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ゲームのナラティブはどうして議論がわかりにくい? 立命館大学ゲーム研究センターの研究員が徹底議論

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ゲームのナラティブはどうして議論がわかりにくい? 立命館大学ゲーム研究センターの研究員が徹底議論
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KANSAI CEDECで立命館大学ゲーム研究センターは「ゲームの『ナラティブ』がどうしてこれほど問題になるのか?」というパネルディスカッションを実施しました。セッションでは、ふだんゲームで当たり前のように扱われている「物語」や「物語体験」という行為について、「物語を体験するプレイヤー」との関係性の中で、あらためて捉え直すことの重要性が指摘され、さまざまな議論が展開されました。

登壇者は立命館大学ゲーム研究センター&国際大学GLOCOMの井上明人氏、立命館大学ゲーム研究センターの吉田寛氏、そしてユニティ・テクノロジーズ・ジャパン&慶應義塾大学大学院KMD研究所の簗瀬洋平氏です。このように議論は学術的なバックグラウンドから展開されたため、今ひとつゲーム開発者にとって腹落ちしにくい部分もありました。そこで本稿では内容を大ざっぱに整理しつつ、議論の概要についてレポートします。

物語論。ざっくりしたポジショニング


さて、ナラティブは欧米圏のゲーム開発者から輸入されてきた概念として、国内でも次第に注目を集めるようになりました。きっかけの一つがGDC2013で新設された「ナラティブ・サミット」です。これを受けてCEDEC2013でも「『ナラティブ』はここにある! 国産ゲームに見るナラティブとは?」と題したセッションが、ゲームデザイナーの遠藤雅伸氏と簗瀬氏によって行われ、議論がさらに深まりました。

もっともナラティブ自体は人文系・社会科学・経営・認知科学・計算機科学といったアカデミズムの分野から、近年では映画産業にいたるまで、さまざまな人がさまざまな立ち場で議論してきた経緯があります。井上氏自身もゲームの物語論について2000年代から研究や論文発表を行っており、この「ふってわいた」ナラティブ・ブームに、いささか戸惑いが隠せないそうです。

その背景にあるのが『風ノ旅ビト』のような、それまでのジャンルでは捉えきれない新しい物語体験をもたらすゲームの登場であり、一方で『グランセプトオート』シリーズのような、従来型ゲームの恐竜的肥大化だといえるでしょう。ストーリーはゲームの大きな差別化要因の一つですが、開発リソースが容易に肥大化する弊害ももたらします。その一方でインディゲームの中から、新しい物語体験の可能性が生まれてきました。これをどのように自分たちのゲームに取り込めば良いのか・・・欧米のゲーム開発シーンにおいて、こうした文脈があることは間違いないでしょう。

ここでポイントとなるのは「物語そのもの」ではなく、「人は何を物語と感じるのか」という、人と物語の関係性を俯瞰して捉えるアプローチです。すでにプレイした人ならわかると思いますが、『風ノ旅ビト』には明確なストーリーラインがありません。一方でプレイヤーはゲームプレイを通して、濃密な物語体験が得られます。そのためにはゲームもさることながら、人とゲームの関係をラジカルに捉え直すことが重要だというわけです。

はじめに井上氏は三枚の写真を見せて、「物語を作りたがる人の特性」について紹介しました。「バナナ」「サル」「バナナの皮」という写真を提示されると、誰に強制されたわけでもなく、人は「サルがバナナを食べた」という物語を作り上げ、その物語の中で写真を理解しようとします(もっとも、これも「バナナはサルの好物である」という一般常識があるからこそで、こうした常識がなければ、また別の物語が導き出されるかもしれません)。映像におけるモンタージュ理論なども、こうした人の特性をうまく活用した事例の一つだといえます。

もっとも、「ゲームにおけるナラティブ」については、まだ海外でも議論が少なく、発展途上であるのが現状です。ポイントは欧米のゲーム開発シーンにおいても「これまでのやり方では限界があり、その一方で新しい可能性がある」「しかし、それが何か具体的にわからない」「そこで、これまでにあるナラティブというフレームワークを活用して、議論を深めていこう」という動きがある。まずは、こんな風に理解すれば良いでしょう。



井上氏が「ゲームにおけるナラティブ研究」の一例として紹介したのが、ジェスパー・ユールの著書『ハーフリアル』における6つの分類法です。そこでは物語体験が「個々のゲームプレイによって生まれる一回性のストーリー」から「シナリオとして固定されたストーリーライン」、さらには「世界観」や「人生観」といったものまで、さまざまなレベルのナラティブが整理されています。いささか突飛な話かもしれませんが、舞台をMMORPGにおきかえれば、理解しやすくなるでしょう。



こうした大枠が示された上で、吉田氏は個々の事例の一つとして、大塚英志氏と東浩紀氏によってゼロ年代に行われた「ゲーム的リアリズム」論争を紹介しました。吉田氏は両者の議論は「物語と世界観の分離」「プレイヤーとキャラクターの乖離」「死の表現のリアリティ」など、ゲームの物語体験を考える上で本質的な問題を提起したが、いずれも小説というメディアの範疇での議論だったと分析。プレイヤーの実生活の中で、ゲームの物語体験をどのように位置づけるか(たとえば『たまごっち』や『なめこ』といった育成ゲーム系のナラティブなど)について、さらなる議論が求められるとしました。

一部繰り返しになりますが、ポイントはナラティブについての理解を深めることもさることながら、ナラティブという概念を用いて、いかにプレイヤーに対して魅力的な物語体験を(できれば低コストで)提供するか、そのヒントを提示するという点に他なりません。そのため「このゲームはナラティブか」という議論はそれほど重要ではなく、「このゲームは誰にとってナラティブか」「それはどのような手段で提示されているか」という議論の方が、より重要になります。



これについて簗瀬氏は『DARK SOULS』と『ドラゴンクエスト』を取り上げました。『DARK SOULS』では「何度もミスをして死に、そのたびにやり直しを要求される」というゲーム的な都合(=ルール)が、うまく世界観やシステムと融合しています。一方で『ドラゴンクエスト』の「死んでしまうとは何事だ」という有名な台詞には、メタ視点における物語とゲームシステムの分離がみてとれます。

両者は世界観とシステムとストーリーが互いに整合性をとることで、プレイヤーに没入感を提供している例です。『DARK SOULS』は直球勝負で、『ドラゴンクエスト』は一回ひねって、「ゲーム的なお約束」で逃げることなく、整合性を取ることに挑戦したというわけです。なぜなら人間にはそのように、個々の事象を(しばしば勝手に)関連づけて納得したがる特性があるからにほかなりません。このように日本では暗黙知的にナラティブを活用したゲームデザインが行われてきました。そこで、こうした議論をさらに深めていこうというわけです。

このほか質疑応答では「ナラティブの理解度はプレイヤーの文脈に依存するため、メッセージを効果的に理解させるための誘導や仕掛けが必要ではないか」という質問がありました。これに対して簗瀬氏は「ウラジミール・プロップの昔話の形態学や、レヴィ・ストロースの神話の構造のように、人類普遍の物語の構造が存在する」として、そこに符合する展開については薄く、外れる展開については説明や誘導を厚くするといいのでは、という見解を示しました。

ゲームエンジンとナラティブの融合についても質問がありました。これに対して井上氏は「物語自動生成などの分野と相性が良さそうだ」と回答。ほとんどのジャンルで物語自動生成は失敗しているが、例外的に機能しているジャンルとしてアダルト小説をあげました。このように、他にもジャンルを限定することで可能性が見えてくるのではないかと回答しました。

最後に吉田氏は「ゲームではプレイヤーの技量が問題になる。表現したい物語体験に応じてゲームシステムを構築していくと、初心者プレイヤーに対して十分にナラティブを表現できないジレンマに陥るのではないか」という質問がありました。これに対して簗瀬氏は「インタラクティブなシステムである点がゲームの特徴。物語体験の密度をプレイヤーの技量によって調整することも可能だと思う」と回答されました。
《小野憲史》

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