東欧のアニメコンベンションの華は、コスプレだ。2日にわたる開催日に、それぞれ別の趣向を凝らしたコスプレ大会が企画されていた。1日目は「単体」のコスプレで、2日目は「パフォーマスン部門」。「単体」の優勝者はロンドンで開かれるユーロ・コスプレ・サミットの出場権を得る。
一方、「パフォーマンス部門」にはそのような上位大会はないが、寸劇を披露するのでショーの色合いが強く人気が高い。筆者は、2日目の「パフォーマンス部門」を見ることができた。
全9グループが登場し、それぞれ長くても5分程度のパフォーマンスを演じる。これらもほとんど「アニメ」やボカロから想を得ている。「NANA」の大崎ナナになりきって熱唱したり、初音ミク・巡音ルカとしてボカロ曲を歌ったりするストレートなものもあるが、興味深いのは「作品横断的」な演目が多かったことだ。
例えば、「とらドラ」VS「One-pieceのサンジとナミ」のカップル対決。文字通り高須竜児とサンジ、逢坂大河とナミが戦ったり、カップルどうしの「熱さ」を競い合ったりする。原作ではなさそうなサンジとナミのキスシーンまであるのが違和感!であったが、そこまで「妄想」して作り込んでいた。また「もてない男の願望」を具現化した(?)パフォーマンスでは、舞台上で次々に「モテる」男のキャラに早変わりしていく。「デスノート」の夜神月、「SAO」のキリト、といったふうに。
こういう「横断」は、結構、ファン層がニッチになっている感のある日本では成立しにくいかもしれない。そもそも、「コスプレ・パフォーマンス」というものがさかんとはいえないことを差し引かなければならないとしても。
コンペティションは、非常に盛り上がり、会場からは「カワイイ!」「ヘンタイ!」などの日本語が飛び交った。「やめて、おにいちゃん!」などと野太い男の声が急に響き、なにか異次元にたたき込まれた気分になりもした。なお「ヤオイ」という言葉を連発している女性がおり、意味を問うとどうやら「BL」とほぼ同義に使われているようだった。
会場を見て歩きつつ、気がついたことが一点。
日本では非常に支持されている作品でも、ぽっかりと抜け落ちて、まったく存在しないかのようなものがある。受けいられている作品と、そうでない作品が、かなり「まだら」になっている。極端なのが「エヴァンゲリオン」だった。さんざん探し回ったが、コスプレイヤーもグッズ販売も二次創作物も見つけられなかった。
主催者と雑談する中で、そのことを話題にすると「まさにそうなんだ」と言われた。背景には、アニメ文化の歴史の浅さと、古いファンと新しいファンの乖離などがあるようだ。
古くからのファンは「エヴァンゲリオン」を知っているが、絶対数が少ない。一方、21世紀になってからの新しいファンは、「エヴァンゲリオン」のテレビシリーズがなかったこともあって、ほとんど関心がない、というふうに。
主催者の中でも最古参のダン・コムサに聞いたルーマニアのアニメ・ファンダム史は、ざっくりとこんなふう。
まず、前史は──
「80年代後半、まだ共産党政権下だった頃、「火の鳥2772」を映画館で見た記憶がある。90年代になると「ペリーヌ物語」「花の子ルンルン」「キャンディ・キャンディ」がルーマニア国営放送で放映されたが、それが日本のものだという認識はなかった」
ヨーロッパが舞台の「日本のアニメ」はしばしば、メイド・イン・ジャパンの刻印を意識されることなく流通する。例えば、「アルプスの少女ハイジ」がスイス作品だと思っているヨーロッパ人が結構いるように。
では、「日本のアニメ」が、ただの"Cartoon"ではない存在感を得たのはいつ頃なのか。
「90年代にケーブルテレビでManga Zoneという日本のアニメ中心の放送枠があった。それで「ドラゴンボールZ」が放送されたあたりがひとつの転換点。さらに、1999年から2000年、大学のキャンパスでブロードバンドが使えるようになったのが大きかった。国民の5パーセントしかネット接続できず、ほとんどダイアルアップだった時代に、一部の大きな大学ではブロードバンドが使えた。そこで、ハンガリーのFTPサーバー経由で日本のアニメに出会った人が初期のアニメファンになった。「エヴァンゲリオン」や「カウボーイ・ビバップ」などがさかんにダウンロードされた」
その後、2003-04年にかけて、一般にもブロードバンドが普及し、ネットでのアニメ・コミュニティは増えていく。これまで、分散した小さなファンの集まりだったものが、次第に「ルーマニアのアニメ好き」としての求心力が発生する。
「今のファンダムができた直接のきっかけは、2006年5月。ブカレスト市中央にある書店"Caruresti"ではじめて、アニメファンのミーティングを開いたこと。人が入れ替わりやってきてはアニメについて話をするゆるいミーティングだったが、1日でのべ数百人が参加した。そこで、その年の10月に最初のオタク・フェスティバルを開いた。そして、翌年、ニジコンも新たに立ち上げた」
今では、ニジコンもオタク・フェスティバルも数千人の集客力を持つイベントに成長している。ニジコン2014に関しては4000人ほどの来客があった。潜在的には5000人くらいを見込めるファン人口がいるという。
目下、「古いファン」と「新しいファン」の嗜好の違いが大きくなっており、求心力が弱くなっていることが心配の種だという。1999年-2000年の「ハンガリーのFTPサーバ」世代と、その世代が立ち上げたコンベンション以降の世代では、知っているアニメ、愛好するアニメも違う。ニジコンについて言えば、主催者側には「古いファン」が多く、参加者側には「新しいファン」が多い。「鋼の錬金術師」や「犬夜叉」を原体験的に語るのは「新しいファン」で、十代の頃にケーブルテレビで放映されたということも大きく効いているようだ。
実質的には21世紀になってから始まったルーマニアのアニメ・ファンダムは、今、拡散の時代を経て、世代交代の時期にもさしかかろうとしている。そういう頃合いなのだった。
ルーマニアも日本アニメイベントNIJIKON2014レポート -大会の華はコスプレ-
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