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ゲーム業界で過去に例をみない4社合同新人研修とは?

ゲームビジネス 人材

イニスの新人3名。左から志度谷昌平氏、多田野友紀さん、永井裕也氏
  • イニスの新人3名。左から志度谷昌平氏、多田野友紀さん、永井裕也氏
  • イニスの新人3名。左から志度谷昌平氏、多田野友紀さん、永井裕也氏
  • イニス アシスタントゲームデザイナー 志度谷昌平氏
  • イニス グラフィックデザイナー 多田野友紀さん
  • イニス ゲームエンジニア 永井裕也氏
  • トイロジックでメンターを務めた遠渡知里さん(開発部デザイン課デザイナー・左)と、新人の林宏晃氏(開発部プログラム課プログラマー・右)
  • トイロジックでメンターを務めた遠渡知里さん(開発部デザイン課デザイナー・右)と、新人の林宏晃氏(開発部プログラム課プログラマー・左)
  • ランド・ホー!で新人研修を統括した近藤智宏氏(コンシューマ制作部プロデューサー・左)と、新人の佐藤有里さん(コンシューマ制作部プランナー)
東日本大震災の影響もあり、例年より2ヶ月遅れでスタートした就活戦線。ゲーム業界をめざす学生も、さまざまな企業にエントリーシートを提出しているところではないでしょうか。しかし、大手パブリッシャーは別格として、中小のゲームディベロッパーについては、なかなか情報が入手できません。いわんや入社後も、どのような研修が行われるのか、外部からはほとんど見えてこないのが実情です。

こうした中で、イニス、ヘキサドライブ、ランド・ホー!、トイロジックの4社は、2011年度入社の新卒社員を対象に、合同で新人社員研修を実施しました。ゲーム業界でこうした取り組みが行われるのは、きわめて珍しいケースです。参加した社員や人事担当者の内部評価も上々で、来年度もぜひ継続していきたいとのこと。そこで、研修の内容と総括について取材してきました。

■CEDECが縁を結んだ合同新卒研修
今回の社員研修の背景となったのが、2010年にCEDECで開催されたパネルディスカッション「元気な会社の秘密!? 〜トップによる会社維持と発展について〜」です。これを契機にイニス、ヘキサドライブ、ランド・ホー!が業務提携を締結。活動の第一弾として新卒研修を共同で実施することになり、趣旨に賛同したトイロジックが加わりました。

もっとも社員数が数十名程度の企業では、新人社員研修といえばOJT(On-the-Job Training)」をさすのが一般的です。OJTといえば聞こえは良いですが、研修体制の不備を言い繕っている場合も少なくありません。その背景にあるのが、ゲーム開発者は社内でゲームだけ作っていれば良いという風潮です。新人のうちから社外の情報を知ってほしくないという考え方にも、根強いものがあります。昨今の経済状況を反映して、新人研修に力を入れるほど余裕がない、という企業が多いことも事実でしょう。

こうした中で、本研修は1ヶ月間の合同社員研修と、4ヶ月間の個別企業研修という、比較的長期にわたる研修プログラムが組まれました。このうち合同社員研修については、厚生労働省所轄のキャリア形成促進助成金、ひらたくいえば税金によって実施されています。助成金があったから実現した側面もありますが、書類作成や申請、カリキュラムの事前作成、日報の提出など、かなり面倒な作業が発生するのも事実。担当者の問題意識がなければ、おぼつかないレベルだったと言えます。

なぜこのような手順を踏んでまで、合同研修に至ったのか。旗振り役を務めたイニスのHRマネージャ・瀧本弥生さんは「会社を外に開いていかなければ生き残れない」と話しました。もともと開発会社ではクライアントをはじめ、他社とのやりとりが必須となります。その時に求められるのが、ビジネスマナーなど社会人としてのスキルです。瀧本さんは「会社には他社でも通用する力を持った新人を育成して、業界に貢献する義務がある」と語ります。こうした志に他社が共鳴して、実現に至りました。

これに加えて、各社で異口同音に語られたのが、会社を越えた「同期」の数を増やすことの重要性です。「自分自身も大手出身で、多くの同期や先輩たちに囲まれて、その仕事ぶりや、作風などに刺激を受けながら成長してきた。これが弊社では年間に数人しか同期を作ってあげられない。こうした問題意識は、ずっと持っていた」(ランド・ホー! コンシューマ制作部プロデューサー・近藤智宏氏)。

これは特にヘキサドライブで顕著でした。同社では東京・大阪の双方に開発拠点があり、遠距離による開発体制をとっています。その結果、今年の新人は各1名ずつ。このままでは同期入社が、周囲に誰もいないという環境になりかねなかったのです。そこで大阪採用の新人が上京し、マンスリーマンションに入居して合同研修に参加することになりました。裏を返せば、それだけの価値があると判断されたのです。

■「良い意味でまともな人がいなかった」合同研修
それでは、研修に参加した新人社員の声を紹介しながら、研修の様子をレポートしていきましょう。まず合同研修で行われたのが、IT業界を中心に、他業界の新人も交えて行われたビジネスマナー研修です。約30名で名刺の交換や電話の応対、ビジネスメール文書の作成などが行われました。

「いろんな業界で、いろんな人がいてビックリ。営業の人は笑顔だし、事務の人はマジメそう。自分も『ちゃんとしよう』と思いました。でも胃に穴が開きそうで、ゲーム業界以外は無理かも。ずっと創造力で生きていきます!」(ランド・ホー! コンシューマ制作部プランナー・佐藤有里さん)。「コミュニケーション研修で、報告・連絡・相談が全然できていないことがわかって、へこんだ」(イニス ゲームエンジニア・永井裕也氏)。「他業界の方で、博士号を取得した方と話しました。素粒子物理学など、最先端の研究分野の話が聞けて刺激的でした」(ヘキサドライブ プログラマ・中山徹氏)

続いて行われたのが、ゲーム業界に特化した合同研修です。ここではMicrosoft Officeの実習や、プロジェクトマネジメント、グラフィック、プログラム、ゲームデザイン、サウンドの各概論、ツール実習などが行われました。グラフィックではPhotoshopやMayaの使い方、プログラミングではゲームエンジンの基礎やシェーダープログラミングなど、職種に関係なく、一通り体験。ゲームデザインではチームに分かれて、架空のユーザーアンケートを元に企画書を作成し、順位を競う研修もありました。

「プログラマーなので、Mayaを使った実習が印象的でした。学校でも触っていましたが、バージョンが古かったので、フィジックスをはじめ最新の機能が体験できて良かったです。デザイナーとの関わり方も、あらためて実感しました」(ヘキサドライブ プログラマ・岩本東治郎氏)。「企画のグループ実習では、タワーディフェンス系のゲームで企画書を作成しました。期間内に完成しなかったので、休日にマンスリーマンションに集まって仕上げました」(中山氏)

また他社の新人や、見学に来た先輩社員との交流も刺激になったようです。「良い意味でまともな人がいなかった。一つの質問に対して、返ってくる回答がバラバラで、KYの集団という感じ。その場の空気は自分たちで作る、みたいな」(イニス アシスタントゲームデザイナー・志度谷昌平氏)。「研修の打ち上げでは新人に加えて、他社の先輩の方とも話す機会があり、勉強になりました」(岩本氏)。「新人といえども会社のカラーが出るんですね! イニスはおしゃれで、ヘキサドライブはまじめそう。トイロジックはアットホームで、ランド・ホー!はノリが良い!」(佐藤さん)。

■トイロジックではiPhoneアプリを開発
合同研修終了後は各社に戻って、社の事情にあわせた個別研修が行われました。中でもユニークだったのが、研修と称してiPhoneアプリ「カラクリ忍者」を開発したトイロジックです(App Storeで販売予定)。ゲームは一画面のアクションパズルで、画面上の忍者を動かして悪代官の元に到達できればステージクリア。もっとも行く手は色別に区分けされた襖で遮られており、うまく動かしてルートを作る必要があります。

この狙いについて、メンターとしてデザイナーの新人指導に当たり、色のバランスや、ゲーム的なメリハリの付け方などを指導した遠渡知里さん(トイロジック 開発部デザイン課デザイナー)は、「弊社は小規模ながらパブリッシャーを志向しています。そのため新人のうちから小規模なビジネスモデルによるゲーム開発を、企画から制作、販売まで通して体験させる狙いがありました」と語りました。単に制作するだけでなく、工程表から人月単価ベースに基づく売り上げ目標も設定。ビジネスでゲームを作る厳しさと楽しさを体験してほしい、というわけです。

合同研修から戻ると、まずは企画・プログラム・グラフィック・マーケティングの基礎研修で内容を復習。続いてiPhoneアプリ研修が行われました。目的はプログラマー2名、企画1名、デザイナー1名の新卒4名で、何でも良いからゲームアプリを作って、有料リリースすることです。

もっとも、企画立案は難航しました。学生時代にゲームを作ったことがあるのは、開発部プログラム課プログラマーの林宏晃氏のみ。「短期間で作成するために、アクションパズルがシンプルで良いと思った。でも具体的に何を作るか、評価の基準がないので判断が難しかった」(トイロジック 開発部プログラム課プログラマー・林宏晃氏)。ちなみにUnityなどのゲームエンジンは「使ってない、というより新入社員は誰も存在を知らなかった」そうです。

なんとか試作品が完成した「カラクリ忍者」。ところが社内テストプレイの結果、動きがもっさりして、テンポが悪いという感想が寄せられてしまいます。そこで操作方法を何度も作り直し、最終的にタッチではなくフリック操作で、忍者を弾いて動かせるようにしました。また難しすぎてクリアできないという声に応えて、段階的に難しくなるようにレベルデザインが調整されました。

これに対して遠渡さんは「操作方法を根本から変えた点に、チームの柔軟性を感じました」と評価ました。さらに「自分たちの頃にはなかった施策なので、うらやましい」とも感じたそうです。遠渡さん自身も「若い子が育つのはおもしろい」と、育成のおもしろさを再発見した様子。新人の評価が自分の評価につながる楽しさについて語っていました。

■イニスでもスマホ向けアプリ企画を実施
一方、アプリを実際に作るまでには至りませんでしたが、同じようにスマートフォン向けの企画立案の研修を行ったのがイニスです。

同社もまた、合同研修の復習を兼ねたOffice研修を経て、アプリ企画研修が行われました。もっとも▽Wordで会社概要を作る▽Exelで出納帳を作る▽PowerPointでアプリの企画書を作る▽Projectでスケジュールのデータを作成する▽Visioで好きなゲームの遷移図を作る、など内容はきわめて実践的。「これを全部クリアするのは、中堅社員でも難しい」と瀧本さんは説明します。

永井氏、志度谷氏、多田野さんの3名が企画したのは、「イニスらしい」音楽ゲームでした。画面中央に「ノリとテンションとグルービーがなければ生きていけない」Groovy星人が表示され、操作を通してリズムを自分でアレンジしていく内容です。「パーティを盛り上げるためのガジェット的な位置づけ」(志度谷氏)。「単にアイコンをタップしていくようなものではなく、シーケンサーで遊ぶようなイメージ」(イニス グラフィックデザイナー・多田野友紀さん)というコンセプトで企画しました。

もっとも社内のプレゼン発表は、残念ながら盛り上がりに欠けたものになりました。ちょうど他のプロジェクトが佳境だったこともあり「この忙しいのに……という感じで、周りの視線が痛かった」(永井氏)そうです。「おもしろさがよくわからない。もっとペラ1枚でわかるようにしないと、というコメントをいただきました」(多田野さん)。「ゲームというより、楽器になっている。今だったら、こんなふうには作らないと思う」(志度谷氏)と、企画書を見ながら振り返っていました。

もっとも、瀧本さんによると「資料はよく出来ていたなど、肯定的なコメントもあった。本人たちが言うほど悪くはなかった」とのこと。中でも3人の1つ上の先輩となる、入社2年目の社員が刺激を受けていたそうです。

■ランド・ホー!、ヘキサドライブでは実際のゲーム開発に参加
またランド・ホー!ではOJTを通して、家庭用ゲームソフトの開発初期段階からリリースまで携わることができました。対象となったのはUBIソフトから10月末に海外で発売されたダンスゲーム「Just Dance Kids2」です。

本作はXbox360、PS3、Wiiのマルチタイトルで、それぞれキネクト、PlayStation Move、Wiiリモコン必須のモーションゲーム。さらにFlashベースのUI制作、7-8社による協同開発と、近年の家庭用ゲームの開発エッセンスを詰め込んだ意欲作となっています。

佐藤さんは合同研修終了後、本プロジェクトに新人プランナーとして合流。「製品リリースまで携われて、ゲーム開発にすごく自信がついた」そうです。近藤氏も「プログラムなどでは体系的な研修も大事だが、実際の商品製作に最初から最後まで通して参加することが重要」だと語ります。 これにはプロジェクトのタイミングという事情もありました。来年、適したプロジェクトがなければ、モバイルなど、自社の状態にあわせて考えていくそうです。

ヘキサドライブでは合同研修後、東京と大阪に分かれて、同じようにOJTが行われました。現在も引き続き、メンター役の先輩社員の下で指導を受けながら、 岩本氏はモバイル開発、中山氏は家庭用ゲーム機向けのタイトル開発にたずさわる毎日です。それと平行して開発環境の整備や、テレビ会議システムの準備、開発室の清掃といった、新人向けの開発雑務も行っています。

同社は業界でも珍しい、技術力が売り物のプログラマー集団という位置づけです。中途採用者にはプランナーやデザイナーも存在しますが、定期採用の新人はプログラマー中心。「新人だけでアプリ開発研修ができるまでに、会社を大きく成長させていきたい。そのためにも新人の育成に力を入れたい」(業務部 柴山ゆうこさん)としています。

■合同研修の意義とは
このように5ヶ月をかけて行われた新人研修。その結果、どの程度の効果が見られたのでしょうか。トイロジック遠渡さんは「昨年の新人研修は座学とOJTのみでした。それに比べると、今年の新人の伸びは著しいように感じます」と効果のほどを語ります。

またランド・ホー!では、昨年の秋に企画部門に対して、社外の講師に依頼して社員研修を行った経緯がありました。その際に高い効果が見られたため、今回の合同研修にもすんなりと参加できたそうです。「企画について理論立てて説明してもらい、本人の仕事に対する熱意が大きく変わった。内容に対する情熱がこもった、より密度の高い企画書が作られるようになった」(近藤氏)。

もっとも、一番大きかったのは、新人のうちから他社とのコミュニケーションを取ることで、自社の社風を客観的に捉えられた点にあったようです。クリエイティブ産業において「社風」は創造性の苗床とも言われています(もっとも定量化できないため、本格的な研究は遅れているのが事実ですが)。またセミナーや交流会などの増加に伴い、情報共有と機密保持契約のバランスが業界内での隠れた課題となっていますが、こうした「立ち振る舞い」も新人のうちから学べたのではないでしょうか。

ゲーム産業が拡大し、異業種との接点が増えるにつれて、こうした人材交流の必要性はさらに増しています。ランド・ホー!では東京モーターショウ2011のトヨタブースで出展された、キネクトで操作する体験型コンテンツ「Smart Mobility Life Simulation~Kinectで体験する近未来~」の開発も担当しました。同社では、こうしたコンテンツ開発のニーズは、さらに拡大していくと語っています。そのために必要なのは異業種と協業できる人材への投資、中でも生え抜きの社員育成というわけです。

今回の合同新人研修に参加した4社では来年度に向けて、より多くの企業の参加を呼びかけています。就活中の学生についても就職はゴールではなく、ゲームづくりに向けた第一歩であるのは明らか。自分の才能をどれだけ伸ばせる環境が整っているかという点も、企業選びの参考になるかもしれません。
《小野憲史》

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