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「いま"ゲーム"はどんなメディアを必要とするか?」 WIREDとインサイドの編集長が対談

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「WIRED」最新号はゲーム特集
  • 「WIRED」最新号はゲーム特集
  • 個性的な本が並ぶ本屋「B&B」
  • バーカウンターがあり、ビールを飲みながら本を楽しめます
  • WIREDのウェブサイト
  • WIRED 若林恵編集長
  • インサイド、GameBusiness.jp 土本学編集長
  • 最新号も並んだ
  • 多くの聴衆が詰めかけた
雑誌「WIRED」は、1993年に創刊されたテクノロジーが開拓する未来をテーマにすえた個性的な雑誌です。US版の編集長、クリス・アンダーソンはロングテールなどの概念を提唱するなどインターネット以降の我々の社会や文化に影響力を持つ人物です。近著の「MAKERS」では誰でも商品の製造が可能な「21世紀の産業革命が始まる」と提言、先日11月9日には日本での講演も行ないました(期間限定で動画も配信中)。

一方、日本版「WIRED」は、年4回雑誌の刊行を行なうと共に、テクノロジー、教育、医療、文化、ファッションといった様々なトピックについてウェブサイトで発信しています。今年2012年の4号目になるVOL.6では、『THE AGE OF GLOBAL GAMING』と題した特集において「ゲームの世界標準」を探っています。内容は日本のトップクリエイターの水口哲也氏の未来予測から、海外のゲームの最前線を走る「Angry Birds」「Unreal Engine 4」「Minecraft」といったホットなトピックを扱っています。
(参考:http://wired.jp/2012/10/31/wired-6/)

そして、先日の11月27日、「WIRED」VOL.6の発売を記念したトーク・イベントが下北沢の個性的な書店B&Bにて行われました。日本版「WIRED」の編集長である若林恵氏と、インサイドやGameBusiness.jpの編集長である土本学氏が「いま「ゲーム」はどんなメディアを必要とするか?」というテーマでのトークがなされました。

1971年生まれの若林恵氏は早稲田大学卒業後、平凡社に入社。その後、フリーの編集者として独立した後、現在、日本版「WIRED」の編集長を行なっています。「WIRED」はウェブサイトでの発信も展開していますが、若林氏は紙媒体の編集の経験が長く、自身を「完全にプリント側の人間だ」といいます。

一方の本サイト編集長である土本学氏は1984年生まれ、高校在学中に個人でゲームサイトのインサイドを立ち上げ、法人化された2007年から編集長を行なっています。若林氏とは対照的に紙媒体の編集の経験はなく、ウェブサイト運営の経験が長いといいます。

このように両者とも「編集長」という肩書きですが、実際の意識は大分異なっています。出版社に就職をして紙媒体での編集経験を積んできた若林氏にとって、紙媒体の編集経験を持たない土本氏は非常に新鮮な存在に見えたといいます。そこで、トークは土本氏の経歴を聞くことで始まりました。

土本氏がウェブサイトを始めた2000年頃は、インターネット上ではテキストサイトなどの個人サイトが話題になっていました。その流れに乗り、土本氏も個人サイトを始めますが、当初は事業化することはまったく考えておらず、大学卒業後には金融系の業界に就職活動を行なっていたといいます。しかしながら、当時、既に100万から200万ほどのPVがあったため、自身のサイトを誰かに引き継いでもらうと考えたのが、現在のインサイドが立ち上がるきっかけです。

結局、現在の運営会社に買収される形で法人化することになりました。そのため、土本氏は入社1年目から現在に至るまで編集長という立場にあります。編集の経験というよりも、ウェブサイト運営の経験があるため、法人化以降もサイトの運営全般を統括する立場にあるといいます。

次に若林氏は土本氏に個人サイトを始めたきっかけを聞きました。土本氏はサイトを開始した2000年当時には、まだ確立されたゲームメディアが少なかったこと、個人的に任天堂の大ファンであるため、任天堂の情報をもっと伝えていきたかったことなどを挙げています。当時はインターネット上のゲームのメディアは少なく、ビジネスとして成り立つゲーム雑誌はユーザーよりもメーカーに寄り添う傾向が強かったことも振り返っています。そんな中で、インターネット以降、新しい流れを作っていくことも重要であったと指摘しました。

さらに若林氏はインサイドのメディアとしての特徴も質問しました。土本氏は個人サイトを始めた時と同じく、今でもインサイドは任天堂を強く押し出し、現在ではWii Uなどの情報を積極的に報道しています。また、ユーザーとの距離感の近さも特徴の一つだといいます。具体的には、定期的にユーザーのアンケートを行なったり、ブログやTwitterなどからプレスリリースとは異なる情報を拾ってきたりもしています。

またPCやXbox360など海外ゲームに強いニュースサイトのGame*Sparkを買収することで、異なるユーザー層に対応する努力をしています。海外ゲームのユーザーは数の上では小規模ですが、情報を積極的に求めているユーザーは多く、実際にインサイドとGame*Sparkではユーザー数自体は同じくらいだといいます。

その後、土本氏はゲームビジネスの業界誌であるGameBusiness.jpを立ち上げます。GameBusiness.jpはiPhoneやAndroidといったスマートフォンの登場、ソーシャルゲームの大ヒットといったゲーム業界の変動期に始まりました。土本氏は、ゲームビジネスそのものあり方が変化しているため、業界においても今後の将来を共に考えていく姿勢が必要だと感じ、立ち上げたそうです。

そのような土本氏の姿勢に共感を示した若林氏は、現在は作り手側に密着したメディアが必要なのではと指摘しました。若林氏自身は熱心なゲームプレイヤーではないため、今回の「WIRED」の特集も遊び手側ではなく、作り手側に焦点を当てたものです。さらに若林氏によれば、今の音楽誌の中では作り手のレコーディングや編集に焦点を当てた『サウンド&レコーディング・マガジン』が個人的に一番面白いそうです。

現在では、出来上がったコンテンツに対するレビューは個人サイトやブログなどで誰でもできるため、より作り手側に焦点を合わせたドキュメントの必要ではないかと、若林氏は提言しています。それに対し、土本氏は実際にGameBusiness.jpは業界の裏側の話が多く、開発者の考えや作り手の意識を扱った記事を掲載しているといいます。

また、土本氏はゲーム全体を扱う総合誌を運営するということの難しさも指摘しました。現在では、ゲームといってもその内容はコンシューマ機、PC、スマートフォン、トレーディングカード、アーケードなどかなり広範に広がっています。ジャンルも多岐に渡る、ユーザーの好みも千差万別です。メディア側もそれらのどこかにフォーカスするべきであり、インサイドであるならば任天堂を中心としたコンシューマー機、Game*Sparkであるならば海外ゲームなどのコアゲームに特化しています。その中でも、GameBusiness.jpはゲーム業界というニッチな層を狙ったメディアであるといいます。

一方、若林氏は、ゲームメディアが任天堂やソニー、マイクロソフトといったそれぞれのプラットフォームごとに成立できること自体は自然だが、GameBusiness.jpはそのようなプラットフォームにとらわれることなく、開発者側からの切り口で横断できるところに強みがあるのではないかといいます。ちょうど、音楽の作り手に焦点を当てた「サウンド&レコーディング・マガジン」がロックもジャズもJ-POPもジャンル横断的に扱うのと似ていると指摘しました。

また土本氏は作り手側に焦点を当てたメディアだけではなく、よりユーザーに近いメディアの可能性も指摘しました。中でも最近、運営を開始したゲームブログランキングは、ユーザーの攻略記事や日記などのブログがランキング形式で見られるサイトです。近年では、長い期間をかけて遊ぶオンラインゲームが多く、それらを扱うには個人のブログなどが最適であるといいます。またメディアに乗らないような情報も個人ブログではいち速く話題になることもあるといいます。

それを受けて若林氏は、インターネット以降、情報のスピードが加速して、法人メディアがエクスクルーシブな情報を獲得することが難しくなったことを指摘しました。情報へのアクセスという点では、現在ではもう法人も個人も差がなくなりつつあります。その中でビジネスとして戦っていくことは非常に困難であると若林氏は述べています。

それに対して土本氏は、インサイドやGame*Sparkはそのスピードで本気で戦っていくメディアであるのに対し、GameBusiness.jpは一歩引いて全体のクオリティを高めるメディアであると説明しました。ビジネスとしてのウェブサイトはユーザー数を増やすことが最重要とされますが、GameBusiness.jpなどでは、数ではなく適切なユーザー層にリーチすることで価値の高いメディアを目指しているといいます。

次に土本氏から「WIRED」の方向性と今回の特集の狙いについて質問がなされ、話題が逆転しました。テクノロジーを中心としながらも幅広い内容を扱う「WIRED」を、土本氏は以前から好んで読んでいたそうですが、今回どうして「ゲーム」を特集にしたのかが質問されました。

それに対して若林氏は様々な理由を挙げました。年4回発行している「WIRED」で1回はエンターテインメントをテーマにしたかったこと、海外版がこれまでゲームを多く扱っていたこと、さらに2010年のイギリス版でアングリーバードが特集になっていたことなどです。

中でもアングリーバードに関して、若林氏はイギリス版の表紙を見た時は何のことかまったく分からなかったといいます。しかし、その後に取材などでアメリカに足を運んだ際に、あの赤い鳥がショッピングモールなどのいたるところで売っているのを目撃したといいます。そこで、アングリーバードは世界では「ドラえもん」並の知名度があるはずですが、日本ではあまり知られていないところが多いため、特集のテーマとして選んだそうです。

その他にも、『Minecraft』やエピック・ゲームズのゲームエンジンUnreal Engine 4などをテーマに選びましたが、これらが日本でどの程度、認知されているかわからなかったと若林氏は振り返っています。そして、ビジネスにしても教育にしても「WIRED」が特集を行なうと、いつも「日本はやはりダメなんじゃないか」という危機感を持たざるを得ないといいます。実際に、ゲームに関してもこれまで日本は世界を席巻してきたが、現在では海外からの売上も評価も低迷しており、そのことに日本人がどれくらい気付いているのだろうかということが、今回の特集でも明るみに出たのではないかといいます。

実際に「WIRED」が常に取り扱う観点は、テクノロジーによって引き起こされるグローバル化だといいます。しかしながら、この点を既に議論していた両氏は、結局のところ、「日本」ということにこだわることの必要性に疑問を呈しています。今回の「WIRED」の冒頭において、若林氏は日本ローカルの強みを活かすか、グローバルスタンダードな商品に挑戦するかという問題を「寿司でいくか、ハンバーガーでいくか」という問いに置き換え、どちらにもそれぞれの良さがあると結論を述べています。土本氏もそれに応じ、まずは地元で成功を収めたようなその会社独自の強みが確たる基盤としてあった上で、その後に日本という自身のバックグラウンドや、それと海外の異なりに目を向けるのが良いのではないかと述べました。

そのような共通認識を確認した後、若林氏は「ガラパゴス化」と呼ばれる日本の状況を変化させるためには、メーカーや産業の発展以上にメディアの独立性が重要であると指摘しました。そこでゲーム業界においては、プラットフォームの移り変わり、雑誌からインターネット、インターネットからモバイルといった変化とともにメディアに参入するプレイヤーが移り変わり、新陳代謝が起こることでメディアの独立性が保てるのではないかと、土本氏は応答しています。

事実、インサイドやGameBusiness.jpといったメディアは紙媒体が主流であった時には存在しませんでした。今後はスマートフォンが普及することで、まだまだ新規メディアが登場してくる可能性があるだろうと、土本氏は予想しています。

また若林氏は「WIRED」でも扱ったフランスの一風変わったゲーム雑誌「AMUSEMENT」を紹介しました。フランスでもインターネットの登場以降、ゲームに関するウェブサイトが多く登場し、既存の紙媒体は成立しにくくなったそうです。それでも紙媒体で何ができるのかという問い直しから登場したのが「AMUSEMENT」です。

詳細は「WIRED」で紹介されていますが、ゲームを美学、建築、アート、ファッションといった多面的な方向から論じて、一つのカルチャーやライフスタイルとして描く取り組みを行なっているそうです。実際に実物の雑誌を手に取りながら若林氏が紹介する「AMUSEMENT」誌はまるで高級ファッション誌のようなスタイリッシュなグラビアで、とても一見してゲーム雑誌には見えないものでした。ある号では、巻頭広告としてPlayStationVitaのグラビア写真のような美しい写真のみが掲載されているようなものもあり、これが広告として成立するというのは日本ではまだ無い新鮮さがあると土本氏は感想を述べました。

このように既存のニュースメディアだけではなく、ファッション性を強調したり、ライフスタイルとしてのゲームのあり方にフォーカスしたりするゲームメディアも今後、可能性があるのではないかと若林氏は提案しました。実際に「AMUSEMENT」の編集部は、フランスの自治体から支援された複合施設にあり、そこにはゲーム好きのギークと共に、ファッション業界の人々、ミュージシャンやDJ、アーティストたちが集まっているそうです。

一方、土本氏は日本でのゲーム文化の違いを指摘しました。日本ではゲームの周辺にはアニメやマンガといった文化が存在しています。その中では、作り手側が境界を超え、ゲーム会社がアニメーションを作成したり、映画を作ったりする事例はたくさんあるといいます。しかしながら、ユーザーやメディア側がそれらの動きに対応できていないことが問題だといいます。土本氏は、今後はそういった枠組みにとらわれないメディアも必要ではないかと述べ、今回の「WIRED」の特集はその一つではないかと問い返しました。

さらに「WIRED」の特集でも取り扱ったアングリーバードの開発会社Rovioを例に上げながら、彼らが単なるゲーム会社ではないことを、若林氏は説明しました。実際にRovioは来年からアングリーバードのアニメーションを週ごとに制作する予定であり、単なるゲーム会社にとどまらずアングリーバードをプロデュースしていくようです。しかしながら、それらのジャンル横断的なコンテンツは既存メディアではうまく扱えないのではないかと、若林氏は指摘しました。他方、土本氏は「アングリーバードの専門サイト」のように、メディアが捉える枠組みはもっと自由に変化していってもいいと言いました。

最後に紙メディアとウェブメディアの役割の違いに話題は移りました。ウェブ媒体からスタートした土本氏に対して、若林氏は「紙メディアの必要性はまだあるのか?」という問いを投げかけました。それに対して、土本氏はそれぞれの役目や読むシーンは異なっているため、それぞれの存在意義はあると主張しました。しかし一方で、現在のウェブメディアは想像以上には発展しておらず、紙媒体の規模は未だに大きいことを強調しました。

逆に土本氏からは若林氏に対して「WIRED」は紙メディアとウェブメディアとの違いをどのように考えているのかについて質問がなされました。それに対して、基本的には同じ価値観だが、異なったアウトプットをしていると若林氏は応えます。紙メディアの利点は、やはり編集やデザインの裁量が大きく、情報をビジュアルによっても提供できる点だといいます。他方、ウェブサイトはユーザーが嗜好に合わせて自由に読んでもらえることが利点だといいます。「我々が編集したものを伝える」のが紙メディアであるのに対して、「読者が自由に編集できる」のがウェブであると、若林氏は説明しました。

その説明に同意しつつ、土本氏はウェブサイトでは記事ごとの関連性は薄く、サイト全体をユーザーに見せることが難しいことを指摘しました。TwitterやFacebookなどのSNSが普及した現在では、トップページから記事を一つずつ読んでくれる読者は減っており、記事単位でクリックされたり、シェアされたりしているといいます。その結果、ウェブサイトは断片的に読まれ、大きなサイトと小さなサイトの差が徐々になくなり、SNSが普及した現在は小さなメディアが有利な時代になっているのではないかと、土本氏は予想しています。

若林氏は、そういった中でビジネスとしてのウェブサイトをいかに成立させるのかについて土本氏に質問しました。土本氏はSNSの利点を活かし、市場は小さくとも尖ったメディアに可能性を見出しています。実際に、業界向けのマニアックな記事が多いGameBusiness.jp方が、SNSを通じた拡散はインサイドなどよりも速いといいます。さらにSNSを通じた拡散は、読者が実名でわかるため、GameBusiness.jpのような業界誌としては有効に利用できると土本氏は主張しました。

トークショーの後は、フロアからの質問が投げかけられました。ゲームに限らず、今後のメディアの可能性について、政治や文化といった様々な点について議論が飛び交いました。フロア側からの感想としては、土本氏や若林氏の言うとおり、日本ではインターネット上のウェブサイトはまだまだ発展途上で、今後も個人のブログやサイト、法人のメディアなどがより多く登場し、多様性をはらみつつ発展していく必要性を強く実感しました。また、インターネット上の新しいゲームメディアのあり方として「レトロゲーム専門サイト」や「オンラインゲームユーザーの同窓会サイト」といった面白いアイデアが出され、興味深い議論が交わされました。

全体を通して、雑誌の経験が長い若林氏とウェブの経験が長い土本氏という対照的な二人のメディア観が明るみに出た点が非常に興味深いものでした。B&Bという個性的な書店で行われた小規模なイベントでしたが、アットホームな雰囲気も手伝ってざっくばらんとしたトークが印象的なものになりました。
《今井晋》

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