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【GDC08】 任天堂・澤野貴夫氏が『Wii Fit』の革新的インターフェイスについて講演

米サンフランシスコで開催中のゲーム開発者向け技術カンファレンス「Game Developers Conference(ゲーム・デベロッパーズ・カンファレンス)」で20日(現地時間)、任天堂の澤野貴夫氏が「『Wii Fit』:家庭向けコンソールにおける革新的インターフェース」と題した講演を行い、バランスWiiボードの開発経緯について振り返りました。

任天堂 Wii
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コストをあまり上げずに、左右に加えて前後の傾きも検知できる仕組み・・・。最初に考えられたのが、Wiiリモコンの加速度センサーを使うアイディアでした。これ以外にもさまざまな方式が考えられましたが、サービスセンターでの修理状況を見学するなどして、より一層の構造の単純化が必要とされることに気づかされます。その結果でてきたのが「ストレインゲージ」というセンサーを、はかりの足の部分につけるアイディアでした。これは力を加えることによって起きる金属のひずみを読みとるもので、高価な反面、可動部分を限りなく減らして、故障率を下げることができます。最終的にこのセンサーを4個用いてバランスを計測することになりました。

当初は左右だけで十分だと言っていたソフト開発チームも、この方式に賛同し、前後左右でバランスをとるゲームを開発していきます。このようにして生まれたのが、現在の原型ともいえる試作品で、当初は正方形の形をしていました。これをベースに商品化に向けたサンプルの開発が行われていきます。当時はWiiとの接続にはWiiリモコンが用いられていました。これによって体重計に電源ボタンなどをつける必要がなく、Wiiリモコンのスピーカーを利用して、足下から体重計が喋るといった演出も可能となりました。しかし、Wiiリモコンが床の上に置かれたままでは、プレイ中に間違って踏む恐れもあります。そのため体重計にWiiリモコンを挿入するスリットをつけるなどの工夫も行われました。

さまざまな試作品


このように、次第に現在のバージョンに近づいてきたのですが、さらに大きな変更が行われました。正方形から長方形への形状の変更です。もともと本プロジェクトは「体重計」からスタートしたため、形状も家庭の体重計に近い、正方形に近いものでした。このバージョンでトレーナーにテストしてもらい、動きを収録するなどのテストも行われていました。しかし、ある時に宮本氏が大きな問題点を投げかけます。

「運動の基本は肩幅だと思う。左右の長さは肩幅くらいにすべきではないか」

もっともな意見で、口で言うのは簡単ですが、ハード側からすれば強度設計を初めからやり直さなければなりません。大型化はコストアップの要因にもなります。しかし試作品を作ってテストしたところ、やはり効果は絶大でした。手や足を少し開いてスムーズに運動でき、スノーボードなどのゲームにも適していたのです。さらに通常の体重計のイメージから脱却することもできました。その後、海外展開も前提としてサイズの検討が行われ、数々の試作品が開発されました。



さて、だいたいのサイズが決定し、完成に近い試作品を社長の岩田聡氏にプレゼンする日がやってきました。しかし、ここでまた大きな変更が発生します。岩田氏は試作品を見ると、このように述べたのです。

「Wiiリモコンを繋ぐなんて不細工ですね」

開発チームとしてはコストを下げるために、思っていながら口に出せなかったことを、ズバリと言われてしまったのです。澤野氏は「社長はユーザーの視線から、いちいち体重を量るために、しゃがんでWiiリモコンをつけたり、外したりする姿が想像できなかったのでしょう」と語ります。

これによってバランスWiiボードを単独で動かす改良が始まったのですが、最終仕上げの時期にさしかかっていたので、大変な作業となりました。まず無線機能をバランスWiiボードに内蔵するには、電波法に基づく認証が必要です。さらに金属製のフレームのため、電波がWii本体まで届かない恐れもあります。電源ボタンや同期ボタンなどの増設も必要です。その結果、発売が遅れる恐れもありましたが、なんとか日本での発売を迎えることができました。ちなみに澤野氏によると、これ以外にも法律上の規制や苦労話などのエピソードがたくさんあるとのことです。

完成したバランスWiiボード


この後、澤野氏は『Wii Fit』のソフト開発についても、機能面を中心に簡単に振り返りました。Wiiチャンネルに新しく「『Wii Fit』チャンネル」を作成して、ディスクを入れずに体測定ができるようにする、などです。また開発時からDVDでトレーニングをする映像ソフトがヒットしていたため、DVDソフトではできない機能として、Wiiがユーザーの動作をチェックしてくれる、パーソナルトレーナーとしての意味合いを持たせるなどの工夫が行われました。

さらにバランスWiiボードを使わずに、Wiiリモコンを持って運動する「ジョギング」モードや、モニターをゲーム画面からテレビ番組に切り替えても使えるようにするなど、有酸素運動をあきにくくプレイするための工夫も盛り込まれています。このほか『Wii Fit』以外で運動した内容や時間をプレイヤーが登録する「運動貯金」についても、気になる情報が示されました。運動貯金のセーブデータについては、今後発売されるかもしれない、サードパーティ製の運動ソフトからアクセスでき、ゲームのプレイ時間などが加算できる仕組みが用意されているとのことです。

最後に澤野氏は会場を埋め尽くした全世界の開発者に対して、バランスWiiボードの仕様について解説しました。4本の足にかかった体重を読みとる仕組みは、任天堂のライブラリを使用することができ、運動補正や重力補正をかけて、キログラムで読み出すことができます。サンプリングレートは60フレームで、計測可能な体重はゼロから150キログラム、ボード全体では300キログラム、個々のセンサーはそれぞれ600キログラムまでの荷重に耐えられます。

コントローラーとして使用した場合は、360度全方向で、どの程度の力がかかっているか計測が可能で、数十グラム単位での計測ができ、手を振ったり、物を持つなどの動きも計測が可能です。このように見た目はシンプルな台ですが、コントローラーと体重計が融合しており、Wiiリモコンと組み合わせることで、体全体で操作することが可能です。さらにプレイ風景で、そのまま周囲の人の興味をかき立てることができ、購入者層は25〜45歳のファミリー層が中心、購入者以外で72%の家族がプレイした経験があるという、今までにない特性を持つ周辺機器であることが強調されました。



『Wii Fit』の普及台数は国内140万台を数え、欧州では4月25日、米国では5月19日に発売が予定されています。澤野氏はバンダイナムコゲームスから発売された「ファミリースキー」を紹介すると共に、「入力装置の特長を生かした、いろいろなインスピレーションが、Wiiのユーザー層をさらに広げていきます。これによって、より多くの人に喜びを与えられるように、私たちと一緒にゲーム作りを進めていきましょう」と呼びかけ、講演を締めくくりました。

開発の大規模化と共に、作業の手戻りの少ないゲーム作りが求められていますが、効率を求めすぎるとバランスWiiボードのような、まったく新しい商品開発は不可能です。一方でスクラッチ&ビルドを繰り返した結果、開発コストが膨れ上がったり、開発が中止したのでは意味がありません。ゼロからの商品開発を成功させるには、見通しの確かさと、現場のバランス感覚、問題解決のためのアイディア、そしてトップの冷静な判断が重要だと言えそうです。
《小野憲史》
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