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【ファミコン生誕30周年企画】手作業で超えたハードの限界 ─ 『メタルスレイダーグローリー』が与えてくれたもの

本企画は、家庭用ゲーム機として一大ブームを巻き起こし、今なお根強いファンの多い名機「ファミリーコンピュータ」の生誕30周年を祝して、誕生日となる7月15日に各編集者及びライター陣が、思い出の一本を振り返ります。

任天堂 その他
『メタルスレイダーグローリー』パッケージ
  • 『メタルスレイダーグローリー』パッケージ
  • ファミコンでこのグラフィック!
本企画は、家庭用ゲーム機として一大ブームを巻き起こし、今なお根強いファンの多い名機「ファミリーコンピュータ」の生誕30周年を祝して、誕生日となる7月15日に各編集者及びライター陣が、思い出の一本を振り返ります。

正式なご挨拶としては、皆さま初めまして。この春から記事を書かせてもらっている「臥待 弦」と申します。どうぞよしなに。

他のライターさんのような連載記事を持っていない身で、このような場へ出てくるのはおこがましくも思いますが、ファミコン生誕30周年と聞いて黙ってはおれず、しれっと潜り込んでおります。ファミコン企画に出るぞー、編集部には内緒だぞー!

懐かしさに任せて早速ファミコンネタを飛ばしておりますが、何人の方に通じるかすでに心配になってきました。苦しくなった方は無理をせず、手を挙げて係の人を呼んでください。

今回取り上げさせていただく思い出の1本は、知る人ぞ知る、ですが「今回の企画、このソフトでいいですか?」と尋ねたところ「知らないソフトです」とお答えになった編集部の方は知らない、そんな隠れた名作AVG『メタルスレイダーグローリー』を語らせていただきます。

『メタルスレイダーグローリー』は、人気があった上に出荷本数も少なかったのか、例え中古でも子供にはなかなか手が出る値段ではありませんでした。そのうちソフト自体を見かけなくなり、半分諦め駆けていた時に、箱・説明書なしの裸ソフトでしたが発見しました。今でも値段を覚えています。3,880円。子供には大金ですが、当時見た中ではもっとも安い値段でした。

かなり躊躇しましたが、思い切って購入し、飛ぶように家へ帰りました・・・と書くとあっという間ですが、少しでもお金をゲームに回すため、家から駅二つ向こうの店まで自転車で調べにきていたので、遊びたい気持ちとは裏腹に、時間がたっぷりかかっての帰宅でした。

自転車を必死に漕いでいる時間、それは早く遊びたいワクワクと、もしつまらなかったらどうしようという一抹の不安に苛まされた、幸せにな拷問とも言えるひとときでした。決して嫌な時間ではありません。ですが、幸せと不安の境界があいまいで、浮かれてるのに恐ろしさもあるような、そんな奇妙な感覚です。

3,880円あれば、そこそこのソフトが2本も買える。980円のものなら3本以上だ。それにあとちょっと足せば新作だって買える。本当によかったんだろうか。一度考え始めると、思考は止まりません。そして、ゲーム以外の使い道に思い当たらなかった自分が今更ながら恥ずかしい。

今でも覚えているあの何とも言えない気持ちは、けれど帰宅してものの五分もせずに吹き飛びました。いえ正確には、ソフトを立ち上げた直後から自分は度肝を抜かれ、それまでの不安などすっかり忘れてしまったのです。

当時は「なんだか分からないけどスゲー!」の一点張りだったんですが、後日改めて振り返り、あの時自分が驚いた理由が客観的に分かりました。『メタルスレイダーグローリー』は、当時の自分にとってまったく新鮮なゲーム体験を与えてくれたのです。

相次ぐソフト開発の進歩は、ファミコンの性能を超えていました。ファミコンの『ドラクエ』シリーズなどで、街中でキャラが並びすぎるとチラつく場面を見たことあるでしょうか。これは単純に言えば、横に並べたスプライト数の制限を超えてしまうために起こる現象です。派手な演出やボリュームが求められたファミコン後期のソフトには、このチラつきが多く見受けられたのです。

しかし『メタルスレイダーグローリー』には、多くの作品にあった「不自然なチラつき」はほとんど見られませんでした。これは、簡素な表示しかさせていないわけではなく、むしろファミコン史上でも類を見ないほどの書き込まれたグラフィックの維持と、見事に両立した上での話です。これも後年知ったことですが、チラつかせないために、限界を超えそうな箇所のスプライトを、上か下方向にコピーし、透明なスプライトのある方向へずらしていたそうです。こうすることで、無駄なくスプライトを活かせるうえに、並びで生じるチラつきを解消できます。

なおこの作業は機械的に処理できないため、全て手動で行わなければならず、言うまでもなく途方もない作業量です。「チラつかないように、簡素にする」ことは可能ですが、本作は「チラつかない工夫を突き詰めることで、性能限界以上の描写や表現が行える」という道を選択したのです。

もちろん工夫や努力はスプライトの件だけではなく、他にも多々存在します。大きく目を引く要素としては、キャラクターの表情の演出でしょう。メッセージ画面に表示されるフェイスウィンドでは、キャラがセリフを喋っている間、表情をアニメーションで常に変化させているのです。

ヒロインのエリナの場合、彼女がフェイスウィンドウ付きで喋る全てのセリフに対して、225パターンある表情の組み合わせを、一文節ずつ全文章に配置して、場面場面に適した表情を演出しています。もちろんこれも手作業で当たるしかなく、スプライトと同様に、想像するだけで気が遠くなりそうです。

代表的なものだけをあげましたが、当時の自分が衝撃を受け演出の数々は到底これだけではなく、シーンを変える都度、シナリオが進行する折々、常にあらゆる角度から襲ってきます。それまでの自分は、「ゲームはチラつくもの」「表情は切り替わるもの(当時のファミコンは口パクすらしないのも珍しくなかった)」と思い込んでいた偏見を、『メタルスレイダーグローリー』が吹き飛ばしてくれたのです。

そんな新鮮なゲーム体験を与えてくれた本作を貪るように遊び、AVGだったこともありすぐにクリアしました。これだけ表現に力を割いているだけあり、シナリオの展開や伏線の活かし方なども見事の一言で、演出と同じくらい物語にも驚き、どっぷりとハマりました。なので、日を置かずに再度プレイしたり、周囲に布教するものの再プレイしたいから貸すのは拒んだり、泊まりに来た友人に命じて一晩かけてクリアさせたりと、熱心に活動を行い友だちを失っていきました。あれ、なんでだ?

それまでもゲームを純粋に楽しんでいた自分ですが、ハードの性能すら超えたアイデアを直接ぶつけられたゲーム体験は本当に衝撃的で、今でも忘れられない1本となり、時にこうして振り返ります。

まだまだ未熟ながらも、年齢だけは大人となり、当時と比べると1本のゲームを買うときの真剣味は薄れてしまっている時もあります。それを自覚した時は、『メタルスレイダーグローリー』を抱えて駆け抜けた、あの国道を思い出すことにしています。わくわくと不安を入り交じらせながら踏んだ、ペダルの重さと一緒に。

そして、次に買うソフトがまた自分の偏見を打ち砕いてくれるようにと、願わずにはいられません。あの刺激を──どうか、何度でも。


・・・ところで、まだ編集部にはバレてませんよね?(確認)

著者紹介
臥待 弦(ふしまち ゆずる)
インサイドのライター

<編集より>
後で編集部に来なさい。

(C)1991 HAL LABORATORY INC.
(C)1991 ☆YOSHIMIRU.
(C)1991 LIVE PLANNING.

(C)1991-2007 HAL Laboratory,Inc.
(C)1991-2007 ☆YOSHIMIRU.
(C)1991-2007 KAZe Net Co.,Ltd
《臥待 弦》

楽する為に努力する雑食系ライター 臥待 弦

世間のブームとズレた時間差でファミコンにハマり、主だった家庭用ゲーム機を遊び続けてきたフリーライター。ゲームブックやTRPGなどの沼にもどっぷり浸かった。ゲームのシナリオや漫画原作などの文字書き仕事を経て、今はゲーム記事の執筆に邁進中。「隠れた名作を、隠れていない名作に」が、ゲームライターとしての目標。隙あらば、あまり知られていない作品にスポットを当てたがる。仕事は幅広く募集中。

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