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東広島から日本のRPGで世界を狙う!E3にも出展したケムコの戦略に迫る

ゲームビジネス その他

東広島スタジオ所長 黒川雅臣氏
  • 東広島スタジオ所長 黒川雅臣氏
  • モバイルビジネス推進部 丹田真裕氏
  • モバイルビジネス推進部 黒木めぐみ
  • 左から黒川氏・黒木氏・丹田氏
  • 壁には英語版のポスターがかけられていた
  • 広島大学にほど近い東広島スタジオ
  • フィーチャーフォン向けアプリは「ケムコ帝国」で配信中
  • ついにスマホ向けRPGが30タイトルを達成
昨年のE3から2年連続で独自ブース出展を果たしたケムコ(コトブキソリューション)。今年も「THE JRPG:EVOLVED.」と題して、スマートフォン向けのアプリが出展されていました。タイトルラインナップも、シリーズで初となる3DCGが特徴の『アルファディア ジェネシス』をはじめ、『無限のデュナミス』『白銀ノルニール』『マシンナイト』『盟約のソリテュード』と日本風のRPG(JRPG)がずらり。AAAタイトル中心の大手ブースとは別の意味で、目を引く内容となっていました。

コンソールのAAAタイトルと、スマホ向けカジュアルゲームの二極化が進む昨今。さらにカジュアルゲームといっても『Candy Crush Saga』などのように、基本プレイ無料のF2Pタイトルがトレンドとなっています。一方で同社のタイトルは若干のアイテム販売要素はあるものの、基本は落としきりの有料ゲームが中心。コンテンツもJRPGと、かなり絞り込んだ内容です。さらに同社は本社が広島県呉市にあり、開発スタジオも東広島にある地方メーカー。二重・三重にクエスチョンマークが広がります。

はたして「地方メーカーが」「スマホの有料アプリで」「JRPGを」「海外展開する」狙いはどこにあるのか? 東広島から世界を狙う同社の戦略について、たっぷり伺ってきました。

■参加者
株式会社コトブキソリューション 出席者
黒川雅臣(モバイルビジネス推進部次長 兼 東広島スタジオ所長)
丹田真裕(モバイルビジネス推進部)
黒木めぐみ(モバイルビジネス推進部)

■コンソール、フィーチャーフォン、そしてスマホで海外展開

―――今日はよろしくお願いします。二年連続でE3にブースを出展されて、しかもタイトルがスマホ向けのJRPGで、さらに地方メーカーということで、たいへん気になっておりました。無理を言って取材にお伺いした次第です。

黒川: そうですね。実際、非常に特異な会社だと思います。

―――はじめに「ケムコ」というブランド自体は昔からありますが、ユーザーの世代によってイメージが違います。簡単に御社の紹介をいただけますか?

黒川: そうですね。もともと弊社は広島県呉市で1984年に創業したコトブキシステムという会社から分かれて、2004年に独立しました。コトブキシステムの親会社にあたる企業は鉄鋼業をやっています。

新しいビジネスを立ち上げたいという当時のオーナーの思いもあり、せっかくコンピュータで何か作るのなら、誰も挑戦していなかった「ゲーム」を作ろう! ということになり、任天堂さんとライセンスを結ばせていただき、この業界に参入することになりました。それが約30年前のことで、ケムコというブランドもその時に誕生しました。もっとも自分自身も今年34歳ですから、当日の話は上司から聞かされた程度なのですが。

―――自分の世代ではやはり『スパイvsスパイ』というイメージです。

黒川: ありがとうございます。そうですね、当初はファミコン向けにゲームを販売していました。もっとも実際は、海外のパソコンゲームをファミコン向けに移植して国内で販売するビジネスが中心でした。その中で一部のゲームを海外にもNES向けとして逆輸出していんたんです。それだけではなく、RPGの『インドラの光』など自社開発したゲームもいくつかありました。そんな風に、家庭用向けにいろんなゲームを出してきたというのが、コンソール時代のケムコでした。

ただ2000年移行、次第に家庭用ゲーム機でゲームを出すのは、尋常ではない開発費が必要になってきまして。ビジネスが厳しくなってきたんです。一方でiモードをはじめ、次第にフィーチャーフォンのアプリ市場が拡大していき、KDDIさんから最初にお声がけいただきました。ただ、もともと海外ゲームの移植ビジネスが中心だったので、版権の関係で既存IPをフィーチャーフォン向けに移植するのが難しかった。そこでオリジナルゲームを出す必要に迫られたんです。自分が入社したのも2001年で、まさに移行期でしたね。

そうした中で2003年にリリースしたモバイル版『インドラの光』が爆発的にヒットしまして。ああ、RPGはモバイルでも売れるんだと。そこからずっと、RPGというジャンルを攻めているという状況です。今現在でフィーチャーフォン向けのゲームポータル『ケムコ帝国』では100本以上、スマホ向けでも30本のRPGをリリースしています。

―――スマホ向けアプリにも乗り出されたのはいつくらいですか?

黒川: App Storeと同時期の2008年ですね。ただ、海外向けに売るんだったら、RPGじゃないほうがいいだろうなあと思って、最初は『エアロバティックヒーロー』というフライトシューティングを出しました。東京ゲームショウでも展示したんです。ところが、これが日本でも海外でも厳しい状況でして。

―――あらっ。

黒川: 一方で自社のフィーチャーフォン向けRPG資産をスマホでも活かしたいという思いがありました。そこでいくつかアプリを試すなかで、2010年に『シンフォニーオブエタニティ』をスマホ向けに移植してリリースしたんです。すると日本でもそこそこヒットしたんですよ。ではアメリカでもローカライズして出してみようということで。そこから本格的に、RPGアプリ中心のケムコがはじまった、という感じです。

―――フィーチャーフォンはわかりますし、App Storeもわかりますが、そこでアメリカというのが・・・

黒川: もともと弊社はコンソール関連の事業で海外企業とおつきあいがあり、海外に事務所をかまえていた時期もありましたので、海外展開にさほど抵抗はありませんでした。また『エアロバティックヒーロー』のテキスト量が少なかったこともあり、せっかく海外に売れるようになったのだから、とっかかりとして良いだろうと。フィーチャーフォン時代もパートナー企業と組んで、海外展開を模索していたんですが、けっきょく市場が不透明で、うまくいかなかったんですよ。もっともアメリカのアプリを日本にローカライズしてリリースする、といったことはやっていましたね。

―――そういう意味では、App Storeが登場して、やっと海外展開できるようになった。

黒川: そうですね。ただ『シンフォニーオブエタニティ』の海外展開で課題となったのがローカライズ費用でした。テキスト量が多いため、翻訳会社に見積もりをとったところ、とても高いんですよ。そこで翻訳会社をとおさずに、直接ゲーム翻訳家の方とやりとりできるような体制を作りました。詳細は企業秘密なんですが、だんだん体制を拡充していって、今では毎月1本ずつRPGを海外向けにリリースできるようになりました。

■東京と違って地方にいると、周囲の雑音が気にならない

―――御社の規模はどれくらいですか?

黒川: 東広島スタジオには社員25名、アルバイトが十数名ですね。ゲーム事業についてはこれだけの人数で内作タイトルと、協力会社さんとの共同タイトルを回しています。本社および東京支社のシステム開発事業にも70人以上のエンジニア等がいますので、あわせて100人以上です。

―――数十名くらいのモバイル専業企業だと、東京ではほとんどソーシャルゲーム開発が中心になるのですが、御社は違いますね。

黒川: 一時期mixiさんでやってみましたが、ちょっとうちのポリシーと違うなと。もともと弊社はスタンドアローンの売り切りスタイルでやってきました。今は若干アイテム課金も入っていますが、基本的に「終わり」のあるタイトルしか作ってきていません。そこで他社とは違う方向でいいかなと。

―――なかなか、そう潔くなれないんですよ。東京では固定費も高いですし。

黒川: それはあるでしょうね。家賃ベースで数倍違いますし、人件費も割高ですから。また東京だと周囲に流される雰囲気もあるんじゃないでしょうか。

―――そうですね。一時期は良く挨拶代わりに「ソーシャルゲームはやらないんですか?」と言われていました。今なら「ネイティブアプリはやらないんですか?」でしょう。周りから言われ続けているうちに、焦りが出てくるところがあります。

黒川: それはそうでしょうね。でも我々は地方だから、あんまりそういう情報は入ってこないんですよ。もちろん東京に出張に行くと、そういう話も耳に入ってきますが、ちょっと僕らのファンとは違う層に売っているよなと。そこでmixiアプリで1タイトル出したところで、きっぱりやめました。もっとも、おかげで大儲けはできていませんが。

―――いやいや、いまは国内市場が縮小している中で、どの企業も生き残りをかけて必死です。そうした中でいたずらに流行にのらずに、自社の強みに特化して、一方で海外市場にもきちんと展開されているところがすごいなと。

黒川: ローカライズ費用がある程度おさえられる目処が立ったこともありますが、それよりも国内のスマホ市場だけでは厳しかったからなんですよ。今でさえスマホの所持率は半分くらいだと思いますし、当時は今よりももっとフィーチャーフォンが中心だったので、スマホアプリをやるなら海外に出ないとダメだと最初から思っていたんです。日本人全員がある時、一斉にスマホに乗り換えてくれれば良かったんでしょうが、そうはいかないですよね。だったらお客さんの数を増やす以外にないなと。

―――フィーチャーフォンとスマホの売上比率はいかがですか?

黒川: だいたい半々くらいで、そろそろスマホの方が大きくなり始めています。うちはApp StoreよりAndroidの方がおしなべて売り上げが高いんですよ。また無料アプリではなく、有料アプリで勝負しています。そこも他社さんと違うところではないでしょうか。単純に皆さんの逆をやっているだけなんですよ。ただ他社さんと同じ土俵に乗るのであれば、まず上場して、広告宣伝費を目一杯かけて、ソーシャルゲームをどんどん投入して・・・というふうに、なっちゃうんじゃないかなあ。

―――確かに東京では、そっちをめざすベンチャー企業が多いですね。

黒川: 東京ではそれが正解だと思います。先入観かもしれませんが、不幸にしてビジネスが失敗しても、転職先はたくさんあるように思えます。でも広島でゲーム会社といえば、僕らしかないわけで。一回入社したら、何十年と働かざるを得ないわけです。だったら自社をのばすしかありません。僕らはこれまで100タイトル以上のRPGを作ってきました。いわば”伝統工芸のように長くビジネスをやりたい”という意気込みでやっています。

―――実際、RPGはパラメータのチューニングなどをはじめ、ノウハウの固まりですから、だんだんロストテクノロジーになりつつあります。

黒川: そうですよね。一方でRPGが好きな層も一定数が確実にいて。でも作るのが面倒だから、他社さんはあまりやらない。だったらうちがやればいいと。実際よく聞かれるんですよ。スマホで儲かっているんですかって。それは大儲けはできないですよ。ただ、みんながやらないので、なんとかしのげているだけで。

もともと僕らはあんまり派手にやるつもりはないんです。やっていることが奇抜だから派手だと思われるかもしれませんが、できるだけ低コストで。あまり広告費用も使わずに、自分たちの力だけで生きていこうという思いが強いので。自給自足ですかね。

―――コピーライトからわかるとおり、ほとんどのタイトルが外作だと思いますが、開発会社さんはどうやって見つけてこられるのですか?

黒川: それも企業秘密です(笑)。もっともインターネットでRPGを作っている企業さんを中心に探せば、そこそこリーチできると思います。もうお付き合いが10年以上になる会社さんも多数あります。開発会社さんはみな、僕らの家族みたいな感覚ですね。基本的に彼らの意見は尊重します。

―――今でも新規開拓はされていますか?

黒川: もう、あまりしていないですね。それこそ、僕らのノウハウについていける会社さんじゃなければ、おつきあいしても、お互いがしんどいだけですから。また現状で年間12タイトルをリリースしていて、それを回せるだけの開発会社さんもいらっしゃいますので。もちろん新規でお問い合わせいただけるぶんには歓迎です。

■ゲーム翻訳家が1人で1タイトルを翻訳し、テストプレイも担当

―――ローカライズは英語のみですか?

黒川: 今のところ英語と、ときどき韓国語・中国語・イタリア語です。

―――ドイツ語、スペイン語やフランス語はどうですか? 

黒川: けっきょくは社内リソースや翻訳コストの問題になりますね。欧州で展開するために、ドイツ語での翻訳に力を入れたいんですけどね。実際、英語に翻訳できる人は、それほど苦労しないんですよ。ただし他の言語は難しいですね。

―――逆にゲームを作るときもデータの持ち方など、ローカライズ前提の作り方をしていく必要があります。

黒川: そうですね。最初はそのへんの考え方が甘くて、 どんどん開発が遅れてしまい、たいへんでした。今はテキストを差し替えやすいように作るなどのノウハウが蓄積されて、設計段階から考慮していますので、大分効率化されていると思います。

―――一本あたりの開発期間はどれくらいですか?

黒川: 正味で半年くらいですね。その後で他機種(OS)向け移植などの作業もあるため、合計8-9ヶ月はかかっているんじゃないでしょうか。ゲームの外見からスーパーファミコン的なイメージをもたれるかもしれませんが、画面解像度ははるかにスマホの方が上ですから、ドット絵を打つ手間も尋常ではないと思います。

―――グラフィックでいえば、新作『アルファディア ジェネシス』がスマホ向けに、シリーズ初の3Dゲームとしてリリースされましたね。シリーズ第6弾で、キャラクターボイスも加わるなど、演出面が強化されています。

『アルファディア ジェネシス』

シリーズでは初となるスマートフォン版の完全新作RPG。主人公「フレイ」とヒロイン「コロネ」の恋模様や、彼らの周囲を取り巻く様々な人物の思惑、国家の思想など、王道かつ奥深いストーリーが展開される。バトルシーンが3Dとなり、戦闘時やイベントで11種類のキャラクターボイスも実装された。 メインメンバーとサブメンバーの組み合わせによる「エール」効果や、最大3名による協力技、エナジ技やブレイクスキルといったさまざまな戦闘システムも組み込まれている。
黒川: エグゼクリエイトさんの開発タイトルで、シリーズ6作目です。お互いに話し合いながら、今度は3Dにしようということになりました。少しずつ良くしていかないと、ユーザーにも飽きられてしまいますからね。3Dのエンジン部分は同社にお任せしています。ただ、RPG自体は2Dベースで成立するものです。我々の主要ターゲットである、30-40代の男性層では、2Dスタイルに慣れ親しまれている人も多いですし。反応をみながら、2Dか3Dかという点は判断してきたいと思います。

―――ローカライズについて、効率化を進めるうえでのツールや、専門用語の共有化などの工夫はされていますか?

丹田: 原則として1タイトル1人の方に、3ヶ月くらいかけて翻訳いただいています。おつきあいしているゲーム翻訳家の方もそれほど多くないですし、継続的にお願いしているので、だんだん皆さん慣れてきています。最近では専門用語も問題なく翻訳できるようになりました。

―――RPGのテキストを1タイトル1人で翻訳って初めて聞きました。

黒川: 複数でやったら、まとまらなくなるでしょう。

―――おっしゃるとおりですが、それをまとめるために、どうするかが重要なわけです。

黒川: それが翻訳会社の見積もりに反映されるわけですよね。僕らのやりかただと属人的になってしまいますが、ある程度プロフェッショナルの方に直接、1人1タイトルでお願いした方が、作業も速いしコストも安くつくと思っているので。

―――また、ゲーム翻訳家からしばしば、この言葉の意味や背景がわかりにくいので、開発会社の方に直接質問したい、といった要望が聞かれます。ところがえてして、ゲーム翻訳家→翻訳会社→パブリッシャー→デベロッパーという伝言ゲームが生まれるので、効率が非常に悪いという状況があります。御社はどのようにされていますか?

黒川: そこは我々は情報共有がすぐにできるようにしていますね。

丹田: そうですね。もともと弊社でも海外版のデバッグをやっていますし、ゲームディレクターが内容を把握していますから、翻訳家から何か質問が送られてきたら、すぐに返答しています。自分たちでわからないことがあれば、開発会社に詳細を確認して、折り返せるようにしています。

黒川: おそらく言われているような状況というのは、パブリッシャーが開発業務にほとんどタッチしていない場合ではないでしょうか。うちが違うのは、パブリッシャーといえども開発に関与しているところです。一語一句テキストをチェックしますし、ゲーム性の部分についてもかなり口を挟みますので、どちらかというと共同開発に近いですね。そのため翻訳家からの質問はほとんど弊社で対応できます。

■中小企業はスピードが命、大手と同じことをしていてもダメ

―――デバッグの話が出ましたので、補足してお伺いします。ローカライズ版の制作では、しばしばゲーム翻訳家とデバッグ(QA)担当が異なるため、カルチャライズをふまえた適切なデバッグがやりにくいという課題があります。そのためローカライズベンダーの中にはデバッグ業務を兼務する会社もみられますが、御社の場合はいかがですか?

丹田: 弊社ではゲーム翻訳家が両方を兼務する体制をとっています。はじめに、ゲーム翻訳家の方にテキストを翻訳していただき、ゲームにテキストを組み込んだ後で、実際にテストプレイもお願いしています。このようにして、QAと翻訳内容の両方をチェックしていただいているんです。ネイティブの方がどのように感じるかといったことや、宗教的な表現などを含むグラフィック面でのカルチャライズ対応も含めて見ていただいているんです。そのため、かなりトータルチェックをしていただいていますね。

―――なるほど。その場合、翻訳家の指摘をパブリッシャー側が判断できないことが良くあります。特に英語ならまだしも、それ以外の言語では日本側が判断しづらいですし、いわんやディレクターやプロデューサーは日本語以外はわからなかったりします。つまり社外のゲーム翻訳家がローカライズのクオリティを決定してしまう点に、拒否反応を示すパブリッシャーも多いのですが、御社ではいかがですか?

黒川: たしかに中国語や韓国語などでは、ご指摘のような状況が発生しました。そこで原則としてゲーム翻訳家に権限を委譲し、クオリティの担保も含めて発注するようにしました。そのうえで、社内でネイティブの方をアルバイトで雇って、補助的にチェックしてもらっています。タイトルごとに3人でチェックしてもらって、問題がなければおそらく大丈夫だろうと。

―――なかなか、それが大手ではできないんですよ。

黒川: そこは組織作りだと思っています。うちの場合は担当者の権限が非常に大きいんですよ。そもそも、いちいちトータルチェックしていたのでは、スピーディに物事が進みません。実際に大手さんでは新作を作った後で、そこから何ヶ月もローカライズに時間をかけて、チェック・チェックという話も聞きます。それをやっていたのでは中小企業のメリットがありませんからね。

それにアプリは容易にバージョンアップができます。ここがコンソールのパッケージゲームと大きく違うところで、リスクを恐れすぎてリリースを遅らせすぎるよりは、早めに出してしまった方がいいと思います。

―――大手が挑戦しようとしていることを先取りされていますね。

黒川: そうじゃないと生き残っていけないですからね。もっとも、ローカライズは総じてコストとの兼ね合いになりますので、細かいところはケースバイケースとなります。

また他社さんとの相違点として、弊社ではタイトルを連作しています。他社さんは一球入魂型が多いので、一つのタイトルで完璧にやりきろうとされます。弊社では逆に毎月リリースしていますから、あるタイトルでクリアできなかった課題も、次のタイトルで改善すれば良いんです。よく「次に活かせ」と言っています。

―――会社の事業戦略の中に海外展開がしっかり組み込まれていて、毎月コンスタントにゲームをリリースしていって、その中で改善を繰り返していくというわけですね。一方で大手企業ではプロジェクトごとにメンバーが替わることも少なくありません。下手するとプロジェクトが赤字で、発売後にチームが解散、知識が共有されないなども見られます。

黒川: そこは大きな違いですね。

―――ちなみに、そこまでローカライズをしっかりされていれば、海外のユーザーさんの評価も高いでしょう。

丹治: おおむね高い評価をいただいていますが、コンソールゲームに慣れている方からは、時々厳しめの評価をいただくこともあります。たとえば2年前くらいのゲームでは、まだ表情パターンが少なかったため、絶叫しているシーンでもキャラクターが笑っているのはおかしい、といった指摘をいただきました。そもそも日本と海外のユーザーで気になるポイントが違ったり、コメントの書き込みが違ったり、などはありますね。

―――日本と海外ではユーザー数はどちらが多いですか?

黒川: だいたい半々くらいですね。海外は北米が中心で、いまは欧州を攻め始めているところです。韓国・台湾といったアジア圏は、まだリリース数が少ないのが現状です。売上的にも国や地域で販売価格が異なるので、一概にはいえないですが、だいたい日本と海外が半々くらいかなあと。

―――それはすごいですね。大手も含めてソーシャル勢が海外展開に苦戦する中で、スマホのネイティブアプリで、しかもJRPGで、日本と海外の売上が半々というのは、なかなかありません。

黒川: そうですね。ただ、他社さんとは方向性が大きく違いますから、比較しにくいとは思います。

■会社が儲かっているうちに若手に世界を体験させたい

―――E3にも昨年からブースを出展されていますよね。中小企業にとっては、かなりコストがかかると思いますが、理由は何ですか?

黒川: コストは高いですよね。行くだけで一人30万円くらいかかりますから。でもアメリカに行きたかったんですよね。というのも昔、自分がよくE3に出張させてもらっていたんですよ。当時は弊社もE3で巨大ブースを構えていて、自分も英語がわからないのに、説明要員でかり出されました。

ただ、そこで得たものは大きかったですね。その時にアメリカ人のゲームに対する思いを表現する度合いが、ちょっと日本人と違うんじゃないかなと感じました。彼らは「このゲームが好きだ!」というアピールを非常にしてくるんですよ。それを見ているのがすごく楽しかった。その後スマホでゲームを出すようになっても、「おもしろかった!」とコメントを書いてくれるユーザーは、海外の方が多いんですよ。

―――まだ新人のころですよね?

黒川: はい。私は当時E3で出展されていた海外ゲームを日本に輸入するということもやっていました。海外との仕事って、全然日本と違うんです。何が違うって契約にすごくうるさいんです。でも、日本も絶対にそうなっていくし、そうならないといけないと思うんですよ。

―――実際、日本の契約は「なあなあ」ですよね。

黒川: 会社にもよりますが、海外では契約書も分厚く、さまざまなことが事細かに定義されています。もちろん弊社にとって不利な条件も書かれているわけで、契約書の内容変更を交渉するにもとても苦労をした経験があります。契約書もそうですが、その前段階のビジネス条件の交渉というのもとてもプレッシャーのかかるものです。ましてや日本語ではなく英語です。社員を何名か連れて行くのも、まだもうかっているうちに海外企業とつきあうリスクについて、経験させておきたいなあと思ったんですよね。

―――どういった点で違いを感じますか?

黒川: たとえば日本と違って、彼らは自社のタイトルをガンガン、プッシュしてきます。その時に、どうやって断るかだけでも、経験になると思うんです。日本だと空気を読み合って自発的に引っ込めたりする場合でも、海外ではイエスかノーかハッキリ言うことが求められますよね。先ほどの話のとおり契約書にしても遙かに厚いものが送られてきますし、それにサインしたらどれくらいのリスクがあるのかも、早めに経験しておいてもらいたいなと。

―――いろんな意味合いがあるわけですね。タイトルの宣伝、人材教育・・・

黒川: もちろんそうです。他にも海外のメディアと繋がりたいというのがあります。今ではだいたい、新作や値下げのリリースを打つと、北米・欧州のメディアでニュースとして取り上げてもらえるようになりました。

―――日本と海外でメディアの違いは感じますか?

黒川: 海外メディアの方はとても熱心だなあと思います。たとえば記事がちゃんとプレイされて書かれていることが多いんですよ。時には厳しいご指摘をいただくこともありますが、でもプレイされた結果なので、嬉しいですよね。

―――ホントはメディアこそ海外に出て行く必要があるんですが、それこそ言語の壁があるので、かなり難しいですね。一方で英語圏は広大ですし、ネット時代になって世界中で記事が読まれるようになっています。

黒川: そうですね。アメリカの記者さんも、国内だけに向けて記事を書いているのではなくて、最初から海外の読者に読まれることが前提なんですよね。その中には欧州もあるし、新興市場もある。日本人とは違う視点で見ているんだなあと感じます。そういったことを話すのはおもしろいですね。

とにかく、そういった視点を社員にも持ってもらおうと思って、2年くらい前から広島大学の留学生を週に一回会社に呼んで、英会話の時間を設けて異文化交流を行っています。

■きちんと作って、きちんと利益を出して、長く続けるのが信条

―――いやー、すごいですね。そういう会社はあまりないですね。ちなみに、黒川さんは海外がお好きだったんですか?

黒川: いえ、まったく興味は無かったです。そもそも社会人になるまで、広島から出たことがなかったですから。広島以外に住んだこともないくらいで。家がすぐそこで、広島大学に入って、地元企業に入社して。どのみち農業があるんで。週末は田んぼで米を作ってるんですよ。本業が米作りで、副業がゲーム作りです。

―――えーっ?

黒川: というのは冗談ですけど(笑)。

―――でも、びっくりしました。それはたしかに、地元から離れられませんね。でも、何か御社とご縁があったんですか?

黒川: なかったです。ただパソコンに関しては中学生の頃に父親がPC-9801を購入してくれまして、BASICでゲームを作ったりしていました。そのため将来はプログラミングなどをやってみたいな、という漠然とした思いがありました。ただ大学を卒業しても就職先があまりなくて。広島でIT企業といっても、数が限られますからね。たまたま東広島市で企業説明会があり、そこに出席したのがきっかけですね。

当時からネットワークというキーワードが引っかかっていたんですよ。インターネットやホームページ制作なども流行っていましたから。特に田舎でそういうところに目が行く人ってあまりいませんでしたから。そういう話を企業説明会でしていたら、次の日に「うちの会社に入れや!」と言われて。

―――はやっ!

黒川: ただ、最初はシステム開発で入社したと思っていたんです。当時は社名がコトブキシステムと言っていましたから。ゲーム事業があるというのも知っていましたが、さすがに自分が担当することもないだろうと。もともとゲームみたいに派手で、当たり外れのある分野って、そんなに好きじゃなかったんですよ。ところが、入社後にシステム開発事業部技術開発室に配属されて、システム系以外の分野で、新しいことを何かしろと。何度か東京にも出張させてもらいました。東京には何か新しいものがあるはずだと。そういうなかでKDDIさんとのご縁があって・・・という感じです。

―――学生時代に旅行などは?

黒川: ぎりぎり大阪まで行ったか、行かなかったかくらいです。そもそも東京に行く必要を感じていませんでしたからね。それが入社1年目で東京出張で、2年目で「アメリカに行け」ですよ。それでE3に行って、楽しくて。どんどん視野が広がっていって。何回かアメリカに行くうちに慣れちゃって。英語を勉強したいなと思うようになって。

―――おおっ、すばらしいですね。

黒川: 最初は英会話学校に通おうかなと思ったんですが、お金がすごく高かったのであきらめました。ところが、うちの近所に英会話カフェというコミュニティサロンができて、よく外国人が集まるようになったんですよ。広島大学の留学生がアルバイト感覚で働いていたりして。そこに自分も遊びにいくようになって、だんだん友達ができて、ますますアメリカに行くようになって。

―――なるほど、そこも御社が広島大学の近くに位置しているメリットなわけですね。

黒川: そうですね。先日も「普通に良いところに立地されていますね」と言われました。僕としては学生がいるから使えば良い、くらいのイメージだったんですが。実は丹田もアルバイト出身だったんですよ。

―――御社と大学との繋がりはどういうものがありますか?

丹田: 直接の繋がりは特にないんですが、もともと自分もゲームを制作するサークルに入って、毎年コミケに出展していました。サークルの先輩が入社して、その紹介でアルバイトして、そのまま・・・といった感じです。

―――大学の優秀な学生を一本釣りできて、いいですね。

黒川: そればっかりでもダメなんですけどね。ただ、それが弊社が東広島に会社を構えている理由の一つでもあります。最初はもっと大学の近くにあったんですよ。中にはケムコのロゴを見て入ってきた社員もいます。ゲーム会社だとは知らないにしても、何か変な会社だと思われているのではないでしょうか?

―――大学で会社説明会などはされますか?

黒川: あまりやらないですね。そんなに人がいりませんから。もともと、じわじわとしか人を採用しないんです。

―――それよりも、長く続けていくことが重要と言うことですね。

黒川: 先ほども言いましたが、儲かったから、ばーっと人を増やして、上場をめざして・・・という会社のやりかたは、たぶん東京だったら正しいように思います。会社がなくなっても、転職先はたくさんありますから。ただ広島は違いますから。弊社も離職率もそれほど高くありませんし。そのあたりはポリシーとしてありますね。一概にどちらがいいとは言えませんし、比較もできないと思いますが。

―――たしかに難しいですね。ちなみに東京のゲーム会社ではストレスがたまっていて、「楽しいゲームを楽しく作る」ことが大きな課題になっていたりします。

黒川: それは弊社でも同じですよ。開発予算も少ないですし、納期がある程度決まっていますから、大きな仕様変更も難しい。クリエイターはみんな「やりたいことをしたい」と思っていて当然ですし、せっかくなら大作ゲームに挑戦してみたいですよね。ですから、うちみたいな会社だと逆にストレスが溜まるかもしれません。自分もゲームを遊びこむというより、数字で残酷に評価してしまうタイプの人間です。

―――でも、クリエイターがトップになると、得てして会社が傾いてしまったりします。

黒川: まさにそのとおりで、採算あってのゲーム会社だと思います。まだまだ、ゲーム会社って水モノで、社会から一段低くみられがちじゃないですか。僕はそれがいやなんですよ。もともと弊社はシステム開発が主体でしたし、一発屋だと思われたくないんですよ。それよりも、きっちり納期通りに作って、きっちり利益を出して、堅実にビジネスを続けられていますね、と思われたいんですね。

―――たしかに、年間12タイトルのRPGをリリースして、きっちり利益を出していくというスタイルは、システム開発のようです。

黒川: でしょ? これからも、じわじわと長く続けていきますよ!

―――ありがとうございました。
《小野憲史》

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