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あたたかいファンの声と愛情で実現!『ボクと魔王』ライブレポート

『ボクと魔王』のライブ「ボクと魔王 Lives ~After Story~」が、2014年12月9日に恵比寿天窓.switchで開催されました。

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『ボクと魔王』のライブ「ボクと魔王 Lives ~After Story~」が、2014年12月9日に恵比寿天窓.switchで開催されました。

『ボクと魔王』は、2001年にソニー・コンピュータエンタテインメントからPS2で発売されたRPGです。ひょんなことから復活した大魔王スタンに自分の影を奪われ、手下にされてしまう少年・ルカ。「今、この世界には自分以外にも魔王を名乗る“ニセ魔王”が多く存在するらしい」と知ったスタンは、ルカとともに、ニセ魔王を倒して真の魔王として君臨することを目指す……というストーリーです。コミカルなセリフ回しや、意外な展開を見せるシナリオ、そして音楽面が高く評価されており、発売から13年を経た現在でも多くのファンに愛されています。



今回のライブは、『ボクと魔王』を愛するファンの署名活動によって実現しました。チケットの購入希望者が殺到し、完売となったため、急遽2015年1月12日に追加公演が決定したほどの人気です(追加公演もチケット完売となっています)。本稿では、『ボクと魔王』を愛するファンの声に支えられた、あたたかいライブの模様をお届けします。

※この記事はライブの内容を詳しく紹介しています。追加公演に参加されるファンの方に配慮し、追加公演後の公開となりました。ご了承ください。

◆開演前から『ボクと魔王』づくし!




会場の恵比寿天窓.switch前に到着すると、すでに多くの『ボクと魔王』ファンが集まっていました。「ここにいる人たちは、みんな『ボクと魔王』好きなんだ…!?」とびっくりしつつ、うれしくなります。ふと会場の入口前を見ると、何やらパネルを持っている男性が。


“入口にはこうある。「これを見る者は、ここをボクと魔王 Lives After Story のライブハウスとして反応せよ」”。

ウィンドウの色やフォントまで再現されており、『ボクと魔王』ファンとしてはニヤリとせずにはいられませんでした。


さらに、会場に入ってすぐに迎えてくれたのは、オバケちゃん(ゲーム中、フィールドを漂うエンカウントシンボルのあの子)を模した赤いお花! “歯車ラブ!な子分一同”(ファンの有志)から贈られたもののようです。開演前からすでに、ファンの『ボクと魔王』に対する愛がひしひしと伝わってきて、温かい気持ちになりました。



階段を降り、受付を済ませ、ドアを開けるとそこはライブホール。ドア横にはドリンクの受付カウンターがあったのですが、そこでは、生粋の『ボクと魔王』ファンである紅茶専門家・牧山明仁さんによる創作紅茶「Marlene’s Tea」が振る舞われていました。『ボクと魔王』に登場するヒロイン、マルレインをイメージしたというその紅茶は、アールグレイとレッドベリーをベースにしており、甘みのあるやさしい味わいで、心も身体もあたたまりました。多くのファンがMarlene’s Teaを注文し、おいしい紅茶を堪能。牧山さんは、紅茶を給仕しながら、楽しそうにファンと『ボクと魔王』について語っていたのが印象的でした。



そして開演時間に、登場したのは『ボクと魔王』の音楽プロデューサーを担当した土井潤一氏と、ピアニストの野崎洋一氏。土井氏は、「発売から13年も経って、こういうライブができるとは思ってなかったです。こういう形で、僕の作った音楽がまた新しく蘇るというのは、すごくうれしい気持ちでいっぱいですね」としみじみと語られました。ちなみに土井氏は、今回のライブの来場者に女性が多く、想像していたよりも年齢層が圧倒的に若いことにとても驚いたそうです。また、土井氏からは、「今回演奏するピアノアレンジを、音源にできたらいいですね」という発言も。これにはファンから歓声が上がりました。筆者も、ぜひ楽しみにしています。

◆「ボクと魔王 Lives ~After Story~」プログラム


1. Theme of Madril
2. Theme of Lischero
3. Theme of Highland Village
4. Forest of Willkur
5. Sewer Dungeon
6. at the Bar
7. Wirepuller Building
8. Vampier Evil King Battle
9. Vampier Evil King Battle(Disadvantage Ver.)
10. Melody from the box
11. Marlene's Theme
12. Baroque-Dowaruk
13 Afterwards...

◆野崎氏の鮮やかな演奏で蘇る、『ボクと魔王』の世界




歯車の街・マドリルのテーマ曲、「Theme of Madril」から演奏は始まりました。打ち込みのリズムとともに、踊るように軽快な動きで楽しそうに演奏する野崎氏。聴いているこちらも楽しい気分になってきます。湖上の街・リシェロのテーマ「Theme of Lischero」は、原曲よりもゆっくりめなテンポでしっとり聞かせてくれました。高原の村・ハイランドのテーマ、「Theme of Highland Village」は、しっとりとした切なさにあふれていながらも、美しさと爽やかさのある旋律の1音1音が、会場に響いては消えてゆきました。

曲によって、野崎氏の演奏はまったく雰囲気を変えます。ウィルクの森の曲「Forest of Willkur」では、原曲の雰囲気に近い ――今にも軽やかなウサギや気弱なニワトリたちが出てきて駆けまわりそうなほどの―― 元気あふれる軽快なピアノプレイが堪能でき、一方マドリルの下水道の曲「Sewer Dungeon」の演奏では、不協和音を効かせることで、今にもツボのモンスターが襲いかかってきそうな、寒々しい雰囲気がひしひしと伝わってきました。吸血魔王戦の曲「Vampier Evil King Battle」では、エレキギターやドラムの打ち込みとともに、野崎氏もノリノリでピアノを弾きまくります。ルカたちのHPが残り少ない、不利な戦局で流れるバージョン「Vampier Evil King Battle(Disadvantage Ver.)」は低音が利いており、唸ってしまうほどのかっこよさでした。

古いオルゴールの曲「Melody from the box」では、実際のオルゴールをイメージしたような単音の演奏から始まり、だんだんと盛り上がっていく構成で、思わず聴き惚れてしまうほどの美しさ。『ボクと魔王』の世界の真実が明かされるシリアスなシーンで流れる重要な曲「Marlene's Theme」も、情感たっぷりに演奏されました。ラストに披露された「Afterwards...」は、ゲームのエンディングと同様に、盛り上がる曲調が見事にピアノで奏でられ、元気にしめくくられます。最後の瞬間、会場内は大きな拍手に包まれたのでした。

今回のライブで驚いたのは、なんといっても野崎氏のパフォーマンスです。前後左右に身体を動かし、ダイナミックな演奏を披露したかと思えば、繊細な指使いの超絶ピアノプレイを披露したり、時折足踏みでリズムを取ったり。変幻自在の野崎氏の演奏が作りだす上質な音空間に、観客はどんどん引き込まれ、酔いしれてゆきました。ピアノのほかにも打ち込み音源やシンセサイザーを使った演奏が交えられており、とても野崎氏1人で演奏しているとは思えないほど厚みのあるサウンドで、『ボクと魔王』の音楽世界を鮮やかによみがえらせてくれました。

また、演奏の合間に、野崎氏は「(観客の)携帯が鳴った時は、僕がピアノの音を小さくしますから…」とジョークを交えつつ、「リラックスして聴いてくださいね」と観客を気遣って話されていたのが紳士的で、印象に残りました。

◆土井氏が語る、『ボクと魔王』音楽制作秘話




野崎氏の演奏後は、土井氏のトークコーナーに。『ボクと魔王』の音楽制作当時の経験が語られました。

『ボクと魔王』のゲーム制作期間は5年ほどだったとのこと。ある日『ボクと魔王』のゲームプロデューサーから、「新作RPGがあるんだ。音楽と効果音を全部やってもらえないか」という話が来て、喜んで引き受けたそうです。

「ソニーさんのRPGということで、僕の勝手な思い込みで『アーク・ザ・ラッド』のような大作かと思っていたんです。『アーク』をイメージして打合せに行って、どんなすごいイラストが来るんだろうと思いきや、かわいらしいイラストで(笑)。打合せの段階ではイラストはある程度完成していたんですけど、動く絵はあんまりなかったんですよね。イラストや絵コンテやシナリオを見せてもらったんですけど、なかなか世界観が掴めませんでした」(土井氏)

土井氏がゲームプロデューサーに音楽の方向性を尋ねたところ、「ヨーロッパの中世的でもあるけど、でも無国籍な感じで」と言われたとのこと。「たしかに絵から想像すると言ってる通りだけど、実際それを音楽で表現するには……どうすればいいんだろう?と思い悩みました」と土井氏は当時を振り返ります。土井氏の事務所所属のクリエイター3人だけでは、予定曲数から考えて間に合わないと思い、信頼できるクリエイターを外部から3人集め、6人体制で作曲に臨んだとのことです。

「メインの作曲をした3人で打合せをしたんですけど、答えが出なかったんです。そこで、とりあえず3曲作ってみて、ゲームプロデューサーに、一番イメージが近いものはどれか聞いてみようということになって。その時最初に作った曲が「Emotional Universe」、「HigherBreath」、「The circus」です。それをゲームプロデューサーに聴いてもらったら、「いいね。すごくいいと思う!……でも、よくわからない」と言われちゃいました(笑)。でも、とりあえず進めなきゃいけないなと。納期もありましたし(笑)」(土井氏)

土井氏によると、『ボクと魔王』のゲームで実際に使用されたのは58~59曲ほどで、ボツ曲を含めると80曲以上を作ったとのこと。デモ曲を作ってゲームプロデューサーに聴いてもらう、作っては聴いてもらう……というやりとりを8~9か月ほどしていたそうです。ゲームプロデューサーのOKは頂いたものの、実際のゲームには採用されなかった曲もあったそうで、その中には、土井氏の中で名曲だと思っているのもあるのだとか(どこかで聴いてみたいですね)。

◆容量との戦いを経て、愛すべき作品に




土井氏いわく、最初に作った3曲「Emotional Universe」「HigherBreath」「The circus」と、オープニングムービーの曲(サントラで言うと、Disc1のはじめの2曲とDisc2の終わりの2曲)は、いわゆるJ-POPと同じような音源の作り方で、何も制約なく自由に曲を作ったとのこと。その4曲以外のすべての曲は、メモリの制限があったので、内蔵音源で作ったそうです。

「内蔵音源はとてもやっかいな制約があって……。なにが大変かというと、今の音楽は容量を何GBという大きな単位で使って贅沢に音を鳴らしていますよね。でも当時は、J-POPでも1曲500MBくらいの容量を使っていた時代に512KBという、本当に小さい容量で1曲ぶんの音楽を作っていかなくてはならなかったんです。あとPS2までは、同時に鳴らせる音が、効果音を含めて最大16音までしか使えなかった。実質、音楽で使える発音数は12音くらいで。すごく大変な作業でした。CDのメディア自体は良い音を鳴らせるんですけど、ゲームの内蔵音源ではCD本来の音質の音で鳴らせることは絶対になくて。どうすれば綺麗に鳴るんだろうと、試行錯誤をしながら作っていました」(土井氏)

当時はサウンドの発音数チェックの担当者がいたそうで、土井氏が作曲して「いい曲ができた」と思った曲でも、「土井さん、これ、1音多いから間引いてください」と言われ、「いや、簡単に言うけど、その音がないと成り立たないんだよね……」というやりとりをしたことも何度もあったとのことです。

「そういう制約があった中で、楽器の音でごまかしたりということはなく、メロディやフレーズにしても、アレンジにしても、なるべく無駄がないように作りました。というか、無駄ができなかったんですよね。そうやって自分たちを追い込むことで、良い結果に結びついたのではないかと思います。産みの苦しみはありましたけど、愛すべき作品になりました」(土井氏)

◆映像と音楽の密接な関係


土井氏によると、ゲームの音楽制作では「完成された映像に音楽をつける」というケースはほぼなく、大体映像が出来上がるのは予定よりちょっとずつ遅れていくとのことです。

「映像が遅れてるので、音楽の納期も延びるのかな?とか思っていると、音楽の納期は変わらなくて(笑)。ひたすらイラストや絵コンテ、シナリオを見て曲を考えるんです。でもそれは『ボクと魔王』が初めてじゃなくて。たぶん、そういうふうになっていくんだろうなと想像してたので、あんまりびっくりはしなかったですね。……きっと、いい音楽というのは、“その音を聴いた人に、映像を思い浮かんでもらえるようなもの”だと僕は思っているんです。BGMに限らず、歌もそうだと思っていて。そういう音楽がきっと届くんじゃないかなと思って、当時も今も音楽を作っています」(土井氏)

映像が思い浮かぶ、というのは、『ボクと魔王』のキャラクターだけではなく、もっと別のことでもいいんですと土井氏は語ります。

「たとえばハイランドの曲は、とても寂しい感じを出したかったので、僕なりに考えたすごく寂しい高原の風景を思い出せるように、というイメージで曲を作りました。映像と音楽はすごく密接な関係だと思ったので、まだ映像が出来あがってなくても、頂いた資料の中で、自分なりに映像をふくらませて音楽を作っていったんです」(土井氏)

土井氏のこの考えは、土井氏自身だけではなく、当時の『ボクと魔王』作曲チーム全員に、「なるべく自分の中に映像を思いながら、音楽作りに取り組んでくれ」と、共有したそうです。

「僕が今まで観てきた映画で、素敵だなと思った作品には、だいたい素敵な音楽がついているんですよね。どっちが先なのかわからないですけど。素敵な音楽があるから、映像もより素敵に見えているのかもしれないし。『ボクと魔王』のキャラクターたちは、ルカやスタンをはじめ、他にないオリジナリティがあって。ストーリーも他にないもので、愛着があります。たぶん、最初の打合せの時に資料を見た時から、僕の中でそれがじんわり沁みこんでいたんだなと思いますね。『アーク』のような大作ではないかもしれないけど、すごく心に沁み込んでいく、愛すべきキャラクターたちだなと思って。そういう映像があったからこそ、あの音楽ができたんだと思います」(土井氏)


◆“やさしく”愛されている『ボクと魔王』



「あと、今になって思うんですけど、ゲームプロデューサーも、ある程度僕たちを信頼してくれていたんでしょうね。ヨーロッパの中世的な、でも無国籍な……。そういう無茶振りをしていただいた結果、こういう曲が生まれたと思うので、プロデューサーには感謝しています。自由に曲を作らせていただいた結果、13年も経ってこうやって多くのみなさんに曲が愛されているというのは本当にうれしいことだと思いますし、クリエイター冥利につきます。『ボクと魔王』は本当に、長く深く、そして“やさしく”愛されている作品だなと今日あらためて実感しました。本当にありがとうございます」(土井氏)

土井氏は会場に集まったファンに、深い感謝の言葉を贈りました。続いて野崎氏に向かって、「僕の話で終わっちゃうのも何なので、最後に何か1曲…」と声をかけます。すると「せっかくなのでメドレーにしましょうか」という野崎氏の粋な計らいが!

野崎氏からアンコールに贈られたのは、Theme of Lischero ~ Theme of Highland Village~ Melody from the Box ~ Marlene's Theme ~ Theme of Madril のメドレーです。1音1音、丁寧に、心をこめた演奏を贈る野崎氏。最後の1音の余韻ののち、観客からは惜しみない拍手が送られました。

最後の挨拶で土井氏は、「『ボクと魔王』の続編はいろんな事情で難しいかもしれませんが、『ボクと魔王』のゲームや音楽はなくなりません。引き続きぜひ、『ボクと魔王』を長く、やさしく愛していただけるとうれしいです」とファンに呼びかけます。ファンのあたたかい拍手に包まれる中、ライブは終了したのでした。

◆おわりに




ファンの署名活動によって実現した、今回の『ボクと魔王』ライブ。原曲も素敵な曲が多いのですが、野崎氏のピアノプレイによって、いっそう色鮮やかに蘇ってきたという印象でした。土井氏のトークも、言葉のひとつひとつに『ボクと魔王』への大きな愛情が感じられ、ファンとしては嬉しい限りでした。また、会場入口前の「パネルを持つおとこ」の小ネタや、ファンの有志から贈られたオバケちゃん仕様のお花、牧山さんによる紅茶、そして集まったファンのあたたかい声援、どれをとっても『ボクと魔王』という作品へのあふれんばかりの愛情が感じられ、とても思い出深い一夜になりました。今回のピアノアレンジの音源化もぜひ期待したいところです。

なお、ライブ終了後、土井氏にお話を伺う機会を得ました。詳しくは『ボクと魔王』音楽プロデューサー土井潤一にライブ後直撃インタビューをご覧下さい。
《hide/永芳英敬》
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