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【CEDEC 2010】「2200年の人類に何を残すか」MIT石井教授が語る"未来の創造"~基調講演

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【CEDEC 2010】「2200年の人類に何を残すか」MIT石井教授が語る
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CEDEC3日目の9月2日、米マサチューセッツ工科大学(MIT)メディアラボ副所長の石井裕教授が「Defying Gravity: The Art of Tangible Bits 重力に抗して:タンジブル・ビット」と題して基調講演を行いました。石井氏は「未来の創造」をテーマに、研究結果を紹介しながら、自身が提唱する「タンジブル・ビット」について紹介。あわせてMITメディアラボをとりまく「協創」文化や、研究者としての人生哲学について語りました。

MITメディアラボ副所長・石井裕教授


「タンジブル」(tangible)とは、英語で「実体がある、触って確かめられる」という意味。そこから転じた「タンジブル・ビット」とは、ひらたくいえば手で触って操作できるデジタル世界という意味です。石井氏はこの概念を土台に、CUI(キャラクター・ユーザー・インターフェース)、GUI(グラフィック・ユーザー・インターフェース)に続く、TUI(タンジブル・ユーザー・インターフェース)という概念を提唱し、さまざまな研究活動を行っています。

石井氏はこの概念を説明するメタファーとして、そろばんを紹介しました。そろばんは珠を指で触って操作する計算機で、数字の情報に直接触ることができます。これに対して電卓やコンピュータは、キーボードやディスプレイなどを通して、間接的にしか触れられません。またそろばんはシンプルな木の枠と珠という構造で、見てすぐに使い方が想像できる点もポイントです。このように、スクリーン上の情報を超えた、デジタルとフィジカルの新しい境界線をデザインすることが、研究のゴールというわけです。

手で触って操作できるデジタル世界・・・。触れる映像・・・。それってテレビゲームのことでは、と思われる方がいるかもしれません。石井氏もWiiとWiiリモコンについて「ヒューマンインターフェースに革命を起こした」と高く賞賛しました。Wiiリモコンには後述しますが、身体を動かして操作する身体性に加えて、見ただけで使い方がわかる、周りで見ている人を笑顔にするソーシャル性、という3点が含まれています。

卓球のラケットには使用者の履歴が残る。宮澤賢治の生原稿。修正履歴が思索を彷彿させる。


ちなみに石井氏は大の卓球フリークとのことで、長年使い込んだラケットを紹介。ラケットの裏面は指が当たる部分がすれて、へこんでおり、肉体の一部であるかのように使えるそうです。一方、テレビゲームのユーザーインターフェースも、プレイヤーに余計な負担をかけないように、空気のような存在であることが求められます。もっとも、テレビゲームのコントローラは卓球のラケットと異なり、使用者にあわせて徐々に変化し、肉体の一部にまで錯覚する、といった特性はありません。この点、ソフトウェア側のサポートでパーソナライズ化を極めるなど、まだまだ改善の余地がありそうです。

続いて石井氏はMITのキーワードとして「競創」を上げ、100メートル走を例に説明しました。100メートルを誰よりも速く走ることは「競争」であって「競創」ではない。誰も挑戦したことのない原野を切り開き、一人で全力疾走することが「競創」で、それがMITにおける研究なのです。「世界一高い山に登りたかったが、道がわからなかったのでMITに行った。ところがそれは間違っていた。MITでは、登るべき山は自分で創らならければいけなかった」と石井氏は語ります。

石井氏は「人間は重力が1Gであることが当然だと思っているが、なぜ重力があるのか。そして、それがなぜ1Gなのかといったように、根本的な仮説や疑問を持つことが重要だ」と問いかけます。GUI全盛時代の中で、TUIというまったく新しい概念を提唱し、その答えを見つけ出そうという姿勢もまた、「競創」にほかなりません。その上で高村光太郎の詩「道程」の一節「僕の前に道はない 僕の後ろに道は出来る」を引用し、昔から多くのパイオニアが同じ挑戦を続けてきたと補足しました。

石井氏が論文「タンジブル・ビッツ」を発表したのが97年。その後多くの追随研究が発表され、ヒューマンインターフェース研究に新しい波を引き起こしました。講演でも自身のさまざまな研究事例を紹介。ふたを開け閉めすると、さまざまな音楽が再生されるガラスのボトル『musicBottles』、手で粘土や砂などを触って操作する景観デザインシステム『Illuminating Clay』『SandScape』、筆のようなデバイスでモノをタッチし、触れたものの色で絵が描けるグラフィックスツール『I/O brush』などです。

蓋を開けると音が鳴る『musicBottles』粘土投影ディスプレイの『Illuminating Clay』砂ディスプレイを触れる『SandScape』
テレイグジスタンス系の『inTouch』触れたものが絵の具になる『I/O brush』『g-speak』は映画『マイノリティ・リポート』の世界


これらにはすべて、Wiiと同じく「手で触って操作する」「見ただけで使い方が推測できる」「ソーシャル性がある」といった特徴があります。『musicBottles』では再生されるサウンドの違いで天気予報を知らせたかった、という経緯を紹介。その背景となったのが、食卓に並んだ醤油さしで、醤油さしの蓋を開けるというメタファーや、調理の匂いだったそうです。『I/O brush』では幼稚園児に体験してもらった時のビデオを紹介。園児たちが周りを巻き込んで楽しむ様子が示されました。

またデジタル世界のように、技術の移り変わりが激しい分野では、その大元になるビジョンが最も重要だと指摘しました。創造性を牽引する要素として、石井氏は「理念」「アプリケーション(=ユーザーニーズ)」「技術」という3つのレイヤーを紹介。技術は毎年のように変化するし、アプリケーションも10年単位でトレンドが変遷するが、ビジョンは世紀を超えて輝き続けること。そしてMITに入学する学生に対して、はじめに「2200年の未来に生きる人々に何を残したいか。どのように思い出されたいか」と問いかけると語りながら、新しいビジョンを創造する重要性を問いかけました。

よりよい未来を創造するためには何が必要か・・・。石井氏はクリエイティブの原点となる独創性と、冒頭で示した競創性という2つのキーワードを紹介。中でも「アート&デザイン」と「サイエンス&テクノロジー」という2つの分野がコラボレーションすることが、競創には重要だと示しました。もっとも、これは文系と理系が互いの領分を侵犯せず、自らの分を守って作業するという意味ではないと指摘。両者の言語や文化がわかる者同士が、激しく切磋琢磨し、火花を散らしながら、1つのゴールに向かって進むことが重要だと語ります。これと同じことが、おもしろいゲーム作りについても言えることは明らかです。

競創には協業が不可欠だ競創の精神が表現された『道程』死後も評価されるビジョンとは?


最後に石井氏は自らの人生哲学「出る杭は打たれるが、出過ぎた杭は誰も打てない」を紹介しました。そして、あらゆる意味で飽食の時代の今、競創を続けるには知的な「飢餓感」という燃料が必要だと指摘。若い頃には屈辱的な体験をするかもしれないが、それをバネにして成長できるだけの誇りを持つこと。常に情念を持ち、仮説を問い続けること。「どのように?(How?)」ではなく、「なぜ?(Why?)」と言い続けること・・・。などのメッセージを送りました。
《小野憲史》

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