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【Developer's Profile】第16回 n-Space

『ガイスト』を開発したn-Spaceのプロフィールです。

ゲームビジネス その他
『ガイスト』を開発したn-Spaceのプロフィールです。

n-Spaceの創業者は小学校5年生の頃からゲーム作りを目指していたというErick S. Dyke氏。n-Spaceが設立されたのは1994年のことですが、物語はそれよりもっと前からスタートしています。Erick氏はミシガン技術大学に進み、卒業後はデイトナビーチにある世界最大のメーカーGEの航空宇宙部門のGeneral Electric Aerospaceに職を得ます。

Erick氏がGE Aerisoaceに在籍した90年代初頭はコンピューターが実用化され軍事技術への応用が盛んに行われていた時期であり、Erick氏は21世紀の兵士を訓練する為の高度なシミュレーターの開発に携わりました。軍事技術の専門家になろうと考えていたEric氏ですが、そこに転機が訪れます。GEがセガと契約を結び、Erick氏もそのプロジェクトに参加することになったのです。「血がたぎる様な、最高の機会を得た」と当時の心境を話しています。

1990年代の初めセガが求めたのは高度な画像処理システムです。GEの持っていた技術はアポロ計画のドッキング用シミュレーターに根を持つもので国防省との契約のみに利用は制限されていましたが、GEは商用利用の為の方策を探ります。セガとGEのプロジェクトは有名な「Model 2」アーケード基盤、そしてそれに対応した『デザート・タンク』として結実します。『ガイスト』のプロデューサーのTed Newman氏は「(Erick Dyke、Dan O’Leary、Sean Purcellの3人は)日本に行きセガで『デザート・タンク』に取り組みました。彼らは鈴木裕 の下で仕事をしていました」と話します。彼らが試作した中には後の『デイトナUSA』もありました。

その後GEはGE Aerospaceを競合するマーティン・マリエッタに売却します。次いでマーティン・マリエッタは世界最大の軍需メーカー・ロッキード・マーチンとの統合交渉に入ります。ロッキードはGE AerospaceをReal3Dと改称し、インテル(20%)を株主に向かえ、完全に民需向けの会社とします。Real3Dは1997年にはModel 2基盤で『Behind Enemy Lines』という作品をリリースしています。しかし1999年に、ロッキードは全株をインテルに売却し、インテルは画像処理などの技術を手に入れて、全従業員を解雇して、会社は解散します。

1994年、日本にいた後のn-Space創業メンバーは、ソニーの準備していたPSX(Play Station X=海外ではそう呼ばれる)の噂を聞きます。彼らはアメリカに帰った後、カリフォルニアでソニーの代理人と会い、PSのローンチ用のソフトを開発する為にライセンスを取得します。これがn-Spaceの設立でした。当時のゲームは全て2Dでした。そして彼らがこれから作るのは3Dゲームであり、将来の無限の可能性を願ってn-Spaceと名付けました(nは不定のn)。

n-Spaceの最初のタイトルは1995年のE3で公表された『Razor Wing』という、近未来を舞台にしたタンクの主観視点アクションアドベンチャーゲームでした。PSの能力を示すタイトルとしてソニーは『Madden NFL 96』や『Darkstalkers』と並ぶ同発タイトルとしました。しかし不運にも当時、似たような『Singletrac's Warhawk』というタイトルも開発が進められていて、ソニーは『Razor Wing』を諦め、お蔵入りとなってしまいます。最初の作品が開発中止になったn-Spaceは不運の星の下にあるのか、その後もかなりのタイトルを断念していくことになります。

次いで取り組んだのは『Tiger Shark』というタイトルで、ロシアの開発した地震兵器によって日本が沈み、更に残りを占領しようと戦争を仕掛けてくるというストーリーで、潜水艦や航空機での戦いを楽しめるものでした。n-Spaceはこの開発中に幾つかの変更を行いました。まず第一には複数のチームを持ったことです(といっても総勢12人程度の小さな会社でしたが)。第二は、ハードの初期にはオリジナルタイトルを、後期にはライセンスタイトルを、という方針を作ったことです。この後はライセンスタイトルの数が増えていきます。後に『ガイスト』を指揮するTed Newman氏もこの時期に加わりました。

n-Spaceは1998年に『Bug Riders』をGTインタラクティブから発売します。次はTHQから発売された人気アニメを題材として『Rugrats』開発します。次いで『Bug Riders』の縁から人気タイトルであるDuke Nukenを開発する権利を得て始めての3Dとなる『Duke Nukem Forever』を完成させます。これらのライセンスタイトルが一定の成功を収めて、n-Spaceは開発体制を拡充します。

2000年頃には5タイトルを開発するラインができていました。この頃開発したのは2000年の『Danger Girl』や2002年の『Mary-Kate & Ashley:Sweet Sixteen』ですが、いずれも発売はされませんでした。これに加えて『Duke Nukem: D-Day』や『Duke Nukem Forever』の移植も開発されました。しかし「D-Day」は開発中止となりました。理由は公表されませんでしたが、n-Spaceの資金難と推測されています。またオースティン・パワーズの映画「Goldmember」を題材にしたゲームも作っていましたが中止されています。さらに人気テレビ番組を基にしたゲームキューブ向け『Extreme Robot Rumble』も2003年の終わりにひっそりとお蔵入りとなっています。

「Mary-Kate and Ashley」シリーズもまたn-Spaceにとっては不幸なタイトルでした。この権利を持っていたのはアクレイムでしたが、ロイヤリティ未払いで訴えられ、その3ヵ月後には破産してしまい、当然のようにゲームも発売中止となってしまいます。

n-Spaceは2000年頃から次世代機に取り組み始めます。複数あったラインは結局1つのチームにまとめられました。ゲームキューブ、PS2、Xboxの3機種です。ハードのサイクルの最初にはオリジナルタイトルと決めています。Newman氏のチームは「透明人間」をテーマにした作品を考えました。そして他人に乗り移ることの出来るゴースト。作品は「Fear」と呼ばれ、2ヶ月間かかってプロトタイプの製作が行われ、任天堂オブアメリカに持ち込まれました。

任天堂は簡単なフィードバックと要望を出し、n-Spaceは素晴らしいチューニングを施しました。コードネーム「Fear」は日本に送られ、任天堂から資金が出される事が決定しました。そして共同作業で制作が進められ、2003年のE3で正式に発表がなされ、非常に初期のデモが展示されました。しかし開発はなかなか終わらず結局、2年以上かかって、2005年7月に米国で発売されました。乗り移る部分を期待した任天堂と、FPS敵要素を重視したn-Spaceの考えの違いも中にはあったようです(ちなみに物にも乗り移れるというのは宮本氏のアイデアだそうです)。内容の方は2年かけただけあって、IGNのリーダーレビューで8.5点の高得点を獲得しています。

n-Spaceは今、メインのチームの他に携帯ゲーム機向けに開発するチームを持っています。この夏に発売されたEAの『ゴールデンアイDS』を開発したのはn-Spaceでした。現在も1タイトル以上を開発しているとのことで、どのようなタイトルになるのか期待されます。

n-Spaceは任天堂との関係を継続することにとても興味を持っているようです。Newman氏は任天堂のフランチャイズのうちの1つを開発する機会を与えられたら?という質問に「NOAやNCLとの経験はとても面白いものでした。もしオファーがあるならとても刺激的です」と話しています。またErick社長は「私達は全ての機会を検討しています」としています。n-Spaceの今後に期待です。

参考文献
Interview(N-Sider)
http://www.n-sider.com/articleview.php?articleid=486

Meeting n-Space
http://www.n-sider.com/articleview.php?articleid=485
《土本学》
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