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盛り上がりみせる自主制作ゲーム・・・関係者による合同座談会で今後の展望について聞いた

今年のTGSでは、インディーゲームコーナーが設置され、自主制作ゲームに関わる状況がますます盛り上がっています。そして、そうしたシーンを支えるイベントも多数登場。今回はイベントの主催者が集まり、自主制作ゲームの将来について語りました。

ゲームビジネス その他
合同座談会の模様
  • 合同座談会の模様
  • ウェブテクノロジ 浅井維新氏
  • 七邊信重氏
  • ユニティ・テクノロジーズ・ジャパン 大前広樹氏
  • D.N.A.Softwares 江崎望氏
  • 東京ロケテゲームショウ 大澤範之氏
  • ドワンゴ 伊豫田旭彦氏
  • IGDA日本 小野憲史氏
小野:一方で自主制作ゲームの開発者の方は、ミドルウェアやゲームエンジンのメーカーに期待することはありますか?

江崎:個人向けのライセンスを出してくれるだけでありがたいとは思っています。こういうツールが整ってくると、あとはどうやってノウハウを共有するかが課題だと思っています。というのも、自分でゲームエンジンを作った時に、一番困った事はマニュアルまで作る余裕がなかったことです。それでマニュアルの同人誌を作ったのですが、その評判はなかなか良いものでした。なので新しいツールやミドルウェアをみんなで使い方を共有したり、同人誌なりを作って広げていけばいいですよね。僕たちは以前、エフェクトツールのBISHAMONの同人誌も出しました。

大澤:そうですね。法人としてはサポートに問い合わせるところを、今はFacebookなどで情報交換ができます。そういったコミュニティ作りやノウハウの蓄積を後押ししてくれれば助かると思います。

小野:その点、ユニティはコミュニティにも積極的に顔をだして、有形無形でサポートしていますね。

大前:今年は冬コミにも出展するのですが、それはみんなの近いところに居たいという意識があります。というのは、ツールに対する親近感みたいなものが、採用率に関わると思うからです。特にコミックマーケットにおけるコミックスタジオの普及の仕方などを参考にしています。

小野:みんなの身近にいるということと、ツールの親近感というのは良い話ですね。ウェブテクノロジではユーザーコミュニティとの付き合い方について、どう考えていますか?

浅井:とりあえず呼ばれたらいきます(笑)。今年はインディーライセンスを公開し、アカデミック版が軌道に乗ってきたこともあって、ワークショップとかを増やしたいなって考えています。また実際にツールに触れる方がどんな気持ちで使っているかも、SpriteStudioの開発陣にフィードバックしていきたいなー、と。

小野:ドワンゴはゲーム関連のコンテンツを運営していますが、そういった点でミドルウェアのメーカーさんに希望などありますか? ニコニコ自作ゲームフェスにはメーカーの企業賞が多いと思いますが。

伊豫田:メーカーの企業賞が多いのは、ツールごとに分断されているコミュニティを統合したかったからです。なので、第1回はHSPやWOLF RPGエディターやRPGツクールといったコンテストを主催しているツールメーカーに声をかけました。第2回は、窓の杜やねとらぼといったゲームを広げていくメディアに声をかけました。ツールに期待していることは「プログラムや素材を作れなくてもゲームが作れること」です。多くの人は絵を書く、プログラムを組む、ゲームをデザインするというゲーム制作に必要な要素の1つしかできません。ツールがサポートすることで、どれか1つできればゲームが作れる状態になっていると、結果として多くの人がゲーム制作に参加できると思っています。

小野:自主制作ゲームと企業の関係について、まだまだ可能性が広がっていきそうですね。

七邊:同人を中心とするゲーム自主制作の文化は、1990年代半ばくらいまで、産業との関わりが密接にありましたが、それはいったん途絶えてしまいました。一方で、アメリカでは、Modなどに見られるように、自主制作者やインディーと産業は非常に近いところで交流し刺激を与え合っているように思います。日本もそれと同様な感じになってくると、交流を通じて、新しい発想を持つゲームや多彩な人材が生まれてくるのでは、と思います。

今井:基本的にはミドルウェアやツールなど、開発者側の環境はもう整備されつつあり、その点は目まぐるしく良くなったと思います。私が今後の課題として考えているのは、面白いゲームをどうやって発見するかということです。そして、面白いゲームが発見された場合、そのクリエイターを育てたり、才能を発揮できる場所やキャリアパスをどうつくるか。このためには、良いゲームをもっと紹介する人がいるべきだと思っています。もちろん、ニコニコ動画などではCGM的な盛り上がりとして人は集まりますが、そこでの盛り上がりは、ゲームとしてのクオリティよりも、コミュニケーション重視というかネタ的なものが多いとは思います。そういったものだけではなく、商業作品の中でも評価されるような日本のインディーゲームが本当に登場するのか。さすがに『マインクラフト』のようなヒットは無理だと思いますが、少なくともXbox Liveアーケードでインディーゲームがヒットしたような事例が、今後の日本でも見られるのか。それが課題だと思っています。これは開発者やミドルウェア提供者だけの努力ではなく、発掘したり応援したりする人の力にかかっているとは思いますが。

■自主制作ゲームの今後

大前:いわゆるネタ的に盛り上がっているけど、そういうゲームより「良いゲーム」が重要なんじゃないかという話ですが、僕は逆だと思っています。商業作為の中でも評価されるような「良いゲーム」を選んでいくと、どうしても今の商業の世界で成功しているようなもの、過去に面白いと思われていたもの、つまり過去の価値観で面白いものに寄っていってしまう。ニコニコ動画などで盛り上がっているゲームこそ、まさに今の価値観で面白いものだと思います。面白さに関しては、ユーザーの方が正しく、僕らがこれが面白いとか、この文脈にそうものが発見されるべきだとか考えるのは、本質的に間違っていると思っています。そのため、現在盛り上がっているものを肯定するところから始めた方が良くて、僕自身もクリエイターとしてはそちらのほうに興味があります。スマートフォンでもそれまで第一線でやってきた多くのゲーム開発者がソーシャルゲームの面白さが理解できなかったけど、ユーザーはいち早く大変盛り上がってましたよね。今でこそほとんどの開発者がその面白さを認識していますが、かなり時間がかかったと思います。なので、ユーザーは本質的に面白さに関して、ゲーム開発者より正直だし、敏感だと思っています。

伊豫田:僕ももっとユーザーよりになっていくべきだと思っています。例えば、ゲームマーケットでは実際にその場で遊んでもらわないと、お客さんが逃げるわけです。遊ぶのに10分も説明が必要なゲームは、遊んでもらえません。その結果、クリエイターが「わかりやすく面白いゲームじゃないとダメだ」と気付いて、進化していきます。昔は自分が作りたいゲームが多かったですが、今はお客目線のものが増えています。

大前:概ねの即売会では、申し込むとほとんど当選しますよね。でももっと選考されたり、お客さんの残酷な目線にガンガン触れる場所が必要かもしれません。誰でも出せる場も必要ですが、ピラミッドの頂点のような目標もあって良いと思います。

大澤:僕はそれが東京ゲームショウであるべきだと思っています。そこを目指す人達が研鑽するのがロケテショウであればいいかなと思っています。

七邊:今回の東京ゲームショウのインディーゲームコーナーでは、50団体の枠が用意され、43団体の応募があったためすべての方が当選されました。

江崎:デジゲー博としては、選考するのは大反対ですね。それは簡単な話で誰が何の権限があって選考できるのかということに尽きます。

七邊:つまり、誰もが参加できる草野球のような場所があっても良いし、一方で甲子園のような選抜の場があっても良い。両方あるのが大事だということでしょうね。

小野:では、最後に一言ずつ抱負を語っていただきます。

大澤:ロケテショウはファースト・ステップだと思っています。ロケテショウに参加した後、TGSに出展したり、他のコンテストに応募したりしていただければと思います。今回は、いろんな人がいろんなゲームをきちんとテスト出来る環境を整えていきたいです。プレイする立場では様々なゲームがあるので、先取り感覚で楽しんでほしいです。

江崎:デジゲー博は交流の場として機能してほしいです。そして、二回目以降もできるようにがんばっていきます。冬コミどころではないほど、サークルとしての活動がほとんどできなくなりましたが、それでも誰かやらなきゃいけなかったことだと思っています。目標はまずは2年継続。次は5年継続、10周年記念とかできればいいなと思っています。キャリアパスとかではなく、ただゲームを作りたい人が友達と交流できるような場所になればと思っています。

伊豫田:これまでのイベントはクリエイター支援が中心に思えたので、もっとゲームを遊ぶ人中心のイベントを作っていきたいです。なによりも自作ゲームは面白いので、もっと遊ぶ人が増えたら良いですし、様々な遊びかたを楽しむカルチャーが成長すると良いと思っています。第二回も傑作良作が投稿されており、いつでも無料であそべます。ぜひともプレイしてください。

大前:来年はインディーズゲームフェスできるのかな(笑)。今回やってみて思ったことは、これまでクリエイターの味方として様々な活動を行ってきましたが、同時に遊ぶ人との橋渡しの機能も必要だと感じました。今回が成功だったかは別として、この体験を整理して次に繋げたいなと思います。

浅井:インディー向けのライセンスを提供始めたので、これからゲームを作る人が増えていって欲しいです。「俺でも作れる」というような人が増えてきて、将来、クリエイターとして羽ばたくような人が出てくるようにツールを磨いていこうと思っています。

七邊:自分は2000年代初頭半にTYPE-MOONさんの『月姫』、フランスパンさんの『MELTY BLOOD』などの同人ゲームに感銘をうけましたが、2000年代を通して、同人ゲームのレベルは上がり続けてきました。一方で、制作や流通における課題が色々見えてきたので、その解決策を自分たちなりに提案し、一部を実現していくことができればと思っています。あとは自主制作物の売上で生計を立てられる、インディーの方たちがこれから日本でも分厚く形成されるかどうかを今後調査して、研究会などの形で制作者の方たちにフィードバックしていくことができれば、と考えております。

今井:プレイヤー側としては面白いゲームが出てくるのを期待していますが、面白いゲームをどうやって探すか、見つけるか、紹介するかについて今は考えています。それは基本的にメディアの役割だと思っています。現在はたまたまインディーゲームが盛り上がっているということで各メディアが取り上げてくれていますが、これからもインディーゲームについて取り扱ってくれることを期待しています。また、実況プレイヤーやブロガーなどがフックアップしたものからヒットが生まれる状況も見てみたいですね。

小野:今日は長い間、ありがとうございました。
《今井晋》
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