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フランス取材で見た社会的活用が進むシリアスゲーム

フランス北東部のヴァレンシアンヌで5月24日にシリアスゲームの国際会議「e-virtuoses」があり、フランス各地から約300名が▽コミュニケーション&マーケティング▽訓練&教育▽リスク&危機管理▽概論--の4分野に分かれて議論を行いました。

ゲームビジネス 開発
国内ではゲーミフィケーションに比べて議論が停滞気味のシリアスゲームですが、海外に目を向けると、着実に市民権を得つつあります。フランスのゲーム振興団体AFJV(French Agency for Video Game)は、2011年の全世界のテレビゲーム売上高(ハードウェア+ソフトウェア)は520億ユーロ(約5兆円)なのに対して、シリアスゲームの売上高は1/5の100億ユーロ(約9600億円)としています。

またAFJVによるとフランス国内のテレビゲーム市場は27億ユーロ(約2600億円)ですが、シリアスゲームの国内市場については公式資料がありません。一方でヴァレンシアンヌ地方で本社を構えるシリアスゲームディベロッパーのCCCP社は、約5000万ユーロ(約49億円)と推測します。テレビゲーム市場に比べると微々たる額ですが、数年で急速に拡大しており、さらに大きな成長が見込めると言います。

このフランス国内におけるシリアスゲーム市場の拡大については、会場で多くの企業から聞かれました。ヴァレンシエンヌを含むフランス北東部のノール=パ・ド・カレー地域圏におけるゲーム業界団体GAME INによると、フランス政府は4年前に2000万ユーロ(約19億円)をシリアスゲーム分野の産業育成に投資。ノール=パ・ド・カレー地域圏だけでも、毎年60万ユーロ(約5700万円)のファンドを実施していると言います。こうした強力な財政支援が市場拡大の背景となっているのです。

ノール=パ・ド・カレー地域圏の地図e-virtuosesの会場となったles ateliers numeriques近代的な内装で設備もよく整っていた


e-virtuosesもまた、産業政策の一環として2009年に始まり、今年で4年目の開催となります。非常にざっくりまとめると、地元の商工会議所が中心となって、国と地方の税金を使ってデジタル産業を用いた地域おこし、街おこしを行い、その一環としてシリアスゲームの産業育成を行っていると言えるでしょう。

ノール=パ・ド・カレー地域圏は人口が約400万人ながら、フランスではパリ・リヨンに次ぐ第3のデジタル産業集積地です。シリアスゲーム関連のカンファレンスもリヨンとヴァレンシエンヌの2箇所で開催されています。ベルギーとの国境地帯に位置しており、ロンドン・パリ・ブリュッセル・アムステルダム・ケルンといった欧州の大都市の中心に位置するという地の利を備えています。首府は人口22万人の工業都市リールです。

またGAME INでは、ノール=パ・ド・カレー地域圏が地理的にシリアスゲーム大国として知られるオランダと近いことが(オランダはシリアスゲーム分野に5年間で1900万ユーロ=約18億円を投資とのこと)、彼の地でのシリアスゲーム産業育成に影響を与えているといいます。カンファレンスでもオランダから講演者を招待しており、冒頭のコンテストでもオランダとオーストリアの企業が受賞しています。また昨年度のコンテストでもオランダRANJ SERIOUS GAMESの「HOUTHOFF BURUMA THE GAME」が入賞しています。

■成熟するシリアスゲームの開発技法

会場では4トラック22セッションが開催されました。GDCの約19000人、CEDECの約2000人という数字に比べると、約300人という参加者は少なく感じられますが、特徴はそのほとんどがマネージャ層以上だったこと。経営者や大学関係者も多く、現場開発者の姿はあまり見られませんでした。講義そっちのけで、ロビーでミーティングが行われるなど、会場全体から熱気が感じられました。

講義では地元企業による事後検証やパネルディスカッションなどに加えて、海外の招待講演もいくつか見られました。イギリスからシリアスゲーム・インスティチュート、オランダからゲームズ・フォー・ヘルス・ヨーロッパ、アメリカのMITなどです。地元企業が事例紹介や事後検証を行い、海外講演者が体系化やフレームワークの提示を行うという役割分担も見られました。

このうちKTM Advanceのバレリー・ブードワァ氏は「テレビゲームはジャンル先行のトップダウン形式で開発できるが、シリアスゲームは対象となる現場のヒアリングから、ボトムアップで開発されなければならない」と指摘。対象となる環境をゲームで再現する必要があり、シリアスゲームはシミュレーションゲームの文脈で捉えられると整理しました。またアムステルダム大学付属病院AMC(Academic Medical Center)のモーリッツ・グラフランド氏は開発プロセスを「調査」「コンセプトデザイン」「開発」「検証」の4ステップで説明。総じてシリアスゲームの開発技法が成熟しつつある様が感じられました。

概況について講演するアルバレス氏とドゥジャチ氏全世界のシリアスゲームタイトルの伸び国別のシリアスゲームディベロッパー
シリアスゲームのジャンル比較シリアスゲームの構成比(1952-2001)シリアスゲームの構成比(2001-2010)


またヴァレンシエンヌから50キロ離れたリールにある産学集積地、ポール・イマージュのジュリアン・アルバレス氏と、仏トゥールーズ第三大学のダミアン・ドゥジャチ氏は、2007年から全世界でシリアスゲームが急増したことと、2002年から2010年にかけて、広告関連のシリアスゲーム(アドバゲーム)のシェアが拡大したと語りました。またディベロッパー数でフランスがアメリカに次いで第2位であることを示しました。なお、これらの数字はSerious Game Classificationの資料に基づくとしています。

一方、小児病棟の入院患者向けに病気の治療法を教える「LUDOMEDIC」や、工場の作業員を訓練する「Safe Metal」を開発したCCCPのディディエール・ウィンティン氏は、シリアスゲーム開発の上で「クライアント企業とのコミュニケーションが最大のポイントだった」と語ります。前者は開発費が約7000万円という大作で、後者は共通のプラットフォームの上で、1シナリオごとに約500万円の開発費を企業から受けてカスタマイズするビジネスモデル。これらがビジネスとして成立している点に驚かされると共に、異業種協業の重要性が感じさせられます。

■任天堂とアップルと少子化対策がシリアスゲーム産業を育てた?
《小野憲史》
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