「原作ものは何本もやらせていただいていますが、毎回思うのは、もともと原作を愛している方にも好きになっていただきたいし、役者や舞台のファンの方にも、『東京喰種トーキョーグール』を愛していただきたい。いろいろなコンテンツをつないでいける存在でいたいです」と語った。
田畑は「私自身初めての経験がたくさんある作品で、毎日いろいろな感情が湧いています」とコメント。

最後に小越は「原作のおもしろさもたくさん詰まっていますし、僕たちが生身の人間でやる舞台のおもしろさもたくさん詰まっているので、楽しんでいただけたらうれしいです」と締めた。なお、君沢は「個人的に亜門になりきるために毎日生卵を6個飲みました(笑)」、この成果は劇場で確認して欲しい。

※宮崎秋人の「崎」は、旧字体、正しくは「大」の部分が「立」になります。

舞台『東京喰種トーキョーグール』
東京公演/7月2日(木)~8日(水)  AiiA 2.5 Theater Tokyo
京都公演/7月18日(土)~20日(月・祝)  京都劇場
http://www.marv.jp/special/tokyoghoul_stage/


舞台『東京喰種トーキョーグール』
(C)石田スイ/集英社 (C)舞台『東京喰種トーキョーグール』製作委員会

舞台「東京喰種トーキョーグール」 はエピソードを凝縮、濃密さを強調した作品

《高浩美》
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