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任天堂は安易にスマホゲームに手を出さない。「先」を見ると人間・健康だった ゲームアナリスト・平林久和氏

任天堂は安易にスマホゲームに手を出さない。「先」を見ると人間・健康だった ゲームアナリスト・平林久和氏

2014年1月31日(金) 09時31分
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    平林久和氏

任天堂の3期連続赤字決算。そして1月30日に行われた経営方針説明会について、多数の新聞社、通信社からの取材にお答えしました(読売新聞社、共同通信社、ロイター通信等)。ここには、所感メモという形で私なりに感じたことを記述します。

■どうして任天堂は赤字になったのか。その原因は?

まず前提として、任天堂が経営危機になったかのような一般紙報道が目立ちますが、違和感があります。過去3年間だけではなく、過去10年間も見るべきです。2014年3月期通期の予想売上高は5900億円ですが、この額は2000年から2006年の売上高を上回ります。

http://www.nintendo.co.jp/ir/library/historical_data/pdf/consolidated_pl1312.pdf

上記リンクを見ればわかりますが、2007年、2008年、2009年、2010年、2011年の売上高が突出して高くなっています。この並外れた好業績期の上積みが消えたのが現在です。つまり任天堂の経営状態が悪くなったのではなく、過熱した時は去ったのだ、と冷静にとらえています。

しかしながら、売上高が過去3年間で下がったのは事実です。その原因ですが、任天堂、ゲーム業界に限らず、世の中の出来事のほとんどは要因が複合的にからまっており、どの角度から何を言うかは難しく、短いコメントで言い切ることはできません。多くの人がスマホの普及。サードパーティのソフト不足、任天堂自社タイトルの開発遅れ等を指摘しています。おそらくこれらは要因のひとつでしょう。

私は別のことを述べますが、第一にハードの設計思想が結果的に斬新性を欠いたのだと思います。ニンテンドー3DS、Wii Uの製品名が示す通り、ニンテンドー3DSはニンテンドーDSの、Wii UはWiiの延長線上にある製品(名)です。両機ともゲームボーイ(アドバンス)からニンテンドーDSに、ゲームキューブからWiiに生まれ変わった時ほどの驚きを消費者に与えていません。過去10年間、任天堂は競争相手が多いレッドオーシャンを避け、競争相手が少ないブルーオーシャンを進む戦略をとってきました。この戦略は正しかったのですが、いつまでも同じ青い海にいて安泰ではいられません。2009年をピークに、ブルーオーシャンから得られる収穫が減ってきました。

第二に海外市場では今の任天堂にとって好ましくない変化が起きています。この数年、特に北米市場でコンソールゲームといえば、写実的な描写のFPS(一人称視点のガンシューティングゲーム)というイメージがますます定着しました。任天堂的な、非暴力・デフォルメキャラクターのゲームがヒットしにくい環境になっています。いわば、日米ゲーム文化摩擦のような現象が起きています。この文化ギャップをどう埋めていくかは、現在のみならず、任天堂の長期的な課題になるでしょう。

■経営方針説明会で発表された内容についての感想は?

説明会開催前、私の周辺のマスコミ関係者、証券アナリストたちの多くは「任天堂もスマホゲーム出せ」と主張していました。浅はかな考えだと思いました。ガチャで良い武器が買える『ゼルダの伝説』、ガチャでモンスターを集めるポケモンが出れば、一時的には儲かるでしょうが、いろんな意味で終わりです。理由はいちいち説明しません。岩田社長は当然ながら、この考えを否定すると予測していましたが、実際にその通りになって安心しました。

私は、ガチャでモンスターを集めるポケモンが出ることは大反対ですが、企業経営の一般論から見ると、任天堂はもっと商品群を増やすべきだと考えています。任天堂は現在5000億円超の、2009年には1兆5000億円超の企業ですが、この企業規模のわりには商品アイテムが少なすぎます。トヨタには豊富な車種とグレードがあります。食品メーカーは同じ商品でも甘口と辛口を用意しています。それに比べると据置型ゲーム機、携帯ゲーム機、それぞれの対応ソフトだけでこの売上規模を維持、また拡大していくのは無理があります。

商品を出せば市場のリーダーになる。またサードパーティから入る製造委託費(ロイヤリティ)という見えない収益があるのが、80年代にできた任天堂の経営体質ですが、そろそろ変化させるべき時が来ているのではないでしょうか。

そういう意味で、1月30日に発表された「人々のQOL(クオリティー・オブ・ライフ)を楽しく向上させるプラットフォームビジネス」。その第一歩として、健康をテーマにした新規事業は新しい商品群を生む可能性があります。どんな商品になるのか岩田社長は具体的に言及しませんでしたし、受け取ったマスコミ・証券関係者もピンと来ていない様子ですが、私は人間・人体・生活のビッグデータ化を連想しました。脈拍、脳波、心拍数、歩数、睡眠時間、摂取カロリーなど。人間のカラダはデータの集合体です。このデータを任天堂がどうやって調理してプラットフォーム化するのか。私の頭の中では夢が広がっています。

その他、スマートデバイスの活用、NNID(ニンテンドーネットワークID)の一元管理、キャラクターIPの積極的な活用などが発表されましたが、これらは他の企業もやっていることなので、良いとか悪いとかの感想はなく中立的です。

平林 久和
株式会社インターラクト代表取締役/ゲームアナリスト
1962年神奈川県出身。青山学院大学卒。ゲーム産業の黎明期に専門誌の創刊編集者として出版社勤務。1991年に起業。現在に至る。著書、『ゲームの大學(共著)』『ゲームの時事問題』など。デジタルコンテンツ白書編集委員。2012年にゲーム的発想(Gamification)を企業に提供する合同会社ヘルプボタンを小霜和也、戸練直木両名と設立、同社代表を兼任。俯瞰的であること、本質を探ることをポリシーとする。

(Article written by 平林久和)

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