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【TGS2009】『Gears of War』のEpic Gamesが語る、Unreal Engine、開発手法、そして日本

ゲームビジネス 開発

【TGS2009】『Gears of War』のEpic Gamesが語る、Unreal Engine、開発手法、そして日本
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『Gears of War』(GoW)シリーズで一躍、世界中のハードコア・ゲーマーを虜にしたエピック・ゲームズ。

同社はまた「Unreal Engine」シリーズを擁するゲームエンジンベンダーとしても有名で、スクウェア・エニックスの大作RPG「ラストレムナント」でも採用されるなど、現世代機で一人勝ちの状態です。しかし技術情報に比べて企業の実態は、あまり知られていませんでした。

東京ゲームショウで開催されるビジネスフォーラム「TGSフォーラム」で24日、エピック・ゲームズ社長のマイケル・カップス氏は「『Gears of War』フランチャイズを世界の舞台へ」と題して講演し、「GoW」の成功を支えた同社の企業理念について説明しました。また「Unreal Engine」サポートのため日本に事務所を構えること、さらには日本語版の発売が遅れた理由についても明かしました。
 
エピック・ゲームズ社長、マイケル・カップス氏。

エピック・ゲームズは米ノースカロライナ州にあるゲーム開発会社で、天才プログラマーとして名高いティム・スウィーニー氏の、文字通り「自宅」で1991年に設立されました。1998年にFPS「Unreal」をリリースすると共にライセンスを開始し、わずか10年間で海外オフィスを含め、400名にまで急速に成長。スウィーニー氏はCEOだけでなくエンジニアとしても活躍中で、現在はメニーコア時代に対応した、次世代Unreal Engineの開発を推進しています。

最新作「Shadow Complex」は和ゲーを意識日本オフィス立ち上げのために求人中

また同社は国産ゲームを深くリスペクトしていることでも知られています。「GoW」のゲームデザイナー、クリフ・ブレジンスキー氏は、GDC2007で同作が「バイオハザード4」に影響を受けたと講演しました。カップス氏もまた、最新作「Shadow Complex」は、「メトロイド」「悪魔城ドラキュラ」のリスペクトタイトルだと明かしました。本作はXbox Liveアーケードで配信中の横スクロールアクションですが、エンジン部分に「Unreal Engine3」が用いられています。なお詳細は未定ながら「Unreal Engine3」のサポートのため日本にも事務所を構える計画で、現在は人材を募集中とのことでした。

さて、そんな同社の成功要因について、カップス氏は「ポップターツの品揃えの悪さ」「開発者はゲームが好き」「自分自身がライバル」「ゼリーをゆらす」という4つのキーワードで語りました。

■ポップターツの品揃えの悪さ

「ポップターツ」とはケロッグから発売されているシリアル状のお菓子で、アメリカでは朝食や軽食向けに人気があります。エピックでは、このポップターツがカフェテリアに何十種類もそろえられていますが、常に社員は品揃えの悪さについて不満を抱き、議論しているとのことです。ここでのポイントは、ポップターツの品揃えについて話す時は、社員に妙な「なわばり意識」は見られないということです。

ポップターツの品揃えが社内の問題の一つほとんど「実行不可能」な課題がモチベーションの源泉

ここでカップス氏は「最高の従業員をボランティアのように扱うべし」と述べました。これは無給で働かせろという意味ではなく、開発者の自発的なモチベーションを高めるような企業文化を作りあげろ、ということです。カップス氏はUnreal Engine3は世界中の企業で採用されており、社員は引く手あまただが、彼らを強制的につなぎ止めることはできないと言います。にもかかわらず、同社で働き続けてもらうためには、彼らに自発的に働きたいという意欲を持ってもらうことが、何よりも大切だというわけです。

カップス氏は「開発者は非常に優秀なので、彼らに対して『ほとんど』実現不可能な課題を提供することが、モチベーションの向上に重要だ」と語ります。そのためには職種の壁やなわばり意識を取り払って、みんなで意見を出し合って仕事を進めてもらわなければなりません。カップス氏はこれを「楽しい非効率性」という概念で紹介しました。こうした自由闊達な企業文化を、たとえばポップターツ問題のような身近な事例一つとっても、経営者が配慮して保つことが重要だ、と述べているように感じられました。

■開発者はゲームが好き

ビジュアル・プロトタイピングの例Kismetでアイディアが簡単に試せる

一般的にゲーム開発シーンでは、プランナー(ゲームデザイナー)が仕様書(デザインドキュメント)を書き、それに従ってプログラマーがプログラムしていきます。しかしクリエイターは詳細な仕様書など書きたがらないし、実際に遊んでみなければ面白さはわからないので、アイディアを実際に遊べる形(ビジュアル・プロトタイピング)で確認したがるもの。しかしプログラマーは常に多忙なので、アイディアの検証のためにコードを書きたがらない……。このようにカップス氏は指摘します。

そのためにUnreal Engineには、「Kismet」と呼ばれる簡易言語が実装され、プランナーが簡単にビジュアル・プロトタイピングを作れる仕組みが整備されました。これは「GoW2」の制作でも大活躍し、カバーアクションの検証などが容易になりました。遮蔽物に隠れるだけでなく、上に乗れたらおもしろいかも……というアイディアも試されましたが、これは見晴らしが良くなりすぎて、面白さが削がれるためボツになったとのこと。このように、ちょっとしたアイディアをできるだけ早く遊んで、おもしろさを検証できる環境を整えることが、開発者をハッピーにするとのことでした。

■ライバルは自分たち

「新規・改良・追加」リストの一例

全世界で大絶賛された「GoW」ですが、これが「2」制作の上で大きなプレッシャーになったとカップス氏は語ります。そこでまず、チーム全体でさまざまなアイディアを出し合い、それを武器やクリーチャーなど16種類の分野に分け、それぞれで「新規・改良・追加」のどれに当たるか、事前に整理されました。具体的には「『群衆システム』は新規で開発し、ヒット時のリアクションは改良、敵のローカストのバリエーションは追加する」などです。このことが作業の効率化で貢献したと言います。

群衆システム歴史的建造物の破壊美破壊できるように構築

『Gears of War』のコンセプトは「破壊された美」「人類最後の抵抗」「悪夢のような恐怖」「戦うのは一人だけではない」「マーカス(主人公)がリーダー」という5点でした。「2」の制作でも、このコンセプトに沿って「新規・改良・追加」が行われた結果、「1」の50%増しというボリュームながら、開発期間が半分で済んだそうです。そのため調整に時間が割け、完成度を上げられました。ちなみに開発チームはエンジンに20人、ゲーム部分に30人とのことで、非常にスリムな開発体制であることに驚かされます。

■ゼリーをゆらす

開発者は「超人」ではないゼリーをゆらさないことが大切何を削るかは重要な経営判断

最後のキーワードですが、実際には「ゼリーをゆらすな」という意味となります。ゼリーを指でつつくと、ちょっと力を入れただけで、ぷるぷると全体が揺れ続けます。これはゲーム開発でも同じで、開発の最終段階では、ちょっとした仕様を変更するだけで、ゲーム全体に大きな影響が及びます。これはゲーム全体の再調整であったり、バグの温床にもなるなど、開発期間の延長に繋がります。これを防ぐために、できるだけ早い段階で仕様を決定することが大事だと言うわけです。

もっとも、同社では開発者がみな自分たちを「超人」だと思い込みがちで、最後まで何でも詰め込もうとしがちだと言います。そのため、今回のタイトルで最低限実装する仕様を早期に決めて(これを「Bar」という概念で紹介しました)、開発段階でもしばしば仕様を削っていき、時には続編に回すなどの勇気も必要だと述べました。マーカス氏はこれは開発チームではなく、マネジメントの重要な仕事だと指摘します。

このことは「ゲーム開発は短距離走ではなく、マラソンである」ということにも繋がります。同社の就業規則によると1日8時間勤務で、コアタイムは13:30から17:00、徹夜作業は禁止で、午前2時には全員が帰宅しなければなりません。開発の終盤ではクランチタイムも存在しますが、この時もスケジュールに合わせるなど、強制されてではなく、自分たちがもっと良い物を作るために、自発的に行うように意識づけることが大切だと指摘します。また定期的にパーティを行ったり、家庭を持つ社員に対しては、クランチタイムに奥様に、感謝の言葉と共に花束を贈る、などの配慮も行っていると語りました。

■日本語版の遅れ

カップス氏は最後に、日本語版が遅れた原因についても補足しました。周知のように「1」では北米版から2ヶ月後、「2」に至っては約8ヶ月後での発売となりましたが、これは暴力表現に対する修正作業に費やされたそうです。本シリーズは日本では「Z」指定となっていますが、それでも多数の表現を修正しなければ、発売は不可能でした。カップス氏はパッケージから追加マップまで、あらゆる部分でインターナショナル版と日本版の2つのバージョンの作成が必要だったと言います。

なお、本作はドイツのように暴力表現が原因で、未発売のエリアもあります(ドイツのゲーマーは同じドイツ語圏であるオーストリアで発売されたバージョンを購入して、プレイしているそうです)。実際に「1」での修正作業があまりに大変だったため、さらに表現が過激になった「2」では、日本版の発売は当初から念頭になかったそうです。しかし発売後、インターナショナル版をオンラインでプレイしている日本人ユーザーの多さや、日本のマイクロソフトからの強い要請で開発されたとのことでした。

ちなみに日本での売り上げは全世界の1%未満にすぎないが、それでも高い評価を得たことが嬉しかったそうです。カップス氏は、「GoW」を「バイオハザード5」のプロデューサーのカプコン・竹内潤氏が賞賛したことに触れ、「我々はバイオハザード4に大きな影響を受けたので、とても嬉しい」と語りました。
《小野憲史》

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