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プロ向けサウンド制作ツールを無償で提供・・・「CRI ADX2 LE」の狙いについて聞く

ゲームビジネス その他

及川直昭氏
  • 及川直昭氏
  • 櫻井敦史氏
  • オーサリングツールでは高度なサウンド編集機能を搭載
  • 通常版とLEの違い
  • ロゴ
家庭用ゲーム開発のサウンド制作においてデファクトスタンダードの地位にある、CRI・ミドルウェアの「CRI ADX2」。最初の製品から数えれば約15年の歴史がある製品が
「CRI ADX2 LE(エルイー)」として、非商用や小規模プロジェクト向けに無償提供されることになりました。

プロの開発現場で利用されている製品を広く公開しようという取り組みは大きな反響を呼びました。GameBusiness.jpではCRI・ミドルウェアで営業を担当する及川直昭氏、製品の開発を担当した櫻井敦史氏に提供の背景や狙いについて聞きました。

―――「ADX2」が非商用向けに無償提供されるというのは大変な驚きでした。どういった背景があったのか教えてください

及川: 商用のゲーム開発だけでなく、非商用でも「ADX2」を使いたいという要望は以前から実はありました。プロの方がプライベートでゲーム開発をされたり、学校で教育目的に実践的なツールを使いたいといったことです。なかなか期待にお応えできてなかったのですが、2012年頃からいよいよ要望の声が強くなってきまして、昨年の中頃からようやく本腰を入れて進めることになりました。ちょうど、ゲーム専門学校のバンタンさんのサウンドのカリキュラムにも「ADX2」が採用され、カスタマイズ版をご提供したということもあり、その流れで「ADX2 LE」も実現させることができました。

―――CRIとしてはどういった目的があるのでしょうか

及川: 個人やインディーズのゲーム開発を応援したい、という思いがあります。「ADX2」は法人向けなので、仕事では「ADX2」を利用いただいているにも関わらず、個人で開発をする際にはその他の製品を使ってサウンド制作を行わなければならない、といった状況がこれまではありました。そうした状況をまずは解消して、いろんな方に触れていただきたいと思っています。

ビジネスとして直近で大きなリターンを求めているわけではありません。ただ、無償で使えるバージョンを広く公開することで将来的にプロの現場でも「ADX2」の利用が更に広がればという考えは持っています。

―――なるほど、長期的な戦略なのですね

及川: そうです。ただ、「ADX2 LE」のプロジェクト自体は上からこうやれ、ということで動き出したものではなく、現場から生まれたものなんです。

櫻井: むしろ、何やってんだという声の方が大きかったですね(笑)。

及川: 社内で「ADX2 LE」を強力に推進したうちの一人は、3年目の一條という人間で、彼は社外でサウンドに限らず色々な開発者と普段から交流を持っていて、インディーズのニーズというものを肌で感じ取っていたみたいなんです。社内で壁にぶつかることもあったのですが、一條をはじめとする情熱を持ったメンバーたちの力で実現に至りました。

櫻井: 提供するに当たって、対応プラットフォームはWindowsとMacだけで充分ではないかという声もありました。開発チームとしてもスマートフォンに対応することで予期しない問題が発生する可能性もあり、悩む所ではありました。ただ、今の時代は個人開発者の方もPCだけでなくスマートフォン向けにゲームを開発するケースが多くなってますから、中途半端な製品を出すよりは、思い切って本当に使ってもらえるものにしようと決断しました。使う側の立場になれば、スマートフォンでは使えないとか、追加の料金がかかるというのは不便ですよね。

―――「ADX2 LE」はかなり一般のゲーム会社さんに提供されているものと近いものという理解でよろしいでしょうか?

櫻井: オーサリングツールの機能としてはフルスペックのものです。ランタイムが提供されているのがUnityのみという点を除けば、これまでの「ADX2」とLEはほぼ変わりません。Unityとの連携という点に関しても、必要充分な機能はカバーしていますし、ユーザーの方からの要望があれば順次強化していくつもりです。Unityを通じて、Windows、Mac、iOS、Android向けのゲーム開発で利用でき、波形データ(Wav)での出力機能もありますので、その波形データ自体はUnity、もっと言えばゲーム向けに限らずあらゆる用途で再生することができます。

―――1月中旬に発表されてから反響はいかがでしたか?

及川: 反響は大きかったですね。仕事柄、よくゲーム会社にお邪魔するのですが、行く度に「ADX2 LE」は話題になりました。また、Global Game Jam向けに特別版をご用意して、開催に先立ってワークショップを3日間実施したのですが、嬉しいことに満席になりました。参加者もゲーム会社の方だけでなく、学生さんや、更にはゲームとは全く関係ない職種の方まで幅広く、潜在的なゲーム開発者というのはかなりいらっしゃるんだろうなと実感しました。Global Game Jamでも3チームで実際に採用していただき、有り難かったですね。

櫻井: 偶然にも今年のGlobal Game Jamはゲームのテーマとして音声ファイル(心音のように聞こえるもの)が提示され、「ADX2」の採用の有無は抜きにしても音にフォーカスしたチームが多かった印象です。採用いただいた3チーム以外にも使用を検討されたチームはあったようですが、48時間という限られた時間の中で、余り親しんでないツールを採用するリスクも考えられたようです。それでも、実際に使っていただいたチームはインタラクティブミュージックなど高度な使い方も想定されていて、提供した側として嬉しかったです。私も当日は八王子会場にお邪魔して、サポートメンバーとして採用してくれたチームの手助けを行なっていました。使っている現場に接することで、どういったものが求められるのか、ドキュメントやサンプルはどの程度必要かなどとても勉強になりました。

―――プロ向けではないということは、ドキュメントやサンプルの充実はより重要になりそうですね

櫻井: そうですね、できるだけ揃えたいと考えています。ドキュメントも大事ですが、実際に動くようなコードのサンプルや、オーサリングツールを使って作られたデータやプロジェクトファイルといったものも充実させたいと思っています。文章を読んで学ぶのも大事ですが、良い物を見て盗むのも大事ですから。フェイスブックでも「ADX2ユーザー助け合い所」というものが出来ています。ここでのユーザー同士の交流や情報交換も活発化させていきたいと思います。

―――サウンドをテーマにしたGame Jamなんかも・・・

櫻井: それは是非やりたいですね。

―――ライセンスはどのようになっているのでしょうか?

及川: 非商用での利用は無償です。ゲーム会社であっても、プロトタイプや試作であれば無償でお使いいただけます。もっとも、これまでの「ADX2」であってもこうした用途は無償で使えるのですが、法人向けに限られてましたし、今まではCRIにお問い合わせをいただく必要がありました。「ADX2 LE」は自由にダウンロード可能ですので、より気軽になると思います。「ADX2 LE」を使ったゲームでの配布や販売も問題ありません。この場合、売上が1000万円を超えなければ無償で、超えた場合は通常のライセンス契約をご相談させていただくことになります。法人も前年の年商が1000万円以下という制限を設けています。詳しくは規約やウェブサイトでご確認いただけます。

―――製品のバージョンアップなどはどのように考えられていますか?

櫻井: 「ADX2」は細かなものを含めるとかなり頻繁にバージョンアップを提供しています。ただ、「ADX2 LE」に関してはそこまでの頻度にはならないと思っています。余り頻繁にアップデートするのも個人の方には負担になりますので、イメージとしては半年に一回程度、安定したバージョンを出していく形で考えています。ただ、リリース当初に関してはもう少し頻度は上がるかもしれません。

―――通常版「ADX2」の方はどのような部分に注力していく計画ですか?

櫻井: 「ADX2」は最近ではUnityやスマートフォン向けの対応など、新しく広がっていくゲーム開発に対応できるようなアップデートを行なってきました。これらに関しては「ADX2 LE」のリリースも含めて、ある程度の目処が立ったと考えています。そして、もっと高機能・多機能という家庭用ゲーム機の大規模開発向けの機能拡充も力を入れています。サウンドに求められるものはゲームの種類によって様々ですが、「ADX2」は規模やプラットフォームに関わらず、あらゆるゲームのサウンド制作に対応できる幅を持った製品として成長させていくつもりです。

―――その他の製品のLE版というのも検討されているのでしょうか?

及川: まずは「ADX2 LE」を広く使ってもらえるようにするのが先だと思っています。ただ、ムービー再生ミドルウェアの「CRI Sofdec2」や、ファイルシステムの「ファイルマジックPRO」といった製品も全く考えていないわけではありません。

―――最後に、それぞれの立場から「ADX2 LE」に対する期待を教えていただけますでしょうか?

櫻井: ここ数年間は機能を拡充するだけでなく、色々な方に使ってもらえるツールにすることを開発メンバーも意識して開発を行なってきました。もっともっと、タイトルの規模に関わらず、色々なゲームに採用してもらえて、更にはゲーム以外にも使用してもらえるような製品にしたかったんですね。そういう意味で、「ADX2 LE」は一気に裾野を広げる可能性のある製品だと思っています。個人開発者でも学生でも、製品に触っていただいて、その良さを知って欲しい。今までにないような分野に利用が広がって、CRIでも把握できないくらいのタイトルや製品に採用されて、使い方やノウハウがウェブに蓄積されることで、色々な方に使いやすいツールになるといいなと思っています。

及川: 「ADX2」は実際に触っていただくことで良さを実感いただける製品だと感じています。もっと色々な分野の方に「ADX2」を使用してもらおう、というのは以前からのテーマで、触ったことのある人、知っているよという人を増やしていくことが将来的に大きな意味を持つようになると思っています。初代「ADX」の誕生から数えると既に15年が経過しています。ゲーム開発も、サウンド制作も時代によって大きく変化していくものですが、ミドルウェアの側も時代に応じて柔軟に変化をしていく、そういう姿勢を今回の製品に感じてもらえればと思います。
《土本学》

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