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全社員にiPhoneを配布。CRI・ミドルウェアがスマートフォン事業に賭ける意気込み

家庭用ゲーム機や携帯ゲーム機向けに、様々なミドルウェアを提供するCRI・ミドルウェアが、iPhoneをはじめとするスマートフォン市場に積極展開を進めています。

ゲームビジネス 開発
 
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家庭用ゲーム機や携帯ゲーム機向けに、様々なミドルウェアを提供するCRI・ミドルウェアが、iPhoneをはじめとするスマートフォン市場に積極展開を進めています。

GameBusiness.jpでは、同社でこの事業を推進する、iPhone & SmartPhone 推進室長の幅 朝徳氏に意気込みを伺いました。

―――iPhoneを全社員に配布すると決めたということですが

実は僕にとっても寝耳に水でした(笑)。ちょうどひさびさにまとまった休暇を頂いて北海道旅行に行っている時だったんですが、屈斜路湖の足湯に浸かっていたら携帯が鳴って、聞くと「iPhoneを社員全員に配ることになった」と。それは、びっくりしましたね(笑)。

一つには会社全体でiPhoneやスマートフォンのビジネスを本格的にやっていくという意思表明です。もう一つには、社員ひとりひとりが実際にそれらに触って、よく知って欲しいというのがあります。CRIのスタッフは、あらゆるゲーム機を持っている人間も多いですし、業務で担当しているハードは家でも持っているという人が多いです。ただ、ゲーム機と違って携帯電話は一人で何台も契約するのが難しいので、それを後押しする意味もあります。

―――iPhoneは触って初めて良さが分かる端末ですね

プロダクト(=ハード)とサービス(=ソフト)が非常に良い形で融合している端末だと思います。情報やコンテンツというものに対する見方や価値観を間違いなく大きく変えてしまいましたね。「クラウド」という言葉が一般にも浸透しつつありますが、ネットのこちら側とあちら側という感覚が取り払われて、常にネットが手元にあるという、まさにシームレスコネクトという環境が提供されるわけですから。もちろん普通の携帯電話やゲーム機もネットには繋がりますが、「よし繋ごう」という気持ちすらすっかり忘れさせしまう、それがiPhoneの凄さではないかと思います。

―――社内の反響はいかがですか?

まだ配布したばかりですので、いろいろですね。かなり使いこなしている人もいますし、電話としてしか使っていない人もいたりします(笑)。社内勉強会も積極的にやっていきたいですね。やはり、常に触れる環境か、そうでないかは、本当に大きな違いがあると思います。実はCRIでは定期的に社員同士の懇親を兼ねた社内イベントを年に3~4回、行っているのですが、来週ちょうど横浜の開港150周年記念イベント(Y150)に社員全員で行くんですよ。そこで全社員をチーム分けして、チームごとにテーマを決めてiPhoneの機能とネットワークを最大限に活用して作品を競作し、夜の宴会で披露して(笑)審査するというイベントをやる予定です。

これはべつに僕が企画したわけではないのですが、みんなが共通の端末や環境を持っている面白さだと思います。仕事でも、みんなが同じ端末を持って考えることで、iPhone向けのビジネスが大きく加速していくことは間違いないと思います。

―――もともと高品質な映像や音声を実現するミドルウェアで成長してきたCRIにとって、スマートフォンは未知の領域だったのではないですか?

ええ。元々はセガサターンやドリームキャストなどの家庭用ゲーム機で培った技術を駆使して最先端・最高品質の映像や音声を実現することからスタートして、ゲーム機の進化と変遷とともにゲーム開発者の方々と二人三脚で当社も歩み成長してきました。CRIは昔からディスクメディア関連の技術を得意としていて、ディスクメディアとは切っても切れないストリーミングの技術を徹底的に研究してミドルウェアを作ってきました。そういう意味ではROMメディアであるニンテンドーDSへの参入もひとつの大きな選択でした。

スマートフォンへの参入は、一つには将来的にパッケージのビジネスモデルからノンパッケージのビジネスモデルにシフトしていくことに対する準備の意味があります。Xbox 360やPS3ではディスクメディアからHDDへのインストールが一般的になってきていますし、PSP goはゲームがダウンロード専売になります。WiiウェアやDSiウェア、Xbox Live Arcade、PlayStation Networkのように、ダウンロード販売のモデルはすでに全てのプラットフォームに用意されています。こうした時に、ディスクメディア以外でも有用な技術を有し、ノウハウを蓄積していることが、将来へのアドバンテージになると考えました。

また、少し懐かしい話になりますが、プレイステーション2、ゲームキューブ、Xboxの3機種、つまり、本格的なマルチプラットフォーム戦略をパブリッシャーさんが採りはじめた時代から、ハードの違いを吸収して開発工程を大きく削減できるというのがミドルウェアの大きなウリとなっています。もちろん、ハード性能や特性、市場動向の変化やグローバライゼーションの影響により「マルチプラットフォーム戦略」の意味するところに若干の変化が出てきたとはいえ、現世代のゲーム機でも、この部分はミドルウェアの非常に大きなメリットであることは間違いありません。そして、いよいよスマートフォンの世界でも同じことが言えるようになってきています。

実は、以前当社で独自の調査をした際に、iPhone向けゲームの開発を担当するのは、ゲームメーカーの中でも家庭用ゲーム機向けのゲームを開発しているチームが最も多いという事が分かりました。多くのメーカーはiPhoneを、Wiiウェア、Xbox Live Arcade、PlayStation Network、DSiウェア・・・のようなダウンロード配信プラットフォームの一つとして位置付けているのだと思います。そういう意味でCRIがiPhone向けのミドルウェアを提供し、そうしたマルチプラットフォーム戦略のお手伝いをするのは自然の流れと言えるかもしれませんね。さらには、AndroidやWindows Mobileなど、スマートフォンそのものの横展開やグローバル展開を技術面で支援する部分でも積極的に協力していければと考えております。

―――なるほど

なぜ、モバイル参入の最初がiPhoneなのか、という質問はよくされるのですが、、、もちろん、ビジネス面や市場規模、ハードウェアスペックなど、いろいろな理由はありますが、やはり私自身、スマートフォンが大好き、iPhone大好き、というのは大きいんじゃないでしょうか(笑)。私は高校時代から、シャープの電子手帳で授業中に『上海』や『ハットリス』を遊んでいましたし、社会人になってからも、Palmにはかなりハマりましたね。ソニーのCLIEはいったい何機種買ったか正確に覚えていません(汗)。スマートフォン自体にはかなり以前から興味はあったものの、実はiPhoneが初の「スマートフォン」だったんですよ。本当は、Treo(Palm OSのスマートフォン)とかが日本で発売されたら、誰よりも早く買ってやる!って思っていたんですけど。個人的に昨年の7月にiPhoneを衝動買いして、実際に触ってみると、もう数秒で、とんでもないポテンシャルを感じたんです。性能も凄いですし、AppStoreにはすでに当時でも1日100件くらいの新着アプリがあって、スピード感覚と盛り上がり方が尋常じゃなかったんです。まさに、大きなうねりを感じたんです。それで、社内の比較的Macに強いスタッフに頼んで、既存のミドルウェアを実験的に移植してみると、問題なく動いたんです。性能もゲーム機と比べても遜色ない。そこで、「ああ、機は熟したな」という感覚で、本格的にモバイルに参入するということを決心しましたね。

―――既存の携帯コンテンツ市場はベンチャー企業が先取りしてしまいゲーム業界が出遅れたのと比べると、iPhoneは大手のゲームメーカーもかなり積極的な印象を受けます

そうかもしれません。通常、新しいプラットフォーム(次世代機)に対する開発体制は経営層の指示、いわゆるトップダウンで動き始めるケースが多いと思いますが、iPhoneの場合は少し事情が異なっているような気がします。草の根、つまりMac好きやiPhone好きの開発者やクリエイターなど、現場からプロトタイプや企画が生まれて、それがあるプロセスを経て最終的に各CP(コンテンツプロバイダー)さんのプロダクトとしてリリースされることが多いようです。ただ、いよいよ最近は戦略的にiPhoneやスマートフォンに対してもタイトルをリリースしていこうという姿勢が多くのCPさんで本格化しつつあり、それに伴い、CRIのようなミドルウェアがお手伝いできる機会も増えていくと思っています。効率化と高品質化は、本格的かつ継続的なコンテンツ供給には不可欠なものだと思うからです。

従来型のマーケティングがなかなか通用しないダウンロード販売モデルですが、早期から色々なアプリを出してきているCPさんは、どんなジャンルが人気があって、販売がどのように推移するかというような独自ノウハウがかなり蓄積してきている時期だと思います。まさに、先行者のメリットですね。パッケージモデルと比較しても、相対的にロングテールで売れていくのがダウンロードモデルですので、一定のタイトル数を確保していくことも重要な要素になってくるでしょう。コンテンツの単価がなかなか上げられない苦しさもありますが、先行投資でやってきたところが、さまざまな試行錯誤の末、ノウハウを蓄積し徐々にマネタイズに成功しはじめているように感じます。

―――まだまだ新規参入が続いていますね

一時、21世紀のゴールドラッシュだと言われた第一次ピークの時期はちょっと過ぎたかなという印象です。これから、このビジネスが成長・成熟していくためには、個人だけでなく法人の成功体験が増えてくるのが重要だと思います。色々なゲームメーカーやアプリベンダーの方々とお話をする機会を頂いていますが、半年前は「参入しようか迷ってます」というご相談が多かったのに対し、最近は「参入したいがどうしたらいいか?」という相談に変わってきています。ですので、やるべきか否かという段階はもはや過ぎたのではないかと思います。いかにApp Storeの6万超ものアプリの中で訴求できるかという勝負に変わってきています。そのマーケティングの部分を相談されることも実は多くなってきていますね。

マーケティングについては、王道的な答えはもちろんないのですが、ひとつ、CRIとしてご協力できるのではないかと思っているのは、現在開発中の「CLOUDIA(クラウディア)」というまったく新しいミドルウェアです。従来の当社製品のようにプログラマーや開発者向けというよりは、マーケティング担当者やプロデューサーのためのミドルウェアです。まだ詳細をお話しする段階ではないのですが、クラウド、つまりサーバ連動とアプリ内への組み込みモジュールとの協調動作で、CPさんの各アプリの相互プロモーションを強力にバックアップするサービスとなる予定です。大手から中小規模の企業さん、そして、個人開発者に至るまで、さまざまな方にご利用頂けるようなものにしていくつもりです。

―――そのほか現在スマートフォン向けに提供しているミドルウェアのラインナップを教えてください

現在のところ、iPhone向けには音声関係のミドルウェア「CRI ADX」、「CRI Audio」の2種類、そして、動画再生のミドルウェア「CRI Sofdec」を既に提供中です。また、汎用的なファイル圧縮&管理ミドルウェア「ファイルマジックPRO」も最終調整段階でもうすぐリリースできると思います。iPhoneの場合、3G網でダウンロードできる容量が最大10MBということもあって、音声圧縮はもちろん、ファイル圧縮のニーズはとても高いようです。

―――CRIはミドルウェアの提供以外にも、積極的にiPhone事業を展開していくそうですね

はい。単なるソフトウェア開発のための要素技術としての「ミドルウェア」だけでなく、よりアプリケーション寄りの具体的な「ミドルウェア」も提供していきたいと考えており、すでに具体的な取り組みを始めています。今までは、当社の要素技術をクリエイターさんにお見せして「あとは皆さんが活用法を考えてくださいね!」って感じだったのですが、これからの時代は、最終的な使われ方や具体的な活用法まで逆提案できるようなCRIになっていかなければならないと痛感しています。

iPhoneに関しては、その第一弾が、こちらの「CRI JIGSAW (仮称)」です。社外の方にお見せするのは、今回が初めてです。



当社が10年以上にわたり開発してきた「CRI Sofdec」という動画技術をiPhoneに最適化し、iPhoneのタッチパネルを最大限に活用したものです。そう、PV(プロモーションビデオ)やアニメ、映画などのムービーコンテンツを使って、ジグソーパズルが遊べてしまうのです。この「CRI JIGSAW(仮称)」は、さらにいろいろと性能向上と機能追加をしながら、広くさまざまな映像コンテンツを有している方に向けて、提供していきたいと考えております。

それから、先述の「CLOUDIA」のようなマーケティング的なお手伝いを進めていくとなると、実際のアプリ市場に対して素人であったり経験がないというわけにはいきませんので、ミドルウェアの活用デモとしての意味も兼ねて、それらの技術を駆使したアプリや、今までにはなかったような、ちょっと変わったコンテンツをリリースしていければと思っております。

また、エンタテインメントから少し離れて、企業内や学校など、iPhoneやスマートフォンを活用したビジネスソリューションの世界にも事業を広げていこうと考えております。単体アプリの展開がB2Cだとすれば、こちらはB2Bの枠組みと言えますね。もちろん、当社が有する音声と映像の要素技術を活かしたソリューションを中心に進めていこうと思っております。ネットワーク関連の技術との融合も不可欠になってくると思います。

さらに、最近では「iPhoneの良質なアプリの開発ができるクリエイターや開発会社を教えて欲しい」というようなご相談を頂くことも多くなってきましたので、そういったビジネスマッチングやマーケティングのお手伝いのような仕事も少しずつですがやり始めております。このような場でお話しするのもちょっと変なのですが(汗)、現状のiPhone向けミドルウェアは、アプリの上代価格帯を意識してライセンス料をかなり抑えて設定しているので、正直ミドルウェアビジネスとしては厳しい側面もあるのは事実です。ただ、そこは、iPhoneという市場を縁の下から支え、また、育てていきたいという気持ちと姿勢をまずは大切にしていきたいと考えています。日本の携帯市場はよくガラパゴスと言われますが、スマートフォンという市場で日本のコンテンツメーカーが世界的な競争力を持てるように、CRIとしても、育てていきたい、そして、一緒に成長していきたいというのが本当に正直な気持ちです。

―――どうもありがとうございました
《土本学》
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