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【CEDEC 2013】人の実力を越えた先に何がある? 「どうなるどうするコンピュータ将棋」

【CEDEC 2013】人の実力を越えた先に何がある? 「どうなるどうするコンピュータ将棋」

2013年8月24日(土) 22時23分
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CEDECでは例年ゲーム業界だけでなく、周辺領域の知見の呼び込みのために、さまざまなコラボレーション企画セッションが開催されています。初日の8月21日には情報処理学会GI(ゲーム情報学)研究会の主催で、パネルディスカッション「どうなるどうするコンピュータ将棋」が開催されました。会場では伊藤毅志氏(電気通信大学)のモデレートのもと、コンピュータ将棋界で活躍する開発・研究の第一人者3名が登壇し、現状と見通しが共有されました。

パネリストはコンピュータ将棋界で革命をもたらした『Bonanza』の作者で、電気通信大学の保木邦仁氏。『Bonanza』と並ぶ実力を持つ『Ponanza』の作者で、iPhoneアプリ『将棋ウォーズ』の作者でもある、HEROZ株式会社の山本一成氏。はこだて未来大学教授で、長年コンピュータ将棋などの研究にたずさわり、人工知能研究の第一人者として知られる松原仁氏が登壇。はじめに保木氏がコンピュータ将棋を巡る現状を整理し、山本氏が開発者としての立場から講演、松原氏が近未来の見通しを示した後、議論が行われました。

2012年に開催された第1回将棋電王戦で、将棋ソフト『ボンクラーズ』が米長邦雄永世棋聖に113手で勝利。2013年の第1回では5vs5の団体戦でコンピュータ将棋がトップ棋士(A級棋士)を含むプロ棋士に対して3勝1敗1分けで勝ち越すなど、ここ数年のイノベーションには目を見張るものがあります。2014年春には第3回の開催が決定し、プロ棋士が挽回するのか、はたまたコンピュータ将棋が連勝してプロ棋士に引導を渡すのか、今から熱い注目が集まっています。

もっとも、コンピュータ将棋は人間を越えることを目標に進化を続けてきました。そのためプロ棋士に勝利すると、研究目標を見失うことにもつながりかねません。一方でチェスでは1997年にIBMが開発した専用スーパーコンピュータ『ディープ・ブルー』がガルリ・カスパロフに勝利した後も、さらなる改良が続けられています。はたして日本のコンピュータ将棋研究は今後どこに向かうのか、ある研究分野が一つの節目を迎える中でのパネルディスカッションという、非常に興味深い内容だったといえるでしょう。

■コンピュータ将棋をめぐる現状と開発の動機、そして見通し

はじめに保木氏は、近年のコンピュータ将棋のイノベーションが、ハードウェアの進化を背景としてもたらされたと整理しました。保木氏が開発した『Bonanza』も、ある局面ですべての差し手を検索し、最適な一手を選び出す思考ルーチンがベースとなっています。かつてはハードウェアの限界から現実的ではありませんでしたが、2000年代後半になって可能となりました。さらに今日では局面の深く広い探索や、大規模機械学習、分散並列化などの技術で、コンピュータ将棋の実力がさらに向上。「チェスのように人間を越える日が、すぐそこに迫ってきている」(保木氏)といいます。

一方、自らも将棋五段という山本氏は「東大に入ったが目標を見失ってしまい、ふとしたことでコンピュータ将棋の開発にハマッた」ときっかけを披露。最初はフォルダとファイルの区別すらつかないほどのパソコン音痴でしたが、「なんかすごそう」(山本氏)という理由で自作の将棋ソフトに『Bonanza』ならぬ『Ponanza』と命名。以後めきめきと頭角を現し、今年のコンピュータ将棋選手権で『Bonanza』に続く準優勝となりました。ちなみに山本氏にとってコンピュータ将棋の開発は「趣味」とのことで、会場のゲーム開発者に向けて「皆さん、プログラムを楽しみましょう」と呼びかけていました。

最後に松原氏は「人工知能研究の題材としての将棋の役割は終わりつつある」と話し、数年以内にコンピュータ将棋がプロ棋士を凌駕するという見方を示しました。その上で人間以上にコンピュータ将棋を強化していくのも一つの手だが、それよりも他の方向性をめざすべきだとして、「将棋の新しい定石を見いだす道具としての活用」「人間とコンピュータがペアになって将棋を指す『アドバンスド将棋』」「対極を通して人間の癖や実力を見抜き、うまく手加減をする『接待将棋』」「外国人向けの教材」などの可能性を示唆。さらに今後、人間を越えた人工知能と付き合う上での試金石にもなると語りました。

■三者三様のコンピュータ将棋に関する見解

もっとも、コンピュータ将棋がプロ棋士の実力を上回ったとしても、そこに本当の意味での「知性」が宿ったわけではありません。「コンピュータ将棋と人間との違い」について、保木氏は「コンピュータ将棋の強みは疲れたり、飽きたり、凡ミスをしたりしないこと。逆に相手の陣形にあわせて有効な戦略を構想し、それに従って戦略的に攻めるといったことはできない」と回答。山本氏は「チェスでコンピュータが人間を上回っても、そこからコンピュータの弱点を突くなどして、人間側が粘る期間が10年くらいあった」と説明し、しばらく拮抗が続くという見方を示しました。

これに対して松原氏は「お二人とも世界最高峰の将棋ソフトの開発者なので謙虚だが、自分はもっと楽観的」とコメント。入玉や稲庭戦法(時間切れで引き分けを狙う戦法)などコンピュータ将棋が苦手とする局面においても、コンピュータ同士で対戦させて自己学習させるなどして、近い将来克服できると語りました。

また「コンピュータ将棋が人間を超えた後も開発のモチベーションは続くのか?」という問いに対しては、山本氏が「今のハードウェアレベルでは、手筋の完全解析は現実的ではないため、研究テーマにはなり得ない。一方でチェスについては、今もなお研究が続いているが、目的が分かりにくい。コンピュータ将棋が人間を越えた後も開発を続けられるかどうか、自分にはわからない」と回答がありました。

これに対して保木氏は「子どもの頃、『ドラクエ』をクリアした後もレベル上げを楽しんだ。同じように強さを極めていくのは趣味として楽しい」とコメント。現在も『三目並べ』『25パズル』が人工知能の論文で題材として登場するように、テストケースの題材として将棋は残っていくと語りました。松原氏は完全解析は数学的・科学的命題の解決としては意味があるが、そこから人間の幸せにつながるような、工学的成果は得られにくいのではないかとコメント。違う方向性をめざしたほうが良いのではないかと語りました。

最後に「コンピュータ将棋の将来への期待について」という問いについて、「コンピュータ将棋が今後も研究者を熱中させる題材になるか否かはわからないが、計算機でここまでできるという達成度の物差しや、教育の題材として残っていくと良い」(保木氏)、「自分にとってコンピュータ将棋は楽しい趣味なので、今後もいろんな人が参加して、楽しめると良い」(山本氏)と述べました。最後に松原氏は「人とコンピュータ将棋は『対決』から『協調』するフェーズになってきた」とコメントし、有用な道具の一つとして、将棋界の発展に貢献していきたいと語り、パネルのまとめとなりました。

(Article written by 小野憲史)

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