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【書評】山野辺一記氏のSF新作ラノベ「シグマニオン~超限の闘争」

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シグマニオン~超限の闘争
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数々のゲームやアニメで脚本家を務める、エッジワークスの山野辺一記氏のオリジナルライトノベル「シグマニオン~超限の闘争」が26日に創芸から出版されました。SFに挑戦した本作、石田賀津男氏による書評です。

■宇宙戦争を題材にしつつ、一人の少年の目線で人間ドラマを描く

山野辺一記氏の新作小説「シグマニオン~超限の闘争」は、2つの勢力が宇宙戦争を繰り広げる世界を描いたSF作品。勢力の一方は、過去に反乱を起こした一団が、地球から遥か彼方の惑星を開拓し、独自の国家を作り上げることに成功したΣ帝国。もう一方は、旧来から人の住む地球勢力だ。

Σ帝国は独自の進化を歩み、地球と関わることなく繁栄を続けていた。しかしそこに、資源が枯渇した地球勢力が乗り込んできて、植民地化を図ろうとする。国名の響きからすると逆のように感じるが、地球勢力の侵略に対抗するΣ帝国という構図だ。本作の主人公となる青年カイルもΣ帝国に属している。

舞台設定からは、宇宙で艦船が戦うような派手な内容をイメージするが、実際はもっとミニマムな話。カイルは戦争の最前線に位置する惑星フリーゾで、軍の規律を守る軍内捜査官に着任する。

真っ当に法を学び、中尉という肩書を持ってやってきたカイルだったが、フリーゾに来るなり同国の兵士から私刑を受ける。そこを助けてくれたのがシュレイダーという男。シュレイダーも軍内捜査官の一員であったが、カイルより下の少尉であるにも関わらず、それを意に介さない横柄な態度で接してくる。

軍内捜査官は、脱走兵の追跡、汚職、テロ対策まで、軍の内部で起こるあらゆる犯罪を対処する部署。戦争の最前線であるがゆえに、軍の規律といった類のものは機能しておらず、カイル自身が下級兵士にやられたとおりモラルは失われている。現場では力が全てであり、それを自らの命を守るためという理由のもとに、各々が正当化する。

その規律を守らせるのが軍内捜査官であるはずなのだが、カイルの同僚は神経質な憲兵達というわけではない。シュレイダーの態度は誰彼構わぬ傍若無人ぶりだし、それ以外の仲間も様々な問題を抱えている。捜査の名目で犯罪まがいのことも繰り返し、表沙汰になれば厳罰に処されることもやってのける。

カイルはその中にあって理性的というか、我々現代人に近い感覚を持っている。彼の目を通して、戦争の末端にいる人間の素直な感情や、生き抜くために犯罪に手を染める人々の心の内を見る。宇宙戦争という遠いSFの世界の物語なのに、人間と戦争の醜い部分が、我々読者の目線で、やけにリアルに描かれている。

本作のもうひとつの特徴と言えるのが、世界観の子細な解説だ。昨今のライトノベル(山野辺氏自身、本作をライトノベルだと言っていた)では、読み始めて3行で笑えるようなシンプルさが好まれる傾向があるように思うが、本作では時代背景やテクノロジー、舞台の様子などが実に事細かに説明されている。そういう細かな設定まで読み込んで、独自のSF世界にどっぷりはまりたいという人には、待望の一作と言っていい。

山野辺氏はアニメやゲームの脚本家としても知られている。それを踏まえて本作の世界観の緻密な解説を見ていると、「なるほど、これなら映像化するにも困らないな」と思えてくる。頭の中でこの世界を映像化するつもりで読み込むと、一気に物語の世界へと引き込まれていく感覚がある。この辺りを破綻なく描いているのは、山野辺氏の長年の経験のなせる技といったところか。

私が設定の中で面白いと思ったのは、人工知能を搭載した「戦闘知性艦」という存在。感情を持つことで高い能力を発揮する反面、戦艦という自らに課せられた運命と、戦争とその周辺にある様々な情報を得ることで、人間のような“ストレス”を感じる。それが行き過ぎると、絶望という感情に辿りつき、自沈――つまり自殺を図る。戦艦という大規模な機械ですら絶望し自ら命を絶つような状況で、それでも人間は汚らしくも生きようとする、その対比に強いメッセージ性を感じる。

ちなみに上巻の巻末にある解説は、ゲームAI開発者として知られる三宅陽一郎氏が担当している。三宅氏による人工知能についての解説も書かれており、これもまた興味深い。

ここまでお読みいただいた方は、かなり重苦しい物語だと感じていると思うが、実際には人間のドス黒い心理ばかりが描かれているようなこともなければ、目を皿にして読まなければ理解できないような重たい解説があるわけでもない。軍内捜査官の面々は、呆れ返るような軍の腐敗を前にしても、それに順応して飄々と受け流すアバウトな性格揃い。それでいて、何だかんだで任務は遂行してしまうのも痛快だ。

自らの意思ではなく戦場へと放り出され、自らの意思が通らない戦場で翻弄される、決してヒーローではない一人の若者が、そこで何を見て、もがきあがいて成長するのか。一人の青年の目線で展開されるミニマムなドラマを、あまり身構えず気楽に眺めて欲しい。
《石田 賀津男》

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